傷づけ!?
❚やっぱり交霊会〈Seance〉を始めるんだ❚
❚ビロードのクロス・黒いローソク・自動筆記用具などは要るんだろうか?❚
❚令和のサイキック ∥その稀有な目撃者になれるかも∥ 福来博士みたいな☆❚
サユリの キャパ広 好奇心は、いまにも踊り出しそうであった。
依頼人の天田弁護士は、椅子の向きをもとに戻し
テーブルの長手へ対坐すると、真横へ顔を向け、
「里見さん、
カードゲームや占いに使用するトランプはお持ちですかな?」
「!&?」
虚を突かれたホストは、
「さあ、どこかに、あったとは思いますが、」
複数あるデスクの引き出しを下方から順番に開き、探してゆく。
「いやいや、もう結構です。
私の持ってきた新品のカードを使いましょう」
ショルダーバッグ内のチャック・ポケットを開け、
封印シールの貼られた
赤に黄をあしらったデザインの小箱を抜き出し、掲げ、
カードを皆の衆(三名)に提示。
セキュリティーシールを破り、
真新しい《タリホー》のカードを小箱から抜き出すと、
各自に回し、改めてもらった。
「私を縛ってくる<幻視>のリアリティーを証明したいと思う」
依頼人はノーマル視線で聴衆を、
(キツネにつままれた風の「?表情」を浮かべたカップルと元警部補を)
順次見回していった。
「皆さんは、『神経衰弱』というトランプゲームをご存じですかな?
ジョーカーを除く 総数52枚 を、
お互いのカードが重ならないようにして、
任意に、フェイス〈数字の描かれた側〉を伏せて並べる。
バック 〈統一柄の裏面〉側に向けられたカード52枚を前に、
対決者が、交代制で、二枚のカードを表向きにめくり、
同じ数字〈ワンペア〉が出た場合は、カードは自分の所有となり、
再度、めくることが出来る。
ふぞろいの数字〈タコ〉を引いた時点で、
カードを裏向きに戻し、相手とチェンジする。
対戦者が、全てのカード(52枚)をめくったすえ、
最終的に┃ワンペア・カードをより多くゲットした方の勝ち┃という単純明快なゲームです。
デジタル世代でも通過儀礼的に、
ババ抜き 同様、一回ぐらいはプレイしたことがあるでしょう?
子供から大人まで参加できるこのゲームは、
佳境にさしかかるに連れ、
記憶力の優劣こそ試されるけれど、
ポーカーのような複雑な〈かけひき〉を必要としない。
カン働きを、純粋に競うには、もってこいのゲームだ。
どなたか、私とお手合わせ願いましょうか?
論より証拠 ━
━ 幻視は、カードを捲る┃私の指┃に宿る!」
ジャッジを務める里見主審と南平副審判により、
今一度、中身を改められた
━ ♢ダイヤ ♡ハート ♠スペード ♣クラブ ━
4種×13枚(AからKまで)=計52枚のトランプが、
まずは、副審の手でヒンドゥー(普通の切り方)シャッフルされた。
次に里見に渡り、
巧みなカード捌きでランダム・シャッフルされ、
長方形テーブル上にオールカードが整然と並べられていく。フェイスを伏せた状態で。
主審の「OK合図」により、
たがいに背を向ける格好で、
テーブルを挟み、スタンドアップしていた
┃ 天田弁護士 と 鈴木サユリ ┃が、
クルリと正面に向き直り、椅子へ腰かけ、対峙する。
|火炎の幻視者VS火消しのサユリ|
|E・シーレ風オールドマンVS印象派ガール|
そんなキャッチフレーズを付けてみたくなる対決が今まさに始まろうとしている。
舞台は整った。
<令和のスーパーナチュラル検証実験>
神経衰弱勝負、いざスタート!
「サユリくん、勝ったら夕飯を奢ろう」と里見。
「中生ビールも付けてください」とサユリ。「OKだ!」即答する所長。
機転とカンにかけては、
いささかの自信を持つサユリ嬢であった。
「カーン♪」
南平はスマホ操作して、ゴング・サウンドを鳴らした。
サユリ先攻でスタートした勝負は、信じられぬほど、あっけなく幕を閉じた。
事務所内のメンツは ┃依頼人を除いて┃愕然とした。
1ラウンド KO みたいな番狂わせの結果だったからである。
26組のカードをオールWINした後攻の天田氏に対し、
印象派ガールは、たった一組すら、引き当てることもできないタコ(ゼロ枚)エンド。
負けず嫌いを沸騰させたサユリは、
リベンジ・マッチに挑戦!
