表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第17解 和菓子屋では奇跡が起こるらしい 前変

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名、店名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 今から10年ほど前、高校生だった大平は、小さな和菓子屋の扉に貼ってあるポスターを睨んでいた。

「うーん、350円……この値段は悪魔的だな……よし!」

大平は和菓子屋に足を踏み入れた。

「お、道夫君じゃない!?今日も学校帰り?」

和菓子屋の女将は、大平の顔を見ると笑顔でそう言った。

「ええ、そうです。外に貼ってあるあんみつのポスターが気になっちゃって……。」

「あらあら、そうなの?ということは……今日は?」

「あんみつをお願いしてもいいですか?」

これを聞いて、女将は軽く微笑み、店の奥に向かってこう叫んだ。

「あなた!道夫君があんみつだって!」

すると、奥から少し太い男の声で、

「おぅ!というか、道夫来てるのか!ありがたいね、本当に。」

と声が聞こえた。主人の声だった。大平は、それを確認すると静かに席に座った。

「それにしても、ありがとうね。お向かいにも和菓子屋あるのに、いつもここを選んでもらって。」

「いえいえ、ここ……福鶴堂(ふくつるどう)が低価格でありながら高品質なので、学生の私には丁度良いというか……あと、ここは学校側から行くと、横断歩道を渡る必要があるじゃないですか。だから、割と学校の人と鉢合わせる可能性が少ないというか。」

大平は顔を掻きながら言った。

「いや、ありがとう。高品質ね……主人の苦労の賜物だよ。」

女将は笑った。

「ほい、おまちどうさん。」

しばらく時が経って、主人が女将にあんみつの置かれた盆を渡した。そして、女将が大平の机にそれを置いた。

「はい、あんみつね。」

「ありがとうございます。いただきます。」

大平はその後、あんみつに添えられた黒蜜を垂らした後、ゆっくりとそれを口に運んだ。そして、不思議と大平の口角は上向きになった。この頃、大平は未だにクラスメイトからの待遇に悩まされていたが、甘いものを口に入れたその瞬間だけは、それを忘れられた。幸せを感じられた。大平は、数少ない親からのお小遣いで、世間の騒がしさから逃げるが如く、幾度となくこの和菓子屋に通った。そのためか、主人や女将から認知されるほどの常連となっていた。そして、当時常連だった学生は彼だけではなかった。

