猪熊 大介
━〇━
ピョン!ピョン!ピョヨーン!
バネを貯めて思い切り 左へ跳躍 ―― スッと着地。
即行右方向へ跳躍させ ―― 膝クッション着地。
レフトへ・ライトへと交互ジャンプをしたたかに決めた。
マイナスPOINTほぼ無し・・満点に近い出来である!
けれども、規定ジャンプ風情では飽き足らず、
彼は、跳躍そのものに、
芝居心を注入させるべく|熱を込め|もう一辺トライアル。
―― ドタン、バタン、すってんコロリン。
「あたたたた・・
ヤバい場所を打ったみたいだ。
回復途上の患部を微妙にやっちまった模様」
(備えあれば患いなし)
一発目のギャラで購入したさらぴんスポーツバッグから
アイシング付サポーターをひっぱり出し、
自力で腰にしっかりと巻き付け、
安静のため、うつ伏せ姿勢をとる凸ブルー。
アスリートは自分の始末は自分でつけるもの。
次いで、別の一人がエントリー。
勢いつけて跳躍に入る。
危なげなく着地を決め|瞬速|左方向ジャンプ。
切り返して、
果敢に右ジャンプ|息継ぎ拒否で| レフト跳躍。
躍動感フルスロットル!
美的動作でもって、
芸術点を稼いでいった。
ラスト一発は、
ご本尊だってできない、
ハイジャンプからのバック宙にチャレンジ。
あえなく、
おむすびコロリン!
着地時にバランスを失い横転、足首をギクらせてしまった。
「痛ッてててて・・
ちょっと、ヒネッた感じだ」
片足ケンケンで、
MY赤色スポーツバッグの近くまで戻ると、
彼は、スローな動作を基調に、右足首を庇いながら、
背すじを伸ばした状態で、慎重に蹲み込んでゆき、
両手が床につくタイミングで、脚前挙L字ポーズへ移行させ、
垂直に腰を沈めつつ、おずおずと着座した。
<意味の取りにくい方へ>
要は、着地でコケたレンジャーズの¼名が、
床に「尻ペタ座り」したと想像しておくんなまし。
ソックスを下げて、
右足首全体にスプレー湿布を噴霧、
怖々マッサージを施していくレッドリーダー。
スタジオ内で。
凸レッド&ブルー&ピンクは、
B F社から
各自宛に進呈されたネオ・ジャンピングシューズを、
それぞれがセルフカラー別に履き、
順繰りに フリースタイル跳躍 に挑んでいた。
スティディカム撮影の際に、
イエロー汐が魅せた自在ジャンプを、
「運動神経にめぐまれた
スタント出身の我々に熟せないはずはない!」
なにげない雑談から本気モードへ発展。
「それじゃあ、
実際にチャレンジしてみようぜィ」ということになり、
マロに葬りかけられた腰椎も順調回復してきていた、
凸ブルーをスターターにして 魅せるジャンプ に挑戦。
とはいえ、汐マジックを再現するのは容易に非ず・・
途中でバランスを崩し〈すってんコロリン〉あえなく退場。
レッドリーダーは、
さすがな動きで、七割方トレースできたけれど、
|H 心 に危機潜む|の習い通り、
本来の目的からナルシズムに逸れ、
挙句、着地をしくじり〈おむすびコロリン〉右足首をヒネってしまった。
両名とも・・大事には至らなかった。
トリをつとめるピンクレンジャーモモ、いざ出陣!
美しい線でイエロー汐の動きを再現、
緩急ジグザク予期せぬ動きをまんま繰り出し、
コミカル優雅な本家のムーブに肉薄したまでは良し。
ただ、スタント出身者にあるまじき、
K Y不足による突発事態発生!
\ネオ J シューズの反発係数ハンパなく/
膝バネをマキシマムさせたやんちゃジャンプは、
跳び主の予測を超え、遥かな高みへ達し、
宙空でバランスを崩したモモは、
両手を泳がせ、アップアップの 脚天\犬神家/逆さ落ち パニック。
―― うつ伏せ姿のブルーが叫んだ!
