第6解 先が分かってしまうらしい
はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。
「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」
大平は笑顔で言った。
「えー、俺、<依頼者F>です。俺の呪いを解いてくれるとか何とかで来たんですが。」
一見チャラ男に見えながら、陰キャの雰囲気を醸し出す男、<依頼者F>は少し暗めに言った。
「<依頼者F>さん。では、率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」
「はい。俺、聞きたくないことを聞いちゃうんですよ。」
「聞きたくないことを聞く。具体的には?」
「超わかりやすくに言うと、ネタバレです。」
「なるほど……。」
大平は納得したが、ふと思ったので聞いた。
「それって、あなたの周りにそういう人がいるのが問題では?」
すると、<依頼者F>は声を大きくしていった。
「いや、だって、赤の他人からもネタバレを食らうんですよ。しかも、俺にネタバレをするときの目はなんか違うし、記憶もあいまいだって。どう考えてもおかしいでしょう。」
確かに、大平は<依頼者F>に何かしらの呪いがかかっているのは見抜けていた。しかし、それがどんな呪いかまでは見抜けていなかった。普段はそのようなことは一切ない大平だが、そこで、実験をしてみようと思った。
「<依頼者F>さん、今、読みかけの漫画とかありますか。」
「えーと……。」
<依頼者F>は悩んだ末、
「超合体戦士ツヨスギーは読み途中ですけど……。」
と言った。大平は驚いた。この漫画は大平の大好きな漫画であった。全25巻、連載開始から20年経った今なお、多くの人々に愛され、現在アニメ化企画も進行している。大平は聞いた。
「今、どこまで読まれましたか?」
「えーと、23巻の途中だったかと。」
それを<依頼者F>の口から聞いたとき、大平は思った。最後の結末を言いたい。このシーンはとても印象的だ。言いたい。普段、人にネタバレをするなんていう非道なことは一切していないのにもかかわらず、とてつもなく、言いたい。そして、大平は口から、
「この最後の結末が凄……。」
と言いかけた時であった。大平ははっと我に返った。大平は、驚いていた。大平も解呪業者として、仕事をしている以上は、呪いに影響されることがあってはならない。そのため、大平もほぼすべての呪いに耐性を持っていた。しかし、<依頼者F>の呪いは耐性のある大平を動かしてしまうほど、強烈なものだったのである。<依頼者F>はきょとんとしているが、もはや、のんきに見過ごしていい問題でもないのだ。大平は、咳ばらいをした後言った。
「あの、この呪いに心当たりは?」
すると、<依頼者F>は暗い声で言った。
「えーと、たぶん、本屋で万引きしたからかなあ。」
「万引き!?」
大平は驚いた。<依頼者F>はつづけた。
「ええ、未遂ですけどね。店員さんにあっさり見つかりましたよ。そして、事務室に行って、話をしたんですけどね。その時の店員さんがまがまがしい雰囲気で。」
「なるほど……。」
大平はピンときた。そして、<依頼者F>に言った。
「あなたは、ネタバレを聞きたくないと言いながらも、相手からネタバレを聞くことで、漫画代を節約していたのではないですか?」
「うぐっ……。」
<依頼者F>は図星だったかのような反応をした。大平は話をつづけた。
「多分、あなたは本屋で万引きをしたとき、その店員にもう万引きをしないよう、ネタバレの呪いをかけたんですよ。そうすれば、本を万引きする理由もなくなると思ったんでしょう。その店員の呪いは、私の耐性をも凌駕するもの。あなたに呪いをかけたのは、相当な実力者と見えます。」
<依頼者F>は黙り込んだ。大平はまだ話をつづけた。
「そして、<依頼者F>さんは、その店員の思惑通り、本の続きを知って満足することで、万引きを防いだ。あなたは、最近まったく本を買っていないのではないですか?」
「……は、はい。」
<依頼者F>は言った。
「さて、これらの話を踏まえて聞きます。あなたはこれによって、ネタバレを受ける回数が完全になくなるとまでは言いませんが、激減します。これから先、あなたは何かの作品に触れるたび、それに見合った料金を支払わなければなりません。それでも、解呪しますか?」
<依頼者F>は、静かに、
「はい。」
と言った。
「それでは、解呪を始めます。」
大平は言った。
大平は勢いよく手をたたき、呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者F>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった。そして、<依頼者F>の呪いは解呪された。かのように見えた。さすがは、大平にも影響する呪いである。そう簡単には解呪させてはくれない。大平は深く念じた。強い。<依頼者F>の呪いは、大きな亡霊となって、大平に襲い掛かる。その時、大平は軽くほほ笑んだあと、今だというばかりにその亡霊にお札を貼り付けた。亡霊は、大きな叫び声をあげて、消えていく。<依頼者F>の呪いは本当に解呪された。
「これで、解呪されました。今回はきつかったですね。」
大平は言った。大平は、汗を大量に流している。
「だ、大丈夫ですか?」
<依頼者F>は言った。
「ええ、それより、実感は?」
大平は言った。
「ないですね。」
<依頼者F>は言った。
「ええ、そうでしょう。この呪いはどちらかというと、本人というより、周辺の人々に作用するものだったんでね。現に、さっきまでネタバレしたがっていた私の心はとっくのとうに落ち着いてますよ。」
大平は言うと、<依頼者F>は、
「え!?あなたもネタバレしようとしてたんですか?」
と大きな声で言った。
「すみませんでした。それでは、料金のほうを……。まさか、このまま逃げるなんてことはしないでくださいよ。」
大平は言った。
「そうでした、3000円でしたね。では。」
<依頼者F>は言った。そして、財布から3000円を取り出し、大平に手渡した。その後、<依頼者F>は頭を下げて言った。
「本当にありがとうございました。おかげで、楽しんで作品見れそうです。」
「結構、結構。では、ありがとうございました。次回もどうぞごひいきに。」
大平は笑顔で言った。そして、帰ろうとする<依頼者F>を一度呼び止めて言った。
「最終話まで読み終わったら、ぜひいらしてください。超合体戦士ツヨスギーの話、一緒にしましょう。」
「はい!」
<依頼者F>は元気に言った。
こうして、<依頼者F>は帰っていった。その後ろ姿は、来た時よりも胸を張り、充実している姿に見えた。その姿を見て、大平は、少し微笑みながら、
「今度会ったとき、何話そうかな。」
と嬉しそうにつぶやいた。そして、大平はふと思った。数多くの耐性を持つ自分をも凌駕する凄腕の呪術師が、この街にはいる。何事もなければよいのだがと。
次回 第7解 楽しいらしい 現在公開中
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こんにちは、明日 透です。
霊能力者 大平、格安で解呪しますの第6解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、ネタバレを食らってしまう呪いをかけられた万引き犯の話でした。ネタバレって、重要なシーンのところでされるので、何で!?って思いますよね。でも、ネタバレをする側からすると、もっと知ってほしいという気持ちが強くてつい……やってしまうんですよね。まあ、最低ですね。そして、今回、大平を凌駕する呪術師の存在が明らかになりました。これから先、どうなってしまうのか……。次回は、「楽しいらしい」……楽しい、呪いに楽しいとかってあるんでしょうか。
次回もお楽しみに。