 扉が開く音がした。

「あら、町子ちゃん。今日も来たの?」

「はい。」

女将に笑顔で返事をした女は、小山だった。大平は、バレないように縮こまったが、それでバレないわけもなく、小山は大平にロックオンした。

「大平君、買い食いは感心しませんな。」

「あなただって、ここで何か食べに来たんでしょう。その時点で同罪です。」

「ふふ、そうね。」

小山は大平と同じ席に向かいになるように座った。

「女将さん、大平君と同じものをお願いできますか?」

「了解。うふふ。」

「何笑ってるんですか!?」

大平は女将にそう聞くと、

「特に意味はないわよ。」

と返し、笑みを見せた。そして、

「あなた!町子ちゃんがあんみつだって!」

と店の奥に叫んだ。

「おぅ!町子ちゃんも来たか。あんみつな、わかった。」

主人の声が聞こえた。

 小山は大平のあんみつを食べる姿をじっと見ていた。

「美味しそうに食べるね。」

「まあ、美味しいですから。」

小山と大平の顔の距離は徐々に狭まっていく。

「小山さん、あまりこうじろじろ見られると……。」

「ああ、ごめんごめん。どうぞ、食べてて。」

大平はあんみつを食べ進めた。

「そういえば、小山さんとよく鉢合わせますけど、どうしてここにいつも来るんですか?お向かいさんもあるのに。」

「それはね……ここが学校の人があまり来ない、穴場だからかな?あと安いし。大平君は?どうして?」

「……大体同じです。」

「そう……。」

それから、少し経って、小山の分のあんみつもやってきた。

「あ、来た!」

「はい、どうぞ、あんみつね。」

「ありがとうございます。いただきます。」

小山は素早く黒蜜をあんみつに垂らし、勢いよく口に入れた。そして、幸せそうに唸るような声を上げた。

「本当に美味しそうに食べるねぇ。」

女将は小山の反応を見て言った。

「だって、美味しいですから。」

小山は言った。

「あら、道夫君と同じことを言うのね。」

「聞いてたんですか!?」

大平はむせ返しそうになりながら言った。

「別にいいじゃないの。聞かれちゃまずいことだった?」

「いえいえ、そう言うわけではないですけど……。」

大平は手を振りながら言った。

「なら別にいいでしょう。それにしても、2人とも同じ店に来て、同じことを言う。なんというか、お似合いね。」

「そんなことないですから!!」

女将の言葉に大平と小山は同時に否定の言葉を言った。そして、言葉が重なったことが恥ずかしくなり、2人とも縮こまってしまった。

「あらあら……。」

女将は笑った。その後、2人は黙々とあんみつを食べ進めた。

 時は令和に戻る。

「小山さん、今日は出張です。」

大平は鞄を持ちながら言った。

「出張?」

小山は不思議そうに大平を見た。

「ええ、私も滅多にないというか、実際初めてなんですけど。どうやら、呪いがかかっているのが、人とかそう言う感じではないようなので。」

「え、出張先の場所はどこにあるの?」

「あなたも絶対知ってる場所ですよ。」

大平はそう言うと、小山はさらに訳の分からなそうな顔をした。

 大平と小山は徒歩でその場所へと向かった。

「朝早いからか、学生が良く通るのね。ここだと、私たちの母校も近いわね。」

小山は周りを見渡しながら言った。

「そうですね。よくここの道を通ったのが懐かしいです。」

大平は言った。その後、横断歩道を渡り、さらにまた歩いた。

「で、どこよ、事務所から結構歩いたと思うけど。」

小山は疲れた様子で大平に聞いた。すると、大平は立ち止まった。

「ここですよ。」

「ここって……。」

小山は、大平の目線の先にある建物を見て、言葉を失った。

「そうです。和菓子屋『福鶴堂』です。」

大平の言葉を聞くと、小山は少し間を開けて、やっと言葉を発した。

「昔と随分雰囲気が違うような……。」

小山の言う通り、福鶴堂の外観は、高校時代のあの外観とは少し異なっているようだった。

「確かに、改装でもしたのかな?あとで聞いてみましょうか。」

大平は静かに言った。大平と小山は福鶴堂の中へと入っていった。

「う……こんにちは、国認定特殊治療・解呪業者の大平です。」

「あら、道夫君!来てくれたの?」

店の奥から、女将が姿を見せた。そして、女将は小山の方を見ると、

「あらあら、町子ちゃんまで!何か食べていく?」

と言った。

「ん……あ!女将さん!」

小山は久々の再会に喜んでいるようであったが、大平は咳ばらいをして制止させた。

「あの、再会に喜ぶのは構わないのですが、今回は客ではなく、依頼を受けてここに来ました。」

「あら、そうそう、依頼ね。じゃあ、まず、奥に来てくださる?」

女将は手を合わせてそう言った。大平と小山、女将の3人は、店の奥にある厨房へと向かった。

「あんた、解呪業者が来てくれたよ!」

女将は叫んだ。すると、厨房にいた男の1人が反応を示した。

「あっ。」

白衣と白い帽子をかぶった男はそう反応すると、大平の方を見て頭を下げた。そして、大平の元へと走ってやってきた。

「どうも、この度はお忙しい中のお引き受けありがとうございます。福鶴堂3代目店主の<依頼者N>でございます。」

