夏のスペシャルウイーク
令和7年、夏、
『ラジオ哉カナ』聴取率調査週間本番オンエアである!
放送ブースと副調整室は、
ふだんのリラックスした雰囲気に、
S・Wならではの緊張がワンビーム走っていた。
いつもなら副調整室で見守っている七尾マネの姿はない。
DJを送り届けたあと、
『凸レンジャー』の打ち合わせで、
撮影所にトンボ帰りしていたからである。
Pのキュー出し!
深呼吸してカフを上げるDJアイドル。
今晩放送の目玉企画である
80分のラジオドラマ、
笹森汐企画『1952年・夏/いただきマンモス』は、
ゲストコーナーをサンドして、
前|後編にわけてオンエアされる。
番組関係者は、
内容の告知を最小限におさえつつ、
濃い二時間を提供しようと、下準備を整えていた。
乙骨Pは・・
物欲しげな匂わせ予告が大嫌いだった。
ドラマのあらすじは無論のこと、
ゲスト名も伏せさせた。
(番組表にも載せない)
ゲスト出演者にもSNSでの事前発信を禁じた。
サプライズを損なうからだ。
汐も、
Pの方針には深く賛同していた。
・・生放送は、
意外性&とっさの対応が命なのだから。
ラジオやネットを介して
同時聴取しているリスナーは、
先の読めないプログラムに、
ハラハラしながらも胸躍らせていた。
汐坊の企画した放送ドラマとは、
果たして、どんな内容なんだろうか?
あわせて『チャンバラ戦団/凸レンジャー』の撮影現場レポート、
制作の進捗状況は、
汐本人の口から語られるのか?
(DJアイドルは
現在進行形の仕事を語りたがらない)
㊙ゲストコーナーは、
汐のブッキングにより、
ユッPこと、
蓬莱ゆず季が登場する
彼女を招いての30分|CMなし|トーク。
・・話題性はてんこ盛りだ。
>Ⅹ(旧Twitter)上では
>ゲスト名を、
>リスナーの二割弱が的中させた!
汐はXやインスタグラムなど、
SNSによる発信を一切しないポリシーを貫いており、
ファンから寄せられる不平・不満の声には、
「仕事のクォリティーでもって、
真摯に、応えていきたいと思います!」切り結ぶ宣言済み。
ある意味、
18歳のくせして┃ナマイキ宣言┃だが、
おおかたのファンは納得していた。
汐坊は、アイドル円周に収まりきらない存在かも・・
そんな予兆を感じていたのだ。
したがって、彼女の最新情報をキャッチしたい場合、
ラジオに耳を傾けるほかないのである。
結果・・聴取率UPにつながっていく好循環。
━ ラジオドラマ『1952年・夏/いただきマンモス』前編終了 ━
《CM入り 》
ドラマの内容は、
SNS界隈をザワつかせるに足るインパクトであった。
そこかしこに『1952年・夏/いただきマンモス』関連ワードが・・
「北緯41度54分 東経12度|1952年|をググれ!」
「ボールパーソンの伏線回収は 先読み不能!?」
「シェリー?orキーツ?」
「汐坊のニワトリ・ギャグさく裂!」(バズった☆)
「リライト脚本家は実在する?」
「<哉カナⅡ>の読者数は盛りすぎだろう。
実数は週10人ていど(泣)」
「博士は、《あのお方》と対面できるのか?
肩透かしのスレ違いエンドなんじゃね?」
・・ にょきにょき 生えていた。
乙骨Pと番組スタッフたちは上機嫌、早、祝杯ムード。
ただし・・
DJ汐は、
ちょいと違っていた。
複雑な胸中でマイク・フロントに腰かけていた。
━〇━
いつもの習慣で、
放送前に、
ゲストの控室へ、
ウォーミングアップがてら、あいさつをしにいった。
少しく打ち解けておけば、
スムースに本番を迎えることができるし、
進行もはかどるという、
乙骨Pのアドバイスを、
(初心忘れることなく)尊守していたのだ。
それにも増して、
気心の知れたユッPと世間話をしたかった。
スマホの介在しない対面こそ、
真のコミニュケーションではないか。
トントン!
控室をノックする。
「どうぞ」ユッPのタフな応答声に、
一拍おいてドアノブを回し、押し開く。
汐は息を呑んだ!
ブリッジ体勢のゆず季は、
ニッコリ笑ってみせると、
一糸乱れず、
逆回転のように、
アーチ状からなめらかに立ち上がった。
(なんて体幹!
なんて柔軟性!)
ユッPはDJアイドルに抱きつき、
「ごぶさた、汐坊。
いよいよ大スターの道を歩み始めたね。
プレシャスな友人、
誇りに思ってる!」
強い目、強い声で言う。
「なに言ってんだか・・
ユッPこそ、
実力の試される舞台劇の主役。
私なんか所詮、
カメラと編集によるお化粧女優だからさ・・」
「ご謙遜を!
朝ドラの後半は見事な演技だった。
正直、ジェラシーを感じた。
息苦しくなったほどだよ」
「え!?
前半じゃなくて?」
「前半は企画・脚本と汐坊の閃きによる勝ち点。
後半は純粋に演技の勝利だと思った。
花形特有の眩い光彩が消えて、
演技の芯棒が見えた気がした・・
・・同業者の視点で言わせてもらえば」
「ふーん、
そんな見方もあるのねェ」




