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第13解 ここで働かせてほしいらしい

はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。

 「いらっしゃいませ。」

大平が本屋で呪いに関する参考書を探していた時、彼女は現れた。大平は一瞬言葉を失い、硬直した。しかし、すぐに違和感を隠すが如く、そそくさとその場を離れた。誰もが振り向く美しい顔につけられた傷跡、感じた強い霊力、胸につけられた漢字2字の名札……彼女は、あの小山町子こやままちこで違いなかった。大平は、突然の再会に騒然としながらも、冷静になりながら、本屋の中を歩いた。彼女が勤務していた大手解呪業者は、「解呪法」の施行により、一連の詐欺行為が露呈、結果として倒産したことは知っていた。しかし、なぜ彼女は、この街に戻ってきて、本屋で働いているのだろうか。

 そのようなことを考えていると、大平は、少年コミックコーナーにたどり着いた。そこで、大平は、「超合体戦士ツヨスギー」の単行本が積まれているのを目撃した。そして、とあることを思い出した。

 2日ほど前、ふと珈琲を飲みたくなった大平は、喫茶店に足を運んだ。そこで、<依頼者F>に再会した。大平は、彼と相席させてもらうことにした。彼は一度は万引きをしてしまった身ではあるが、別に生活ができないほど金に困っているわけではなく、時々、落ち着きたくなった時に喫茶店を訪れては、ブラックコーヒーを飲んで帰るのだという。そして、大平と<依頼者F>が相席した理由はただ1つ、「超合体戦士ツヨスギー」の話をするためであった。最初は、好きなエピソードやキャラクター、裏話や最新グッズ情報など、いわゆる推しトークで盛り上がっていたが、徐々に話の内容は変わっていき、呪いをかけられた日の話になった。

「続きが気になったというか……ほんの出来心だったんすよ。」

<依頼者F>は言った。

「それであなたは、近所の本屋から本を盗んだと。」

大平は、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきて言った。

「はい……そうです。」

「それで、店員に見つかったと。」

「ええ……恥ずかしい話で。」

<依頼者F>は、頭を掻いた。そして、突然何かを思い出したかのように言った。

「そうだ、それにしても、対応が速かったというか、店を出た瞬間すぐに声をかけられて。」

「はあ。」

「で、事務室に連れてかれたんですよ。そんで、店員さんに色々聞かれて……どうして万引きしたのかとか。」

「それで、漫画代がないとか、節約したいとか言ったわけですね。」

「まあ、要約するとそうです。それにしても、あの店員さん、まがまがしい感じがするんですよ。額に汚れなのか傷みたいのがついてるんですけど、妙に顔がきれいでしてね。なんというか、大昔に見たアニメに出てきた、口裂け女みたいで。」

「さすがに、そんなわけないでしょう。」

大平は笑った。

「いやいやいや、絶対見ればわかります。本気で怖いです。」

<依頼者F>は必死に言った。

「でも、おそらく、そう怖く見えたのは、あなたの万引きをした罪悪感から来たものなのでは?」

「うーん、そうなんですかね。」

<依頼者F>は首を傾げた。

 このときは、気にしていなかったが、今思えば、会話に出てきた、額に傷がついている、妙にきれいな顔などの情報は小山の特徴と酷似していた。もし、<依頼者F>に呪いをかけたのが小山であるならば、大平が解呪に手こずったのも理解できた。それにしても、どうして……と大平が頭を悩ませたその時、

「何かお探しですか?」

小山が大平に話しかけた。

「ああ、ええ……。」

大平はまたしても言葉が詰まった。

「もしかして、こうした本をお探しじゃないですか?」

小山は、大平に1冊の本を手渡した。呪いに関して書かれた参考書の1種だった。大平は、何とも言えない気まずい雰囲気に耐えきれなくなり、急いで本を受け取り、

「あ、ありがとうございます。」

と小さくお礼をした後、レジへと向かった。そして、静かに本屋を出た。

 その後、大平は、自宅に戻り、勢いで買ってしまった参考書にせっかくだからと手を付けることにした。やはり、小山が薦めただけあって、内容は大平の求めていた内容にドンピシャだった。そして、ページを進めていくと、紙切れが挟んであることに気が付いた。最初は、管理用のタグか注文カードか何かと思ったが、どうやら違うようだった。大平は、その紙切れを見ることにした。縦に半分に折りたたまれており、それを広げると、細い文字でこう書かれていた。