「あ、どうも、国認定特殊治療・解呪業者の大平道夫です。」

「私は助手の小山町子です。」

「かつて、この店の常連だったという話は女将である母からうかがっております。本当にありがとうございます。」

これを聞いて、大平は頭を掻いた。

「いえいえ、こちらこそですよ。高校時代によく来させていただいて……生きる楽しみにもなっていましたから。」

「そう言っていただけると嬉しいです。」

喜んでいる3代目主人の様子を見て、小山は聞いた。

「そういえば、3代目店主ということは、先代から継承されたということですか?」

「ええ、2代目である父からこの店を受け継ぎました。未だ父ほどの技量に達しているとは言えない未熟者ですが。」

「そうなんですか。でも、店に並んでいる商品、あの頃のように美味しそうでしたよ。」

小山の言葉に3代目主人の顔は笑顔になった。

「あ、そうですか。ありがとうございます。」

大平は、小山と気になっていた疑問を解消するのは今が良いのではないかと感じた。

「そう言えば、店が随分と改装されている様子でしたが、何かあったのですか?」

大平のその質問に3代目主人と女将の顔が曇った。

「あ!すみません!関係ない話を!」

大平は今はまずかったかと話を取り消そうとしたが、女将が直後に口を開いた。

「いえ、いいのよ。これも、今回の依頼に関係があるの。」

「……改装が……関係あるのですか?」

「ええ。」

「立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。」

3代目主人はそう言うと、厨房の奥にある机へ案内した。そして、2人が机の前の椅子に座ると、女将がお茶の入った湯飲みを大平と小山の前に置いた。

「では……改めて……。」

大平は咳払いをした。

「率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」

「はい。」

まず、口を開いたのは3代目主人だった。

「この店は不幸の呪いにかけられています。」

「不幸の呪いですか?」

「はい。先ほど、大平さんはこの店が改装された理由について尋ねていらっしゃいましたよね。」

「はい。」

「その理由なのですが……火事がおきまして。」

「火事ですか?」

「はい、1年半ほど前に。厨房の機具から燃え移ったようで。しかし、当店では、閉店後に私がチェックリストを用いて火の元の確認をしております。その時に完全に火が消えたことを確認しておりましたし、誰もいないことを確認してから鍵を閉めたため、私の不注意ということも、誰かが放火したということも考えられないんです。とはいえ、厨房から燃えたのは確かですから、私の不注意ということで話は落ち着いています。結果として、店の半分が燃えてしまって、最終的に改装という形になりました。」

「そうだったんですね。」

「それでね、道夫君。話はそれだけじゃないの。」

「そうなんですか?」

「はい。その火事で初代から受け継がれてきたレシピの書かれたノートが燃えてしまいまして。これも、絶対に燃えないように金庫にしまっていたのですが、なぜか金庫の中も燃えていたんですよ。不思議なことに。今は少ない商品何とかなっているのですが……お向かいに対抗するとなると、種類を増やさなければいけなくて……。」

「お向かいの店、そんなすごいことになってるんですか?」

「ええ、店が燃えたときから妙にお向かいの客の出入りが激しくなりまして。そのせいなのか、うちの店は1人も来ない日も少なくなく……。」

「そうなんですか。」

「あと、毎日店の中から変な音がするんです。ガタガタガタガタ何か走り回る音が。そのほかにも、よく怪物に襲われる夢を見るようにもなりました。そのせいもあってか、最近よく眠れてなくて。」

先ほどまで大平と小山は気づいていなかったが、3代目主人には、はっきりと濃い隈が目の下に現れていた。

「そのほかにも、従業員が交通事故に遭って大けがをしたり、身内が病気で不幸になったりといろいろありまして……これだけ不幸が続くと呪われているんじゃないかと思って……そこで母に相談したところ、常連の大平さんがこうした業者をやっていると聞いたので……。」

「そうだったんですか。詳しい情報ありがとうございます。」

大平は考えた。確かに、ここまでの不幸が続くというのはおかしい。火事の件も主人の不手際や勘違いと言われればそれまでかもしれないが、わざわざチェックリストで厳重な管理をしているとの話であるし、主人がそこまで自信を持って言うのなら、きっと何かしらの関連はあるのであろう。そして、大平と小山は店の改装以外のある違和感を入店時から感じていた。それについて、最初に口を開いたのは小山だった。

「これもう確定でしょ。原因はこの臭いでしょ。」

小山の耳打ちに大平は頷いた。そう、臭いのだ。店内に入った瞬間から腐敗臭がありとあらゆる場所から立ち込めてくるのだ。しかし、店主も女将も従業員もさらには客もそれを気にしている様子はない。おそらくこの臭いは、"見える"人だけが感じるものなのだろう。そして、当然であるが、前にこの店に来たときはこのような臭いはしていなかった。となると、これまでの不幸の原因となっている呪いはこの臭いで間違いなかった。

