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第3解 思い出せないらしい

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」

大平は笑顔で言った。

「あ、どうも、私、<依頼者C>って言います。私の呪いを解いてもらえると聞いたもので。」

少しみだらな格好をした女、<依頼者C>は悲しそうに言った。

「<依頼者C>さん。では、率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」

「私、何か忘れているような気がするんです。」

「へ?」

「実は、数日前に起きたことが、なにも思い出せないんです。思い出そうとすると、頭が痛くなって、まだその時ではないと語りかけてくるような気がするんです。声がするということは、呪いなのかなと……。」

<依頼者C>は深刻そうな顔をした。

「しかし、こういうのは、一度病院に行ったほうが……」

と大平が言いかけた時であった。食い気味に<依頼者C>は、

「病院はダメ!」

と大きな声で叫んだ。大平は少し驚いた顔をした。それを見て<依頼者C>は、声のトーンを戻して言った。

「す、すみません。病院にはいけない、いけないんです。あと、とても重要なことのような気がして、あ、あと、時間もあまりないような……。」

<依頼者C>は黙り込んだ。大平は、少し疑問に思ったので聞いた。

「なぜ、そう、病院行く行かないとか、重要とかそうじゃないとか、時間あるないとか、いろいろこだわるんです?」

「……いや、それが、理由があるんですけど、思い出せなくて、でも、病院に行ってしまったら、時間が過ぎてしまったら、この呪いがひどくなるような気がしてたまらないんです。」

<依頼者C>は泣き出しそうだった。正直、大平は困惑していた。実は、<依頼者C>には一切、呪いがかけられていないのである。きわめて健全なのだ。そのため、<依頼者C>には何が何でも、病院に連れていくしか対処法はなかった。しかし、大平も、<依頼者C>の言う、呪いがひどくなるという言葉に不思議と納得していた。というのも、<依頼者C>からは何か別のにおいがした。呪いというよりも恐ろしい“何か”。それが、なぜか病院に<依頼者C>を連れて行くと広がりそうな予感がしていたのだ。

「では、一度整理しましょう。」

大平は言った。それに対し、<依頼者C>は、

「はい。」

と返事をした。

「まず、あなたが記憶している最後の記憶は何ですか?」

大平は質問した。<依頼者C>は、記憶を思い出そうとした。

「えーと、私は学校……そう、学校に行こうとしたんです。それで、親に挨拶をして、外へ出て……自転車に乗って……あっ、で、出発直前に自転車のカギを部屋に置いてきたことに気づいて、走って取りに行って……そしたら、探すのに手間取って、遅刻寸前で……急いで自転車に乗って……その途中……えーと、そうだ、友人の<友人A>さんに会って……う、うあああ!!」

急に<依頼者C>が頭を抱えだした。

「大丈夫ですか!?」

大平は心配して言った。<依頼者C>は、

「頭が、頭が!!」

と叫んでいる。大平は感じ取っていた。<依頼者C>が頭を抱えているその後ろで、“何か”は、包み込もうとしているのだ。

「一度!一度、落ち着きましょう!」

大平は言った。<依頼者C>は息が荒くなっていたが、その言葉を聞き、徐々に呼吸を整えていった。そして、“何か”は何事もなく戻っていく。しかしいまだ、後ろに“何か”はいた。

「とにかく、友人の<友人A>さんに会ったことは覚えていると。」

大平は言った。

「ええ。」

<依頼者C>は肯定した。

「うーん、その<友人A>さんとやらに話を聞かないと、どうしようもなさそうですね。」

大平は、悩んでいた。そして、こうつぶやいた。

「もし……<友人A>さんの連絡先が分かれば……。」

「あっ、<友人A>さんの連絡先なら持ってますよ。」

<依頼者C>は言った。これは、朗報だ。その<友人A>さんとやらに話を聞けば、記憶の手掛かりが分かるかもしれない。<依頼者C>はポケットからスマートフォンを取り出したのだが、大平と<依頼者C>は驚愕した。スマートフォンが割れていた。いや、割れているどころではない。粉々になっていたのである。

