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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
75/82

≠ノットイコール 

 同時刻。

 (とつ)レンジャー担当の売れっ子脚本家ライターは、

 マロ南禅寺なんぜんじの依頼を聞き入れ、

 彼がほっするシーンを実現させるために、

 腕によりをかけてキーボードを叩いていた。


南禅寺監督たっての願い・・

「どーしても、

 <あの映画>の┃あの場面┃をtrace(トレース)してみたいのだ!」


知る人ぞ知る あの場面 ・・

映像金鉱(きんこう)はしっこを、

一部熱狂的なファンを持つ監督が、

必然ひつぜんなのか、偶然ぐうぜんによるものなのか、は不明⁉)

穿うがってしまった、

カルト(cult)なシーンを 令和の現代(いま)に 再現させるために、

(とつ)レンジャー担当の売れっ子脚本家(ライター)は、

精魂せいこん込めてキーボードを叩いていた。

 監督のねらいはユニークだし、

 パスティーシュ(模倣(もほう))に過ぎない、

 といったケチの付けどころはあるものの、

 展開上のスパイスにはなるだろうと信じて。


━〇━

居酒屋で腹をる以前のこと。

南禅寺とわした、いくつかの会話は、

愉快ゆかい不快ふかい を中速往復した。

天狗てんぐばなを伸ばした監督が論理的に話を進めている最中さいちゅう(後者)、

ときおり噴出ふんしゅつさせる、

❝ マロひらめき ❝ は、

面食めんくらったけれど、前者(愉快)に相当した。

「きっと、彼の脳内には、多種多様な映像イメージがあふれかえり、

 ためしてみたくて、うずうず(・・・・)しているのだろう」

推測すいそく

・・卒業短編を見る限り、

イメージを定着させる腕前テクそなえていそうだ。

つのめて、若いんではならない!

