第二次性徴期
早朝時間。
深まりゆく秋の気配
心身を正常値に整えてくれる優しい空気
ジャストな湿度と気温
キノコだって生えてくる素敵な季節
暑さに押し込められていた生命力を活発化させるゾ的「細胞通信」を
ビンビン感じる今日この頃。
イエローレンジャーはキャンピングカーで、
他の三名は始発電車に駆けこみ、
(別路線を乗り継ぎして)
眠い目をこすりながら、
スタジオ内の会議室に集合した。
レンジャーズ・フォーは、
会議室のテーブルに、
猪熊新監督を囲む形で腰かけていた。
監督は、モモからお礼の言葉と共に返却された
縒れなし(クリーニング済み)ジャケットを着用している。
━〇━
朝のあいさつ交換をすませると、
レンジャーズは
自分の腰かけるべき席をキョロキョロと探し始めた。
「みんな、なにをやってる?
好きな席に腰かけてくれや!」
監督から発せられた思いがけない言葉に、
自由さを感じ取ったレンジャー四人は、
若干のためらいを見せたのち、
緊張から解き放たれ、
好きな場所を選んで、
体技を使い、フリースタイルで、
ある者は — 膝バネをきかせた捻りジャンプで、
ある者は — 両脚をそろえたまま背もたれを飛び越え、
またある者は — ヒヤリとさせる空中前転で、
それぞれが(スタント上がりらしい)腰かけ着地を決めてみせた。
まるでミュージカルを思わせるリズム感であった。
プロ役者たる汐だけは、
ノーマルに背もたれを引いて、
小作りなヒップをチェア座面にのせた。
・・ちなみに、マロ監督の台本読みは、
座る場所まで厳密に色別指定してある。
さらに、飲に限って許可。
ガムや菓子類他|食はオールNG規定。
━〇━
4色レンジャーは
把手付きホルダーに差した紙コップで、
常備品の電気ポットから湯を注ぎ♨
インスタントのコーヒーやラテを飲み、
骨肉の争奪戦を経て、
紙皿上からGETしたお茶菓子/うまい棒を食べていた。
・・一番人気のコンポタ味はモモの手に、
その他は(糸引き)納豆味で涙をのんだ。
人懐っこい猪熊スマイル。
朗らか語りのジョーク&雑談によって、
座はゆるやかに温まっていった。
指パッチンさせた監督は、
「みんな聴いてくれ!」とオクターブを上げた。
軌道に乗った雑談はソフトランディング(軟着陸)。
静けさの中、
猪熊は全員を見回し、
出来立てほやほやの主題歌、
軽快なアップテンポの・・
『Let’S go!凸レンジャー』をスマホから流した♪
赤・青・ピンクは、目を輝かせて聴きいっていた。
「自分たちの出演する番組に、
有名シンガーソングライター《米高 幻児》の曲がつくなんて、
スゲエじゃん!夢みたいだ!」
汐の肥えた耳には、
まずまずの出来にしか聴こえない。
ただし、エンディングのバラード曲、コレは沁みた。
「ヒットチューン間違いなしだワ♪」
眠気は追いやられ、
アドレナリン巡りの良い状態で、
台本読みは開始された。
━〇━
先日、行われたキャンピング控室内での
黄色とヒゲの会話は以下のごとし。
汐の問いかけ ╍
╍ 「セリフを発しないので、朝練への同席は不必要なのでは?」
猪熊答弁 ╍
╍ 「初回だけは是非、汐坊にも参加して欲しい!
