≠ノットイコール
同時刻。
凸レンジャー担当の売れっ子脚本家ライターは、
マロ南禅寺の依頼を聞き入れ、
彼が欲するシーンを実現させるために、
腕によりをかけてキーボードを叩いていた。
南禅寺監督たっての願い・・
「どーしても、
<あの映画>の┃あの場面┃をtraceしてみたいのだ!」
知る人ぞ知る あの場面 ・・
映像金鉱の端っこを、
一部熱狂的なファンを持つ監督が、
(必然なのか、偶然によるものなのか、は不明⁉)
穿ってしまった、
カルトなシーンを 令和の現代に 再現させるために、
凸レンジャー担当の売れっ子脚本家は、
精魂込めてキーボードを叩いていた。
監督の狙いはユニークだし、
パスティーシュ(模倣)に過ぎない、
といったケチの付けどころはあるものの、
展開上のスパイスにはなるだろうと信じて。
━〇━
居酒屋で腹を割る以前のこと。
南禅寺と交わした、いくつかの会話は、
愉快⇔不快 を中速往復した。
天狗鼻を伸ばした監督が論理的に話を進めている最中(後者)、
時おり噴出させる、
❝ マロ閃き ❝ は、
面食らったけれど、前者(愉快)に相当した。
「きっと、彼の脳内には、多種多様な映像イメージが溢れかえり、
試してみたくて、うずうずしているのだろう」
と推測。
・・卒業短編を見る限り、
イメージを定着させる腕前も備えていそうだ。
━ 角を矯めて、若い芽を摘んではならない!
マロの迸る熱意は、無形を有形に出来そうな
錬金期待を抱かせてくれる。
憎たらしい奴だが、
出来るかぎりフォローしてやりたいと(その時は)思わされた。
偶然だがライター氏も、
奇妙な魅力を持った<あの映画>=『愛のメモリー(’76)』を好んでいた。
脚本家の彼は・・
オタク気質を持つ、
狂的なdvd(VHS・LD含む)収集家であり、
古典文学的教養を欠いた・・
シェイクスピアやトルストイを
読んだことないことを堂々言い放ち、
居酒屋で、監督のマロを絶句させた。
・・映像研究家兼シナリオ実作者でもある。
プロ脚本家を目指し・・日芸にすすみ、
【自分は凡才なのだ!】自覚に、立脚点を置き、
【いつかなんとかなるだろう】的 素人幻想を早々に捨て去った。
—―取らぬ狸の湯♨につかっている❀お花畑さんは存外少なくない。
「社会感覚を鈍らせてはいけないよ。
表現の幅を狭めてしまうからね。
よくさぁ、目標とは異業種な、
コンビニのレジ打ちや警備員などのアルバイトをしながら頑張る
夢追い人がいるけれど、勘違いしているよね。
末席でも、希望職に近い現場に、食らいついていることが大事なんだ。
ミュージシャン志望なら音楽に関係した職場、
脚本家を目指すなら、シナリオスクールに通うアマチュア場ではなく、
TVドラマに関連したプロ業界だろうね。
報酬を得る厳しさと業界の仕組みを同時に学べるからさ」
<一般論として、正鵠を射ている>
ビビット(Vivid)に感じられた教授のアドバイスに耳を傾け、
真剣に考慮したすえに、
バイトと両立のシナリオコンクール浪人になることを回避。
先輩のコネを使い、ぎりぎりラインで、業界の末端にもぐりこんだ。
脚本家ルーキーは、放送作家グループの※アシになり、
苦手なバラエティー班で修業を積んだ。
なぜかコントの台本を任される機会が多く、
これはドラマに通ずるところもあり、後年の肥やしになてくれた。
笹森 汐主演、
朝ドラ『サスティーン』のコントをゴーストで書いたこともある
・・一種の奇縁と言えるかもしれない。
━ 好きで好きでどうしょうもないフィクションを紡ぐ脚本の仕事をしたいがために ━
「創造とは記憶でアル」という格言を脳髄に焼き、
信念を曲げず、実学習を怠ることなく、
ときに 媚びへつらい、
土下座なる時代劇行為も経験、
小さなチャンスを次々ものにしていき、ついにドラマ班へと辿り着いた。
基・・信念磁石 で目標をたぐり寄せたのだ。
そこを機に独立を果たした、
業界に飛び込んで四年後のことであった。
TVドラマ関係者(プロデューサーや監督)と、
肩の凝るような打ち合わせや会議の連続をこなしてゆき、
「俳優AとCは不仲だから同一共演場面は極力少なくしてほしい!」
「タイアップが取れたので、主人公を北陸出張さてせくれ!」
「あの女優に袖にされたから、出演場面を削ってしまえ。
弱小プロ所属だから、報復の怖れはない!」
など、さまざま崇高な注文を受けたのち、
ようやっと本丸の創造に向き合うことができるのだ ━
子供向けヒーローものを書くようになったのは、
通常のドラマより自由度が少しばかり高かったからだ。
特撮ドラマ(マスクライダー、スーパー戦団もの)に腰を据え、
トレーニングを重ね、
徐々に腕を上げ、業界内評価を高めていき、
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』や映画『人間国宝』から
オファーを貰える立場になったのである。
━ 静かな室内で、机に向かい、気力を込め・・
|柱やト書き|弱くないセリフ|意表を突く展開|を産み出していく。
彼がライバルを制して(現時点で)頭一つばかり抜きん出れた理由は、
「好き度」 と 「しつこさ」 に加えて、
呻吟の末のもっと先に—―
—―不規則に訪れる霊感を掬い上げられたからだ。
霊感を|理論づける|のは実に困難ではあるが、
感覚的に定義すれば、
┃集中をかけていった果てに到来する快感┃こそ 、その正体だと思われる。
多幸ラインに乗ってキーボードを叩いているときは、
良き柱
佳きト書き
好きセリフ
が、ナチュラルに生み出されくるのだ。
一流と二流を分かつ <肝は>この部分に他ならない!
