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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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コンビクション|信念

◆再び イエローレンジャー/ しおりのケース◆


奥懐おくふところからつむぎ出した演技を、

死産エンドさせられた、

汐の怒りは燃えさかった!


七尾マネは

スマホ連絡してアポをとり・・

控室も兼ねたキャンピングカーで移動。

演出家の伊能さん(コイシツ)のところへ行き、

女優をなだめてもらった。

そのあと・・

ラジオ局へも車を走らせた。


乙骨(おっこつ)Pは、

汐に・・

・・ありったけの不平不満を吐き出させ、

ふむふむと聞き、

うなずきながら、

あま菓子をすすめ

(甘系はストレス脳に優しく作用する)

心のツボをマッサージして、

うまいこといやしてくれた。

・・さすがはDJアイドルの生みの親である。


南禅寺なんぜんじ監督には、

左近係長から直電が入り・・

さとすような口調で・・

演技者の繊細せんさい過程かていかれ、

現場統括(とうかつ)者としての自覚を持つよう、たしらめられた。

プライドのかたまりである南禅寺にとって、

数少ない、頭の上がらない相手であった。

かつて・・

TV局内で厳しい立場に置かれていた南禅寺を、

有利な条件で引き抜いてくれた恩人なのだ。


ローリングストーンしたすえ・・

翌日、笹森ささもり 汐はスタジオに元気な姿を見せた。

スタッフ一同、温かい拍手で女優を迎えた。

南禅寺監督も

その中心となり、ウエルカムポーズ。


汐は監督に形式的なびを入れ、

新品の高級(かわ)グツをプレゼント。

南禅寺は慇懃いんぎん無礼ぶれいに受け取った。


スタッフ連中から・・

(カゲ)しょう=マロと呼ばれている、

南禅寺なんぜんじ 助麿すけマロ 監督は、

ちょっとやそっとで信念を曲げるタマ(・・)ではなかった。


(とつ)イエローのウルトラ・アップを撮影するため、

カメラを ローアングル気味にして、

しおりの顔ギリギリまで接近させた。

鼻を中心とした(トップ(頭頂部)まで含む)女優の小顔を、

ミリ単位指定のるぎない構図で、

画面いっぱいにポジショニングしたあと、

┃ホラー映画でも、

 めったにお目にかかれない

 異様なアングルだ┃

おそろしく細かいライティングの調整に入った。

マロ監督の方針で、

ボディダブルは立てずに、汐本人を被写体ひしゃたいにした。

(女優もべつだん意義はとなえなかった)


すぐ目と鼻の先 下方にカメラが設置され、

ちょっとでも動いたら、ぶつかりそうな塩梅あんばいである。

ライティングには90分以上かかった。

少しでも顔をらそうものなら、

「動くな!

女優なら辛抱しんぼうなさい!」

監督のRip(リップ)ヴォイスが鼓膜こまく刺突しとつする。


ガマの油のような時間は終了し、

演技リハーサル・スタート。

リハと言えどもマロの場合、

つねに・・

ベスト・アクト+アルファを要求してくる。

そのわり、

リハ=本番= 一発(いっぱつ)OK で、

終了となるケースなんかもある。


「こんな顔スレスレに、

カメラを寄せられたら、

演技に集中できないじゃん!」

演じる側のストレスはハンパない。

ベテラン俳優でも怖気おじけづくような接近戦だ。


汐は・・

窮屈きゅうくつきわまりない十字架にめこまれたような状態で、

憤懣ふんまんやるかたない気分のまま、集中し、アクトする。

しかし・・

さすがはプロ女優、

あざやかな芝居をやってのけた。

「ふふん、

 どんなもんだい。

 ざまぁマロ!」


監督から「カット」の声がかかる。


ひょっとして一発OKかな?

と、半信安堵していると・・

「NG!」が出た。


汐の頭は\?マーク/であふれかえる。

「なんでだ?

