表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
81/82

楽日

「キ ━━━━━━━ ッ!」

「ク ━━━━━━━ ッ!」

「コ ━━━━━━━ ッ!」


━〇━

令和七年の秋・・

本日、スカイ劇場で楽日(らくび)を迎える『ハリウッド大通り』は・・

今年度下半期<演劇界最大の収穫である>と各方面から絶賛を受けていた!


辛辣しんらつな批評眼を持つことで知られる

大学教授にして(演劇評論界の重鎮ドン)松平も某新聞の劇評で高い評価を与えた。

彼に認めてもらうというのは、

演劇人にとって、言わば、

<おすみ付き>をもらうと同義どうぎであり、この上ない栄誉であった。

「ハッキリ言うて・・」の口癖くちぐせ

物まね芸人のネタにされるドン松平まつだいらは、

学殖がくしょく見識けんしきをそなえ、

正確にして辛口からくち

一言ひとこと多いという欠点を持つものの)

劇団の内情・しがらみ・政治力等には、

一切いっさい忖度そんたくしない 外在がいざい批評 をつらぬき、

広範こうはんな影響力を保持していた。

功成こうなり名をげたベテラン俳優及び

演出家であろうが遠慮えんりょせず、

容赦ようしゃのない筆法でえぐりこむ、

御用評論家(蔓延はびこる雑兵諸々(もろもろ))とは真逆の、純粋批評家として名高かった。

ある舞台女優など・・

ドンに声をかけられただけで失禁してしまった・・という伝説があるくらいだ。

松平の劇評本は良く売れ、

(アカデミック界隈かいわい限定ではなく)

一般大衆にもコミットしているという強みを持っていた。

行間ぎょうかんそこはかとなく(・・・・・・・) 漂う、

ユーモア潤滑油じゅんかつゆ緩急かんきゅう操作そうさし、

読者の首根っこをむんず(・・・)つかまえ、文面に引きずり込んでしまう。

松平の劇評は〈深い掘り下げ〉と同時に、

〈めっぽう面白い〉という、前例の少ない境地に達していたのだ。


ドンの劇評効果にも預かり・・

『ハリウッド大通り』の主演女優|蓬莱ほうらいゆず季|には・・

TV・ラジオ・紙媒体・ネットメディアからインタビューや取材申し込みが殺到。

家内制かないせい手工業しゅこうぎょうで切り盛りしている小さな事務所は、

対応に、てんてこ舞いの様相ようそうていしていた。


劇のインパクトはSNSでも拡散かくさんされていった。

一般客を装ったダフ屋が出没しゅつぼつ

一万円のS席に対し・・二十倍以上の値を付け、

それが、即座にさばけてしまうという珍事を引き起こし、

警察が出動する事態となり、メディアに話題を提供した。

「チケットを入手できない」「再演希望」「TV中継望む」

「アマプラかNetflixで有料配信はできないものか?」

「4Kdvd化を実現させるため、みんなで署名活動をしよう!」

 といった書き込みは引きも切らなかった。


ドンの劇評をめくくる、末尾まつびの一行は、

物議をかもし出し、炎上騒ぎを引き起こした。

以下・・一字一句(たが)わず引用してみよう。


┃『ハリウッド大通り』の主演女優に比べたら、

 笹森ささもり しおりなどというタレントは泡沫ほうまつまがい物に過ぎない。┃


━〇━


「キ ━━━━━━━ ッ!」

「ク ━━━━━━━ ッ!」

「コ ━━━━━━━ ッ!」


わなわな!

ガタガタ!ブルブル!

ぺったらポ! ぺったらポ!