「え……。」

大平も<依頼者C>も言葉が出なかった。

「これは、どういうことなのでしょうか。」

大平は言った。

「いや、私もさっぱりわかりません。」

<依頼者C>は言った。この時、大平は思った。<依頼者C>の後ろにいる“何か”がこの壊れたスマートフォンと関係しているのではないかと。

「いたっ!」

<依頼者C>は言った。<依頼者C>の指からは血が出ている。どうやら、割れたスマートフォンの破片で、手を傷つけてしまったようである。大平は、ポケットから絆創膏を取り出し、<依頼者C>の指にはろうとした。その時であった。先ほどまで気づかなかったが、<依頼者C>の手や腕は傷だらけだったことに気づいた。そして、大平は、<依頼者C>が思い出せないものは何なのか、わかったような気がした。

「ありがとうございます。絆創膏までもらってしまって。」

<依頼者C>は言った。

「いえいえ、サービスです。それより……。」

大平は言った。

「はい。」

<依頼者C>は返事をした。

「あなた、一度事故にあっていませんか?」

大平は真剣な表情で言った。<依頼者C>は心当たりのなさげな顔で、

「事故……?」

と言った。大平は解説した。

「たぶんあなたは、登校中にそう、<友人A>さんと話をしているときに、大きな事故を起こした。遅刻寸前とのことでしたから、急いでいたのでしょう。手元の傷やあなたの証言からこう導き出せました。それでなら、事故のショックで思い出せないのも納得です。しかし、あなた言う“何か”についてはよくわかりませんが……。」

その時、またしても、<依頼者C>は頭を抱えだした。

「ああ、ああ、そうだ、私あの時、車に引かれた。そして、<友人A>さんに『死なないで』と言われた。でも……でも、『生きる』とはその時に言えなかった。」

抱え込む<依頼者C>を“何か”はものすごいスピードで包んでいく。その時、大平は気づいた。そう、“何か”とは、死のことだったのである。この事故のことを思い出し、受け止めてしまう。それは、いわゆる現世への希望を失うこと、すなわち死を受け入れてしまうことであったのだ。

「ダメだ!思い出してはいけない!思い出したとしても、生きる希望を失ってはいけない!でなければ……でなければ……!!」

大平は必死に<依頼者C>に話しかけた。そして、<依頼者C>は急に張り詰めた顔から、笑顔になり、

「そうだ、思い出しました。忘れていた大事なこと。」

と言った。

「何ですか!?これを糧にして、生きましょう!もっと!」

大平は叫んでいる。そして、<依頼者C>は、

「『ありがとう』。それを、みんなに言いたかったんです。」

と言った。大平は、一瞬、この世界の時が止まったように感じた。そして、大平は、この言葉を聞いて、何もすることができなかった。

 気づいたころには、<依頼者C>のほとんどが死に包まれていた。大平は、何が何でも止めようとした。大平は勢いよく手をたたき、呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者C>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった。しかし、もう遅かった。死は、大平の術を無力化した。

「ダメだ!生きて!死んじゃだめだ!」

大平は言った。

「いいんです。あなたにでも言えたらならそれで。」

<依頼者C>は苦しそうに言った。

「まだ、何も聞いていませんよ!生きてから言ってください!」

大平は少し泣きそうに言った。

「大平さん、ありがとう。」

<依頼者C>はそう言うと、死は完全に<依頼者C>を包み込んだ。最後に見せた<依頼者C>の顔は、笑顔で幸せそうでありながら、どこかさみしさを感じた。大平は、黙り込んだ。そして、しばらくして叫んだ。

「うああああああああああああああ!!!」

 目が覚めた。

「ああ、夢だったのか。」

ここは大平の寝室であった。もう朝の6時半をまわっている。嫌な夢を見たと思いながら、顔を洗い、朝ごはんのパンを口に入れ、テレビをつけた。そして、その時はっとした。

「昨日、自転車と自動車との接触事故が起きました。事故にあったのは、近くの高校に通う、<依頼者C>さん、15歳で、病院に搬送された後、死亡が確認されました。自動車を運転していたのは75歳男性で、警察は過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕しました。警察は過失運転致死に……。」

テレビに映し出された顔写真は、まさに、夢の中の客、<依頼者C>だった。

「ああ、私は、救えなかった……。」

大平は、泣き崩れた。

次回 第4解 ショートするらしい 現在公開中

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こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第3解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、少し重たい内容でした。死は大平の力をもってしても、変えることのできない定め、大平は救えなかったと嘆いていますが、これもまた、変えることのできない宿命だったのかもしれません。さて、次回は、「ショートするらしい」……ショート、電気系統が何かやられてしまうのでしょうか?一体どのような客がやって来るのか?

次回もお楽しみに。

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