第5解 いじめられているらしい
はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。
また、今回は残酷な物語なので、悲しいと思ったら、ブラウザバックを推奨します。
「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」
大平は笑顔で言った。
「あの、私、<依頼者E>って言うんですけど。私の呪いを解いてくれるかなあって思っているんですが。」
少し暗い印象を持つ女、<依頼者E>はさみしそうに言った。
「<依頼者E>さん。では、率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」
「あの、私、人に嫌われる呪いにかかっているんです。」
「人に嫌われる?」
大平は言った。<依頼者E>は少し下にうつむいて話し始めた。
「私、学校へ行っても、周りから嫌な目で見られて、『近づくな』とか『死ね』とか『消えろ』とか言われるんです。話し合いのときも、勇気を出して意見を言ったら、全員から否定されて。あ、あと、休み時間は友人から殴られるし、机は落書きだらけだし、物はよく消えるしで、大変なんです。」
大平は納得した。実は、<依頼者E>には一切、呪いがかけられていないのである。きわめて健全なのだ。そこで、<依頼者C>のように、呪い以外の別の可能性があるのではないかと思っていた。
しかし、<依頼者E>は違った。<依頼者E>は呪いで嫌われているというわけではない。単純にいじめられているのである。
「<依頼者E>さん、率直に申し上げると、あなたには呪いが一切かかっていません。」
大平は正直に告げた。
「え。」
<依頼者E>は驚いているようだった。
「これは、きっと、あなたをよく思わない人による集団的なものです。私もあなたの気持ちがよくわかります。相談しても、自分は否定されるだけ、味方はいない。そう思ってしまうんですよね。」
大平は言った。それを聞いて、<依頼者E>は涙を流して、
「はい、はい。」
と返事をしてうなずいた。大平はつづけた。
「もしかしたら、自分が命を落としても、誰も心配してくれないかもしれない。ならば、死んで楽になってしまえばいいんではないかと。そう思うんですよね。しかし、命を落としても心配をする人はいるでしょうし、味方だって必ずいます。現に私はあなたの味方です。」
この言葉を聞いて、<依頼者E>はさらに泣き出した。
「落ち着いて。」
「はい。」
「私なら、あなたを守ることもできるかもしれません。あの、あなたにいやのことをする集団の中でも、リーダー格の人はいますか?」
「はい。」
<依頼者E>は、顔を上げて言った。
「同じクラスの<関係者A>さんです。」
「そうですか……あなた、その人を憎んでいますか?」
「ええ、私は悔しいんです。何をしても、彼女は私への嫌がらせをやめないんです。」
「なるほど……。」
大平は少し悩み、その後、静かにこう言った。
「<関係者A>さんを呪ってはみませんか?」
それは、悪魔の囁きだった。
「えっ!」
<依頼者E>は驚いた。そして、こう言った。
「え、解呪をする側が、呪いをかけてもいいんですか?」
「ええ、『解呪法』では、依頼者が、既に何かしら不利益を被っている場合、命に影響しない程度なら、合法でかけることができます。まあ、これもよほどの事がない限りですけど。」
「私のことはよほどのことでは……」
と<依頼者E>が言いかけた時であった。大平は食い気味に、
「よほどのことなんですよ!」
と言った。そして、大平は言った。
「あなたは、既に多くの不利益を被っている。あなたがこれから先、すばらしい学校生活を送るためにも、呪ってみませんか?」
<依頼者E>はそれを聞いて、少し悩んだ。
「……はい。」
最終的に<依頼者E>はこう言った。大平はその後、こう言った。
「しかし、呪うにしても、問題があります。」
「はい?」
<依頼者E>は言った。大平は質問をした。
「非常につらいことだとわかって聞きます。あと、1日、1日だけでいいので、耐えてほしいのです。」
「なぜですか、すぐにでもできるじゃないですか。」
<依頼者E>は質問を質問で返した。大平は答えた。
「私だって、今すぐにでも呪いたいですが、そうはいかないんです。まず、呪う人の情報を得る必要があります。そして、あなたが本当にいじめられているかの証明が必要なんです。」
「なぜですか?」
「実は、昨年、こことは別のところで、同じような理由、つまり、嫌なことをされているという理由で呪いを依頼した人がいたんですが、実はその人は嫌なことをしていた側の人で、その人が、嫌がらせをしてくると言っていた人は、嫌がらせを受けている人だったんです。しかし、それに気づかず、呪いをかけてしまってですね。色々問題になったんです。そこで、我々の業界では、呪いをかけるときは、本当に依頼者が不利益を被っているかを証明しないといけないってルールができたんです。」
これを聞いて、<依頼者E>はまた黙ってしまった。大平は聞いた。
「以上のことを踏まえて、あなたは1日だけ、たった1日だけでいいのです。嫌がらせを我慢できますか?できるならば、あなたを助けることができます。これが、あなたにとってとてもつらい究極の質問であることはわかっています。落ち着いて考えてください。」
少し時間がたった。すると、<依頼者E>は口を開き、
「頑張ってみます。」
と言った。
「わかりました。では、これを見てください。」
大平は、ポケットから紙でできた人形を取り出して、<依頼者E>に見せた。
「これは、何ですか。」
