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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
78/82

渦巻|ワールプール 

 三毛みけツインズ♂をつつきした来客は、

 南平の視線をとらえ、

 「〈直近ちょっきんせまりくる奇妙な何か〉の正体が判明したよ。

 先ほどの恥ずかしい言動をどうかお許しくだされ」

 小柄こがらな老紳士は、いささかバツの悪そうな表情で言った。


来客を案内しながら、

三毛ツインズと事務所へ入る、里見たち。


入室するなり(探偵の目顔めがおを読み取った)サユリと南平なんぺいは、

要請ようせいを受ける前に、

応接室の配置替えに取りかかり、素早く終わらせた。

・・チーム里見の名残なごいまだ健在。


所長のデスクを中心として円形に椅子を並べ、

里見から近い席へ、

チビねこ($金の玉子たち)を最終捕獲(ほかく)してくれた

依頼人に腰を落ち着けてもらった。


輪の中ほどに縦配置されたテーブル上に、

れたてのホットミルクとコーヒーが、

お茶うけのモチ太郎6g小袋とともに、

ブラウンヘアの助手によって置かれていく。

「うーむ、PICTURESQUE(美しい)。

あなたの長い髪は、印象派の絵画のようだ!」

来客は、含意がんい内包ないほうさせ、言葉を投げかけた ━

━ キャッチしたサユリは、

きょとん?<雲間くもま>から、

まんざらでもない<晴れ顔>をのぞかせた。

その表情は初々(ういうい)しく、また素敵だった。


傍観ぼうかんしていた南平なんぺいは、

「なるほど、当たり前すぎて今まで気が付かなかった。

 ときには言葉に出して、めてあげるのも愛情なんだ。

 テレパシストじゃないもんなぁ・・われわれは・・」

おのれの未熟みじゅくじた。


セイムタイム。

プライべートルームへ直行した里見所長は、

用意してあった二階建てのペットカーゴへ、

|出せ出せ抗議こうぎ鳴き|するチビねこ♂二匹を

狭いキャリーケースから引っ越しさせると、

食事と水を与えて落ち着かせ、

ツインズの沈黙をあそるおそる勝ち取り、

二層カゴをげて、応接室に姿を見せた。

沈黙は・・

・・にわかに破られた。

来客めがけて(ネコまっしぐらに)直声される

けたたましいミャアミャア二重唱(デュオ)

三毛♂ナヴィのめいずるまま、

生体貴重種きちょうしゅの要望をかなえるべく、

客人きゃくじんの許可をもらうと、彼の足元にそそっ(・・・)と置いた。

安心したのだろうか?

き声は、残響ざんきょうを引いて、ほどなくんだ。

依頼人は、とても優しい目でチビたちを見つめている。


━ ロイロット法律事務所代表 ━

 【天田あまだ・R・かいり


箔押はくおしされ、

ローマ字フリガナの打たれた名刺めいし

受け取った里見は、

来客のスーツ 左えり(フラワーホール) に取り付けられた、

金メッキの禿げかけている

ひまわり模様のシルバー記章(バッヂ)に瞬刻目を止め、

慇懃いんぎんな態度で、

「ミドルネームから事務所名をつけられたのでしょうか?

なかなか洒落シャレたセンスですね。

お見受けしたところ、天田あまださんには、

刑事事件や民事専門といった方々かたがたの持つ職掌しょくしょう希薄きはくです。

・・不思議とアートの香りが漂う・・

先ほど、チラと本部長の紹介と、うかがいました。

さて、どういったご用件でお見えになったのでしょうか?

私でお役に立てればよいのですが」


「おっしゃる通り、私は絵画専門の弁護士です。

さすがは本部長推薦の探偵さんだ。的確な洞察どうさつに感服拝受はいじゅ

依頼内容の核心かくしんせまるには、

私の職業説明から入ることが、迅速じんそく つ スムースと思われる。

先に、前提ぜんていとして申し述べておきたいのは、

これは自慢じまんでもなんでもなく、

私は二種のアイテム(才能)をギフトされて生まれ出た者。

・・天は二物にぶつを与えたもうたのです。

その一方いっぽうは、すこぶる厄介やっかいな側面を持っとりましてな、」


━〇━

父親の仕事(銀行家)の関係で英国で生まれ、

日本で育った天田あまだ弁護士は、

幼少の頃、ゴッホの絵画『星月夜』により ☾ ユリイカ ☆

一生の仕事とすることに決めた。

(サユリにとっての『悪魔の手毬唄(てまりうた)

