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第14解 呪われた道具があるらしい

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 今から10年ほど前のある日、大平は、学校の体育館裏のコンクリートに座っていた。すると、緑の紙袋を持った小山が小さい女子を連れて現れた。

「小山さん、新しい幽霊ですか?」

「そう、買ったの。」

小山は微笑んだ。これを聞いて大平は、

「買ったって……もしかして、この紙袋と関係ありますか?」

と指を指しながら聞いた。

「ご名答!」

小山はそう言うと、紙袋から、子供向けの人形を取り出した。

「アンティークショップで見つけて、一目惚れして買っちゃった。可愛いでしょう?」

「それって、人形とその人形についてる幽霊、どちらに対して言ってます?」

「どちらもでしょう。」

これを聞いて、大平はため息をついた。

「小山さん、あなた、最近買いすぎです。いわく付きアイテムを収集する癖があるのは理解できますが、このままだと、何が起こるかわかりませんよ。」

「いいじゃん、悪霊わるいコじゃないんだし……。」

小山は少し拗ねた。

「私!町子ちゃんのところに来てから、毎日楽しいの!いろんな幽霊ヒトがいて面白いの!」

幽霊の女子は両手をあげて言った。

「う~ん、そうかそうか、それはよかった~。」

小山はそう言いながら、幽霊を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。大平は苦笑いしかできなかった。

 時は令和に戻る。

「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」

大平は笑顔で言った。

「僕は、<依頼者K>と言います。僕の呪いを解いてくれると聞いてきたのですが……。」

若い学生の男、<依頼者K>は静かに言った。

「<依頼者K>さん。では、率直にですが、どのような呪いにかかっているのか、お教えいただけますか?」

「それが、最近、いろいろあってですね……。物を失くしたり、物が壊れたり、自転車から転げ落ちたり、犬に追いかけられたりと散々でして……。」

「うーん、こうしたことって単に運が悪いだけっていう可能性もありますけどね……。何か、きっかけになりそうなものってあったりしますか?」

「きっかけ……ないんですよね、それが。でも、いきなりこうしたことが起こるようになったので、不自然ではあるんですよね。」

これを聞いて、大平は考えた。確かに、<依頼者K>には呪いがかけられており、そのことは大平もわかっていた。また、突然起こり始めたという証言からしても、最近の不幸はこの呪いによるもので間違いない。さらに、<依頼者I>のときと違い、今回かけられている呪いは、割と構造や効果が単純であるため、解呪すると悪影響が起きる等の可能性は少なかった。しかし、具体的なきっかけが分からなければ、また同じ過ちを犯し、呪いにかかってここに戻ってしまう可能性もある。金が最優先である大手解呪業者と違い、大平自身は依頼者自身の安全を第一としていた。だからこそ、どのような状況でも、きっかけというものは無下にはできないのである。

「最近、神社にはいきましたか?」

大平は聞いた。

「いいえ、行ったとしても、初詣の時くらいですよ。」

<依頼者K>は手を横に振りながら言った。

「では、初詣のときに何か気になることは?」

「ありませんでしたよ。」

「人に恨まれるようなことをしましたか?」

「いや、ないですね。」

「心霊スポットにはいかれました?」

「いいえ、僕、怖いの苦手なので。」

「では、川や洞窟で、何か拾ったことはありますか?」

「いいえ、ないです。汚いので。」

「なら、変なものを買ったり、貰ったりしたことは?」

「……恐らく……ないですかね。」

大平は、今の少しの間が気になった。

「今、言葉に詰まりましたけど、何か心当たりが?」

「いや、稀にリサイクルショップに行くことがあるんですが、そこで何か……と思ったんですが、結構大量に買っているので、何が原因かと言われると……。」

「そうですか……。」

大平は悩んだ。<依頼者K>が呪いにかかったきっかけとして、現時点の情報で考えられるのものが4つあった。1つ目は、当人が気付いていないだけで誰かから恨みを買ってかけられてる可能性、2つ目は、<依頼者I>にかけられた呪いのように、見るだけでかかってしまうタイプの場合、当人も気づかないことがあるので、そうした呪いの類にかけられている可能性、3つ目は、先ほどの発言から、リサイクルショップで買った何かに原因がある可能性、4つ目は、何か特定できない特別なもの、または聞き逃している可能性である。しかし、このどれをとっても、今すぐに分かるものでもないどころか、解決できないものばかりである。仕方ないので、大平は解呪作業に入ることにした。しかし、その前に一応の確認をした。

