第12解 周りから不思議がられたらしい
はじめに、この物語はフィクションである。実際の実名や地名とは、一切関係がないが、安全のため、この物語に出てくる依頼者の名前は全て依頼者○のような形になっていることをご容赦いただきたい。
「いらっしゃいませ、まず、お名前と本日のご用件をお話しください。」
大平は笑顔で言った。
しかし、当然ながら大平は、生まれた時からこの仕事をしているわけではない。大平には、いつ何があっても仕事を続けることができるような勇気と力、そして、そんな大平を支えてくれる、とある人の言葉があったのである。
大平は、この街の外れの住宅街にあるとある家庭に生まれた。大平は、幼いころからホラー映画を怖がることもなければ、誰かと一緒でなければ夜にトイレへ行くことができないということもなかった。なぜなら、大平の家系は皆、霊感が強い体質であり、彼は物心ついたころから、人ならざる者、幽霊が見えていたため、ホラー映画であるようなことは日常茶飯事であり、もはや慣れ切っていたのだ。さらに、彼は、自由気ままに空を飛び、怨念という欲望に忠実である幽霊を見て、もはや尊敬の念さえあった。しかし、このような体質だったことから、友人関係などは乏しく、周りから気味悪がれ、避けられていた。
「あいつ、独り言言って変だよな。」
「あんなやつ、いていいのかよ。障害じゃねぇのか?」
周りが口々に大平の悪口を言った。小学生の時には、遠足で仲間はずれにもされた。中学生の時には、周りからごみや石を投げつけられた。とはいえ、家族の皆は、似た体質であるのもあってか、力になってくれたし、味方であってくれた。しかし、そもそも霊が見える体質の家系である大平家は、そもそも近所の人々や先生でさえもあまり良く思っていなかったのである。大平はこのころから、いじめというのが大嫌いだった。
大平が高校2年の春、とある女子が転入してきた。彼女の名前は、小山町子と言った。彼女の名前は、かの世界三大美人である小野小町からつけられたらしく、その名前に相応しい美貌の持ち主だった。無論、転入してまもなく、各方からお付き合いの申し込みが絶えなかったが、全て断っていた。
彼女が大平と初めて接点を持ったのは、高校で選択していた美術の授業でのことだった。その日は、たまたま、画材などの関係もあり、席が大平と小山で隣同士になってしまった。
「町子様の隣があいつかよ。」
「素晴らしい町子様に汚い泥が付く。早くどっか行ってくれ。」
大平は、高校生になっても状況は変わっていなかった。大平も小山も陰口には気づいていたが、気にせずに絵を描き続けていた。
幽霊は基本写真に写ることがない。しかし、絵ならその姿をはっきりと表現することができた。そのため、大平は、幼いころから、絵を描くのが好きだった。そして、長い間絵を描き続け、中学卒業時には、数々のコンクールを総なめにするほどの実力にまで成長していた。
そんな大平の絵が目に入ったのか、小山は、大平に話しかけた。
「あなた、随分と独創的な絵を描くのね。」
「……まあ、そうですね。あなたにとっては、そう感じるのかもしれません。」
「それって、どういうこと?」
「今絵に描いているのは、私の見える全てなんです。」
大平は、淡々と絵を描き続けていた。大平のキャンバスには、いつもの教室に幽霊が2体、浮かんでいる様子が描かれていた。大平は言った。
「小山さん、私に話しかけるのは、よした方がよろしいと思います。」
「何で?」
小山はそう聞くと、大平はキャンバスの奥を見た。複数人の生徒が、気味が悪そうにこちらを見ていた。
「そんなのわかってるよ。」
小山は言った。大平は、目を見開いた。
「何で……、このままだと、あなたに良くないことが降りかかるかもしれないのに。」
すると、小山は大平の絵を指さして言った。
「これ、5丁目の鈴木さんと、7丁目の大野さんでしょ。うまく描けてる。」
「え!?なぜそれを!?」
大平は驚いていた。確かに、今、大平がキャンバスに描いていた幽霊は、かつて5丁目住んでいた鈴木氏と、7丁目に住んでいた大野氏をモデルにしたものだったからである。とはいえ、この2人が亡くなったのは、大平が高校に入学した直後のことであり、転校してきたはずの小山は知らないはずなのである。
「何でなんでしょうねぇ。」
小山は笑いながら言葉を濁した。
