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第8解 時間がないらしい

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件を……うわ……。」

大平は今回の依頼者の姿を見て驚愕しながら言った。

「<依頼者H>です……。助けてください!!時間がないんです!!」

恐らく大手企業のOLであろう<依頼者H>は何かを訴えるが如く言った。

「た、助けてください。と言われても……。どのような状況かは、今のお姿を見て、なんとなく把握はできますが、詳細な情報はよくわかりません。具体的に何をどう助けてほしいのかを教えていただきたいのですが……。」

「私!11月11日午前11時11分11秒に死んでしまう呪いをかけられてしまって……。私、どうすればいいか。」

<依頼者H>は泣き崩れた。大平は、大丈夫ですからと落ち着かせた。彼は気づいていた。いや、気づかざるを得なかった。<依頼者H>の背中には、大きな、それこそ直径2mほどの古時計が張り付いていたのである。この時計は恐らく呪いの類であろうということは気づいていたが、これが一体どのような影響を持つものなのかまでは見抜けていなかった。そして、死をもたらす呪いであることを伝えられた時、大平はこの呪いはただものではないということを感じた。その後、大平は机の上の時計を見た。時計には、「11月10日午後11時12分25秒」とあった。彼女が死んでしまうまで、残り半日を切っていた。

 しばらくして、<依頼者H>は落ち着いた。そして、大平は彼女に詳しい内容を聞くことにした。

「<依頼者H>さん、あなたはどうしてこの呪いにかけられてしまったのですか。」

「実は、私、アパート住まいなのですが……隣に少し変わったおばさんが住んでおりまして、なんというか……儀式?みたいな音が毎晩隣から聞こえてくるんですよ。それで、毎晩睡眠不足で……。なので、苦情を入れに行ったんですよ。『毎晩うるさいです』って。そしたら、こんな呪いをかけられまして……。」

「もしかして、11月11日午前11時11分11秒という情報も……。」

「その人から聞かされたものです。」

大平は少し悩んだ。普段から儀式のような音が隣から流れていたとなると、おそらくこの呪いをかけた人物は相当な腕を持った人なのではないかと考えたのだ。そうなると、自分でも解呪できるが不安になってくるところではあった。

「話を聞く限りでは、あなたが何か問題を起こして、呪われたようには思えないですしね……。」

「問題なんか起こしていませんよ!」

<依頼者H>は必死に訴えた。大平は、顔を大きく縦に振って、

「はい、勿論わかっております。」

と言った。

 悩んでいても仕方がない。<依頼者H>との相談の末、大平はまず一番単純な方法で解呪をしようと考えた。基本的には、どの呪いもこの方法で解呪されるし、いざ、解呪されなくても、ある程度呪いの強さは把握できると考えたためだ。

「うーん、結構、難しいとは思いますが、解呪を始めます。」

大平は言った。大平は勢いよく手をたたき、呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者H>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった。その直後、不思議なことが起こった。<依頼者H>の背後にある時計が、光を掃除機の如く吸ったのだ。

「まあ……ですよね……。」

大平は言った。その直後、ふと、時計の方を見た。時計の大きさが、1.5倍ほど大きくなっていた。

「え、大きくなってる。」

「何がですか?」

「時計です。」

「時計?」

「ああ、言ってませんでしたね。あなたには時計の形をした呪いがかけられています。その時計が、どうやら私の術を吸って大きくなったようなんですよね。」

大平は苦笑いをした。

「え、どうすればいいんですか。なんというか、あの日から悪夢まで見て、本当に怖いんですよ!」

「大丈夫です。解呪にもいろいろな方法がありますから。」

その後、大平は、他にも複数の解呪の方法を利用して、解呪をした。お(ふだ)や薬、聖水、呪文、お経、念仏、食品を利用したものなど、ありとあらゆる解呪方法を手当たり次第に行った。しかし、どれも効果がなく、むしろ時計が大きくなってゆくだけであった。

「これは……相当厄介な呪いですね。」

大平は汗を拭いた。

「厄介な呪い!?私は大丈夫なんですか!?」

<依頼者H>は焦り始めた。背中の時計は、天井を貫通し、おそらく12mくらいにはなっていた。大平は、頭を悩ませつつ、背中の時計をじっと見つめた。時計の秒針が静かに動いている……。その時、大平はあることに気づいた。背中の時計がゆっくりであるが、大きくなり続けていたのだ。大平自身、時計が大きくなるのは、自分が解呪で利用するエネルギーを吸収しているためだと思い込んでいた。しかし、この様子を見る限りそうではない……。大平は、この呪いを解呪する方法がやっとわかったような気がした。