<依頼者E>は言った。すると、大平はゆっくりと目を閉じて、その直後、目をかっと見開いた。そして、その紙の人形が光り始めた。<依頼者E>はそれをじっと見つめた。すると、紙の人形は浮かび上がり、<依頼者E>の周りを飛び始めた。
「すごーい。」
<依頼者E>は言った。大平は解説した。
「この人形は、あなたを1日偵察するためのものです。1日中、あなたの周りを飛び回りますが、あなたと私以外には誰にも見えません。一応、風呂とトイレ以外のあなたの映像を1日中私の脳内に送ってくることになるので、見られたら大変なものも見えてしまうことになりますが、私には守秘義務がありますから、安心してください。」
「わかりました。」
<依頼者E>は言った。そして、<依頼者E>は足早に帰っていった。大平は大きなため息をついたあと、
「人間って……汚いよな。そして、綺麗なものと汚いものを見分けるのは、とても難しい。」
と、静かに呟いた。
次の日、<依頼者E>はやってきた。身体中、ボロボロになっている。
「いらっしゃいま……。」
と大平が言う暇もなく、<依頼者E>は大声で言った。
「どうなっているのよ!!私に呪いが降りかかってきたじゃない!!」
「ええ、あなたの言う通り、嫌がらせをする人を呪いにかけました。」
「どういうこと、私、ちゃんと学校でいじめられていたじゃない!」
「ええ、確かに今日、あなたは学校でいじめられていました。」
<依頼者E>は叫んでいるのに対し、大平はいたって冷静だ。
「しかし、それはいつものあなたではない。」
「どういうことよ。」
<依頼者E>のこの質問に大平はこう答えた。
「<依頼者E>さん、私は、あなたに話していないことが、2つあります。」
「何よ。」
「あなたを付きまとっているこの人形には、映像を送る以外に、今、<依頼者E>さんや周辺の人が何を思っているのか。つまり心を読み取る機能と、この状態で呪いをかけると、将来どうなるのかをシミュレートする機能があります。」
「うぐっ。」
<依頼者E>はよろけた。何かに感づいたようだ。大平は話をつづけた。
「そして、あなたの心を読んだところ、<関係者A>さんを普段からいじめている姿が見えました。もちろん、復讐の念などではなく、普段からいじめている姿がです。また、シミュレートしても、結果は思った通り、<依頼者E>さんの思う壺になっていたわけです。それにしても、演技うまかったですね。それに、私をいい感じにマインドコントロールして、<関係者A>さんを呪わせようとするとは……。また、映像ではぱっと見、<依頼者E>さんがいじめているように見えましたから、脅していじめている姿を演じさせたんですかね。」
「ず、ずるいわ!人の心を読むなんて。」
<依頼者E>は言うと、大平は冷静に答えた。
「私、言いましたよね?“見られたら大変なものも見えてしまうことになります”って。これは、心も例外ではないんですよ。」
「うぐっ。」
またしても、<依頼者E>はよろけた。そして、<依頼者E>は言った。
「でも、“私はあなたの味方”って言っていたじゃない!」
「それは、あなたがいじめられていると思ったから言ったことだ!」
大平は叫んだ。圧倒されて、<依頼者E>は泣き崩れた。
「くそっ、あと少しで、あの<規制><関係者A>がいなくなると思ったのに……。」
最後の最期で<依頼者E>の本性が漏れた。そして、大平は立って、<依頼者E>の前まで行き、とある紙切れを渡した。
「<依頼者E>さん、請求書です。もし、あなたが本当にいじめられていたのなら、タダにしようと思っていました。しかし、こうなっては仕方がありません。調査料5000円、呪術付与代10000円、合計で15000円です。今月中に指定の口座に振り込んでください。」
「え、そんな……。」
<依頼者E>は言った。そして、大平はこう言った。
「人を呪わば穴二つ。あなたは、<関係者A>さんをいじめ、私をだました。そして大きな罰を受けた。これに懲りて、<関係者A>さんへの嫌がらせをやめて、謝罪しなさい。そして、もうこの店に顔を見せないように。」
「え……。」
<依頼者E>は固まっていた。
「早くいけ!!」
大平は言った。すると、<依頼者E>は、
「は、はい!すみませんでした!」
と言い、足早に去っていった。大平は、自分の椅子に座った後、
「悪いことについて頭のさえるやつは、いつになってもいるんだな。」
と言って、ため息をついた。
次回 第6解 先が分かってしまうらしい 現在公開中
-----------------------------------------------------------
お久しぶりです、明日 透です。
霊能力者 大平、格安で解呪しますの第5解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、人の腹黒さと非情な現実を見る、そんな話でした。最初は面白半分でやっていたことが徐々にエスカレートして……普通に見えても実はどこかで悩みを持っている。そして、声を出せないままでいる。勿論、この物語を声を出さない理由にしてほしくはありません。むしろ、私は悩んでいるなら声を出してほしいと思うのです。今回は、大平の能力のおかげなんとかなりましたが、もし、あの時、確認をしていなかったのかと思うとゾッとします。こうならないためにも、相手が偽る前に声を出してください。きっと、大平のように味方になってくれる人物は多くいるはずです。さて、次回は、「先が分かってしまうらしい」……今度は重くありません。今回の話に比べると、多分羽が生えたんじゃないかってくらい軽いです。まあ、客にちょっと難はありますが。
次回もお楽しみに。