インサート|挿入
ローテーション制で・・
猪熊の担当となった第四話には、
厄介なシーン(場面)が 二か所 ばかり設けられていた。
ひとつは ━ 銭函ビッグショット指令の「パンチラ」である。
もう一か所は ━ 汐からモモへとバトンされた「年齢 退行 」場面だ。
監督用〈細密な絵コンテの付された〉脚本を、
マロ先輩から直に受けとった猪熊は難色をしめした。
エイジリグレッション(年齢 退行)場面に関して言えば、
猪熊自身は・・
この手のギミックに興味は持てなかったけれど ━ マロが別撮りするので問題ない。
障壁は前者の ━ 「パンチラ」である。
「いかに上からの指令とはいえ、
魂を売るような真似はやりたくないですね、オレは」
とヒゲ面監督は率直に吐き出した。
マロは しかと うなずき、
「猪熊よ、
メジャーで仕事するというのは、こういう事さ。
受け容れるんだ!」
励ますように後輩の分厚い肩を叩き、
「きみは・・
ライター(脚本家)の描き出した 未知の敵 である
水たまりと同化する┃鏡の使ト┃。
そいつの真上を、
ミニスカ着用のモモがジャンプする前後を、
コンテ通りに撮ってさえくれれば、それで良い。
放送コードに抵触するような箇所は、
私がCGで処理するよ」
━〇━
さて、話はちょい遡行・・
自身の要請で書き足された、
ホン(脚本)を一読したとき、
マロ監督は売れっ子ライターの実力を再認識した。
酒席での会話をヒントにしたとしか考えられない・・
凸ピンクの出自を、
児童養護施設出身者と、背景をリアル固めてきており。
幼き頃・・誘拐された彼女は、からくも脱出して、
現在まで生きてきた・・そんなトラウマを匂わせていた。
ピンクは過去を追想させるような〈心傷ケース〉に遭遇すると、
金縛り状態に陥り、
記憶金庫のダイヤルがピタリと揃い、
瞬時に・・
〈児童へ退行してしまう〉
・・無理のない設定を拵え、提示しきた。
舌なめずりしながら、
ディレクター南禅寺は、
絵コンテをすいすいと書き上げ、
撮影プランの詳細な設計図を添付COPY。
秘書に言いつけ、
各部門の責任者に漏れなく配らせ、集合命令をかけた。
監督室にて、
パワーポイントとホワイトボードを使用、
撮影監督を中心に、照明や特機ほか、美術の責任者も交え、
綿密な打ち合わせを行った。
・・撮影準備は短時間で整えられた。
━〇━
モモは、
自由な雰囲気の猪熊組から、
窮屈な南禅寺マロ組へ、
後ろ髪引かれる思いで移動した。
マロ監督は、モモに対しては、
辛く当たったことは一度たりともない。
それどころか、過保護ともいえる 取りあつかい であった。
とはいえ、
監督が放電する上意下達のピリピリ感には、
正直、緊張を強いられる女優研修生なのです。
彼女は三話までの撮影を終え、
自分には演技の才能は薄いと、早や自覚していた。
訓練に訓練を重ねても、
汐さんレベルはおろか、
・・日出どきの・・
彼女の長い影先を踏むことすら不可能。
趣味にしろ、スポーツにしろ、上達する場合、
|なんらかの兆候なり片鱗・・いわゆるセンス|
|若しくは・・盲目的な対象LOVE♡|
が窺えるもの。
自分の演技には、根源となる、
それらの種子が、見当たらない。
子供のころを振り返れば・・
身体を動かしたい衝動の突き上げにより、
本能主導で、迷わずスポーツに邁進してきた。
体育系の種目はひと通り熟せた上、
他人より抜きん出るのに、
限界越えのスポ根努力とは無縁だった。
中でも器械体操は、野生の草花のように伸びて、得意中の得意である。
特技は延長線を引き・・大学へも筆記免除で推薦入学できた。
━ モモのDNAに運動種子が埋まっていたからだ(+身体能力)。
例外は・・
運動神経とイコールではない ≠ 球技。
〈読み〉とか〈駆け引き〉〈メンタル〉といった
ソフトウェア(Soft ware)部分で苦戦を強いられた。
ゴルフにしても同様・・
持ち前の身体能力とバネで、飛距離は稼げる。
しかし、アプローチには手こずった。
パッティングときた日にゃ・・
上手いゴルファーを手本にできた場合のみ、
ラインに乗せられる、限定付きパター使いなのである。
伸びしろ不確かな壁に挑んでまで続けたいとは思えず、
競技としてのゴルフは諦めた。
テニス同様、遊びに切りかえ、ときどきクラブを握る程度に落着。
┃憧れや切望をベースにした
不屈なる意志力やガッツで、
ついに苦手を克服し、
長足の進歩を遂げるケースなどは稀も稀。
現実は・・重力や苦痛を伴う山登り┃
演技も一緒なのだ!