それ以来、大平は小山のことが気になって仕方がなくなっていた。どうして、5丁目の鈴木氏と7丁目の大野氏のことを知っていたのだろうか。もともと知り合いだったのだろうか。それとも……。
「大平!何、ぼーっとしてるんだ!95ページの問3!答えろ。」
先生が大平に向けて、チョークを投げた。
「あいつ、変人なんで、変なことでも考えてたんすよ。」
「あんなやつ、放っておいていいすよ。」
クラスの皆は大笑いしたが、小山の顔は笑っていなかった。そして、それには大平は気づかなかった。
ある日の朝、大平の机に花瓶が置かれていた。噂には聞いていたが、とうとうここまで来たか。と思いつつ、大平は机の上の花瓶を片付け始めた。皆はこそこそと笑っている。それからすぐ、小山が登校してきた。そして、大平が花瓶を片付けていることに気づき、急いで駆け寄った。
「大平君、これは一体!?」
「……いいんですよ。むしろ、死んだ方々にお花を添えることができるなんて、良い方々ではありませんか。」
「そんな、あなたは死んでいないじゃない。」
「死んだようなものですよ。なんなら、幽霊になりたいくらいです。……あと、私からは離れたほうがよろしい。」
大平は小山を巻き込みたくなかった。しかし、小山は大平の持っていた花瓶を持った。
「……何で。」
大平は驚いた。
「放課後、話したいことがあるの。体育館裏まで来て。」
小山は言った。大平はそこで、何かを感づいた気がした。
大平は2つの可能性を想定していた。1つは、小山が罰ゲームで大平に告白するパターン。もう1つは、小山自身が大平をからかっていて、最初は優しく接していたけれど、のちに何かと攻めてくるパターンだ。どちらのパターンも別の人から経験済みだった大平は、放課したら、すぐに帰宅しようと考えていたが、今朝の花瓶の件や、例の絵の件も気になり、体育館裏に行ってみることにした。
放課後、大平は体育館裏にやってきた。小山はコンクリートの階段に座っていた。小山は、横に腰かけなさいと言うが如く、コンクリートを叩いた。大平は、恐怖を感じながらも横に座った。
「急に呼び出して、ごめんなさい。」
小山は言った。
「で、何ですか。」
大平は、下を向いていた。
「あなた、”見える”んでしょ?」
「え?」
「人ならざる者が、”見える”んでしょ?実は、私も”見える”の……。」
大平は、これを聞いて顔を上げた。しかし、これも経験があった。過去に、”見える”人を装って大平をからかった人がいた。この経験から、大平は聞いた。
「どうせ、からかってるんでしょう。”見える”とか言って、実際は見えていない。単に私をからかっているだけで。」
「いいや、違う。」
「そうやって、私をだまして……。」
「違うの。」
「私の気持ちなんて、分かりやしないんだ!」
大平は立ち上がった。少しの沈黙が流れた。その時、1匹の猫が2人の横を通った。
「猫だ、可愛いね。」
小山はそう言うと、その猫を抱えた。
「小山さん、それって……。」
大平は言葉を失った。大平は気づいたのだ。小山が抱えた猫は、実体ではない幽霊だということに。
「わかってくれた?私が”見える”こと。」
小山はそう言って、幽霊の猫と遊び始めた。確かに、これまで接してきた自称”見える”人の中で、実際に幽霊を見て、それに触れている人を見るのは、初めてだった。大平は、この時、彼女は本物だと感じた。そして、大平の目から1粒、2粒と、涙があふれだした。
「私、”見える”ことが理由でずっと、からかわれてて……。家族以外、誰も理解してくれる人がいなくて……。悔しくて……悔しくて。でも、やっと理解してくれる人が、現れてくれた。本物が現れてくれた。嬉しくて……。私。」
その時、小山は立ち上がり、大平を抱きしめた。抱えていた猫は、逃げてしまった。
「私も!今では、周りの人から、美人だ、孤高の存在だ、言われてるけど、ここに来るまで、私も”見える”せいでからかわれてて、周りに仲間もいなくて。だから、私!大平君と会えて、良かったと思ってる。」
小山の声も震えていた。2人は泣いた。しばらくそのまま泣き続けた。それは、苦しみではない。嬉しさで泣いているのだ。少し時間が経ち、先ほどの猫の霊が戻ってきた。大平と小山はその方を見ると、「にゃあ。」と鳴いた。2人は顔を合わせ、笑った。この日は、大平にとって転機だった。
