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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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猪熊 大介 

  

━〇━

ピョン!ピョン!ピョヨーン!


バネをめて思い切り 左へ跳躍ちょうやく ―― スッと着地。

即行そっこう右方向へ跳躍させ ―― ヒザクッション着地。

レフトへ・ライトへと交互(こうご)ジャンプをしたたかに決めた。

マイナスPOINTほぼ無し・・満点に近い出来である!

けれども、規定きていジャンプ風情ふぜいではらず、

彼は、跳躍ちょうやくそのものに、

芝居(ごころ)を注入させるべく|熱を込め|もう一辺いっぺんトライアル。

―― ドタン、バタン、すってんコロリン。


「あたたたた・・

ヤバい場所を打ったみたいだ。

回復かいふく途上の患部かんぶを微妙にやっちまった模様もよう

そなえあればうれいなし)

一発目のギャラで購入こうにゅうしたさらぴん(・・・・)スポーツバッグから

アイシング付サポーターをひっぱり出し、

自力じりきで腰にしっかりと巻き付け、

安静のため、うつせ姿勢をとる(とつ)ブルー。

アスリートは自分の始末は自分でつけるもの。


次いで、別の一人がエントリー。

勢いつけて跳躍に入る。

あぶなげなく着地を決め|瞬速しゅんそく|左方向ジャンプ。

切り返して、

果敢かかんに右ジャンプ|息ぎ拒否で| レフト跳躍。

躍動感フルスロットル!

美的動作でもって、

芸術点をかせいでいった。

ラスト一発は、

本尊ほんぞんだってできない、

ハイジャンプからのバックちゅうにチャレンジ。

あえなく、

おむすびコロリン!

着地時にバランスを失い横転おうてん、足首をギクらせてしまった。

「痛ッてててて・・

ちょっと、ヒネッた感じだ」

片足ケンケンで、

MY赤色スポーツバッグの近くまで戻ると、

彼は、スローな動作を基調に、右足首をかばいながら、

背すじを伸ばした状態で、慎重にしゃがみ込んでゆき、

両手が床につくタイミングで、脚前挙きゃくぜんきょL字ポーズへ移行させ、

垂直すいちょくに腰をしずめつつ、おずおずと着座ちゃくざした。

<意味の取りにくい方へ>

 ようは、着地でコケたレンジャーズの¼名が、

 床に「しりペタ(ずわ)り」したと想像しておくんなまし。

ソックスを下げて、

右足首全体にスプレー湿布シップ噴霧ふんむ

怖々(こわごわ)マッサージをほどこしていくレッドリーダー。


スタジオ内で。

(とつ)レッド&ブルー&ピンクは、

(ブラインド) (フェイス)社から

各自かくじあてに進呈されたネオ・ジャンピングシューズを、

それぞれがセルフカラー別にき、

()りに フリースタイル跳躍ちょうやくいどんでいた。


スティディカム撮影の際に、

イエローしおりせた自在ジャンプを、

「運動神経にめぐまれた

スタント出身の我々(われわれ)こなせないはずはない!」

なにげない雑談ざつだんから本気モードへ発展はってん

「それじゃあ、

実際にチャレンジしてみようぜィ」ということになり、

マロにほうむりかけられた腰椎ようついも順調回復してきていた、

(とつ)ブルーをスターターにして せるジャンプ に挑戦。

とはいえ、しおりマジックを再現するのは容易よういあらず・・

途中でバランスを崩し〈すってんコロリン〉あえなく退場。

レッドリーダーは、

さすがな動きで、七割(がた)トレースできたけれど、

(よこしま) ごころ に危機(ひそ)む|のならい通り、

本来の目的からナルシズムにれ、

挙句あげく、着地をしくじり〈おむすびコロリン〉右足首をヒネってしまった。

両名とも・・大事だいじには至らなかった。


トリ(・・)をつとめるピンクレンジャーモモ、いざ出陣しゅつじん

美しい線でイエロー汐の動きを再現、

緩急かんきゅうジグザク予期せぬ動きをまんま(・・・)繰り出し、

コミカル優雅な本家のムーブに肉薄にくはくしたまでは良し。

ただ、スタント出身者にあるまじき、

(危険) (予知)不足による突発事態発生!

\ネオ (ジャンピング) シューズの反発係数ハンパなく/

ひざバネをマキシマム(MAX)させたやんちゃ(・・・・)ジャンプは、

び主の予測を超え、はるかな高みへ達し、

宙空ちゅうくうでバランスをくずしたモモは、

両手を泳がせ、アップアップの あしてん\犬神家/さかさ落ち パニック。


―― うつ伏せ姿のブルーが叫んだ!