  マロのほとばしる熱意は、無形むけい有形ゆうけいに出来そうな  

  錬金れんきん期待をいだかせてくれる。

  ニクたらしいヤツだが、

  出来るかぎりフォローしてやりたいと(その時は)思わされた。


偶然ぐうぜんだがライター氏も、

奇妙な魅力を持った<あの映画>=『愛のメモリー(’76)』を好んでいた。

脚本家の彼は・・

オタク気質を持つ、

狂的なdvd(VHS・LD含む)収集家であり、

古典文学的教養きょうようを欠いた・・

 シェイクスピアやトルストイを

 読んだことないことを堂々(どうどう)言い放ち、

 居酒屋で、監督のマロを絶句ぜっくさせた。

・・映像研究家兼シナリオ実作者でもある。


プロ脚本家を目指し・・日芸にすすみ、

【自分は凡才ぼんさいなのだ!】自覚に、立脚りっきゃく点を置き、

【いつかなんとかなるだろう】てき 素人(シロウト)幻想を早々(そうそう)に捨て去った。

—―取らぬタヌキの湯♨につかっている❀お花畑さんは存外ぞんがい少なくない。


「社会感覚をニブらせてはいけないよ。

 表現のはばせばめてしまうからね。

 よくさぁ、目標とは異業種な、

 コンビニのレジ打ちや警備員などのアルバイトをしながら頑張がんば

 夢追ゆめおびとがいるけれど、勘違かんちがいしているよね。

 末席まっせきでも、希望職に近い現場に、食らいついていることが大事なんだ。

 ミュージシャン志望なら音楽に関係した職場、

 脚本家を目指すなら、シナリオスクールに通うアマチュア(ポジション)ではなく、

 TVドラマに関連したプロ業界だろうね。

 報酬ほうしゅうを得るきびしさと業界の仕組みを同時に学べるからさ」

<一般論として、正鵠せいこくている>

ビビット(Vivid)に感じられた教授のアドバイスに耳をかたむけ、

真剣に考慮こうりょしたすえに、

バイトと両立のシナリオコンクール浪人ろうにんになることを回避かいひ

先輩のコネを使い、ぎりぎりラインで、業界の末端まったんにもぐりこんだ。


脚本家ルーキーは、放送作家グループの※アシになり、

苦手なバラエティーはんで修業を積んだ。

なぜかコントの台本をまかされる機会が多く、

これはドラマに通ずるところもあり、後年こうねんやしになてくれた。

笹森ささもり しおり主演、

朝ドラ『サスティーン』のコントをゴーストで書いたこともある

・・一種の奇縁きえんと言えるかもしれない。


━ 好きで好きでどうしょうもないフィクションをつむぐ脚本の仕事をしたいがために ━

「創造とは記憶でアル」という格言かくげんのうずいに焼き、

信念を曲げず、()学習をおこたることなく、

ときに びへつらい、

土下座どげざなる時代劇行為こういも経験、

小さなチャンスを次々もの(・・)にしていき、ついにドラマ班へと辿たどり着いた。

もとい・・信念磁石(じしゃく) で目標をたぐり寄せたのだ。

そこをに独立を果たした、

業界に飛び込んで四年後のことであった。


TVドラマ関係者(プロデューサーや監督)と、

肩のるような打ち合わせや会議の連続をこなしてゆき、

「俳優AとCは不仲ふなかだから同一どういつ共演場面は極力少なくしてほしい!」

「タイアップが取れたので、主人公を北陸ほくりく出張さてせくれ!」

「あの女優にそでにされたから、出演場面をけずってしまえ。

 弱小プロ所属だから、報復ほうふくおそれはない!」

など、さまざま崇高すうこうな注文を受けたのち、

ようやっと本丸ほんまる創造そうぞうに向き合うことができるのだ ━

 子供向けヒーローものを書くようになったのは、

 通常のドラマより自由度が少しばかり高かったからだ。

 特撮ドラマ(マスクライダー、スーパー戦団もの)に腰をえ、

 トレーニングを重ね、

 徐々(じょじょ)に腕を上げ、業界内評価を高めていき、

 『チャンバラ戦団/(とつ)レンジャー』や映画『人間国宝』から

 オファーをもらえる立場になったのである。

━ 静かな室内で、机に向かい、気力きりょくを込め・・

|柱やト書き|弱くないセリフ|意表を突く展開|をみ出していく。

彼がライバルをせいして(現時点で)頭一つばかり抜きん出れた理由は、

「好き度」 と 「しつこさ」 に加えて、

呻吟しんぎんすえのもっと先に—―

—―不規則におとずれる霊感(・・)すくい上げられたからだ。

霊感れいかんを|理論づける|のは実に困難こんなんではあるが、

感覚的に定義ていぎすれば、

┃集中をかけていったてに到来とうらいする快感┃こそ 、その正体だと思われる。

多幸たこうラインに乗ってキーボードを叩いているときは、

はしら

ト書(とが)

きセリフ

が、ナチュラルに生み出されくるのだ。


一流と二流をかつ <(キモ)は>この部分にほかならない!

テクニックは学べても、インスピレーションは学べない。


《B・ワイルダーならどうする?》

というすみ書きを額装がくそうして、

執筆中に迷いがしょうじたときには見上げ、自問自答している。


読者の皆さん、おまたせそうろう・・

さんざん引っってきた、

あの映画(Obsession)>の┃あの場面┃とはなんぞや?

作中・・

主人公である若い女性が、演技とカメラトリック(演出)により、

ワンカット内で

┃大人から少女へと退行たいこうしてみせる┃

虚飾きょしょくはいした・・映像マジックのことである。

今作以外の映画ではお目にかかったことのない、

寡聞かぶんにして前例を知らない)

なんとも素晴らしい瞬間だ!

映画の果実かじつ描写びょうしゃを見る醍醐味だいごみが味わえる。

CGを駆使してもこの感じ(・・・・)は出せない。

アナログのすばらしさがここにり!