それから、大平は人生で初めて、学校に行くのが楽しみに思えるようになった。昼休みや放課後、空いてる時間があれば、体育館裏に来て話をした。大平が仲のいい幽霊を紹介したり、小山がここに来る前に出会った幽霊や妖怪などの話もした。大平の中で人生が大きく色づき始めていた。
とはいえ、大平に対するいじめは、徐々にヒートアップしていた。それもそのはずだった。学校中の憧れである小山に大平という汚い邪魔者が良く接するようになったのだ。邪魔者を取り除きたいと思うのは、ある意味集団心理的には当然のことだったのだ。そして、さらに残念なことに、陰湿なものや陰口も増え、机から物が消えたり、教科書に落書きされたりすることは、日常茶飯事になった。
ある日、同級生から、放課後、河川敷に来いと言われていた大平は、それを無視して帰ろうとしたが、帰り際にその人たちと遭遇、財布の金を全て盗られた挙句、教科書やノートまで破かれ、全身あざだらけになってしまった。同級生が満足して帰ったそのとき、雨が降り始めた。制服に血がにじんでいる。大平は、急いでコンビニに塗装用スプレーを買いに行った。実は、大平は、緊急用として制服のポケットの奥底に小銭を忍ばせていた。案の定、それは、盗られていなかった。レジの店員は、衝撃的な大平の身体を見て心配したが、それを無視して、コンビニを出た。大雨の中、人生に絶望した大平は、河川敷の前の小さな橋の下にある柱に、コンビニで買ったスプレーで落書きをした。
「これを見た人たちが、幸せでありますように……。」
大平は絵の前でそうつぶやいた。彼が柱に描いたのは、笑顔に微笑む小山の姿だった。そして、それに大平は呪術をかけた。それが、見た人を守る呪いだった。大平は、過去にいじめてくる人たちに呪いをかけようと、呪いについて調べたことがあった。そして、自分でもできそうだと思って呪いをかけようとしたが、失敗した。大平の両親が止めたのである。それ以降、怒られるのが嫌で呪いをかけるのを避けていたが、見た人を守る呪いなら、誰も怒らないだろうと感じたのである。確かに、小山の影響でいじめはヒートアップしている。しかし、小山がいなければ、きっと今の時点でも自分自身は耐えきることができなかったのではないかと大平は感じたのだ。だからこそ、もし、同じ思いをしている人がいて、ここにたどり着いたのならば、せめて幸せになってほしいと思ったのである。
それからしばらくすると、流石に先生もこの状況を見かねてか、渋々相談に乗ってくれるようになったが、それの意味もなく、日に日に風当たりは強くなる一方だった。そのような最中、大平は一人の女の幽霊に出会う。彼女も同じように学校でいじめられていて、耐えきれなくなり、自ら命を落としたという。この幽霊は、生前どれだけひどいことをされてきたのか、死んだ後はどのようになるのかを教えてくれた。幽霊に憧れを持っていた大平にとっては、彼女が話したどの話も素晴らしいものであったが、このことを聞いた小山は何故か悲しい顔をしていた。
ある日、大平は、その女の幽霊に面白い話があるからと、森に呼び出されていた。
「道夫くん。」
声が聞こえたので、振り返ると、いつもの女の霊がいた。しかし、いつもと様子が違う。
「いじめられていて、悔しいんだよね。」
「まあ、はい。」
「なら、私と一緒に幽霊にならない?」
「いや……。幽霊になるって死ぬってことですよね?」
「そう、こっちは楽しいよ。自由に空を飛び、欲望に忠実に生きても怒られない。」
「でも、家族がいるし。」
この時、大平は違和感を覚え始めていた。
「家族は”見える”んでしょ。」
「でも……。」
「でもって!」
女の幽霊は叫んだ。
「でも、でも、でも、でもって、みんな私を見捨てるの!?」
女の霊から、紫色の煙が出始めた。大平はこれはさすがにやばいのではないかと思い始めた。
「なんでぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
女の霊は、紫色の得体のしれないものに変化した。大平は、これが何かを瞬時に判断した。そう、女の霊は、大平を死へと誘う悪霊だったのである。命の危険を感じた大平は、徐々に後ろに下がっていった。ダメージを与えられないと知りながら、パニック状態の大平は、石を拾って投げつけた。
「あなたも、私に石を投げるの!?」
幽霊は言った。そして、大平は、やがて木にぶつかり、バランスを崩してしりもちをついた。
「この野郎!」
そう叫んだ悪霊は、大平に襲い掛かった。その時、