演技はOKのはずだから、

技術的な問題が発生したかな?」


を置かず、

スタイリストが真っ青な顔して、スッ飛んできた。

女優の髪の毛が一本(・・)逆立さかだっていたのだ。

懸命けんめいにクシでかし、

ブラシで寝かせても髪の毛は言うことをきいてくれない。

妖怪ようかいアンテナみたく、ピン!と立ったままである。

オロオロしまくるスタイリスト。

つかつか(・・・・)とせっかちかな足音を立て、

やってきたマロ監督は、

「ヘアスプレーを取って来ます!」

 という、

 スタイリストの言葉をさえぎり、

汐の髪の毛を、

細長い人さし指(・・・・)にクルクル巻き付け、

ピッ!と引っこ抜いた。

瞬間、痛みで、

顔をゆがめた女優に、

「礼は、

 結構けっこうです!」と言い放ち、

クルっと背を向け、

強引ごういんにスタイリストの腕を引き、

「シュート!GO!」

撮影をスタートさせ、

カメラの画角からスピーディーに消え去った。


「ク━━━━━ッ!

 あのヤロー!

 女の命たる髪の毛を

 引っこ抜きやがって!

 ク━━━━━ッ!ク━━━━━ッ!ク━━━━━ッ!」

怒り心頭しんとう

溶岩ようがんグツグツ、

ルース台風級のヘクトパスカル!

怒りの爆発力を、

女優のさがでもって強引にベクトル転換てんかん

演技へと転化させ、

圧倒的な表現力で┃OK!┃を勝ち取った。


「エクセレント!」

マロ監督は珍しく絶賛した。


このエピソードにはオマケがあり・・

女優の髪の毛は、

即日ネットオークションに、

(引っこ抜きの決定的瞬間を収めた)

粒子りゅうしのひどくあらい画像付きで出品され、

なんと・・五万円の値で落札らくさつされた。


出品者の犯人(さが)しは、

聖林ひいらぎプロ主導で念入りに行われたものの、

(容疑者はスタッフ若干名(じゃっかんめい)しぼられた)

結局、うやむやのまま終わってしまった。


この一件は・・

汐の、

南禅寺監督に対する不信感を、

より強固きょうこに塗り固めた。

<戦団もの>に乗り気でなかった、

拒絶感きょぜつかんをも鮮烈せんれつよみがえらせた。


そして・・

後日・・

セットの組んである

(クツ踏み事件のいわく(・・・)つき)

別スタジオにて、

前回、中断した撮影を再開することになった。


フェノメノンの正体を見きわめようと、

骨董こっとう椅子に腰かけたイエロー汐が、

不穏ふおんな物音で振り返り、

異界生物モルグと遭遇そうぐう

(本編では)ブーン♪というシビれる効果音ととも

颯爽さっそうと【レーザー光剣(こうけん)】を振りかざし、

応戦(おうせん)体勢を取る(とつ)イエロー。


敵にフェイント・トラップをかけられ、

不覚ふかくにもモルグの吐き出した、

未知の液体を浴びてしまう・・

・・バトル・シーン序曲。


今回の撮影は、

完遂かんすいさせたいので・・

助監督まかせにせずに、

南禅寺みずから段取り説明を、

丁寧ていねいな口調で女優に行った。


◇液体はまったく無害であること。

 とはいえ、

 顔にかかる懸念けねんがゼロとは言えない・・


◇スティディカム撮影をするので、

 不自然にならないていどの、

 動きをからめた派手なリアクトをして欲しい。

 ※スティディカムとは・・

  振動吸収装置(スタビライザー)付きカメラで、

  激しい移動撮影をしても画面ブレ(・・・・)しない。


◇もし、不安であればボディダブル (代役)の用意あり。


 マロ監督は、

 本番さながら、張りつめた空気を作り出し・・

 くだんのシーンを(汐を模造した)人形を使って、

 リハーサル&レクチャーを開始。


━モルグから吐き出された未知の液体を浴びる・・汐人形。

 (助監督が操演そうえんする)人形はオーバーアクト気味に動き回り、

 それをスティディカムで機動力豊かに前後左右から撮影する ━


チェアに腰かけた汐は、

あらためて・・

撮済さつずみ映像をタブレットで確認する。

女優の頭は高速回転、

動きをともなった、

斬新ざんしんなリアクト演技プランが、

パタパタ組み立てられてゆく。


南禅寺は、

女優を包含ほうがんする微細な変化を・・

空気のざわめきを、

そして温度を、

さらに奇妙な色彩を、

・・犀利眼さいりがんでキャッチした。


のぞき込むように、

汐の返答を待っている監督。


彼に視線を向けずに・・

(目を合わせたら嫌悪感が噴出ふんしゅつしてしまう!)

「代役は不必要。

 私流わたしりゅうでやれると思います」

・・確信をもってこたえた。


南禅寺はだまってうなずいた。


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