オレが舞台演出で学んだ 効果的な方法 を映像に転用させてみたいんで」
と、人たらし笑顔 で返され、
仕方なく(本当は好奇心に動かされ)お付き合いする事になった。
━〇━
猪熊・ヒゲもじゃ・氏の台本読みは、
風変りであった。
テーブルの上に脚本を広げて(まあ普通だ)
セリフを無感情に読み進めていくスタイル(意味不明⁉)。
少しでも芝居心なり感情なりが混入したら—―即NG、
もう一辺やり直し。
お経のような読み上げを飽くことなく続けていく。
—―3レンジャーは戸惑い気味であった。
記憶の魔性者である汐には、
キャスト全員のセリフが頭に入っていたので、
脳内で 声を出さずに お経スタイルを用い、
3色レンジャーの科白をイメージ動作付きでなぞっていった。
お坊さん読みの真意は汲み取れないけど・・
九官鳥っぽい口跡を残している、
いまイチこなれていない彼ら(赤・青・モモ)には、
効果をもたらすんじゃないかと、おぼろげ推測できた。
なんというか、「頭の奥にセリフを入れる」という意味合いにおいて。
—―ヒゲ熊さん、意外に、ヤリ手なのかも!
撮影に入ると、
猪熊はキャストを締め上げることなく、自由に演じさせた。
お経台本読みの効果のほどは(現時点では)不明である。
ピンチ・シチュエーション撮影本番|テイク1|でNGを出した、
凸レッドに向かって・・・監督は・・
「こんな状況のとき、
レッドリーダーならどう反応し対応するかな?
作為を捨て、自然領域に足を踏み入れてみようぜ。
セリフに縛られるな!
スポンティニアス(自発的)にいってみようや」
別場面に移行。
リハを終わらせ、
(怒哀なし)喜楽シチュエーションの本番へ臨む
青レンジャーに対し・・
「ブルーくんさあ、
新兵器をようやく開発して
他レンジャーに試用させるワクワクぶりを、
自分の気持ちと、もっと深くシンクロさせようよ。
演技なんて、とりあえず、ハイエナに食わせとけ!
なぜなら、きみはブルーで、ブルーはきみ自身なんだからさ。
・・ここまで親切に書かれた脚本はめったにないんだぜ」
売れっ子脚本家は第四話で、
モモの演技に試練を課してきた。
ワンショットスリーアクションを必要とするシーンだ。
ツーアクションすら怪しいモモにである。
南禅寺ならば、たちまち書き替え、
演じやすくしてしまうであろう場面を、
(どーゆーわけか?マロは、モモにだけはソフト対応)
猪熊は脚本通りに演じさせることにした。
モモは例の・・緊張症〈玉虫スペック〉を再発!
よそ行き声になってしまい、パニくり当惑。
猪熊はニヤリとして汐に耳打ちした━
━された女優はムズい要求に目を三角変形させた。
「いいかい、モモ。
まず汐 坊が演じてみせるから、
全くおんなじに演じてごらんよ。
セリフは一語もないから声は気にしなくてOK。
簡単だろう?
スリーアクションなんてのは大したことはない!
低い壁なのだよ」
猪熊耳打ちの内容は・・
「件のワンショット・スリーアクションを、
モモになりきった状態で、
なおかつ ¾倍速 で演じてみてくれる」
という難題であった。
とはいえ・・
そこは・・汐の汐たる所以、
モモになりきり、
演技スピードを ¾倍速 に落として、
ピンクがトチりそうなところまで
「ここ注意点」とデフォルメ挿入させて、演じきった。
ストップウォッチを持った猪熊監督は・・
噂にたがわぬ笹森能力を目の当たりにして、
讃嘆した。
他のレンジャーズは口をポカーンと開けていた。
計三回・・
汐は、演技倍速をノーマルに近づけながら、演じてくれた。
その映像見本を、モモはiPadでリピートさせ、真剣学習。
おかげ様をもって、
本番二回のみで、
プロの関所を(とりあえず)越えることができた。
イエロー汐は顔をクシャクシャにして拍手を贈り、
レッドはお祝いのバック転を披露、
ブルーは「ヒュー♪」と口笛を吹奏した。
猪熊は 熱い胸の中で つぶやいた・・
「すばらしいチームじゃないですか、マロ先輩」