「大平君!」
声が聞こえた。視界が光に包まれた。目の前に仁王立ちする人影が現れた。そう、それは、霊を弱める道具を持った小山だった。
「何かおかしいと思って後をついていったら……。まさか、悪霊に誘惑されているなんて!」
小山は言った。
「何だ!この女!私の邪魔をする奴は死んでしまえ!」
光に圧倒されながらも悪霊は叫ぶ。
「よほど、つらいことがあったのね。力が強い。」
小山は苦しそうだった。
「小山さん!私、何といえばいいか。何か手伝います!」
「手伝うって、あなた何かできるの!?」
小山のその言葉に大平はしばらく何も言えなかった。大平は、呪いをかけることができるが、解呪や除霊に関してはさっぱりだったのだ。考えていても仕方がないと感じた大平は言った。
「……呪いをかけるくらいしか。」
「呪い!?かけてどうするの?デメリットしかないじゃない!」
確かに、小山の言う通り、通常の呪いはデメリットしかない。しかし、あの呪いなら。そう咄嗟に思った大平は、
「小山さん、ごめん!」
そう言った後、小山に守られる呪いをかけた。小山は突然のことに驚きを感じたが、呪いの効果が何かを察したのか、小山はゆっくりと悪霊に近づいた。無論、悪霊に近づけば、霊を弱める光の効果も増すが、悪霊の攻撃も当たりやすくなる。しかし、守られる呪いがかかっている小山に悪霊が触れると、その悪霊の触れた部分は溶けてしまった。
「や、やめろ!うわっ!」
悪霊は小さくなってしまった。その時、小山は幾何学模様が描かれた紙とお札をポケットから取り出し、呪文を唱えながら、紙にお札を張り付けた。すると、巨大な竜巻が巻き起こり、悪霊はその竜巻に巻き込まれ、やがて紙に吸い取られてしまった。
「はい、除霊完了。」
小山は紙をポケットにしまい、そう言って、手をはたいた。
「もう、心配したんだからね!」
小山は大平の方を向いた。
「いや……すみません。」
大平は頭をかきながら言った。
「それにしても、この呪いは何?」
小山は自身の身体を見ながら聞いた。
「守られる呪いです。人を傷つける呪いがあるなら、人を助ける呪いもあるのですよ。」
「何よそれ。」
2人は笑った。小山は言った。
「それにしても、解呪と除霊のやり方は覚えなきゃね。」
「はい。頑張ります。」
大平は言った。そして、少しの沈黙が流れた後、大平は顔を赤らめながら、意を決して言った。
「あのー、もし良ければなんですけど……付き合ってはくれませんか?ここまで優しくしてくれた人、初めてで。」
「付き合うって?」
「…………恋愛的に……。」
またしても沈黙が流れたが、小山はいきなり吹き出した。
「さっきまで、他の女にうつつを抜かしてたやつが何言ってるのよ。あはは、面白い。」
「ということは……。」
「私に付き合うなんて10年早い。」
「ですよね……。」
こうして、大平の初恋ははかなく散った。
それから、しばらくして、高校3年生になった。実はあの後、「大平が自ら命を落としに行こうとしたのを小山が止めた」という噂が広まり、流石にやばいと思ったのか、大平に対するいじめは減っていっていた。また、大平は、小山に解呪方法や除霊方法を教わり、ある程度の悪霊なら、自分の力で対処できるようにもなっていた。さらに、進路活動も佳境に入り、大平は進学、小山は就職することに決まった。というのも、小山も、実は進学を目指していたのだが、どこから噂を聞き付けたのか、その高い除霊・解呪能力を買われ、界隈では大手の企業と契約することが決まってしまったのだ。ある日、小山は体育館裏で大平に内定通知書を見せて、ピースをした。
「見て、内定通知書!クラスで一番早く決まっちゃった!」
小山は、大手の企業と契約したことを嬉しそうに語った。
そしてまた、時が過ぎ、卒業の日となった。皆が最後の別れを惜しむ中、大平と小山は体育館裏でいつものように話していた。
「大平君も、大学で頑張ってね!」
「はい……ってちょっと待て!」
小山は大平の制止も聞かず、大平の制服の第2ボタンをもぎ取った。そして、笑顔で笑って見せた。
「記念にもらっておきます。」
「え……まあ、いいですけど。」
2人は笑った。
