祝福か呪縛か
9月1日 時刻 7:00
まさか、まる一日も寝てしまうなんて……
気が付けば終わりを迎えていた高校最初の夏休み。
僕は朝ご飯を食べるでもなく、顔を洗うでもなく、ただひたすらにペンを走らせていた。
横目で解答を見ながらの丸写し作業。
こんな夏休みの宿題の終わらせ方は小学校のころから何も変わらない。
「僕は結局なんにも変われなかった……」
とうてい完璧とは言い難い宿題をカバンに詰めると急いで家を飛び出した。
たしかに宿題は完璧な出来とはいえないが、一旦は忘れよう。
今から変わろう、そうだ今から変わるんだ。
まずは、夏休み明け最初の登校日である今日は絶対に遅刻しない。
僕はそんな小さな目標を胸に早足で学校へと向かった。
9月1日 時刻 8:40
ぜぇ、はぁ、はぁ、朝礼開始まであと10分……結局遅刻するのか。
今までの経験から、ここから学校まではどうしても10分以上かかると知っている。
遅刻しないという小さな試み、小さな変化でさえ僕には不可能なのだ
「まただめなのか、僕は……」
人生はそう簡単に変えられない。あきらめかけたその瞬間ーー
▷歩いて登校する 近道を使って登校する
昨日夢で見た「選択肢」が目の前に現れた。
ゲームで見るような2つの選択肢とイメージに連動して動くカーソル。
歩いて登校する ▷近道を使って登校する
「本当に何なんだ、これ……」
頭でもぶつけただろうかと考えを巡らせたが、思い当たる節など思いつかない。
昨日の夢では結局、「今日はもう寝る」を選んだんだっけ。
「今日はもう寝る」か……。
まさか、これって
”僕が選んだ選択肢通りに運命が進む……?”
そう考えれば、僕がまる一日寝てしまったことにも辻褄が合う。
現実離れした予想だが、確かめてみる価値はあった。
頬を叩いても選択肢が消える様子はない。
これは単なる夢なんかじゃない。
そう信じて僕はイメージを強めた。
歩いて登校する ▶近道を使って登校する
瞬間、足が誰かに引っぱられるように向きを変えた。
驚きながらもその力に身をまかせていると、今までに通ったことのないような小道についた。
そして、その小道を抜けた先に広がっていたのは「私立御菓子学園」の校舎であった。
「やっぱり、この能力は夢なんかじゃない。」
胸の中に沸き立つ興奮。
これは僕に与えられた人生を変えるための「祝福」に違いない。
変われる、この能力があれば僕は変わることができる。
そう信じ、僕は強い足踏みで校門へと向かった。
9月1日 時刻 8:45
朝礼開始まで残り5分。
祝福のおかげで、到底間に合わないと思っていた学園が目の前に迫っていた。
だが、安心してホッと息をついたその瞬間ーー
▷顔面にキックをくらう 腹にキックをくらう
一体なんなんだこれは、
今までとは異なり、理不尽な選択肢が2つ現れた。
今までの傾向から考えれば、選んだ選択肢の通りに運命が進んでしまうんだ。
まさに最悪の2択。
小学生の頃に流行った「カレー味のウン〇」と「ウン〇味のカレー」のような
「こんなの、選べるわけないだろ!」
そう叫んだ直後、校門の方から女の子が走ってくるのが見えた。
「ウ、ウワーー、チコクチコクーーーーーーッ!」
なぜかとても演技臭いようなセリフ。
そして次の瞬間。
ドガッッッッーーーー!!
鋭い膝蹴りが顔面に直撃。
どんどんと視界が暗くなる中で選択肢だけが鮮明に見えた。
▶顔面にキックをくらう 腹にキックをくらう
「……これじゃ祝福なんかじゃなく、呪縛じゃないか。」
そう心の中でつぶやくと、僕の意識はプツリと途切れた。