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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
6/63

レモンちゃん

遅ればせながら・・

朝の連続ドラマ『サスティーン』とは、

こんなあらすじである。


━〇━

主人公(ヒロイン)大道おおみち アスカ は一人っ子、

東京の下町に生まれ、

祖父母・両親に囲まれて、すくすくと育った。

生家せいかは、二代続く 乾物屋(かんぶつや)である。


現在ではあまり見かけなくなった

乾物屋かんぶつや とは、

まあ、読んで字のごとしだが、

アスカのところは惣菜そうざい屋も兼ねていた。

店先では煮込んだ おでん(・・・) も販売している。

いわば小さな食料専門店といったところ。


1970年代中盤・・

アスカ(15歳)は試験勉強をしているとき、

ふと聴いたラジオの深夜放送に、

たちまちにして心を奪われる。

DJ(パーソナリティ) の名はレモンちゃん。

夜更よふけの舗道ほどうに、

ひとつ置き忘れたレモンが・・」

詩的な語りをナチュラルに、

こなせる若い女性(局アナ)だった。

言葉のセンスにあふれ、

たましいに優しく語りかけてくるようなキャッチーな声、

引力に満ちたトークは

週ごとに

アスカの熱狂を加速させていった。

嬉しいことに レモンちゃん は

ルックスも期待を上回っていた。

(若いころは憧れの対象に完全を求めがちである)

写真で見る彼女は、

どこか はかなさをただよわせており、

その部分に、

結界けっかいられている感じで、

好奇心をより強くした。


レモンちゃんは文才も豊か、

『小さじ一杯の幸せ』(詩とエッセイ)シリーズを執筆、

いずれもベストセラーを記録した。

乙女心を撃ち抜くような、

透明な文章がつづられていた。

アスカは、本を買いあさり熟読した。

DJのポスターを部屋中にべたべた貼り、

苦心のすえにキューシートを入手、

レコードやウイスパーカードまで収集した。

レモン教信者の誕生である。

彼女のイベントに参加できなかったのが、

唯一の心残り。

あの熱に浮かされたような高校時代=思春期に、

実物と逢ってみたかった!

残念ながら・・

レモンちゃんは70年代末に、

DJ稼業の第一線から退しりぞいてしまった。


汐坊にとっての ━「あのお方」━ のような存在だ。


アスカは、

自分の一生の道を

「ラジオ パーソナリティー(DJ)」と決意、まい進する。

高校では放送部に入り、

パーソナリティー修業をした。

※ 当時、DJを パーソナリティーと 呼称こしょうし始めていた。

  たんなる番組進行役の司会ではなく、曲知識の豊富な紹介者でもなく、

  トークの得意な魅力ある個性を有する者という意味である

  ・・以上豆知識でした ※

━〇━


このドラマのユニークなところは、

定石じょうせきっとばしてみせた構成にある。

普通であれば、

主人公は勉強に精を出して大学へ入り、

その後アナウンス研究部に所属、

ラジオ局の入社試験を受ける

という青春篇として描かれる。


クソ喰らえ!


そんな、

手アカのついた面倒くさい手順は踏まないンである。

アスカは、DJになるためだけの目的で、

とりあえず 芸能人タレントになるのだ。

前例なき作戦を敢行かんこう

初志しょし貫徹かんてつして DJの道へと至る。


どのような手段で?


ベテラン脚本家の 湯浅ゆあさは、

ブリリアントなアイディアを持っていた。

かの時代に放送されていた

人気番組『スター誕生』を活用する手だ。

視聴者参加型オーディション(=歌手)番組に、

大道アスカを 出場エントリーさせる。

絵的に()える、

視聴者の歓心かんしんを呼び起こす、

視聴率も上がるに違いない。

一石三鳥ではないか。

オレ様の評価も上がる。

映画界から声がかかるかもしれん。

ひょっとしたら<ネットフリックス>からも・・


一般人からアイドル歌手を経てラジオDJへの、

大胆だいたんなジャンプアップ。

パーソナルドリームの実現だ。

ベテラン脚本家は、

連赤の宣言にも引用された

人気マンガになぞらえて、

こう のたもうた。

「ウルフ金串(かなぐし)作戦」

(某コミック参照のこと)。


ここで、主役に

笹森 汐を起用したことが生きてくるわけだ。

というか・・脚本家による確信犯・・

き」であった。

ベテラン脚本家は

『ラジオ哉カナ』のヘビーリスナーである。


達者きわまりないくせに、

枠組みに収まる事をときおり、拒絶BOMB!