 南禅寺にとっての『市民ケーン』みたいな邂逅かいこうであった)。

初志しょし貫徹かんてつに向けりょっこう

学芸員を目指めざし、

知識の拡充かくじゅうはかるため大学院まで進み、

パシリ使づかいに耐え、博士号を目指していた。


バンカーだった父親のDNAを受けぎ、

確固かっこたる経済観念を有していた天田少年は、

はなから、絵描きになろうとは思わなかった。

芸術で身を立てるのは並大抵ではないし、

自分には、その才はないことを理解できている子供であり、リアリストでもあった。

・・あこがれで、ご飯は食べていけない。


青年となった天田は、

惑星ではなく衛星ポジションにくことを現実とするため、

具体的な目標を立て、邁進まいしんしていく。

尊敬する両親のような家庭を築きたかったし、

同時に好きな絵画にも寄りっていたい。

そのために、安定した収入が約束された、

美術館勤務の給与きゅうよ生活者になることに決め、

必須ひっすの学芸員認定資格と

博士号を取得するべく勉強にはげんだ。

ところが・・論文指導をあおぎに行ったさい・・

教授の話が横道にれたときに、ふと発せられた、

何気なにげないつぶやき」にインスパイアされ、

日本では数少ない、

画家の利益を守るエージェント〈画商〉弁護士へと目標を転換てんかん

20代も半ばで、法科大学院のもんをたたいた。

絵画以外にはわき目もふらず、

熱き血潮ちしおの衝動を制御せいぎょ、勉強へと仕向しむけ、

法律の知識をたくわえていき、司法試験をクリア。

修習しゅうしゅうせいを経て弁護士資格を取得した。

三十代で社会へ()るハンデを背負せおいながらも、

知的財産権専門の法律事務所にイソべんし※、基礎トレーニングを積んだ。

修業期間を終え、支援者(岳父がくふ)の助力を得て独立開業。

本格的に絵画の世界へとみ入り、

着眼ちゃくがんしたアーティストたちを物心ぶっしんで支援し、信頼を取りつけていった。

一方、気鋭の絵画評論家連を接待、知遇ちぐうを結び、味方に引き入れた。

メディア関係者への根回ねまわしもおこたりなく並行へいこうさせた。

☾ 天田アイテムその1 ━ 商才しょうさい

分岐ぶんき点となったは・・

これはイケると目を付けた若い画家で勝負に出たことだ。

い批評を良いタイミングで書いてもらい、

巧妙にメディアを連動させ、画家の名を広めていき、

ここぞという機会をとらえ、個展を開いて、みのりある好評をはくした。

展示作のうち、二点は美術館買い上げの栄誉えいよよくすこととなる。

・・私財しざいとうじた賭けに勝利したのである。

<成功者と言われる人はどこかでバクチを打ち、勝つ!>

天田氏は、

リ・チャレンジをブレることなくげ、

エージェント弁護士としての地歩ちほを築き上げたうえに、

そうとうな成功を収めた。

現在、法律事務所は長男がいでおり、

妻に先立たれた天田氏は、やもめ生活で不便ふべんはあるものの、

健康状態は、特技の水泳できたえているため、申し分なく、

悠々(ゆうゆう)自適(じてき)な半隠居(いんきょ)状態にあった。


 ここで・・

 贅言ぜいげんをひとくさり(面倒メンドウな人はスキップして下さい)。

┃基本、クリエーターは経済(金銭)観念に欠けるもの。

 創造物(Creation)をビジネスにつなげるのがエージェントの役目やくめ

 作品を〈クライアントに有利な条件で〉取引してくれる

 仲介ちゅうかい者のニーズは今後高まっていくと思われる(または願う)。

 日本はエージェント後進国なので、

 絵画に限らず、映像・音楽・コミック・小説・小演劇・etc、

 多方面にその可能性を残しているのに、

 残念、市場は開拓されておらず、代理人の数は本当に少ない。

 若者よ、法律を学び、慧眼けいがんをみがき、

 頑張って、知財ちざいを守る代理人(パートナー)業を、めざそう。

 裏方うらかたも重要ピース。主役ばかりが人生ではないのデス。

 うまくやればもうかりまっせ(マジな話)┃


天田あまだ弁護士は絵画を通じて、

アート(&資産しさん防衛(ぼうえい))に造詣ぞうけいの深い、

里見のかつての上司である本部長と知り合った。

警察官からプライベートアイ<私立探偵>に