・・結果は「一組ゲット」に止まった。
南平もチャレンジしたが、
返り討ちに遭い・・あえなくタコ敗退。
里見は、
デスクの引き出し奥から、ようやく見つけ出したトランプ《任天堂》を提示し、
念のため・・
この代替カードを使って、
<神経衰弱再々勝負>してみることを打診(半ば強制)した。
苦杯を舐めたサユリも、
脳裏で、
目印の付いたギミックカードを、
天田氏が故意に(動機は不明だが)
使用しているんじゃないか疑念が蠢いていたので賛意を表明。
「僅差の勝敗なら いざ知らず・・この私が・・ここまで、
コテンパンに負けるのは得心いかない!」
瞑目している天田氏も、敢えて異は唱えなかった。
――里見の提案は想定の範囲内だったからである――
前もって・・
「予備トランプ」の有無を探偵に尋ねたのは、
疑念を生まないための心配りに他ならない。
三度目の勝負にもサユリはタコ完敗し、
南平の肩を借りて、悔し涙を流すことに相なった。
よしよしと頭を撫でてあげる優しい彼氏。
こうなると・・
・・チーム里見は大将が出ていくより道はない。
奇妙な成りゆきで、
メーンイベント<探偵VS弁護士>は開催された。
「カーン♪」
大将は二組四枚のカードをGET・・
・・最低限の面目をなんとか保った。
だが、
しかし、
けれども、
里見は(サユリ以上の)実は、負けず嫌いであったのだ。
チェスに長じたのも、
最高学府に現役合格できたのも、
捜査手腕で頭角を現したのも、
地頭の良さに恵まれていたにせよ、
そのアイテムを押し上げた原動力は、
紛うことなく \負けん気/ であった。
━♠━
財務アドバイザー・サユリ助手の進言を容れた所長は、
新年度の割引販売タイミングで、
紙の新聞から、ネット新聞へと切り替えた。
その際、中古で購入したタブレット端末を手に取り、
疲労の見え始めた依頼人に、
アナログ世代(オールドマン)の不得手そうな、
インチキの介在できそうにない、
デジタルトランプを使用してのリターン・マッチを申し出た。
・・エンボス加工されたリアルトランプは、
※ガンづけ(傷付け)危惧をどーしても拭いきれない!
━♣━
天田氏は、
締め付けてくるような頭痛をこらえ、
「意外にしぶといタイプだわい、この男。
チップを賭けていないゲームで八百長して なんの意味がある?
少し考えれば理解りそうなもんじゃが・・」と呆れながらも、
承諾の意を示した。
<里見負けず嫌いVS天田幻視者>
最終決戦の火蓋が切って落とされる。
モニタータップ式『神経衰弱』勝負は、
ところをデジタルに移してもなんら変わりはなく。
先攻の里見大将はワンペアもGETできず、
大のおとながハンカチを嚙みたくなるような酷敗を喫した。
現状最早、笑うか、泣くしかない。
前者を選択した里見は、笑いつつ、
うなずきながら 自分に こう言い聞かせた。
「勝負の結果に、スーパーナチュラル一切関係なし。
チェスのチャンピオンと手合わせしたと思えば、
敗けるのは至極当然で、
一片のオカルト(Occult)も介在する余地などないのだ」
とても合理的な捉え方では、ある。
しかし、探偵の頭脳と心は、必ずしも一致していなかった。
超常現象否定信念に細微な亀裂が生じていた。
天田氏とのカードゲームは、
かくも鮮烈なエピソードで在りえたのだ。
里見は、
依頼人の<幻視>を真に受けたからに非ず、
「神経衰弱ゲームに惜敗したので仕方なく」
というエクスキューズ・ポーズを取り、依頼を引き受けることにした。
・・天田氏の話を論破するのは困難事であった。
氏が、依頼を受諾させるために採択した、
チェックメイトまでのタクティクス(最短手順)に隙はなく、
説得力をもって要請を断る手筋を里見は見出せなかった。
ボロ負けのショックも尾を引いていたし、本部長には世話になっていた。
以上の経緯で「ボディーガード契約」は成立に至り、
契約書を正副二通作成した。
三毛猫♂ツインズ探しの成功報酬を遥かに凌ぐ大盤振る舞い、
異例のボーナス・オプション付きで$
天田氏は・・
「これは必要経費です」と小切手差し出し、
気前の良い額を前払いしてくれたばかりか、
「細かく金額を刻む必要はありませんぞ、私のポケットマネーですから」
嬉しい言辞まで添えてくれた。
警察職に就いていた前時代、
里見は捜一(捜査一課)に所属しており、
要人警護は警備部警護課の管轄ゆえ、
現探偵にとって—―護衛 は初業務となる。
しかも――24時間張り付きで。
なおかつ――不可解な視えざる敵を相手にしなければならない。
W・ヒューストン主演の映画とはだいぶ様相が違っていた。
当該ケースは、対象が人気女性歌手でなく、
功成り名を遂げたオールドマン。
なおかつ<幻視>をベースに警護しなければならない ╍
╍ 四次元案件。
難易度が余りに違い過ぎるではないか。
・・K・コスナーはラッキーだった!
里見所長は、依頼人の要望を聞き、詳細な護衛プランを練っていった。
複眼視点を欲した天田氏のリクエストよって、
サユリ助手と南平にも計画づくりに加わってもらった。
氏は・・
サユリに・・
遡ること四十年以上前・・
突風に攫られ、海に落ち、流され、
行方不明になった彼女の面影を視ていた。
XⅩ染色体♀(女子)二人の外見は|ヘアスタイル以外|とりたてて類似はない。
しかし賢さ・負けず嫌いは、
ほんの短時間接しただけで充分読み取れたし、
失われた彼女との共通点だった。
弁護士業でも、
(例外ケースもあるにはあるが)
タフな案件をやり遂げられる者は、負けん気の強さを持っている。
天田氏は・・
サユリの中に、言葉にならないなにかを見出したのだ。
理屈ではない ━ <なにか>を。
ケージ内の・・
チビねこ♂二匹は、
(上段棚に移動/整列)
弁護士を見上げて、
おろしたての筆みたく先の尖ったシッポを
ピョイと!相似形に高く持ち上げると、
親密イントネーションを内包させ、
「ミャオミャオ♪」と話しかけてきた。
天田氏も返礼・・
孫を慈しむような視線で見やり、
小さな生命二体へ、愛の光を放射させた。
※ガンづけ(傷付け)とは、
麻雀用語で ━ <ガン牌>と呼ばれるイカサマ。
トランプの場合でいえば・・
カードに、
対戦相手には判らぬよう、
自分だけが判別可能な印をつけて
(かすかな傷・汚れ・特殊インク・指紋脂など)
勝負を有利に運ぶ八百長スキル。