新聞の切り抜きを持つ手は激しく震えた。

津波警報発令直前くらいのマグニチュードをしめしていた。


「 こ の う・ら・み は・ら・さ・で お・く・べ・き・ か 」


控え室のキャンピングカーで、

しおりは・・

魔太郎なみの悲憤ひふん慷慨こうがいをさく裂させた。


内心、

舌打ちしながら見守る七尾マネ。

スタッフの誰かが、「劇評の切り抜き」をご注進ちゅうしんしたらしい。

まったく、余計なことをさらしてくれた。


七尾の知る限り・・しおりは・・

せっぽちの外見からは想像もつかない強メンタルの持主だ。

うらやましいくらい、キモわっている。

反面・・繊細せんさいな部分を隠し持ち・・

予想外の場面から、モグラ表出してくるのだ。

禁句きんくは・・涼(にい)ちゃんこと・・設楽したら りょう

記者会見のときの、

狼狽うろたえようは、

読者もご記憶のとおりである。


━ 演技面ではコンプレックスなど寄せ付けない実力を有しており、

━ 芸能神に溺愛できあいされていて、

━ その道に進んだ者が、壮年そうねん期でようやく到達することのできる<完成>を、

━ 汐はわずか18歳で薬籠中やくろうちゅうにしていた。


無人のを行く感のある汐だけれど・・

比較対象が・・蓬莱ほうらいゆず季となると・・話はややこしい。

本人は死んでも口にしないだろうが、

少なからず<畏怖いふの念>をいだいているのを感じ取れる。

スペシャルウイークのとき、

ゆず季が披露した、DJ笹森の物マネを、眼前がんぜんにした瞬間とき

しおりのリアクト ━ 〈卒倒そっとう寸前〉の表情 ━ は、

いまだに『哉カナ』スタッフたちの語り草になっている。

・・私も、その場に立ち会いたかったなぁ。


『月刊ムー』の愛読者である七尾ななおは考える。

超能力というモノは、

なにもスプーン曲げやテレパシーのたぐいだけではなく、

(しおり)さんや ゆず季さんのような高度な能力の持主が、

ときとして き起こしてみせる、

ヒラメきと集中を連動れんどうさせた、

至芸しげいのコトを差すのではなかろうか?

すぐれた技芸ぎげいを持つ者は・・すべからくサイキックなのだ。

・・私たち凡人には・・

  恋しているとき♡

  そして、

  ギリギリのピンチ場面⚡でしか発動してくれない ━ 隠されたチカラ


「キ ━━━━━━━ ッ!」

「ク ━━━━━━━ ッ!」

「コ ━━━━━━━ ッ!」

「ぢッぐじょ━━━━━う!」


汐は・・

ハンカチを仕種しぐさを、

ピカソの「泣く女」みたいに、

七億円大当たり級の〈MEGA BIG〉並に、キュビズム・デフォルメさせた。

(腹を立てても、野暮天やぼてんには

 決して落とさぬ女優芸人・・笹森屋・・ここに有り!)

実際・・表情崩壊ほうかいギャグは、

とことんくずし切るのが肝要かんようだ。

汐を見ているとつくづく思う。

中途ちゅうと半端はんぱなデフォルメは、

見る側をしらけさせてしまう。

ノーマルfaceを逸脱いつだつたおせば、

別次元のファンタジーわくへと昇華しょうかできるのだ。

・・18歳女優の表情術は、

  熟練じゅくれん技にあらず、

  天性のカン働き=ヒラメキによるものなのだろう。



「こうなったら私の目で確認するっきゃない。

 ちょっと旅を打つから、事後処理をよろしく頼もう・・七尾(うじ)

 汐は、アウターにソデを通し、キャンピングカーのドアをスライドさせた。


七尾マネージャーは面食めんくらい —「旅ってどこへ行くんです?」


「スカイ劇場に決まってるじゃん。

 いまなら、午後の回に間に合うからさ。

 楽日らくびのがしたら、もう見れないもんね。

 ゆず季の演技を、自分の目で確かめなくっちゃ、気が済まないのよ。

 じゃーね、バイバーイ!」


「『(とつ)レンジャー』の撮影はどうするんです?

 かなり押し気味なのに?」


「・・〈笹森は腹痛をわずらった〉・・でいいんじゃないかな」


詐病さびょうはダメです、絶対に。戻りなさい!いますぐに!」


「ヤなこった!一昨日おとといおいで!ガム買っておいで!」

 汐は・・スライドドアをしゅん閉じ・・風のように駆け抜けていった。



同日・同時刻。

銭函ぜにばこ 喜一きいちは出社するや、

第一秘書を呼びつけて、

蓬莱ほうらいゆず季へオファーをかけるよう厳命げんめいを下した。

「『ハリウッド大通り』をたった今、見てきたところだ。

 若くして大物の風格を持っている蓬莱ほうらいをブッキングしろ!

 ギャラはゲスト枠の最高額を支払う。

 脚本を直す権利を与えてもよろしい。

 笹森汐 との ┃一騎いっきち┃を実現させたい!

 ワシはいい返事しか聞かんからな。

 ・・なにがなんでもOKを貰ってこい!」と。

━ 『チャンバラ戦団/(とつ)レンジャー』のゲストに迎え、

  もう一発、話題花火を打ち上げようという、

  歴戦れきせんのプロデューサーによる目論見もくろみであった ━



・・さらに同時刻・・

日比谷線内にはリュックを背負い腰かけ、

(路上仲間の協力を得て、スマホ予約のアクセスが叶い)

からくも立見席を入手できた親方が、

胸を高鳴らせ、二度目の観劇をするべく、『スカイ劇場』へと向かっていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