こんな夢を見た
私が観た初夢を、すこしばかり修飾して文章化してみました。
夢ですよ、夢。ハハハ。
薄暗がりの道を、自転車に乗り走っている。
黄昏時の朱色すら消えかけた、もうすぐ本格的な夜の帳が降りてくる―――そんな時刻。
街灯があっても視界が闇に阻まれることが分かっているので、私は先を急ぐ。
もうすぐ長い坂道なのだ。
しかも途中で左に曲がる。
何人か、先を歩く人の背中を追い越した。彼らも帰宅途中なのだろう。OLらしい女性やスーツの男性。生憎、服の元色は分からない。残照の最後の一刷けの所為か、女性のスカートは緋いような、ブラウスは白いのに紅いような、スーツの色は薄墨に見えるのに朱いような。
それらも周囲も全てひっくるめて赫いような。
すいすいと追い越しなら坂道を下る。流れるように、前方に注意を払いつつ。
この道にガードレールは無い。歩道と車道は分けられておらず、更に言うと車線すら引いていない。
なので、暗がりから同じような人や車、自転車が向かって来ようものなら大惨事になるのだ。
まだこちらへ来る車も自転車も見当たらないが、油断はしない。
何故と言って、宵が追いついたからだ。
暗い。
視界が狭い。
先が見えない。
坂道だから、自然とスピードが上がる。
私は前を見据えつつブレーキに指を掛けつつ、慎重にハンドルを操作する。
これ以上ペダルを漕ぐ気はないが、必要以上に速度を落とすつもりもない。下り坂を、自転車を曳いて歩くなんてのは論外だ。
周囲は既に真っ暗だった。いや、きっと頭上に街灯はあるのだろう。単に私にまで光が届かないだけで。
改めて進行方向へ眼を向ける。実に闇が深かった。自転車のライト如きでは、ほんの数メートルしか闇を祓えない。
(もうすぐカーブだ。注意しないと)
思うそばから道が左へ曲がりだした。そう、ここから更に視界が狭まる。
出会い頭が一番危険だと再度、心を引き締め、細心の注意を払ってハンドルを傾ける。この先もカーブは続くのだ。長いことが分かっている。慎重に、慎重に、慎重に―――と、
その、暗がりから。
霧を抜けてくるように、こちらへ向かってくる自転車が現れた。あまりにも唐突な正面急接近。
分かっている。分かっていた。
分かっていたから、落ち着いてハンドルを操作する……よし、避けられた。
一瞬の安堵。でも油断はしない。
まだたった一人を避けただけ、と考えているうちにまた、自転車に乗った人がこちらへ突っ込んできた。
避ける、避ける。
向かってくる人を、自転車を、躱して私は先を急ぐ。長い坂を下りていく。
傍らギリギリをすり抜けてゆく人、自転車、車。
たった一度でも接触したら危ない。必死に懸命にハンドルを操る。ぶつからないように、ぶつからないように。
ぶつかったら ”おわり” だから。
―――そんな緊張状態にも、やがて終わりが訪れる。
坂を下り終えたのだ。前のめりな感じが無くなったことで、道が平坦になったのが分かる。
(誰にもぶつからずにくだれた)
心の底から安堵しながら私は自転車を止めた。今の今まで神経戦の如く気を張っていたのだ。どうしても一息を付きたかった。
自転車から降り、スタンドを立てようと後ろに足先を伸ばし……ふと、違和感を覚える。
なにかおかしい。
改めて背後へ視線を送る。正確には、この戦いを共にしてきた相棒の後ろ半分を。
「あれ?」
自転車の後輪が、無い。
前輪はあるが、後輪が無い。どうやらカーブの何処かで外れてしまったらしい。
「!? (絶句)」
暫し、熟考する。
気付かなかったのだから、外れたのはそれほど前ではないのだろう。とはいえ周囲は既に真っ暗で足元も覚束ない。これでは探しに戻っても見付けることができるかどうか。
いや、本音を言おう。私はもう、戻りたくなかったのだ。この長い長い坂道を上がる? 仮に後輪が見付けられたとして、この暗がりで修理が出来る? 工具も無いのに? というかもう一度、今度はこの暗がりを自分の足で駆け降りる?
冗談じゃない。
私は先を急ぐことにした。なに、前輪はある。目的地も近いから自転車を曳いて歩いても何とかなるだろう。後輪は明るくなったら探せば良いのだ。
そう判断し、私は前輪しか無い自転車をハンドル押しで歩き出した。
暗く重い、灯の乏しい道をゆっくりと。
要約すると
それなりに明るかった周囲がどんどん暗くなる。
坂道を急いで下るのは危険。
危険だと分かっているので、きちんと心構えをして慎重に挑んだ。危険な瞬間もあったけど、どうにか降り終えた。
でも、後輪は無くなっていた。
後輪を探さず、私は進むことを選んだ。
ここで目が覚めました。
何かの隠喩で無いことを願うばかり。 (;^ω^)