コンテンション|闘争
◆再々、イエローレンジャー/ 汐のケース◆
ようやく本番を迎えた・・鬼門場面の撮影。
異世界生物モルグが吐き出す未知の液体は、
最終的に、
すり潰したグリンピースと水の混合物に差し替えられた。
案の定・・
南禅寺監督は事前説明を(八割方)くつがえし、
緑液体を女優の顔めがけ\直撃 =ぶっかけ/してきた ━
《完成版では、
液体をビーム状にCG処理、
怒号音を被せ、
射出速度を編集操作で、
視覚認識リミットまでスピードUPさせる》
━ <目には歯を!>
演者イエロー汐は、
瀬戸際で、撮影段取りを蹴っとばし、
敏捷 究まりない
アニマル動作でモルグの攻撃を躱し切った。
映像至上主義者である南禅寺の強引な演出術に、
辟易した女優は、
マロ監督の指示を・・
全面ガン無視モードまでアップデート。
本能任せにムーヴをかまし、
アドリブで対抗することに方向転換した。
監督に「カット」をかける暇を与えず、
演技を切らないまま本番を継続させ、アクトする汐。
ステディカムの超長回し特性 ━
━ そのリクエストに応えるために、
密かに準備し、着用していた
(G氏発案によるBF社製の試供品)
イエローカラー、
ミドルカットのネオ・ジャンピングシューズを・・
┃苦手な体技をねじ伏せるべく、
集中力を限界以上に絞りあげ、
アドレナリンを噴流させると、
運動機能を司る脳レセプターにアクセス、
空間制御信号をコントロール、
絶妙なバランス感覚を手に入れ┃
・・駆動スタートさせた。
モルグのリキッド攻撃を避けつつ、
スタジオ内を所狭しと、
ぴょんぴょん自在に跳ねまわり、
火事場力に自由な心を直結させ、
予測を裏切る、
奔放かつ奇抜な動きを
キュートな躍動感でコーティング!
誰にも真似できない、
陶酔ヴィジュアルを提供して魅せた。
そして・・
いよいよフィニッシュ。
限界タイミングまでタメにタメ、
グイっ!とこちらを振り向いて、
【レーザー光険】を抜き、
反撃ポージングの大見栄を切った。
一連の疾い汐ムーヴは、
ステディカム撮影オペレーターをてんてこ舞いさせた。
倍量以上の照明強度も加わり、
ついには・・等張性脱水症状へと追い込むに至った。
ニヒルな南禅寺は、
余りの奇想天外ぶりに啞然とし!
本番撮影中にもかかわらず
笑い出してしまう失態を犯した
(同録ではないので、
ぎり、ノープロブレム)。
撮済み映像をタブレットで確認したマロ監督から、
「うむ、上出来。お疲れさま!」
会心のワンテイクOKが出た。
束の間・・
「女優」と「監督」
磁石におけるS極とS極のあいだに、
親和性のあるブリッジが架かった。
ステディカムの機動力を存分に生かす、
アドリブアクションを披露したイエロー汐。
女優は・・
南禅寺を含めたスタッフ一同から、
盛大なアプローズ・シャワーを浴びた。
スタジオ内はワイアードな空気が立ち込める。
その中には・・
目を点にしたコンビニくんの姿も うかがえた
「ほう やるじゃないか、同年代!」。
今撮影・・
真のMVPであるステディカム・オペレーターは、
担架で別室に運びこまれ、
待機ドクターに救護され、点滴を受けていた。
休憩時間。
監督室に戻った南禅寺は、
デスク前に腰を落ち着け、
マルコポーロのストレートティーを飲んでいた。
♨湯気の向こうに、
演出家のフィルターを通した、
笹森汐に対する評価フラグメント(断片)が、
浮遊揺曳する。
┃中性的、しなやか、意外な瞬発力、ガッツ有り、
超器用、演技力/判断留保、表現力特A、
小生意気、自己主張強し、舌を巻く 物まねの才、
直観重視型、低学歴/高IQ、数学的思考不得手、
体技平均以下、ファニー・フェイス、仄かなエロス内在、
肉感性薄し、スタイル聊か貧弱、未成熟、
セックスアピールC、従順度Cマイナス、
アドリブを躊躇しない胆力保持、
俳優仲間を大事にする(半面)本質は単独行動を好む┃
南禅寺は・・
女優の特徴要素をイメージ加速器にかけ、
高速度で回転させ、
最小単位にまで分解、
┃主観に偏向することなく客観を保持し┃
┃あくまで起点を笹森汐の霊性に置き┃
さまざまな形態に変化させ、再生成を試みる。
熱を込め・・
繰り返し、繰り返し・・
頭脳配線がショートする間際まで
怯むことなく追い込んでいく。
そして ついに、
まったく意表を突く、
実にユニークな、
<笹森汐像>が顕現した。
「果たして、それは可能であろうか?」
と自問自答してみる。
現在のCG技術をフル動員すれば・・
18歳女優の持つ隠された霊性と能力を
目的地点まで導ければ・・
「技術」と「才能」と「隠れ種子」
この三者の掛け合わせに成功したら・・
笹森本人すら気づいていない、
未踏の領域を切り開けるかもしれない!
危険を伴う、
たら れば仮説に魅入られ、
まっしぐらに磁き寄せられていく南禅寺。