秘蔵のポテンシャルをさく裂させる

DJアイドルに、

強い興味をいだいていたのだ。


鋭さにプラスして、

安定感も そなえている二刀流。

この二者は 犬猿けんえんの仲、両立は至難しなんのワザである。

才走るタイプは 閃光(せんこう)を放つも・・先細りを免れない。

安定型は おおむねキレを欠き・・退屈たいくつさを ともなう。

汐坊は前者のレールを行く典型と、脚本家はんでいた。

しかし、ラジオの生ドラマによる 加圧かあつから、

才気を納刀のうとうするサヤを手に入れた。

スターに不可欠なモノホンの強運を持っていたのだ。

コレには驚かされた。


女優、いやもっと広げて俳優にとって、

プロデューサー・脚本家・演出家に

利己心(お仕事)を超えて、

本気にさせることがかなえば、

この上ない、ラッキーストライクなのである。

不測ふそくの事態が起こらないかぎり、

作品のクオリティーは(ほぼ)保証されたも同然だ。

よしんば失敗作になっても、俳優は立つ(・・)


東京側が制作する、

春放送予定の朝ドラの企画会議の席についた脚本家は、

仕方話しかたばなしや 企画書 ではなく、

二十話ほど書いた本番用台本 (キャスティング表入り)を、

提示ていじ。プレゼンした。

すると、演出家の井箟(いのう)さんは

「可能性を感じる。やるべきだ」と 推挙すいきょしてくれた。

コイシツの発言力は強く、会議室の風向きは肯定方向に流れた。

そこへ・・

ベテランの藤本P (プロデューサー)が割りこんだ。

井箟いのうちゃん、基本的には賛成だよ。

バックステージ物の要素もあるし、

面白さのニオイは充分する。

『スタ誕』の場面なんて目に浮かぶようだ。

しかしさ、半年の長丁場、

このレベルで脚本を書き続けられるのかね?

それに権利関係を押さえる労力を考えると

・・どうだろうね?」

心配性のPは、

脚本至上主義者といわないまでも、

そっち寄りである。

彼のポリシーはある意味正しい。

名作といわれる作品は おおむね脚本がすぐれている。

設計図である、

不出来な脚本を名作にするのは、まず不可能。

まぐれか奇蹟か天才を必要とする。

注目度の高い 朝ドラ に現場の僥倖ぎょうこう

期待するワケにはいかないのである。

口にこそ出さなかったが・・

脚本家の 湯浅 二三 は有能には違いない、

かつては優れた作品をいくつかもの(・・)にしている、

ただし有名な遅筆家で、

好不調の波が激しく、

アルコール依存症という噂があった。

できれば 共同脚本家制セーフティーネットきたかったが、

朝ドラの予算と 方針(著作権問題)と伝統により却下。

第二候補の新進 平塚 公平 は堅実で、

波も少なく、締め切りも 遵守じゅんしゅするので、

本当は、こちらを起用したかった。

女流漫画家のヒロインというアイディアも悪くない。

とはいえ・・

湯浅のバックステージ物という提案には、

かなわない。

笹森 汐の適性にはドンピシャだ。


安定を取るか?

博打バクチを打つか?


会議は、藤本P対コイシツ、

消耗戦のようそうをていしてきた。


井箟コイシツ は、

Pとは別の、

クリエーター視点で脚本を読解していた。

脚本家は明らかにノッていた。

創造のアドレナリンが伝わってくるのを、

文字列から明瞭に感じる。

コレに乗らない手はあるかい!

創作のミューズがほほえんでいるではないか!

万馬券の一点買いだ!


藤本Pは・・土俵を割った。


晴れて、『サスティーン』にGOサインが出された。



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