ただ、

まあ、

ぶっちゃければ、

なんマロのしくじりにより・・

残念無念な顛末てんまつを迎えたいま

狙い通り、場面にマジックを起こせるのか?

はなはだ、心(もと)ないと言わざるをえない。

当初の監督構想では、

しおり ぼうがキャスティングされていた。

オマージュという名の泥棒ドロボーには否定的なライターも、

「おーっ!」と声を上げたくなるようなグッドアイディア。

ユニセックスな彼女のルックスと申しぶんない演技力は、

シーンをエモーショナルで強力なモノにするだろう。

疑いの余地よちは・・ない・・はずだった。

そんな皮算用かわざんようは、

キラーオプション(法的に全セリフNG)を発動されたのち、

夢バブルと消えた。

廃案はいあんになりかけたところ、

「場面キャストをモモに変更へんこうして続行したい」マロはそう主張した。

ライターは「汐坊を使えない以上、いさぎよてるべき」と提言。

マロは「どうしてもトレースしてみたいのだ」と言い張り、平行線。

意地でも退行場面を書かない方針であった脚本家は、

酒席のあとで考えを修正しゅうせい

マロのき出るイマジネーションを尊重そんちょうしてあげた。

最後にひと言だけ付け加えて。

「今回はれる。

ただ、監督の目論見もくろみには、

モモではキビしいという観点から、

ノットイコール〈≠〉と言っておく。

映画版(とつ)レンジャーでは、

引用をめて、オリジナルで勝負をかけよう」

二人は握手をかわした。

━〇━


セイム(Same) デイ(day)、同日。

自己紹介を終えたヒゲもじゃ猪熊いのくまは、

のしのしと大股おおまたでイエロー汐のそばに寄っていき、

あらためてあいさつをした。

れもの番付上位者の方も、

(失礼だとは思ったけれど)

腕組うでぐみ姿勢のまま軽く返礼。


猪熊いのくま摩天楼まてんろうから見下ろすような角度で、

しおりぼうにお願いしたいけんあり」

合図でスタジオのすみに誘った。

━ のっけから汐坊(・・)呼ばわりかい、ヒゲくまさんよ!

この際だからハッキリさせておこうと、誘いに乗る。


小さな女優は、

摩天楼まてんろうを見上げるようなくび角度で、

「まずお断りしておくと、

(とつ)レン』撮影中に 私こと(・・)笹森が セリフをしゃべることはあり得ません。

それと、演出家の要望はマネージャーを経由してもらう段取りになってます。

ご存じですよね?」


すこぶる膂力りょりょくを感じさせるヒゲもじゃは、

「ええ、もちろん。

オレこと(・・)猪熊いのくまの頼みは、

かなめシーンりのさいに、

あなた以外の、三色レンジャー〈赤・青・ピンク〉をみちびく、

指南しなん役を引き受けてもらいたくてね。

いうなれば裏方=演出補助(ほじょ)を依頼したいわけ。

これならオプションには抵触ていしょくしないはずです」

明るい瞳に皮肉を着煙ちゃくえんさせ、

「マロ先輩の奮闘ふんとうでスケジュールが押してます。

巻き(・・)演出でいきたいので協力して欲しい。

一度やって、イヤなら断ってもらって結構けっこう。いかが?」

先天性特技:人たらし(・・・・)笑みを浮かべた。


汐は奇妙なリアクションを見せた。

逡巡しゅんじゅん・・

葛藤かっとう・・

次いで・・

バクチ打ち ~ 丁半ちょうはん気質が顔を出した。

控え室(キャンピングカー)で待機たいきし続けているのも退屈(タイクツ)だし、

一丁いっちょうのったろか!


腕組みをサッと!ほどいた汐は ━「イエス」とこたえた。





※アシとは・・

アシスタントのことです。

(ご存じとは思いますが、念のため)

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