しかし、彼女の笑顔はこの日以来見れなくなってしまった。小山が就職した企業は、ブラック企業だったのだ。低賃金で、残業は当たり前、寝る時間も働けといわれた。この状況を見れば、労働基準監督署が黙っていないが、こうした人たちは隠すのがうまいのだ。また、その企業は本物の解呪業者ではなく、偽物の詐欺業者だったのだ。まだ、この頃は、「解呪法」は、公布されていなかった。小山は、かつて、学校でいじめられていた時のように、世間に対して絶望を感じ始めて、痩せほつれてしまった。そして、苦しくなった彼女は、ある日、自分の美しい額に刃物で傷跡をつけたのである。
それから、しばらくして、同窓会で大平と小山は再会した。大平は、小山の変わりように驚きを感じた。そして、事情を聴いた大平は、その企業に憤りを感じた。
「”見えない”奴は、いつも”見える”人をからかいやがって……。」
大平は、拳を握りしめた。
「大平君、君がもし解呪業者になるなら……。」
小山は一息ついて話をつづけた。
「大平君は、あいつらみたいに汚い仕事に手を出したりはしないでね。」
「……うん、絶対に。」
大平は、固く誓った。大平は、その後、小山を元気づけようと、楽しい話に話題を切り替えたが、小山に笑顔は戻らなかった。大平はその時の彼女の表情が忘れられなかった。
また、大平自身も大学卒業後は大手企業に就職したが、そこでも、”見える”人への陰湿ないじめが行われ、精神をすり減らした。給料の減給や上司のパワハラに耐えきれなくなった。
こうして、彼は大手企業を信じられなくなった。
大平は、大手企業を辞め、職場を転々としつつ、路頭に迷いながら生きた。そして、時代は令和になり、近所の小さな会社にでも転職しようかと思っていたその時、「解呪法」が施行された。もしかしたら、小山に教えてもらった解呪スキルを利用して、人を助けることができるかもしれない。そして、資格を取ることで、”見える”人が国に認められるかもしれない。そう思った大平は、「国認定特殊治療・解呪業者」の資格をほぼ満点で取得した。それから、大平は会社を辞め、路地裏でひっそりと格安で解呪の仕事を引き受けるようになった。格安で解呪するのは、高額で除霊をする大手企業へのアンチテーゼも含まれているが、人を助けたい、もうこれ以上苦しむ人がいないでほしいという気持ちが強くあるからであった。そして、これまでも多くの企業からスカウトがあったにもかかわらず、断り続けた。いくら、それが詐欺業者でなかったとしても、小山のようにはなりたくない。そう強く思ったのだ。
「解呪法」が施行されてから、小山とは会っていない。彼女は、今、どうしているのだろうか。ふとそう思いながら、ある日、大平は、近所の本屋に立ち寄った。何か呪いに関する参考書がないかと関連する本棚を見ていると、本棚の奥から尋常じゃないほどの霊的な力を感じた。大平は、急いで本棚の後ろに回った。美しい顔につけられた傷跡と感じた霊力、そして、胸につけられた名札で、大平は確信した。
小山が、今、本屋の店員として大平の前に現れたのである。
「いらっしゃいませ。」
小山は卒業式以来、初めて大平に笑顔を見せた。
次回 第13解 ここで働かせてほしいらしい 現在公開中
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こんにちは、明日 透です。
霊能力者 大平、格安で解呪しますの第12解を読んでいただき、ありがとうございます。今回は、大平の過去についての話でした。これまでの謎が色々繋がったのではないでしょうか。とはいえ、最後、小山と大平は再会してしまいました。一体今後どうなってしまうのか。ご期待ください。今回、おそらく、本作品の中では最長の話になりました。また、内容も少しきつめに書いてしまいました。一部直接的表現は避けてはいるんですが、どうなるかどうか……。少し怖いです。そういえば、複数の物語を1話でまとめるというのは、本作品では、初めてかもしれないですね。今回の話、相当前から考えていたんですけど、某ソードマスターくらい怒涛の展開になってしまったんですよね。おそらく、これは私の文章構築能力の問題だと思うので、今後、そうしたものを養いたいところです。
そういえば、今年、初詣でおみくじを2回引いたんですけど、2回とも大吉でした。でも、その1週間と少し後、肉離れして、今、松葉杖生活してるんですよね。大吉とはなんとやら……。
さて、次回は、「ここで働かせてほしいらしい」。なんというか、どこかで聞いたことがあるような台詞のような気がしますが……?次回もお楽しみに。