オンエアの日
朝の連続ドラマ『サスティーン』は、
安定した視聴率で推移していた。
そして、本日午前八時、
満を持して、
汐 と サウンドステッカーの共演した回が、
オンエアされようとしていた。
かんじんの場面を伏せる形で、
呆れるほど番宣が流された (某公共放送局)。
ナビはサウンドステッカーがつとめ、
全国放送の強み、
コンビは幅広い視聴者層に、顔を知られることになった。
いよいよオンエア。
コイシツ こと
井箟ディレクターの苦心の編集により、
70年代 ━ 伝説のラジオ深夜放送の中で、
かつての人気DJ(共に故人)と
現代の人気DJ(生存中デス)との、
夢の共演が、
AI加工された音声を盛り込み、
VFXのテクノロジーによって実現したのである。
すなわち ケン・ユミ と 汐 坊 が同一画面で、
当意即妙 のやりとりをするのを、
視聴者は目の当たりにしたのだった。
このシーンは大きな反響を呼んだ。
「ケン・ユミ」パック をリアルタイムで
聴取していた年配者はもとより、
「ラジオ哉カナ」 のリスナーや、
それ以外の人々をも 瞠目させた。
撮影済みのサウンドステッカーの顔に
(47テイクのNGカットもリサイクル)、
今は亡きケン・ユミの顔を
巧みに貼り付け、合成してあり、
没後 の二人が、
生き返ったような錯覚におちいる。
現存する 二人 の映像から、
チョイスする素材をセレクト、
加工するのにひと苦労 ━(徹夜&徹夜の連続) ━ した。
『フォレストガンプ』という映画で、
一躍有名になった手法である。
絵がスムースにつながらないところは、
追加撮影した汐のリアクションを嵌めこんだ。
汐は、演出家の
感覚的な要求に応え、
「ケン・ユミを七色の視線で見つめて」
「気持ちがデングリ返る感じ」
「夢の中をさまようような表情」
「二塁打クラスのアドリブが欲しい」
必要とされる表情を次々と演じ分け、
竹アドリブをかろうじて決め、
すべて 一発OK で編集用の素材を提供した。
この手の器用さは
現場ではとても重宝される(こなせる人材は希少である)。
さらに、音声をかぶせたまま、
副調整室に場面を切り替え、
スタッフの動きを
挿入したりすることで、
隙間を埋め、立体感をだした。
哀しいかな・・
(著名なラジオDJの物まねを持ちネタとする)
芸人コンビ、サウンドステッカーの姿は影も形もなかった。
ただし、テロップのあつかいは
上位にランク(コイシツの 推挙による )。
さまざまな感想ワードが
SNSを中心に広がっていった。
〈 テレビまじスゲエ! 〉
〈 テレビはタイムマシン! 〉
〈 恐れ入りました 〉
〈 テクノロジーと 魂 の融合 〉
〈 受信料を払ってやる 〉 などなど。
現代では手垢のついた感のある
合成画面も、
使い方しだいで生きる。
演者間のマジックと
創意工夫の幸福な邂逅が
視聴者を酔わせた。
話題の合成映像は、
動画サイトのあちこちにアップされ、
即座に削除、ときにBAN。
果てしなきイタチごっこを繰り広げていた。
朝ドラ『サスティ―ン』は
20%越えの視聴率を記録した。
初の大台突破であった。