「まずは臭いの原因を探らなきゃいけない。」

大平は小山にそう耳打ちした。

「正直、まだ完全な判断はできませんが、かなり怪しいところはあります。色々確認をしたいので、店内を一通り見てもいいですかね?」

大平は確認をした。

「ええ、大丈夫よ。」

「それでは、ご案内します。」

「その前に!」

大平は立ち上がろうとした主人と女将を止めた。大平と小山はポケットからマスクを取り出した。

「衛生管理はきちんとしなければ。」

「ええ、その通りです。」

主人はニコリと笑った。

 3代目主人と女将の案内で、大平と小山は店内を回った。

「特に怪しい所は見当たりませんね……。」

しかし、どうもそれらしきものが見当たらなかった。この店に何かしらの呪いがかけられているのは事実なのだが、原因がなかなかつかめずにいた。

「次は2階になります。急で危ないのでお気を付けください。」

「ここは随分古そうですが……。」

大平は周りを見渡しつつ言った。

「ええ、ここは火事から免れた場所です。なので、ここは創業当時から変わっていません。」

階段を1段1段上っていく。足を踏み入れるたびに、ぎしぎしと音を鳴らした。

「小山さん、気を付けてくださいね……。」

「分かってる。そういう大平君も気を付けてよ。」

その時、目の前から一人の男が飛び出してきた。それに驚いた大平と小山は階段から足を踏み外し、盛大に転げ落ちてしまった。

「大丈夫ですか!?」

「あらら、2人とも大丈夫!?」

3代目主人と女将は急いで階段から降りてきた。

「痛てて……大平君大丈夫?」

小山は頭をさすった。

「大丈夫ですけど……小山さん、重いです。」

大平は苦しそうに言った。小山は大平に乗っかるような形になっていた。小山は赤くなり、急いで立ち上がった。

「何よ!重いって!女の子の私に失礼だと思わないの!?」

「いや、そう言う意味で言ったわけじゃなくて……。」

「でも、重いってそう言うことでしょ!」

「だから、違いますって!幽霊みたいに軽かったですよ!」

「いや、そんなわけないでしょ!幽霊なんてたったの21gよ!試験に出たでしょ!私がそこまで軽かったらなんなのよ!人じゃないわよ!」

「比喩ですよ、比喩!」

「まあまあ落ち着いて。」

3代目主人はそう言って2人を落ち着かせた。それにしても、先ほどの人影はなんだったのだろうか。そう2人は考えたがその答えはすぐに分かった。

「先代の主人!?」

大平と小山は同時に言った。2人の目の前で2代目の主人が土下座をしていたのだ。

「2人とも驚かせて本当にごめんなぁ。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

小山は言った。

「私たち何事もなかったですから。頭を上げてください。」

大平は言った。

「本当かい?」

2代目主人のその言葉に2人は頷いた。2代目主人は立ち上がった。

「いや、本当にありがとうね。2人の依頼を引き受けてくれて。まさか、道夫と町子ちゃんが解呪業者やってたなんてなぁ。」

「そうなんですよ、色々ありまして……。」

大平に続いて小山が話した。

「いやそれにしても驚きましたよ。先代も元気じゃないですか。」

「いやいや、それほどでも。」

2代目主人は頭を掻きながら笑っている。

「主人が次の世代に継承したって聞いたので、もうそこまでの元気がないのかと……。」

「いやぁ、そうね。働ければ働きたいんだけどね。」

2代目主人は苦笑いをした。

「道夫君、町子ちゃん……誰と……話してるの?」

女将は驚いたように言った。

「え、先代の主人ですよ。」

大平は2代目主人を指さして言った。

「……先代は……夫は……5年前に亡くなったはずよ。」

「え……。」

その場には、2代目主人の笑い声だけが響いた。しばらくして、小山が声を出した。

「先代の主人が……亡くなった?」

「ええ、新型コロナウイルスの肺炎が原因だったの。当時は治療法も確立していなくて……ね。夫は、生涯現役で働き続けたから、息子に技術を教える暇もなくて、すべてを受け継ぐことができなかったのを相当悔やんでいると思うのよ。」