 「うわーっ、危ない。受け身を取れ」


 「モモー、ひざを抱えろ、頭をかばえ!」

―― 患部かんぶマッサージ中のレッドリーダー。


脳みそ+頭蓋ずがい搭載(とうさい)のモモは、

体勢たいせいを立て直すことはかなわず、

重力の法則に従い、しごく当然に、

悲鳴と共に、頭から、真っさかさまに落下していった。

不慮ふりょの裂け目 ━

その間隙かんげきうように、

|大きなストライドをきかせ()速接近してくる()有り|

髭面ひげづら者は、

急降下きゅうこうかしてくるモモのボディを すんでところで横抱きキャッチ。

と同時に、

彼女と みずからの両腕保護のため、

落下の衝撃には逆らわず、

進行方向へエネルギーをがすように身体をハーフターンさせ、

かかえ込んだ状態のまま、

なめらか動作でGパンの臀部でんぶゆかけ、

じくを決めると、

独楽コマのごとき回転スライディングへと連結れんけつさせた。

スピンはしだいに弱まってゆき、瑕疵かしのないストップに至った。

ヒゲづら者は、知性と感覚でもって、

つつがなく、モモの救助を成功させたのだった。


お姫様抱っこ体勢たいせいのまま、

スタジオのすみへ移動したひげづらは、

モモを横たわらせ、

自分のれたジャケットを折りたたみ、即席(マクラ)をこしらえ、頭の下に差し入れた。

脈搏みゃくはく及び瞳孔どうこうの確認をし終えると、

動顛どうてんして目をパチクリさせているモモに、

「よし。もう、だいじょうぶだ」

クールなスマイルを送信。飄然ひょうぜんと去っていった。

━〇━


「みなさま、始めまして。

第四話と五話を担当することになった

演出家の・・猪熊いのくま 大介だいすけです。

害獣がいじゅうのような苗字みょうじに、190センチ超のタッパ(身長)、

おまけにひげモジャときては、

威圧いあつを感じる向きもあると思いますが、

第一印象を裏切る部分も結構あります。

高校時代まではアメフト部|(クォーター)(バック)|で、

ボールコントロールをしていたチームワークをモットーとするバランス重視型。

ナイスのかんむりを目指すGUY(ガイ)です。

オレの尊敬(リスペクト)する映画監督は

チャールズ・チャップリンとジャン・ルノワール。

よろしくお願いします」


キャスト・スタッフせい(ぞろ)いのスタジオ内。

<赤・青・ピンクの3レンジャー(特にモモ)はアッと言った!

 先ほど ナイスキャッチ してくれた男性だったからである>


トラメガ〈拡声器〉を使わず、生来の肺活量はいかつりょうでもって、

明朗快活な あいさつをした猪熊いのくま青年(25)は、

南禅寺なんぜんじと同じ大学出身で一年後輩にあたる。

闊達かったつでサバサバした印象を見る者に与え、

チーフ演出家のマロ(芸術家肌)とは、だいぶ違っていた。

前任者批判ともとれる爽快そうかいな物言いも素敵だと、

・・聴衆の⅔以上は思ったことだろう。


れモノ番付、

東の上位者∥笹森ささもり しおり

うで組みヨロイポーズを取り静観せいかんしていた。

「マロの後輩じゃ期待できないカナ」


ニクまれっ子∥南禅寺は、番組を降ろされたワケではない。

CGチーム〈あか組〉の追い込み作業で現場を一時離脱。

予定通り ローテーション制で 猪熊いのくまが担当する運びとなっただけの事。

当初三名体制だった演出家は、諸事情により二名に削減さくげんされた。

 マロ監督の作成したコンティニュイティには、

 どうしてもしたがえないと 言い残し、

 三人目の女性演出家が降りてしまった経緯けいいによる。

 番組に女性の視点を取り込もうと

 意欲を燃やした(プロデューサー)のブッキングは水泡すいほうした。

 彼女は現在、

 深夜アニメ『まぐ☆マド』の演出チームに入り、アビリティー(才腕)るっている。


同時刻。

(とつ)レンジャー担当の売れっ子脚本家ライターは、

マロ南禅寺の依頼を聞き入れ、

彼がほっするシーンを実現させるために、

腕によりをかけてキーボードを叩いていた。


酒席をもうけ、腹を割って話し合ったことにより、収穫しゅうかくは得られたと思う。

―― クセつよマロの考え方は至ってまっとうだった。

おたがい共通点も少なくない。

映画版『(とつ)レンジャー』に対する監督のアプローチは正しい!

まったく同感である。

ただ・・京映のおエラいさんが認めるかどーか?

オールスター戦にして、安易にかせぐ方向を選択しそうだ。

ここんとこ、邦画界は、大宝だいほうひとり勝ち。

京映はやられっぱなしだからな。


金主きんしゅの資本家から見たら、

(一部の巨匠きょしょうのぞいて)

現場の最高責任者たるディレクターなんて、調整係みたいな存在(モノ)だし。

・・正しい意見を押し通すのは並大抵(たいてい)ではあるまい。








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