「申し訳ないのですが、あなたの呪いにかかったきっかけを特定することができません。そのため、一時しのぎになってしまう可能性もありますが、それでも、解呪しますか?」

「まあ、大丈夫です。お願いします。」

<依頼者K>は言った。

「それでは、解呪を始めます。」

 大平は、深く深呼吸した後、静かに手を合わせ、かっと目を見開いた。すると、<依頼者K>の身体は光りはじめた。そして、爽やかな風が通り抜けた。

「これって、最近、考案された新しい解呪方法?」

小山が後ろから覗きながら聞いた。

「ええ、そうですけど、今、業務中なので、話しかけるのはやめてもらえると嬉しいんですが。」

「会議行ってるの?」

「いいや、スカウトマン多いので行ってません。というか、こうした話はあと……。」

「会議行ってないのによく習得できたね。」

小山は大平の言葉を遮った。大平は、これはもう駄目だと観念しつつ言った。

「スカウトのやつがこの解呪方法教えるから、手伝えって言ってきたんですよ。」

「え、まさか、大手に手を貸したの?」

「いやいやいや、ボコしましたけど。言葉で。」

「うわ、自分がされてた立場なのに、今度はする立場になったのかい。」

「あの……大手を擁護するのか、しないのかどっちかにしてください。」

「……あのー。」

<依頼者K>はおずおずと言った。

「ああ、すみません。」

大平はそう言った後、小山を少し睨んだ。

「あ、はい、すみません。あなたは常識的な方法で何とかしてますよね……。」

小山はそう呟いた後、静かに奥に戻っていった。途中会話は入ったが、解呪は無事にされているはずである。しかし、<依頼者K>には、呪いが残ったままだった。

「あれ……?おかしいな。」

大平はそう言いながら、もう一度、解呪を試みた。しかし、一瞬は解呪されても、また、呪いが戻ってしまう。

「慣れない方法でやったのが間違いだったか。」

大平はそう言うと、勢いよく手をたたき、呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者K>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった。しかし、呪いは解呪されない。

「え!?」

大平はあまりの出来事に驚いてしまった。この構造の呪いであれば、大半はこの方法で解呪されるはずである。しかし、一切の変化を見せない呪いを見て、大平は驚きを隠せなかった。

「何?このタイプの呪いも解けないの?本当に資格持ってるんでしょうね?」

小山は疑うように言った。

「持ってますよ。一応、ほぼ満点合格ですよ。」

大平は言った。

「え?なのに解けないってことあるの?一応、私も解いてみていい?」

小山は聞いた。

「いいですよ。」

大平は許可した。すると、小山は勢いよく手をたたき、少し長く呪文を言った直後、かっと目を見開いた。すると、<依頼者K>の体は光りはじめた。そして、大きく風が巻き起こった……が、しかし、呪いは解呪されない。

「はぁ!?」

小山は少し怒りのこもった表情を見せていた。

「困りましたね……。」

大平は悩んだ。

「え、そこまで大変なものなんですか?」

<依頼者K>は言った。

「いや、呪い自体は大したことないはずなんですよ。呪い自体は……。でも、なぜか解けないんですよ。」

大平は頬杖をしながら言った。

「何か、きっかけ、きっかけが分かればいいんですけど……。」

小山は言った。<依頼者K>は戸惑いからか、手元の鞄を強く握りしめた。その時、大平はあることに気づいた。呪いが少しだけだが、鞄の方に集まっているように見えたのだ。

「<依頼者K>さん、この鞄の中身を見させていただいても?」

「あ、いいですよ。」

<依頼者K>は、鞄をひっくり返し、中身をすべて出した。大平と小山は覗き込むように中身を見ていった。

「これか……。」

大平と小山は口をそろえて言った。そして、大平は、トランプの箱を手に取った。

「これですね、原因。」

「……トランプですか?」

<依頼者K>は聞いた。

「ええ、恐らく、このトランプ、何かしらの怨念が含まれていますね。ゲームに負けた腹いせでかけたか、それともまた別の理由か……。」

大平は小山にこのトランプを手渡し、所見を聞いた。

「まあ、大平君の見解は間違っていないと思う。恐らく、このトランプには、問答無用で不運に襲われる呪いを持ち主にかけ続ける……そうした怨念か呪いがかけられていると思う。端的に言えば、『ふしあわせトランプ』と言ったところかしら。」