生業なりわいを転ずることになる青年もまた学生時代、

2年連続「二科展」入賞を果たしており、美術のにおいにはさとい。

里見が本部長に目をかけられたのは、

捜査能力にひいでていたのはもちろんのこと、

そういった美術事情が介在かいざいしていた。

青年は、

警視庁にキャリア採用されたのをに、

けじめとして絵筆をピタリと置いた(二兎にとは追わない主義)。

━〇━ 


「皆さん、この絵画(Painting)は無論ご存じでしょう?」

ショルダーバッグからタブレット端末を取り出し、

三人へじゅんりに回覧かいらんさせていく天田弁護士。


「星月夜【The starry night】

 ゴッホの \畢生ひっせい作/ です!」とサユリ。


「そう。

糸杉いとすぎと月夜と星とが、

渦巻(whirl pool)状 ୨୧ 螺旋(Spiral)表現されていて

全宇宙を包括ほうかつしてしまうような圧倒的な絵だ。

余談よだんを申せば・・

黒澤映画にも同質表現は見られます・・

ロシアの文豪の小説にも同系渦巻(うずまき)を感じる・・

三人は似た気質の持主もちぬしと私は考えております。

き上げてくるどうしょうもない狂気きょうきのごとき、

螺旋らせんエネルギーが、激越表現をいるのでしょう」

天田氏は言葉を切り、

モチ太郎をポリポリ食べ、ホットミルクを飲んで、

はくほど置いたのち、口を開いた。

「実は私にも 渦巻(whirl pool) がえるのです」


おうぎならびに腰かけているサユリと南平は、

「えっ⁉」みたいな表情を浮かべた。

デスク向こうに着席した、

里見所長は、一定表情をたもち、傾聴けいちょうしている。


弁護士は若者二人の視線を吸収きゅうしゅうして、

誤解ごかいなきよう申し上げれば、

〈 私、天田あまだのケースは芸術とは無関係 〉

いわゆる幻視げんしですな。

☪︎ 天田アイテムその2━ 危難きなん対応型予知能力 ☪︎

私には生来せいらい、危難予知よち本能がそなわっていて、

生命の危機にひんすると、

孫悟空そんごくうのように頭がキリキリめ付けられ、

周囲の情景が『星月夜』状螺旋らせんに映じるのです。

そのときに限り、占い師みたいに、

いな

予言者のようにしき未来=凶兆きょうちょうを、

りと感じ取れる。

━━ 精度せいどおそろしく高い ━━」


再び、依頼人は話を中断ちゅうだん

チビねこたちに視線を向け、KIND(やさしさ)波動を交換させ、

たかぶったテンションを平常値に戻してゆく。


「ところで・・

┃最初の幻視げんし┃がやって来たのは、

さかのぼること少年時代。

・・私が日本へ戻って来てもない頃です。

美しく晴れ上がった秋の日の午後。

友人と二人で狭い路地ろじを歩いていたときに、

ひょんなことから、負けず(ぎら)いの彼と〈駆けっこ〉をする事になった。

こちらも負けず嫌い・・

〈よーいドン!〉で始まった()競争きょうそうは、

通りにさしかかるまで、私が僅差きんさでリードしていた。

夢中でダッシュしている /その瞬間とき/ ━ だしぬけに()め付けられ ━

━ あり得ないほど情景じょうけいゆがんだ ━ 渦巻うずまき状に ━

私は疾走しっそうに急ブレーキをかけた(かけざるをえなかった)。

友人はウレしそうな声をり上げ、私を抜き去り、通りへ飛び出した。

凶事きょうじ勃発ぼっぱつ

友人は速度オーバーで走行してきた車に/ねられ/即死そくししました。

飛び出した友人の方にも過失責任があるとはいえ、

卑劣ひれつなひき逃げ犯は、

その後、つかまることもなく、時効じこうを迎えた。

偶然、ナンバーや車種までメモをしていた人がいて、

現着した警察官に知らせたにもかかわらず、です。

話を継続けいぞくさせましょう。

┃二度目の幻視げんし┃が訪れた(to visit)のは、

大学二年の時でした。

今度のケースは

瞬時しゅんじではなく>

長いプロローグがせられた形でやってきた。

/頭の締め付けは /

ときにゆるまり、ときに強まりしながら、

断続だんぞくして一週間以上も続いた。

ァーストタイ(一回目)ムとの明らかな違いは

明瞭めいりょうな 水(water) のイメージをともなっていたこと。

(water)イメージが、

