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第1解 子供を恐怖に陥れるらしい

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」

大平は笑顔で言った。

「ええと、ごほん。」

眼鏡をかけた男は、大きな咳払いをした。

「<依頼者A>といいます。あの、私の呪いを解いてもらいたくて……。」

そして、その男、<依頼者A>は弱々しそうに言った。

「<依頼者A>さん。では、率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」

「えーと、割れるんです……。」

「何が?」

「ふ、風船です。」

「へ?」

大平は意味が分からなくて、首を傾げた。

「そ、それは、どういうことで?」

「え、えーと、私、幼いころから、風船恐怖症でして……。」

「風船恐怖症?」

「ええ、風船が割れたことがトラウマになって、風船に近寄らなくなるいわゆる精神的な病気?です。それで、ある時、友人にその話をしたんですけど、どうやら、私を嫌っている人にも聞かれたみたいで、どうやら、風船が私の半径1m以内に入ると割れる呪いにかけられたみたいなんです。」

<依頼者A>はいまだに弱々しい様子だ。大平は言った。

「なるほど、それでは、割れる音が日常的に入るわけですから、結構、支障ありますね。」

「はい、それに、子供が持っている風船や販促の風船なんかも対象になりますから、私が近くに通ったから割れたのだと思うと、申し訳なくて。子供の泣く顔を見たくないんです。あと……はい。」

<依頼者A>はポリポリと耳を触っている。そして、さらに暗い顔になっていた。

「なるほど……。」

大平は少し考え、神妙な顔で言った。

「でも、あなた、音楽活動をしていて、その方向性で色々な人ともめてますね。」

「なぜそれを知っているのですか!?」

<依頼者A>は驚いた顔で言った。大平は解説した。

「ああ、まず、指の手の皮が厚いですね。それは、ギターか何かでしょうか?それ以外にも癖が出てますね。風船が割れるといったとき、耳を触られていましたし。耳が敏感なんでしょうね。あと、今は弱々しい感じですが、きっとあなたは楽器を持つと人が変わる。あなたには、そんなことを示唆している背後霊がついているんです。」

大平は見逃していなかった。実は、<依頼者A>が咳ばらいをしたとき、後ろに霊の気配があったのだ。それは、<依頼者A>の背後霊であった。大平は解説を続けた。

「その背後霊は、とても弱々しく見えました。最初は、<依頼者A>さんの特徴がそのまま影響していると思っていました。しかし、そうではなかった。この背後霊は、音楽の背後霊なわけですから、自分にそぐわない人になっていくのが嫌だったんです。普通、多少でもやる気さえあれば、ここまで弱々しくなるわけありません。しかし、その霊はあなたのなにかに気づいてしまった。」

「何かって……。」

<依頼者A>は少し緊張した面持ちで言うと、大平はトーンを上げていった。

「あなた、実は、耳の不調を理由に音楽から逃げているのではありませんか!?」

「うぐっ……。」

<依頼者A>は図星だったかのような反応をした。大平は話をつづけた。

「私も音楽に関してはよくわかりませんが、もめるといったら、それくらいでしょう。」

「私だって、うまくできないことだってあります。でも、重圧が怖い。」

<依頼者A>は少し恐れているようだった。

「でも、だからと言って、好きなものを辞める理由になるんですかね?」

大平は言った。<依頼者A>ははっとした。大平はつづけた。

「だって、音楽活動をして、周りから辞めるのを惜しむ声だってある。つまり、そこまで来れたってことは、好きだったから。違いますか?」

「ええ。」

<依頼者A>から涙がこぼれた。

「さて、これらの話を踏まえて聞きます。あなたはこれによって、音楽をやめる言い訳を失います。これから先、ひどい重圧に巻き込まれる可能性だってあるかもしれません。それでも、解呪しますか?」

<依頼者A>は、少し自信をもって、

「はい。」

と言った。

「それでは、解呪を始めます。」

大平は言った。

 大平は勢いよく手をたたき、呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者A>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった。そして、<依頼者A>の呪いは解呪された。

「これで、解呪されました。」

大平は言った。

「え、実感がないなあ……。」

<依頼者A>はあまり実感がわかず、疑いの目を持っている。そこで、大平はテーブルの下から風船を取り出し、少し離れたところで膨らませた。

「ちょ、ちょ、やめてくだ……。」

<依頼者A>の制止も聞かずに、大平は風船を近づける。そして、<依頼者A>の半径1m以内に近づいたが、特に何も起こることはなかった。

「ああ、よかった。」

<依頼者A>はほっとしている。大平はその様子見て言った。

「あなたは言い訳を見つけても、音楽を辞めなかった。その気持ちさえ信じていけば、きっとあなたも一人前のミュージシャンに……。」

「はい、私も勇気が出ました。ありがとうございます。」

<依頼者A>は大きな声で言った。そして、そのまま帰ろうとしたので、大平は手に持っていた風船に針を近づけて割った。<依頼者A>は驚いた。

「解呪したからには、代金を支払っていただかないと……。」

大平は言った。そして、<依頼者A>は財布から3000円を取り出し、大平に手渡した。

「そういえば、忘れてました。張り紙にあった通り、3000円でしたよね?」

「ええ、そうです。こちらも商売なので。」

大平は言った。そして、<依頼者A>は深々と頭を下げて言った。

「えーと、これからも音楽活動頑張っていきます。ありがとうございました!」

「結構、結構。では、ありがとうございました。次回もどうぞごひいきに。」

大平は笑顔で言った。

 こうして、<依頼者A>は帰っていった。その後ろ姿は、来た時よりも自信のあるたくましい姿に見えた。その姿を見て、大平は、手元にあった筆箱をギターのように持って、

「自分も音楽……してみようかな。」

と小さくつぶやいた。

次回 第2解 なぜだかモテるらしい 現在公開中

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こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第1解をさっそく読んでいただき、ありがとうございます。今回は、近くに風船があると割れてしまうバンドマンの話でした。何というか、こういう呪いって地味にイライラしますよね。普段の生活に支障があるようでないようでみたいな呪いって。これから先も、大平はこうした呪いをたくさん解いていきます。次回は、「なぜだかモテるらしい」……爆発の気配がしますね。一体どんな呪いが出てくるのか?

次回もお楽しみに。

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