「『ふしあわせトランプ』……。」

<依頼者K>は復唱するが如く言った。

「このトランプはどこで手に入れたんですか?」

大平は聞いた。

「リサイクルショップですよ。友達と暇な時間に遊べるからいいかなと思って買ったんです。まさか、これに呪いがかけられているとは……。」

<依頼者K>はトランプをまじまじと見ながら言った。大平は、解説した。

「リサイクルショップというのは、どういったものが流れてくるかわかりません。たまに壊れているものが売っているのと同じように、呪いがかけられているものが売られていることもあるのです。よくあるのは、遺品とかが正しく処理されずに売られているとかですかね。でも、こうした処理というのは、個人ではできないことが多いので、難しいところです。」

「そうなんですか……。」

大平の言葉に、<依頼者K>は納得する動作を見せた。

「では、どうされますか?このトランプはいわゆる呪物というものになります。解呪等もできますが、トランプは今では100円でも売ってますから、よほど思い入れのあるものでなければ、焼却処分をお勧めしますが……。」

大平は聞いた。

「焼却処分しようと思います。」

「そうですか。こちらで引き取ることもできますが、どうされますか?」

「引き取り料は……。」

無料タダです。責任を持って処分いたします。」

「なら、お願いします。」

こうして、トランプは大平の手に渡った。

「それにしても、大丈夫なんですか?持ち主があなたになると、あなたにも呪いがかかるのでは?」

<依頼者K>は大平を心配したが、

「大丈夫ですよ、一応、資格持ちですので。」

と言って笑った。とはいえ、一般的な解呪業者の資格持ちの人でも、この類の呪物をノーリスクで受け取ることはまず不可能であった。しかし、なぜ、大平は笑っていられるのか。それは、彼が自分自身に()()()()()()をかけていたためであった。()()()()()()という一般ではあまり知られていないものを咄嗟に使用する対応力からしても、大平がほぼ満点で合格できたのは十分頷けるものだった。

 トランプの持ち主が大平に移ると、<依頼者K>にかけられた呪いは自然と消えた。

「あなたにかけられた呪いも持ち主が移ったことによって解呪されたようです。」

大平は言った。

「そうですか、ありがとうございます。」

<依頼者K>は言った。

「実感は……湧かないですよね。」

大平は笑った。

「まあ、そうですけど、なんというか、すっきりした気がします。」

<依頼者K>は言った。そして、机の上に広げられた荷物から財布を手に取り、3000円を取り出した。

「解呪料ですよね、3000円。」

「あ、ありがとうございます。申し訳なかったです。実感ない感じで終わってしまって。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。資格持ちの人が、だますと思えませんし。」

「いやぁ、どうですかね……。」

小山は小さく言った。それから、<依頼者K>は荷物を片付け、帰る準備が整った。

「では、ありがとうございました。次回もどうぞごひいきに。」

大平は笑顔で言った。

 こうして、<依頼者K>は帰っていった。その姿は、今後の人生に対する期待で満ちあふれているように見えた。そして、依頼者の姿が見えなくなったその時、小山が机からトランプを奪った。

「これ、私が貰っていい?」

「いいですけど、対策はしてくださいね。」

「何よ、私だって、()()()()()()が使えるようになりました。」

小山はどや顔をした。

「ああ、ならどうぞ、好きにしてください。」

大平は素っ気なく言った。

「ありがとね~。」

小山はトランプを持ちながら、スキップをして奥へと向かった。これを見て、大平は、

「収集癖は変わらないんだな。」

と小さくつぶやいた。

次回 第15解 愛情にも限度というものがあるらしい 現在公開中

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こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第14解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、持ち主に不幸が訪れるトランプの話でした。なお、某キャラクターのアイテムとは一切関係ありません。

そういえば、リサイクルショップ、結構私も行くんですけど、稀にとんでもないレア物が格安で売られていることがあって、ついつい買ってしまうんですよね。昨日もレア物があって相当お金が飛びました。出費を抑えるためにも、呪いにかからないようにするためにも、ほどほどにした方がいいかもしれませんね。でも、環境への配慮という意味では、3RのReuseリユースに当たりますから、結構いい行為なんですよ。(でも、何で「リユース」なのに「リサイクル」ショップって言うんですかね、某ジャンクショップは「リユース」って言葉使ってますけど……)

さて、次回は、「愛情にも限度というものがあるらしい」。バレンタインデーも近いので、バレンタインにあったエピソードをお送りしたいと思います。とはいえ、甘い話にはならないみたいです。次回もお楽しみに。

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