テクニックは学べても、インスピレーションは学べない。
《B・ワイルダーならどうする?》
という墨書きを額装して、
執筆中に迷いが生じたときには見上げ、自問自答している。
読者の皆さん、おまたせ候・・
さんざん引っ張ってきた、
<あの映画>の┃あの場面┃とは何ぞや?
作中・・
主人公である若い女性が、演技とカメラトリック(演出)により、
ワンカット内で
┃大人から少女へと退行してみせる┃
虚飾を排した・・映像マジックのことである。
今作以外の映画ではお目にかかったことのない、
(寡聞にして前例を知らない)
なんとも素晴らしい瞬間だ!
映画の果実=描写を見る醍醐味が味わえる。
CGを駆使してもこの感じは出せない。
アナログのすばらしさがここに在り!
ただ、
まあ、
ぶっちゃければ、
南マロのしくじりにより・・
残念無念な顛末を迎えた今。
狙い通り、場面にマジックを起こせるのか?
はなはだ、心許ないと言わざるをえない。
当初の監督構想では、
汐 坊がキャスティングされていた。
オマージュという名の泥棒には否定的なライターも、
「おーっ!」と声を上げたくなるようなグッドアイディア。
ユニセックスな彼女のルックスと申し分ない演技力は、
シーンをエモーショナルで強力なモノにするだろう。
疑いの余地は・・ない・・はずだった。
そんな皮算用は、
キラーオプション(法的に全セリフNG)を発動されたのち、
夢バブルと消えた。
廃案になりかけたところ、
「場面キャストをモモに変更して続行したい」マロはそう主張した。
ライターは「汐坊を使えない以上、潔く棄てるべき」と提言。
マロは「どうしてもトレースしてみたいのだ」と言い張り、平行線。
意地でも退行場面を書かない方針であった脚本家は、
酒席のあとで考えを修正、
マロの湧き出るイマジネーションを尊重してあげた。
最後にひと言だけ付け加えて。
「今回は折れる。
ただ、監督の目論見には、
モモでは厳しいという観点から、
ノットイコール〈≠〉と言っておく。
映画版凸レンジャーでは、
引用を止めて、オリジナルで勝負をかけよう」
二人は握手をかわした。
━〇━
セイム デイ、同日。
自己紹介を終えたヒゲもじゃ猪熊は、
のしのしと大股でイエロー汐のそばに寄っていき、
改めてあいさつをした。
腫れもの番付上位者の方も、
(失礼だとは思ったけれど)
腕組み姿勢のまま軽く返礼。
猪熊は摩天楼から見下ろすような角度で、
「汐坊にお願いしたい件あり」
目合図でスタジオの隅に誘った。
━ のっけから汐坊呼ばわりかい、ヒゲ熊さんよ!
この際だからハッキリさせておこうと、誘いに乗る。
小さな女優は、
摩天楼を見上げるような首角度で、
「まずお断りしておくと、
『凸レン』撮影中に 私こと笹森が セリフをしゃべることはあり得ません。
それと、演出家の要望はマネージャーを経由してもらう段取りになってます。
ご存じですよね?」
すこぶる膂力を感じさせるヒゲもじゃは、
「ええ、もちろん。
オレこと猪熊の頼みは、
要シーン撮りの際に、
あなた以外の、三色レンジャー〈赤・青・ピンク〉をみちびく、
指南役を引き受けて貰いたくてね。
いうなれば裏方=演出補助を依頼したいわけ。
これならオプションには抵触しないはずです」
明るい瞳に皮肉を着煙させ、
「マロ先輩の奮闘でスケジュールが押してます。
巻き演出でいきたいので協力して欲しい。
一度やって、イヤなら断ってもらって結構。いかが?」
先天性特技:人たらし笑みを浮かべた。
汐は奇妙なリアクションを見せた。
逡巡・・
葛藤・・
次いで・・
バクチ打ち ~ 丁半気質が顔を出した。
控え室(キャンピングカー)で待機し続けているのも退屈だし、
一丁のったろか!
腕組みをサッと!ほどいた汐は ━「イエス」とこたえた。
※アシとは・・
アシスタントのことです。
(ご存じとは思いますが、念のため)