「何事も、思い込んではいけませんね。」

大平は静かに言った。

「何か言いましたか?」

<依頼者H>は、気になったのか、聞き返した。

「いいえ、何も。」

それから、続けて、大平は言った。

「えーと、これが、おそらく最後の手段となります。明日、呪いが発動されるその時刻、ここに来ることはできますか?」

「はい、こんなこともあろうかと、明日は難癖付けて有休をとってあります。」

「そうですか……。良い職場ですね。では、発動時刻の15分前までに、ここに来てください。そして、発動時刻のその時まで、これを肌身離さず持っていてください。」

大平は、小さなお札を手渡した。

「これは……。」

「このお札は、一時的に強力な呪いを抑える特別なものです。恐らく、あなたが言っていた悪夢とやらも、これで少しは収まるでしょう。あ、あと、寝るときは、効果が外に漏れないよう、耳栓もしておくといいと思います。」

「わかりました。この後、コンビニで買いに行きます。」

<依頼者H>は少し安心した顔になった。

「それでは、明日、お待ちしております。」

大平は笑顔で言った。そして、<依頼者H>は帰っていった。

 次の日、<依頼者H>は、発動時刻のきっちり15分前にやってきた。

「お待ちしておりました。」

「昨日は、このお札の効果もあってか、すごくよく眠れました。」

<依頼者H>は、笑顔で言った。背中の時計も、1mほどにまで小さくなっていた。

「それで、このあと、どうするのでしょうか……。」

「まずは、あなたの付けている腕時計を外してカバンに入れてください。」

大平はそう指示すると、<依頼者H>は、不思議そうに腕時計を外してカバンに入れた。

「これも実は、重要な処理でして……実は、目に入る範囲に時計が多くあると、呪いの力が強くなってしまうんです。昨日も言ったように、時計の呪いなので。解呪しやすくするためのものですので、どうかご理解ください。」

「は、はい……。」

<依頼者H>の顔が徐々に暗くなっていった。

「大丈夫ですから、発動の直前にとある術を発動させて、対消滅という形で解呪するんです。そのためには、発動時刻まで待たなければいけません。」

「え、ということはもしこれに失敗したら……。」

「大丈夫です。今回の技はほぼ100%成功すると思います。」

大平は腰に手を当ててどや顔をした。

「そうなんですか……。」

<依頼者H>は少し心配そうにしているが、大平は机の上の時計を自分の方に向けて、その後に時間を確認した。あと10分ほど時間があった。

「まだ少し時間がありますね。世間話でもしましょうか。」

「え……大丈夫ですか?」

「大丈夫です。最近、気になったドラマとかあったりしますか?」

「……あ、最近、水曜にやってる……」

大平と<依頼者H>は世間話をして、時間をつぶしていった。実は、これも大きな意味があるのだが、<依頼者H>にとっては知る由もなかった。大平はちらちらと、机の上の時計を見る。刻一刻と発動時刻に近づいていく。残り、5秒……4秒……3秒……2秒……1秒……。そして、時計には「11月11日午前11時11分11秒」と表示された。

 すると、<依頼者H>の背中の時計が時間を知らせる鐘のように大きな音を鳴らした。しかし、この音は、大平にしか聞こえていない。<依頼者H>は話に夢中になっていた。大平は、このようなことになっていながらも、その背中の時計を視界に入れながら、世間話をつづけた。しばらくすると、時計が小さく、そして、透明になり始めた。そして、背中の時計はやがて……消えてしまった。

「<依頼者H>さん。今は何時でしょう。」

「もしかして、時間が来たんですか?」

大平は、机の上の時計を<依頼者H>に向けた。その時計には、「11月11日午前11時54分32秒」とあった。

「いやー、結構話しましたねー。」

大平は頭をかきながら言った。<依頼者H>はこれを見て驚愕した。

「え!?解呪はどうなったんですか!?私死んだんですか!?いや、死んでない!うん?」

<依頼者H>はひどく混乱しているようだった。大平は、彼女を落ち着かせた。

「<依頼者H>さん。今回の呪いは、大したものではありませんでした。」

「え、でも、『今回は厄介だ』って……。」

「ええ、確かにそう言いました。しかし、それはこの呪いの正体を知らなかったから言ったのです。しかし、呪いの正体を知ってしまえば……。」

大平は一呼吸置いた。

「あなたは、実は、呪いにかかっていなかったのです。」

「え、でも、呪いにかかって……」

「確かに言いました。」

大平は<依頼者H>を遮るように言った。

「確かに、あなたが私に依頼に来た際はかかっていました。しかし、私が言いたいのはその前です。隣のおばさんに呪いをかけたことを宣告されたときは、おそらく呪いにはかかっていなかったのです。」

「え、でも、私、悪夢を見たりしましたよ。」

「ええ、それもそのはずです。人間は、特に聴覚は敏感と言われていて、寝ているときにも音を拾っていると言います。もともと、あなたは、隣の部屋の儀式の音がうるさくて、苦情を入れに行ったんですよね?」