不規則ふきそくインサートされ(挿し込まれ)てきた。

心痛(しんつう)込みでね。

現在ならば、そんなムチャは絶対にしないでしょうが、なにせ若かった。

普通免許を取得したばかりの私は、当時付き合っていた・・」

天田弁護士はノスタルジックな目をサユリに向けて、

「美しい髪を持つゼミの同期生、

ステディな彼女の、いささか強引なリクエストにこたえて、

/頭への締め付けをやり過ごし/

週末にレンタカーを借り、

大磯おおいそへ二人きりで冬の海を見に行った。

富山とやまの内川で育った彼女の口癖くちぐせは、

「東京は息苦しい・・」

「卒業旅行はベニスへ行きたい」でした。

目的地に近づくにつれ、私の頭痛はひどくなり、

周囲の景色は圧縮あっしゅくされ、ゆがみ始めた ━ 例によって薄巻うずまき状に。

急きょ堤防ていぼうに車をめて休息をとった。

とりあえず、左右のサイドウインドウを半開はんかいさせ、

潮風しおかぜを入れて、気分を落ち着かせた。

彼女は心配そうに私を見つめ、

刺繍ししゅう入りの白いハンカチで、

私のひたいに浮き出た汗をぬぐってくれた。

潮風しおかぜのいたずらで、ハンカチは、車外に飛ばされた。

取り戻そうと、彼女は車から降り、追いかけていった。

ハンカチは潮風に乗り、大きなモンシロチョウのように宙に舞う。

意外な瞬発力をしめし、追いついた彼女は、空中ジャンプしてナイスキャッチ。

こちらに向き直り、笑顔でウイナー(Winner)・ ポーズ!

脳裏のうりに焼き付く天使の微笑 ♡

その微笑は・・永遠となった!

つぎの瞬間、信じがたい突風とっぷうが彼女をさらい、海へ連れ去った。

彼女は海面に点のように浮かんでいた。

まだ携帯電話(ケータイ)などない時代。

私は車を飛ばし、公衆ボックスを見つけ、

赤い小型の緊急呼び出し器で、もどかしく警察へ通報したが、あとの祭り。

彼女の救助きゅじょかなわなかった。

・・いまもって行方不明なのです」


天田弁護士はタブレット端末を手にして、

里見の近くへ、ななめ向きに、身体を寄せ、

当時の新聞記事をモニター上に呼び出した。

大磯おおいそ突発とっぱつ水難すいなん事故発生」

すっくと立ち上がり、

懸命けんめいにモニターをのぞき込むサユリと彼氏カレシ

事故の記事に続いて、

キャンパスで撮った彼女とのむつまじいアナログ写真と

個人情報(住所氏名)の入った彼女のパスポート画像をスクロールした。

新聞記事と行方不女性の氏名が一致いっち

話は客観事実と同定どうていされた。

・・さすがは実証主義の弁護士。

さらに、

五十年以上前の「ひき逃げ事件」のベタ記事に、

被害者となった少年と遠足時に撮った集合写真の

スクリーンショットを提示ていじしてみせた。

こちらは公的書類が添付てんぷされていないうえに、

記事には「被害者少年A」とあるだけで、氏名も写真も掲載けいさいされておらず、

被害者Aと天田氏との関連性について、厳密げんみつには辿たどれない。

  

依頼人は、端末たんまつひざの上に置くと、深い息をついた。

「車にねられたおさな友達の少年も、

突発的な水難すいなん事故にった彼女も、

私の身代みがわりになったと考えています。

 なぜなら、その二名の不幸が起きた直後ちょくご

 私の頭痛はピタリとおさまり、

 /幻視げんし/ も /୧渦巻うずまき୨ /も

 見事に消えてくなったのだから。

くだくだ後悔こうかいべんべますまい・・不毛ふもうですからな。

肝心かんじんなのは、

現在、そして、地続じつづきである未来だ。

ここに来た理由は・・もう・・おわかりでしょう?

ついに┃()度目の幻視げんし┃がおとずれたのです。

火炎〈Flame〉のイメージをともなって」


思わず身を乗り出すサユリと南平なんぺい

ぬぐいきれない疑問点・・|()度目の幻視の間違いでは⁉|・・と、

奇怪な不安を(かか)えながらも、

依頼人の話に心うばわれてしまった様子だった。



※イソ弁とは・・

法律事務所に雇用されている、

経営者ではない弁護士のコトです。


☆5700文字読了お疲れさまでした。

 また来週、お会いしましょう!



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