第11話 国家と教会
裁判の判決に教皇アウグストは、苛立ちを覚える。アウグストにとって国に反旗を翻した貴族たちは悪魔の甘言に耳を貸した背教者なのである。
アウグストは法務大臣のセネカに面会を求めて言う。
「法務省の判決には疑問を感じます。」「どの判決ですが、裁判は毎日いくつも行われています。」
「内乱を起こした貴族たちの判決です。」「彼らの判決は、法に照らして国家反逆罪で死刑です。」
「セベク神への信仰はどうなる。」「法にはセベク神のことは記載されていません。あえて言うなら信仰は個人の自由です。」
「何を言う。セベク神あってのヴァルハラ王国だぞ。セベク神への信仰が人々を幸福にするのだ。」「私はセベク神を信仰していませんわ。」
「なっ・・・・・国家の要職にある者の言葉とは思えん。タダツグ様に報告させてもらう。」「構いませんよ。」
セネカは、忙しいのに無駄に時間を過ごしてしまったと思う。アウグストは怒りに身を震わせてタダツグに会いに行く。
「タダツグ様、進言したいことがあります。」「何かな。」
「セネカ様はセベク神を信仰していないばかりか、貴族たちに誤った処罰を下しました。」「貴族たちが死刑に決まったと聞いているが何か問題あるか。」
「裁判ではセベク神の信仰について審議されていません。これでは信仰が軽く見られてしまいます。」「それは、セベク信仰者の問題だ。国家の法とは関係ないぞ。」
「あ・・・・・タダツグ様・・・・・セベク神あってのヴァルハラ王国ですぞ・・・関係ないなどと」「アウグスト、勘違いしていないか。」
「何をですか。」「国の法にはセベク神については記載されていない。異教徒の存在を認めているのだ。」
「まさか陛下までセベク神をないがしろにするのですか。」「認めてはいるぞ。だが、セベク神は信仰していないがな。」
「それで国が成り立つと思っているのか。」「脅すつもりか。僕はセベクを認めてやっているのだぞ。」
「おお、セベク神よ。罪深き国にお許しを・・・」
アウグストは国王のタダツグに絶望して、うなだれて帰って行く。そして、そのまま自室にこもってしまう。
そうしている間に貴族たちの刑が執行される。貴族たちは公開で縛り首になるが、蜂起した時には死を覚悟していたので自分の信仰のまま死ねることに救いがあった。
アウグストは数週間こもった後、復帰する。アウグストは信者の前で説く。
「この国はセベク神によって守られている。しかし、国王たちはその幸せを感じる心が無いのだ。私は悲しい。」
「タダツグ様はよくやっているよな。」「ああ、街が明るくなった。」「貴族の悪事も見逃したりしないぞ。」
「神の子らよ。騙されてはいけない。国王はセベク神を信仰していないのだ。気をつけないと我々に居場所がなくなるぞ。」
「タダツグ様がそんな横暴をするか。」「アウグスト様、タダツグ様を目の敵にしているよな。」「そうだな。」
アウグストの言葉は信者を困惑させる。このことはディルクを通じてカールの耳に入る。カールに取ってはアウグストはヴァルハラ王国をコントロールするために必要な駒である。
「すぐに手紙をアウグストに送る。貴公の愚行は耳に入っている。直ちに国王を非難することはやめていただきたい。貴公は魔王セベクの言葉を信じていた罪人だ。国王を責める資格はないのだ。」
アウグストは手紙を読むと地獄に落ちた気分になり泣き出す。アウグストはおとなしくなるが、国と教会の仲は険悪なものになる。
タダツグは蜂起した貴族の領地を国の管理下に置き、民衆に自治を任せる。自治の地域は、町の通行料を廃止して、住民の税を3割にすることを目標とする。
自治区域に指定された民衆は慌てる。これまで貴族がやっていたことを自分たちでしなければならないのだ。
領主の貴族が善政を敷いていたところは、処刑された貴族の子弟が自治議員を引き受けるところが多かった。
そうでないところは、商人などが立候補して選挙が行われて自治議員になった。
各自治区は多くのトラブルを解決しながら動き出していった。教会も援助を申し出したが活躍することはなかった。
民衆は新しい世界を作ろうとしていたので、旧態依然の教会は出る幕が無かったのである。
ヴァルハラ王国では、国土の半分が自治地域となって、一気に国の情勢が変わっていった。それはバシュラール魔王国が行っているものより急激で激しいものだった。