「まあ、はい。」

「なら、十分に悪夢を見る可能性はあります。しかも、死の呪いをかけた言われたら尚更です。」

<依頼者H>は、あっけにとられた顔をした。

「<依頼者H>さん。あなた、もしかして、オカルト系を信じてしまう方ですか?」

「え……まあ、はい。お恥ずかしながら。」

<依頼者H>は、顔を赤らめた。

「ああ、ならやはり、そうですね。」

「馬鹿にしてます?」

「いえいえ。」

<依頼者H>が前のめりになり始めたので、席に座らせた。

「実は、とある霊能力者が、テレビでこのようなことを言っておりましてね。『言葉も呪いの一種で、例えば、不幸の手紙なんかもそうですが、何日後に不幸が起こると言われてしまうとですね、それを信じてしまう人ほど本当になってしまう。自分で、自分を呪ってしまうんです。』と。」

「自分で自分を呪う……。」

「はい。自分で自分を呪う。それも、無意識の間にです。でも、これなら、様々なつじつまが合います。呪いがなかなか解呪されなかったのも、呪いが何故か大きくなったのも、そして、あなたが悪夢を見なくなったのも。」

「はぁ。」

大平は、一つ一つ説明した。

「呪いが解呪されなかったのは、あなたが呪いをかけている側でもあったから、だから、すぐに呪いをかけなおされてしまい解呪が効かなかった。そして、徐々に大きくなっていったのは、呪いが本物だった、もしくは解呪が効かないということに不安を感じてしまっていたから、そして、悪夢を見なくなったのは、耳栓の効果と……お札に効果があると信じていたから。」

「信じていた……?もしかして、これって。」

<依頼者H>は昨日大平から貰ったお札をポケットから取り出した。

「ええ、これはただの玩具です。効果はありません。」

「そうなんですか!?」

<依頼者H>は驚いて、お札を落としてしまった。

「とにかく、今後は、こうしたことに巻き込まれないよう、呪いの類は過度に不安にならない。そして、もしまだ隣がうるさいなら、引っ越すか警察に相談する。これが重要なのではないでしょうか。」

「え、まあ、隣の部屋の件はあれとしても、呪いは……。」

「大丈夫です。一般的によほどの実力者でない限りは、人を殺せる程度の呪いはかけられません。かけられても、骨折程度のけがを与えられるくらいのものです。おそらく、あなたの隣の部屋のおばさんもスピリチュアルなものが好きなだけで、呪いをかける能力はないと思います。それに、もし、本当の呪いにかかったら、私たちのような『国認定特殊治療・解呪業者』のもとへ来ればよいのです。そのときも今回のように全力で対応します。」

「そうなんですか。でも、安心しました。意識を変えるだけで、案外楽になることもあるのですね。」

<依頼者H>は笑顔で言った。大平は手を合わせて笑顔でこう言った。

「これで、一件落着です。料金は……正直、いろいろと高いものも使ってしまったのであれですが、実際、呪いを解呪したかと言われるとあれなので、半額の……」

「いいえ、全額払います。」

<依頼者H>は大平を遮るように言った。

「いいんですか!?」

大平は目を見開いて言った。

「ええ、ご迷惑をおかけしたのは私ですし、それに、お話も結構楽しかったので。」

「そうですか……ありがとうございます。」

<依頼者H>は、財布から、5000円札を取り出し、大平に手渡した。

「5000円、お預かりします。では、お釣りの2000円……。」

そう言おうとしたとき、<依頼者H>は手を横に振り言った。

「お釣りは大丈夫です。使ってしまった機材の仕入れなどに使ってください。」

「あ、ああ、すみません。ありがとうございます。」

大平はその後、あまりの出来事に言葉が出なかった。しかし、すぐに我に返った。

「本当にありがとうございました。次回もどうぞごひいきに。」

大平は笑顔で言った。

 「ありがとうございました。」

こういいながら、<依頼者H>は帰っていった。その姿は、来た時よりも元気に満ち溢れた姿に見えた。その姿を見て、大平は、

「なんというか、こんなに貰ってよかったのだろうか。でも、心配しすぎもよくないか。」

と小さくつぶやいた。

次回 第9解 守られているらしい 現在公開中

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こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第8解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、時限爆弾のような呪いにかかった方のお話でした。今回のように、自分自身で暗示のようなものをかけることを自己催眠というらしいですが、私自身もこうしたことになってないか心配です。実は、この話、内容を見る限り分かると思うのですが、11月11日に投稿予定でした。しかし、その前に予告してしまっていた「楽しいらしい」が終わっていなかったので、急いで書いて投稿したら、いつの間にか、こんな時間?日?になっていました。というか、二人ふたりつねそらうを読んでいる方はわかると思うんですけど、私、大学受験を控えているんですよね。でも、こんな時に限って筆が乗ってしまう。これも呪いか何かなんですかね?しかも、もしかしてですけど、今回、霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの中では最大文字数なんじゃないですか?きちんと数えたこともないのでよくはわかりませんが。……そんなことも言ってられません。ほかに考えなければいけないことがあるはず!……頑張ります。さて、次回は、「守られているらしい」。呪いって基本他人を嫌な目に遭わせるために使うもののような気もしますが……一体どのような客がやって来るのか?

次回もお楽しみに。

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