「そう、そこなんだよなぁ。」

女将の言葉に2代目主人はゆっくり頷いた。その時、大平は思いついた。

「そうだ!いきなりで突拍子もないですし、信じられないかもしれませんが、今、私と小山さんは霊体となった2代目主人とこうして対話ができています。なら、私たちが中継点となって、技術を継承するというのはどうでしょう。失われたレシピも復元できるかもしれませんし。」

「それができたら本当にありがたいけど……そんなこと本当にできるのかい?」

女将は言った。

「どうですか?主人?」

大平の言葉に主人2人は同時にこたえようとした。

「あ、すみません。まずは3代目からどうぞ。」

「あ、はい。そうしていただけるのなら、父から教えを乞えるのは今後二度とないことですし、喜んでお受けしたいです。」

「喜んでって……言い出しっぺではありますけど、疑わないんですか?」

大平は聞いた。

「ええ、あなたたちは国からの認可も受けていますし、父からあなたたちはそう言う方ではないという話をよく聞かされておりましたので。」

「そうですか。で、先代は……。」

2代目主人は、腕を組みながらこう言った。

「うーん、そうしたいのは、山々なんだが……。」

「何か問題があるんですか?」

「それがな、あいつのせいなのかわからんが、和菓子のことについてが一切思い出せねぇんだよ。」

「あいつ?」

大平がそう言うと、2代目主人は階段の先を指さした。そして、そこには、どす黒い靄のようなものがうごめいていた。

「あ、やべ、気づかれた。」

2代目主人はそう言うと、全力で廊下をガタガタ音を立てながら駆け抜けていった。そして、黒い靄もそれに追従するように階段を下りた後、廊下を駆けていった。

「主人!!」

大平と小山は2代目主人に向かって叫んだ。

「はい!」

3代目主人が大きく返事をした。

「あ、すみません。今のは先代に対してです。」

大平はややこしいと思いつつも補足した。

「あ、そうですか。」

その直後、小山と大平は互いに耳打ちした。

「元凶、絶対あいつやん。」

「そうでしょうね。早いうち何とかしなければいけませんね。」

そして、3代目主人は大平にこう質問した。

「それにしても、問題とかあいつとか言っていましたけど、何かあったんですか?」

「いや、それがですね。」

「先代の方にも呪いの影響が出ているようでして……和菓子に関しての記憶が飛んでいると。」

「はぁ、そうなんですか。」

女将と3代目主人は落胆した。

「でも、呪いがどのようなものなのか、どこから発生しているのかは分かりました。恐らくこの店はかなり姑息なタイプの呪いにかけられてるみたいですね。」

「そうなんですか!?」

3代目主人と女将は互いに驚いた様子を見せた。

「まあ、このまま解呪してもいいんですが、まずは呪いをかけた原因を探らないといけません。」

「どうしてなの?道夫君。」

「解呪は簡単です。いや、簡単ではないのですが……まあ、でも、しかし、呪いというのは、誰かの恨みつらみが原因で人からかけられるのがほとんどです。もし、呪いをかけた原因も分からず解呪してしまえば、あなたたちが無自覚のうちに同じ恨みを買って、また同様の呪いをかけられてもおかしくはありません。私は基本的にその原因を探ってから解呪をするようにしています。特に今回の呪いは只物ではありません。また同じ呪いにかかろうものなら、店がつぶれる可能性だってあります。私はこの店が大好きなので、そんな未来になってほしくはありません。だから、今回はいつもよりも根強く調査します。」

「わかったわ。ありがとう。」

女将は納得したようだった。続けて、大平は聞いた。

「原因として何か心当たりはありませんか?」

「心当たりね……うーん、ないような気がするけどね。」

「そうですか……。心霊スポットに行くような柄でもないでしょうし、川や洞窟で何かを拾ったとしても衛生上の観点からそう簡単には建物は入れませんもんね。変なものを貰ったり、買ったりしたことはありませんか?」

