16 子爵家のメイドをしていた娘の男爵家での騒動
「一体、どんな教育をしていたんだ!」
「何ってことをしてくれたんだ!」
「責任を取れ!」
とある男爵家では罵声が飛び交っていた
なにせ侍女なのに仕えているはずなの子爵家の令嬢、それも跡取り娘、を虐待していたのだ
おまけに伯爵家に知られ本人は捕まっている始末
それだけならまだしも、いやよくないが、『紹介状もなく解雇』されたことが公表されてしまっていた
貴族というのはとにかく家を存続させることが一番である
それゆえもしもの時のために子供を多く作っている
当然のことながら子供が余る事態となる
でも男爵家や子爵家ではそんなに人数を養うことはできない
それを解消するのが使用人として仕えることである
上位貴族の家に仕えることで口減らしができる
上位貴族も教養を持った安心できる使用人が雇える
まさにWin-Winの関係であった
もしも万が一 ~収入が減って使用人を減らす場合~ 辞める事態となったとしても紹介状を書いて貰えれば問題がない
なにせ貴族として保証するとのお墨付きなのだ
どこででも雇って貰うことができた
逆に紹介状が無いということは『この者は信頼がおけません』と宣言されたも同然である
誰も雇ってくれなくなる
そして今回の場合、メイドとして雇われているにもかかわらず主家の令嬢を虐待していたのだ
紹介状を書いて貰えるはずがなかった
いや雇っていた子爵家からは解雇と紹介状なしを言い渡されていた
・・・伯爵家の牢屋に入っているので言われても全然問題はないのであるのは皮肉なことであった
もっとも問題がないのは牢屋に入っている本人達だけである
親兄弟親類縁者としては身内にそんなおバカな存在が居ると宣言されたも同然なのだ
使用人として仕えている家から速攻で解雇されていた
仕えている家の令嬢をイジメる人間と血縁ならば同じようなことをするかもしれない
その疑惑だけで充分解雇する理由になった
もっとも解雇される方としてはたまったものではない
自分の知らないところで騒動が起こり、その煽りを受けて解雇されたのだ
怒りの鉾先は当然のことながらバカをやらかした家へと向けられた
それが冒頭のシーンである
言った方も言われた方ももうどうしようもない所まで来ていた
崖っぷちならぬ、崖から完全に落ちていた、である
責めるだけ責めて、責められるだけ責められて、双方一緒に地獄行き、であった




