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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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VISITOR|来訪者

笹森ささもりには

 見事にちゃぶ台を引っくり返されましたよ。

 新番組<スーパー戦団せんだんシリーズ>へ出演オファーのさい・・

 しぶるタレントから承諾しょうだくを貰うため、

 交換条件として

 異例のオプション権利けんりを与えた張本人ちょうほんにんである

 私への風当かぜあたりは、

 もう、警報発令クラスのいきおいです。まいりましたな」

タレントの近況きんきょうをたずねられた

聖林ひいらぎプロの左近さこんは、

そう言うと笑った。

手土産てみやげたずさ

アポの時間きっちりにたずねてきた係長の表情は、

ハプニングをたのしんでいるように見えなくもない。


週末土曜⏱午前11時。

こじんまりとした探偵事務所の応接室にて、

差し向かいで腰かけている、

里見 恭平きょうへい所長と

DJアイドルの元マネ左近(さこん)

ちょいと珍しい組み合わせではある。

ほかに誰もいない

・・アルバイト助手は調剤薬局店で勤務中。


「お気にすかどうかはかりません」

うかがい語尾をバッサリ省略した来客は、

ツヤ加工されたA4サイズのアートバッグから・・

made by Fresskoフレスコ の保温タンブラー

(ブラック&イエローの各カラー)二個を取り出し、

テーブル上に置くと、

個分こわけされたハイシュガー、有機ゆうきミルクなどをえ、

探偵にすすめた。


「では遠慮なく」

黒色こくしょくタンブラーを持ちあげた里見は、

飲み口をワンタッチで開き、

ブラックのまま、ひと口すすった。

とたん、味蕾みらいにオアシスが現出した。

「・・コピルアクか!?」


里見さとみが年に一度か二度、

贅沢ぜいたくをしたいときに、

特定店へおもむき、

のど(・・)にくぐらせる逸品いっぴんだった。


偶然の手土産てみやげではあるまい

・・どこで調べたのだ?


訪問者は、イエロー容器のフタを回し開き、

ブラウンの湯気立つ液体に

琥珀色の宝石(ハイシュガー)5gと有機ミルクを入れると、

スプーンで無造作むぞうさに かき混ぜ、

開蓋かいがいしたままグビリと飲んだ。

「コンビニ珈琲コーヒーより、ちとマシな程度ていどですかな。

やはり、和菓子好きな自分は緑茶に一票を投じたい」


来客の感想()を受けた里見は、

かすかな警戒をひとみの奥に宿やどし・・

硬質こうしつな笑みを浮かべた。


「それから、里見さん。

私、紫煙しえんは気にならないタイプなので、

気遣きづかいせずに 一服いっぷくなさってください」

タレ目に親しみを込めて元マネ。


「(プカプカ)

詳細な依頼(うかが)いメールをありがとうございました。

近過去である平成へいせい時代・・

警察職にあった私が苦杯くはいをなめた未解決事件(コールドケース)を、

今一度掘り起こして、解明かいめい尽力じんりょくして欲しい。

その結果を 調査報道として

ラジオの特別週間(スペシャルウイーク)でオンエアしたいむね、理解しました。

まあ、ひとことで申し上げて

たいへん難題なんだいですな。

解決できる可能性は5パーセントにも満たない。

その上、費用も時間もかかる

━ 〆切は一年(しばり)り ━

こくなレベルのミッションです」

深い息をつき

視線を落とした里見は、

コピ(珈琲)をすすり

一拍いっぱく置いて語りかけた。

左近さこんさん、

事件調査というものは、

サスペンスドラマのように、

過不足かぶそくなくは進まないものです

ラストにガケも出てきません。

現実の刑事たちは、

当たりだまるために、

累々(るいるい)たるムダ足の骨折ほねおぞんむ・・」

経験者特有の感慨かんがいを表情にきざむ 元刑事。

捜査班そうさはん一致いっち団結だんけつして、

頭脳と忍耐にんたいと体力をしぼり、

不撓ふとう不抜ふばつの情熱を投入しても、

なお、限界にぶち当たってしまう迷宮入り事件。

敗北にいたおもな理由は、

政治(がら)みの案件は論外としてはぶき、

例外はあれど、

ミステリー小説のような大トリックを実は必要としません。

〈ホテル『設楽しがらき』で起きた、

 一方の密室事件は、

 トリックをろうしていたからこそ解明できたともいえる。

 目の前にある設問せつもんを解けばいいわけですから〉

設問の見当すらつかない

難事件は、

理外りがい該当がいとう

すなわち・・

┃偶然のりなす絶妙なThreads (スレッズ)(あや)が、

 (しかも、犯人側に有利に働く方向性で)

 まれてしまった鬼巧きこうって起こります┃

したがって、

神風でも吹かぬ限り

コールドケースの解決は困難というのが私見です。

左近さん、このプロジェクトは、あきらめた方がよろしい。

あなたの提示ていじしてくださった

過分かぶんな申し出には深く感謝しております。

もし、

かの事件に、

どうしても、

んでいきたいのならば、

警察OBを多くかかえた、

大手の探偵事務所を当たるべきでしょう。

正直、私にはが重い」


引き取るようにしてうなずいた来客は、

ゆっくりと黄色いタンブラーを持ち、

口へ運び、

☕珈琲を味わいつつ、

事務所内を自然な感じで見やり、情報を呼吸する。


高価とは言えない家具類は、

工夫くふうらした組み合わせがなされ、

洒落シャレ しぶなレイアウト感をかもしていた。


壁に掛けられた唯一の絵画は、

抽象ちゅうしょう 幾何きか表現というべき、

パズル構成を持ち、

Muted(抑えた) color(色調)が派手を圧縮、内奥ないおうに封じ込め、

それでいて破綻はたんなき自然調和をたもっており、

素人目しろうとめにも才華(さいか)を感じさせる作品だった。


はて?

事務所内のところどころに

ことなるトーンが見てとれる。

インテリア類のセレクトセンスに、女性の息吹いぶきが感じられた。

探偵は未婚~独身である。

簡単消去法~助手の鈴木サユリという結論にリーチした。


アルバイト助手は

ブラウンのロングヘアがたいそう似合うメガネっ()

大卒で薬剤師資格を持ち、

三か所のことなる職場でアルバイト勤務をしており、

月収は20万前後。

血液型Bタイプの作家志望者。

交際相手有り、ただし遠距離。

ビジネスホテル『設楽しがらき』で起こった

殺人事件をきっかけとして、里見と知り合う。

総体的にかしこい女性であると・・調査報告書に記されていた。


遊ばせていた視線を

探偵へ戻した左近係長は、

里見の逡巡しゅんじゅん払底ふっていすべく、

登録商標ともいうべきタレ目をグイと水平に持ち上げ、

ディールにのぞんだ。



・・たして・・

むや、詰まざるや ━

次回に、ご期待くだされ。


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