「明日、駅前広場、11時」

大平は、これはやられたと感じた。

 翌日、大平は、店を休みにして、駅前広場に来ていた。平日の昼間であるからか、広場にいるのは、散歩中の園児たちと、杖を突きながら歩く高齢者の女性だけであった。大平は、やはり勘違いかいたずらだったのではないかとも感じたが、それとは逆に本当に来てくれるのではないかという期待も感じていた。彼は、ベンチに座り、その時を待った。

「大平君なら、来てくれると信じてたよ。」

この声が聞こえたのは、丁度時計の針が11時を差した時だった。

「粋なことをするじゃないですか。それにしても、あと少しで三十路だというのに、この格好は攻めてますね。小山さん。」

大平は、顔を上げて言った。小山は、白い帽子と水色のワンピースを着て、そこにいた。

「いいじゃない。これでも、気合い入れるときしか着ない勝負服なんだから。」

小山は、大平に見せびらかすように体を捻った。

「それにしても、どうしたんですか、唐突に呼び出して。おそらくあなたに会うのは、数年前の同窓会以来でしょうに。」

大平は言った。

「いいじゃない。久々に話すくらい。」

小山はそう言いながら、大平の隣に座った。

「話すって……なら、こんなことせずにその場で話せばよかったじゃないですか。」

大平はそう言うと、

「だって、あなたが少し動揺してたようだったし、私も勤務時間中だったから……。」

小山は口を尖らせながら言った。大平は少しため息をついて言った。

「最近……どうなんですか。」

「見てわかるでしょ。本屋の店員。」

「何で……あなたは、解呪の仕事しか経験ないでしょう。」

「いや、まあ、そうなんだけどさ。私、中学時代、本が好きでさ。周りから、いじめられたときも、本は味方だった。それで、その本に恩返しがしたくて、本屋に勤め始めたってわけ。」

「図書館の司書にはならなかったんですか?」

「え、まあ、司書って資格いるし……。」

「そうですか。そういえば、あなたがかつて勤めた会社、倒産したらしいですね。」

「そうね……。まあ、あんなクソ会社、消えて清々してるよ。」

小山は伸びをした。そして、大平に聞いた。

「今、あなたは何をしてるの?」

「私は、解除業者やってます。フリーで。」

「ふーん、噂には聞いてたけど、そうなんだ。取ったんだね、資格も。」

「そうですね。私も最初に勤めた会社が悪かったんで。脱サラして、資格取って……。今は平和です。あなたも取ったんですか?」

「当然でしょ。取らないと、これまでの解呪行為が不正ということで逮捕されちゃうし。」

これを聞いて、大平は少し笑った。

「まあ、そうですね。」

「何で笑うの。」

「いや、まあ、そうだなーって思っただけです。そういえば、本屋で万引きした男にネタバレの呪いをかけたのは、あなたですね。」

「え、何で知ってるの?そうだけど。」

「解呪依頼が来たんですよ、私に。」

「あら、そうなの。で、どうだった?」

「どうだったって言われても……。」

大平は少し悩んだ。

「まあ、少し手こずりましたけど、何とか解呪はできましたよ。」

「やるじゃん。」

小山は褒めているのか、怒っているのかわからない声で言った。

「フリーでやってるってことは、大手とは契約結んでないんだ。」

「まあ、そうですね。()()()()()()()()()()()()ととある誰かさんが言ってくれたので。」

「覚えててくれたんだ。」

小山はそう言った直後、下を向いて少し黙った。鳥のさえずりが聞こえる。大平は、小山の顔を覗き込んで言った。

「どうしたんですか……小山さん。」

すると、小山は大平の顔を手で挟んで固定して言った。

「私を君のところで働かせて!」

大平は突然のことに驚きを隠せなかった。小山の固定を振り切って、大平は言った。

「ど、ど、ど、どういうことですか!?いきなり言われても……。」

「あなた、解呪業者をフリーでしているのよね。色々大変なこともあるわよね。だから、その手伝いとして働かせてほしいの。」

「え、でも、あなたは本屋……。」

そう大平は言いかけたが、それを遮るが如く、

「本屋は副業で続けるわ!」

と言った。大平は驚いた。

「ふ、副業!?ということは、こっちが……。」

「本業にするつもりよ。」

「え、でも、労基とかはっきりとしているわけでもないですし、収入も少ないので給料が払えるかどうかは……。」

「そこは何とかするから!」

小山はまた大平の話を遮った。

「う……でも……。」

「大丈夫だから!」

大平は少し心配ではあったが、圧に耐えきれず、承諾することにした。

「それにしても、随分性格変わりましたね。ここまで、ごり押すタイプでしたっけ。」

「大手時代に先輩がこうして、ごり押しているの見て、私も行けるかなって……。」

小山は頭を掻いた。大平は苦笑いした。

「こうしたところだけ、学ぶのはやめてください。」

「はい……。」

「で、手伝うって何を手伝うんですか?」

「経理とか……呪いに関しての見解とか助言をするとか?」

「何で上から目線なんですか?」

大平は目を細めながら言った。

「一応、師匠ですから。」

小山は腰に手を当てて、ドヤ顔をした。大平はため息をした。

「確かに、基本的な解呪方法や除霊方法を教えてくれたのはあなたですが、今は常に自分の情報をアップデートして、自分なりの方法でやってますし、そもそも私はあなたの弟子になった記憶もありませんよ。」