「うわーっ、危ない。受け身を取れ」
「モモー、膝を抱えろ、頭を庇え!」
―― 患部マッサージ中のレッドリーダー。
脳みそ+頭蓋骨搭載のモモは、
体勢を立て直すことは叶わず、
重力の法則に従い、しごく当然に、
悲鳴と共に、頭から、真っ逆さまに落下していった。
━ 不慮の裂け目 ━
その間隙を縫うように、
|大きなストライドをきかせ獣速接近してくる者有り|
髭面者は、
急降下してくるモモのボディを 既の所で横抱きキャッチ。
と同時に、
彼女と 自らの両腕保護のため、
落下の衝撃には逆らわず、
進行方向へエネルギーを逃がすように身体をハーフターンさせ、
抱え込んだ状態のまま、
滑らか動作でGパンの臀部を床に着け、
軸を決めると、
独楽のごとき回転スライディングへと連結させた。
スピンはしだいに弱まってゆき、瑕疵のないストップに至った。
髭面者は、知性と感覚でもって、
つつがなく、モモの救助を成功させたのだった。
お姫様抱っこ体勢のまま、
スタジオの隅へ移動した髭面は、
モモを横たわらせ、
自分の縒れたジャケットを折りたたみ、即席枕をこしらえ、頭の下に差し入れた。
脈搏及び瞳孔の確認をし終えると、
動顛して目をパチクリさせているモモに、
「よし。もう、だいじょうぶだ」
クールなスマイルを送信。飄然と去っていった。
━〇━
「みなさま、始めまして。
第四話と五話を担当することになった
演出家の・・猪熊 大介です。
害獣のような苗字に、190センチ超のタッパ(身長)、
おまけに髭モジャときては、
威圧を感じる向きもあると思いますが、
第一印象を裏切る部分も結構あります。
高校時代まではアメフト部|QB|で、
ボールコントロールをしていたチームワークをモットーとするバランス重視型。
ナイスの冠を目指すGUYです。
オレの尊敬する映画監督は
チャールズ・チャップリンとジャン・ルノワール。
よろしくお願いします」
キャスト・スタッフ勢揃いのスタジオ内。
<赤・青・ピンクの3レンジャー(特にモモ)はアッと言った!
先ほど ナイスキャッチ してくれた男性だったからである>
トラメガ〈拡声器〉を使わず、生来の肺活量でもって、
明朗快活な あいさつをした猪熊青年(25)は、
南禅寺と同じ大学出身で一年後輩にあたる。
闊達でサバサバした印象を見る者に与え、
チーフ演出家のマロ(芸術家肌)とは、だいぶ違っていた。
前任者批判ともとれる爽快な物言いも素敵だと、
・・聴衆の⅔以上は思ったことだろう。
腫れモノ番付、
東の上位者∥笹森 汐は
うで組み鎧ポーズを取り静観していた。
「マロの後輩じゃ期待できないカナ」
憎まれっ子∥南禅寺は、番組を降ろされたワケではない。
CGチーム〈紅組〉の追い込み作業で現場を一時離脱。
予定通り ローテーション制で 猪熊が担当する運びとなっただけの事。
当初三名体制だった演出家は、諸事情により二名に削減された。
マロ監督の作成したコンティニュイティには、
どうしても従えないと 言い残し、
三人目の女性演出家が降りてしまった経緯による。
番組に女性の視点を取り込もうと
意欲を燃やしたPのブッキングは水泡に帰した。
彼女は現在、
深夜アニメ『まぐ☆マド』の演出チームに入り、アビリティーを振るっている。
同時刻。
凸レンジャー担当の売れっ子脚本家は、
マロ南禅寺の依頼を聞き入れ、
彼が欲するシーンを実現させるために、
腕によりをかけてキーボードを叩いていた。
酒席をもうけ、腹を割って話し合ったことにより、収穫は得られたと思う。
―― クセ強マロの考え方は至ってまっとうだった。
おたがい共通点も少なくない。
映画版『凸レンジャー』に対する監督のアプローチは正しい!
まったく同感である。
ただ・・京映のお偉いさんが認めるかどーか?
オールスター戦にして、安易に稼ぐ方向を選択しそうだ。
ここんとこ、邦画界は、大宝の独り勝ち。
京映はやられっぱなしだからな。
金主の資本家から見たら、
(一部の巨匠を除いて)
現場の最高責任者たるディレクターなんて、調整係みたいな存在だし。
・・正しい意見を押し通すのは並大抵ではあるまい。