「いえ、私はないです。あんたは?」

「いや、ないです。」

女将も3代目主人も心当たりがないようだった。

「うーん、困ったな。」

大平が悩んでいると、小山が肩を叩いた。

「何ですか?」

「多分なんだけど、かけた人を捜して問い詰めた方が速い気がする。」

「どういうことですか?」

「この呪い、相当な霊力を消費する代物だと思う。だから、定期的に呪いをかけた人が呪い自体に霊力を与える続ける必要があるはず。」

「なるほど。確かに、その説が正しいなら、定期的に犯人がこの店に来店することになりますから、すぐ見つかるはずですね。」

続けて、大平は女将に質問した。

「女将さん、最近、定期的に来る怪しい客はいませんでしたか?」

「いや、怪しい客は見てないよ。いたとしても、定期的に来る人はたくさんいるからね。だれが犯人かなんて皆目見当もつかないよ。」

「そうですか……。」

その時、小山はとあることを思い出した。

「そうだ!入口に監視カメラありましたよね?」

「ええ、火事があってからは特に不審者の対策をするようにしててね。」

「監視カメラの映像、見せてください。」

 その後、3代目主人は仕事のため別れ、女将と大平、小山の3人で2階の小部屋へと向かった。そこには、小さなパソコンが置かれており、そこから監視カメラの映像を見ることができるようだった。

「直近3カ月は確実に保存されているはずだよ。」

大平と小山は早回しで怪しい人物がいないかを確認した。営業中には、特に変わった人は見かけない。

「それにしても、本当に客が少ないわね。」

「これも呪いの効果なのか……。」

小山と大平は映像を観ながらそう言った。そして、しばらく映像を観続け、小山はあくびをしたその時、

「ん?」

大平は映像を止めた。

「何?ってこれ、夜中じゃない?」

小山は大平に聞いた。

「そうなんだけど……。」

大平は、映像を拡大し再生した。入口の前で何かよくわからない動きをしている人影が見える。

「これは……。」

小山は顔を掻いた。

「多分、霊力を送っているんだと思います。映像だとよくわからないですが。」

その後も映像を確認していき、この男は1週間に1度、夜中に店の前で霊力を送っていることがわかった。

「犯人が分かったのかい?」

女将はパソコンに向かって顔をのぞかせた。

「はい、恐らくこの男です。見覚えは?」

大平はパソコンの画面を指さして言った。すると、女将は何かを理解した顔をした。

「いや、見覚えはないけど、なんとなく誰かは分かったよ。」

「誰なんですか?」

「多分、向かいの店の従業員さ。所作で分かる。」

「やはり、同業者は動きで分かるものなんですね。」

「そうね。案外職業の癖っていうのは誰でも出るものだよ。でも、これなら、合点がいく。向かいの店に客が流れ込んだのも、うちの店が不幸になったのも。」

大平は立ち上がった。

「女将さん、今日は何曜日ですか?」

「水曜だけど。」

「女将さん、ちょっと、協力してもらえますか?」

大平は女将を見てそう言った。女将は不思議そうな顔をした。

次回 第18解 和菓子屋では奇跡が起こるらしい 後変 現在公開中

-----------------------------------------------------------

こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第17解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、和菓子屋に起こった悲劇の話でした。しかし、呪いの元も分かり、犯人らしき人影も見えて解決の兆しも見えてきました。最後、大平が女将さんに協力を求めていましたが、一体何をしようとするのでしょうか。

実はこの話、思いついてすぐに書き始めました。多くは、予告の関係上、予告をしてから書き始めることが多いのですが、これは違います。これは、予告前……正確にはタイトルをつける前に、書き始めています(普段はタイトルが先)。この話の元ネタは夢です。目が覚めたとき、漠然とこの話を書いた方がいいのではないかと思いました。元ネタでは和菓子屋ではなく和傘職人でしたが、急遽、なんとなくで和菓子屋に変えました。よって、実際に和菓子屋の職に就いている方から見ると不自然な描写が多々あると思いますが、そこに関してはご容赦頂ければ幸いです。

先程、PV数を確認していたところ、本作の累計PV数が1000を越えておりました。私の作品の中では初めてのことです。様々な形で私の作品を知り、読んでいただきましたこと、心より御礼申し上げます。今後もよりよい作品作りを心掛けていきますので、どうぞ応援のほどよろしくお願いします。

さて、次回は、今回の続きである「和菓子屋では奇跡が起こるらしい 後変こうへん」です。まだタイトルの「奇跡」が一体何なのかがわかっていません。本当に奇跡が起こるのでしょうか。和菓子屋「福鶴堂」の運命や如何に!

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