高2の挑戦
ドラマの時間は、視聴率の大台越えから、
少しばかり さかのぼる。
高校二年になった 大道 アスカは、
放送部の人気者に のし上がっていた。
生徒たちからリクエストや 投稿をつのり、
給食時間の放送では、マイクを通じて、
全校生徒へ向け、おしゃべりをした。
投稿をフレッシュに読み上げ、
曲をかけ、アイドルの物まね、 生歌を・・/披露。
お手本 を真似て、
詩的な表現をしようとすると、高確率でズッコケて・・/疲労。
「女子たちよ、恋のおまじないは、
乳首にハート型のスパンコールを貼ろう!」
なるトークをして、
職員室に呼び出され、始末書を書かされた。
閑話休題・・
放送部員の中でも、
マイクに向かう時の本気度はケタ違いだった。
三味線を持ち込み、祖母仕込みの腕前で、
ピンク・レディーの最新ヒット曲を弾いて、
聴くものを飽きさせなかった。
ほかの部員は、
あくまで部活動の一環というスタンス。
アスカの場合はマイクに人生を賭けていた。
校内にはファンクラブも発足=『ビックロードの会』。
アスカの行動は直情型に見られがちだが、
周囲に意見を求め、
積極的に取り入れる柔軟性も兼ねそなえている。
社交性も、商人家業ゆえ、生来身についていた。
芸事の好きな祖父いわく・・
「おのれを視ることはできない。
進歩したければ、
夢中になりつつ、
訊き、聞きわける耳を持つこと」
幼いころ、ケン玉やコマ回しの練習をして、
同じ失敗を繰り返していたとき、
祖父のアドバイスにより上達した経験があった。
そのとき発せられた言葉は、
実感として熱く身体に残っている。
まい進しながらも、
必要な客観性を取り入れていく。
高二の夏、
いよいよ計画を実行に移すときがきた。
『スター誕生』の書類選考と
オーディションを突破したアスカは、
TV中継のある本戦の晴れ舞台に出場。
自社のプラカードを持った
芸能プロのスカウト達がひしめく最終選考の場へ赴く。
公開生放送、客席は超満員。
・・と・・
・・このように・・
・・台本には・・書かれていた。
華やか、
スリリングな場面になるのは必至である。
まことに、まことに、残念なことに、
権利関係と予算の都合でポシャってしまったのだ。
脚本家と コイシツは、
のちに大スターとなる 〇〇〇〇 と アスカ を、
VFXを使って、
オーディションの 同一場面に登場させるべく、
皮算用 していた。
藤本プロデューサーが本気で動けば、
実現の可能性はあった・・かもしれない。
胆力 に、
僅かばかり欠ける P は腰が引けてしまった。
権利関係をめぐる、
日テレや大手芸能プロダクションとの折衝、
予算枠 拡大の談判(VFXには金がかかる)、
生命を削るような交渉事の連続はNGだった。
ハードルが高すぎる。
ここは現場に泣いてもらうことにした。
GOサインばかりでは P は務まらんのだ。
かくして、不精不精 台本は直され、
番組名は『スターはきみだ☆』に変更された。
公開収録に使われるセットは、
似て非なるものを建てた。
特殊合成は むろん使えず、
〇〇〇〇の(営業専門)物まねタレントを起用した。
エントリー曲はそっくりさん に、
本家の声真似で歌ってもらった。
まだ素人時代なのだ・・
持ち歌などあろうはずがない。
著作権フリー(盛り放題)
押せ押せである。
めんどうな肖像権侵害を回避するために・・
顔をはずした首下ポジションや後ろ姿、
または俯瞰アングル、
ミラーボールのハレーションを使用したりして、
〇〇〇〇とアスカのツーショットを撮影するなど、
チープに見えないような工夫をして難局を乗り切った。
カバーショットをいくつか押さえ、
あとは編集でごまかす訳デス。
この時のドロドロした怨念が・・
汐 とサウンドステッカーの共演という
リターンマッチとして 甦り、
VFX合成を実現させることになる。
さすがに、
周囲の負圧を感じた藤本Pは、
仕方なしに重い腰を上げ
ケン・ユミの遺族や
ラジオ局との協議を重ね、
権利関係をぶじクリアしたのだった。
最終選考で〇〇〇〇は圧倒的な評価を受け、
芸能プロ十社以上のプラカードが上がった。
続いて大道アスカ。
応援に来ていた
放送部やファンクラブの生徒はかたずをのむ。
芸能スカウトは無反応。
プラカードは上がらず。
シーンとしている会場。
タレ目の司会者が情に訴え、観客を味方につける。
催促に応えるように
拍手が起こり、徐々にうねっていく。
極限の緊張で待つアスカ・・
切迫した表情 ━(汐の両目) ━ の超接写をカメラに収めるため、
眼科医立ち合いのもと、
眼底検査用の特殊な目薬を差し、
限界まで瞳孔を開かせて撮影した。
中堅プロダクション一社のみ、
(他社は無関心)
プラカードを掲げた。
会場を包む判官びいきの大きな拍手。
お断りしておくと、
スカウトマンは情に流されたわけではない。
職歴の長い したたかなプロ である。
甘さはなかった。
独自の「ものさし」で測っていたのだ。
迷いの靄が言葉に変化した。
━ 決めをもたない地味な 大道アスカ の可能性 ━
━ 歌うとき、話すときの、不思議な声の〈伸び〉だ ━
━ 清潔な色気と、あとを引く〈残像〉を描き出している ━
━ 不確かではある。しかし、オリジナリティーを感じる ━
余談になりますが、
スカウトマンは 乙骨P のカメオ出演。
『サスティーン』 = 音の余韻。
ドラマの題名の由来である。