他方・・
凸ブルーの言うとおり、
<スーパー戦団もの>にメイン級で出演できるという、
千載一遇のチャンスを掴んだ事実は動かせない!
TVに映るレアバイトと考えれば、思い出作りとしては、この上ない。
━ なんたって・・DJアイドルと一緒に過ごせるのだから。
思いがけない副産物は・・
メディアミックスの一環となる、
新発売されたチョコボールのCMに、
レンジャーズの一員として採用されたコト。
四名の変身前と変身後の姿が画像パッケージされ、
コンビニやスーパーの菓子コーナーに並んでいるのを目にした時には、
人生初グレード体験—―空前の驚きと慶びを味わった!
チョコボール菓子は1箱に付きキャラクターシール一枚のオマケ付き。
最低でも4箱以上買わないと、
凸レンジャー勢ぞろいは叶わないカラクリ商売。
新発売の目玉特典として、
大穴シール《凸ゴールド》を引き当てれば、
QRコードを経由して五千円相当の豪華賞品がもらえる☆
(金のエンゼル以上に 稀少枚数 というWカラクリ)
・・メーカーのアンケート調査によると・・
キャラ人気トップは断凸 イエロー◎、※ピンクは二番人気〇であった。
舞い上がるような俄かスター気分を味わった。
「大資本と結びつくというのは、こういう事なんだ」と骨身で感じた。
初めて菓子のTVCMを見たときは・・
恥ずかしかった半面∽嬉しくもあった。
スポンサーから、現物菓子を大量に支給され、
家族・親戚・友人たちに配ったのも、麗しき思い出。
冷静になって考えてみれば・・
自分自身|演技センスに恵まれていない|と言っても、
まったくゼロでもない自己評価(5段階評価で1・5前後か?)。
ラッキーなことに、イエロー汐という素晴らしいお手本もいる。
ゴルフのパターに習い・・
<真似事(一夜漬け)で>
・・最低限はイケるはずだ。
一瞬のハードル越えなら、ボロは目立たない。
論より証拠に、
もう第三話までは放送用に完パケされていた。
マロ監督の現場だ・・
ダメならば、
とうに降ろされていたはずである。
\18歳女優ならどう演ずるか?/
を礎に、
演技構築して悪いことはない!
わがままに、そう解釈してしまおう。
非才な私ことモモは、
抽象の迷い沼より、
しっかり(ちゃっかり)した地盤に立つ方を選びたい。
たとえ・・安易であっても。本物になれなくっても、だ。
「学びは、真似び。
物事、
自己責任だけでは、息が詰まっちまうだろう。
なにかのに所為にするのも、ときには有りさ。
・・ときにはだぜ」
猪熊監督も、おっしゃっていたではないか。
※競馬新聞で ◎ は本命をあらわし
〇 は対抗馬の意味です。ヒヒーン!