「あら、そう?」

小山はきょとんとした顔をした。

「時代の流れや解釈の違いで、記憶も少しずつ変わっていくんですよ。」

大平は言った。

「……そうね。あれから、10年以上たったものね。」

小山はそう言うと、2人は空を見上げた。すると、駅前広場に爽やかな風が通り抜けた。

 その後、小山に対して、様々な取り決めや説明を行い、数日後、小山は大平の店にやってきた。

「今日から、ここで働かせていただくことになりました。小山町子です。よろしくお願いいたします。」

小山は深々と礼をした。

「はいはい、わかってますよ。」

大平は、もう後戻りはできないと腹をくくった。

「それにしても、今日は勝負服?じゃなくて安心しました。」

「さすがに、あと少しで30なのに、あの格好を常にするのは恥ずかしいです。」

小山は顔を赤らめた。小山はフォーマルなスーツを着ていた。

「ああ、まあでも、服装指定をし忘れたのであれですが、別にスーツじゃなくてもいいんですよ。流石にあの格好は困りますけど、次くるときは、Tシャツとかパーカーとかそういうので構いません。」

「え、そうなんですか!?久々に奥からスーツを出したのに。」

小山は驚いた後、落胆した。

「すみません。でも、前の会社ではどうだったんですか?」

「別にどんな服でもよかったですよ。多様性を重んじるとかで。」

「ああ、そういうことはするんですね。」

大平はそう言うと、

「ブラック企業なのに。」

と2人の声がそろった。そして、大平と小山は吹き出してしまった。その後、小山は少し周りを見渡し、言った。

「話変わりますけど、なんというか、この店、本当にこじんまりとしているというか……汚……。」

「これ以上は言わないでください。」

大平は、何か言いそうになった小山を止めた。

「では、仕事について説明しますね。」

大平は腰に手を当て言った。

「はい。」

小山はメモを取り出した。

「基本的に、接客や解呪等は私が行います。小山さんは、奥のPCで経理や書類整理、何か助言が必要な時は私が聞きに行きますので、それについて……。」

大平は、淡々と仕事内容を話した。正直、これまでも大平一人でこの店は回っていたので、小山にとって大きな仕事というのはなかった。

「説明は以上となります。今日から頑張りましょう。」

「はい!一日でも早く仕事に対応できるよう尽力いたします!」

それでも、一生懸命働こうとする意志を感じられた。

 こうして、大平は従業員として小山を迎えた。大平は、人数が増えたことで大変なこともあるが、今後この店も豊かになるだろうと感じていた。しかし、当然ながら、大平はブラック企業のようにきつい仕事やパワハラ、残業などをさせる気はさらさらなかった。大平は、小山が心から楽しく、社交辞令ではない真の笑顔で働ける職場を目指したい。そう感じた。そして、そのことを深く心に刻んだ。

 大平は開店の準備をし終え、定位置に座った。小山は、その後ろで黙々と資料を片付けている。すると、いつものように、お客がやってきた。

「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」

大平は笑顔で言った。

次回 第14解 呪われた道具があるらしい 現在公開中

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こんにちは、明日あす とおるです。

霊能力者れいのうりょくしゃ 大平おおだいら格安かくやす解呪かいじゅしますの第13解を読んでいただき、ありがとうございます。今回から、小山が従業員に加わりました。小山が加わったことで、今後の解呪にどう影響していくのか、ぜひご期待ください。

最近、小説を書くと眠くなります。睡眠不足なんですかね?それとも呪い?いや、でも肉離れしたときも、医者から、「睡眠不足で筋肉が疲労して収縮したときに、無理に伸ばしたのが原因です。」って言われたので、やはり、そういうことですかね。睡眠はきちんととりましょう。そういえば、現在は松葉杖生活を卒業し完治したので、普通にいろんなところに行けています。

さて、次回は、「呪われた道具があるらしい」。呪われた道具、いろいろありますが、どのような道具なのでしょうか?次回もお楽しみに。

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