クッションボール
民放、朝の新番組の企画書を見せてもらった。
チンプンカンプン 意味不明だった?!
『ブレインチャイルド』とは、
どんな内容の番組なのかすら皆目わからず。
理解できたのは、
小学低学年用の教育を目的とする、
月~金の 帯 放送というコトだけ。
有能コメディエンヌが
キャンセルしたのも無理はない。
アスカは尻込みした。
「もう契約書を交わしたので、
キャンセルはできませんよ」
マネージャーはしれっと言った。
「だいじょうぶ。
私のカンは捨てたものではない」
「もし、まちがっていたら?」不振顔のアスカ。
「たら・れば・もし・でも・賃上げ は封印する!
うちの事務所のモットーじゃないですか。
たかだか半年。
ガンバレないわけはない。
わたしはねタレントに、
できない仕事を強制したことはないです」
「(現在進行形で・・
立派に押し付けてるじゃないか・・)」
アスカは反論しかけたがやめた。
高木マネージャーは
基本、フェアだったからだ。
凍えるような、ある冬の日、
タレントはビジネスホテルのシングル部屋。
経費を切り詰めて、
高木さんは 車中泊したっけ。
浪花節 には弱いンである。
アスカはDJ用の発声訓練と並行して、
歌と踊りのレッスンを受けた。
後者は新番組『ブレインチャイルド』に不可欠な、
実践的かつハードなものだった。
━ ダンスは、
器用の 塊と称される汐の実はウィークポイントである。
演技と違って、
踊りはイメージ通りにいかない難物。
・・得意の カン働き が発動しない・・
芸能界デビュー以来、久々に味わう凡人気分。
苦手科目の克服は努力あるのみ!
ガッツ全開でぶつかっていった ━
新番組の収録が進んでいくにつれて、
内容を、皮膚感覚で理解・把握した。
子供向け教育番組を 標榜。
その実、中身はギャグのつるべ打ち、
ぶっとんだバラエティーショーだった。
学習要素を含んだ、
ショートコントやナンセンスギャグを、
速いテンポで 炸裂させる。
ギャグ入りの短い歌や踊り、
体を張ったアクション、
ブラックユーモア、
ときにはアニメーショもまじえて、
連続CM風な構成で、連発させた。
TVの前の子供たちは大喜びした。
速射砲のようなテンポに、
ダイレクトに反応したのだ。
15分という放送時間もよろしく、
「もっと見たい!」 欲求 を 募らせた。
アスカ(汐)は・・
「よーい、スタート!」の合図により、
カメラの前で、
簡易なセットの中、
いきなりコントを演じるのには 面くらった。
(リハ1回で本番GO。予習必須!)
スリル満点の現場である。
心臓バクバクだ。
ただし、慣れると面白い。
コントは━(汐の)━ 性に合っていた。
自分で自分に吹き出してしてしまうことも、
一度や二度ではなかった。
スタッフ、演出家も巻き込まれて、
大笑い大会になってしまったこともある。
コントの実例をあげる。
①自宅が火事になる。
あわてて黒電話で119番するアスカ。
「もしもし、〇〇番地の 大道です。
火事です。燃えてます。
大至急、お願いします・・ああ火が迫ってくる!」
すると、どーゆーわけか、
送受話口から 凄まじい量の水が放出。
びしょ濡れになるアスカ!
②絶望して世を 儚んだアスカ。
高いビルの屋上に立っている。
脱いだハイヒールの踵下には遺書が置かれている。
「お父さん、お母さん、
先立つ不孝をお許しください。
さようなら・・」とつぶやき、
合掌 ポーズで飛び降りる。
地面に激突!
どーゆーわけか、地面が真っ二つに割れ、
そのまま突き進み、
メルトダウンしたまま
地球の向こう側に突き抜ける。
演者は無名ながら粒ぞろい、
台本も冴えている(複数体制)、
演出家はツボをはずさない、
製作費も過不足なく使い・・文句なし。
参加できてラッキーだった。
有能コメディエンヌさんありがとう。
そして・・高木マネージャーの手腕にカンパイ!
コントを演じていて、
音感こそが 肝 だということを 汐は知った。
「ダンスのとき や カメラの前で歌う際に・・
《 曲 》は・・歌詞でなく、
小節でカウントしなさい」と、
演出家 に口を酸っぱくして言われた。
その意味を理解できたのは、
遥か後のこと。
ある日、 汐は、
なるほど!と腑に落ちた(アハ体験である)。
番組は好評を博し、半年の予定が三年も続く、
(一時間の特番を三回挟み)
スマッシュヒットとなった。
大道アスカは最後までレギュラーを務め上げた。
人気者となり、CM出演するまでになった。
一方、ラジオでは高聴取率を誇る、
看板番組『大道アスカのビッグロード』(土曜21時~24時)
を持つDJに成長していた。
ただし・・これらは未来編である。
ラジオアシスタントや『ブレインチャイルド』で、
ブレイクし始めたときに、
『ケン・ユミ』パック に招かれ、
共演を果たしたところまでが、
好評放送中の『サスティーン』の、
現時点までのあらすじである。
全156回予定の50話を消化した。
━ 付録 ━
◇ちなみにネットでは、
20年に一度の割合で彗星の如く現れる
「超達者=天才的なタレントの系譜」なる説が
喧々諤々と議論されており・・
結論めいた着地点は以下の四人だった。
☆岡崎友紀 (70年代)
☆高橋由美子 (90年代)
☆松浦亜弥 (00年代)
そして・・
☆笹森 汐 (2020年代) ◇