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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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サユリ´S フェイバリット

アルバイト三刀流さんとうりゅうを日々うようにこなし、

ワンルームのアパートへ帰り着くと、

晩ご飯やお風呂をすませたのち、

パソコンデスクの前に身を沈め、

深呼吸をして、気合いを入れる。


南平とのLINE♡をグッとこらえ、

YouTube&配信ドラマ&映画、ゲーム、SNS、

お酒のフワッと酔い(も言われぬ離人りじん感)など、

娯楽および休息ならび快楽への誘惑心をち切り、

三作目の〈長編〉ミステリー執筆しっぴつにとりかかる、鈴木サユリ。

ちょっとした修行僧しゅぎょうそうである。


夜の進行に比例するように、

集中の度合いは、しだいにたかまってゆく。

真夜中の友は、ブラックコーヒー。

専心せんしんがほどけると、

ポットに入ったブレンドコーヒーを、

少量、口に含んでは自身を勇気づける。

文章ノリが出て、

上昇曲線(エクスタシー)を終え、

一段落した状態で飲むコーヒーはうまい、

けれども、

行きづまって中断したときのコーヒーは、なんとも(ニガ)い。

そういうときは・・スマホをON!

アイディアをつづった創作メモを呼び出し、

脳みそから汗が出るまで吟味ぎんみする。


それでも気持ちが上向かないとき・・

決まって浮かぶのは┃才能┃というワードなのだ。

里見さとみさんの言うように、

創作方面の才は薄いのかな?と真剣に考えてしまう。

探偵は、

「好きこそものの上手なれ・・は・・正しくない。

自分が上手にできるコト〈すなわち長所だ〉を好きになり、

努力を重ねていって、初めて上達する。

(スポーツ、数学力、芸術方面)

センス・才能は神の気まぐれのなせるワザ。

・・努力だけではおぎないがたしさ」


メンタル低調のときに、

笹森ささもり しおりの演技を見ると、

なんというか・・劣等感を植えつけられる。

どーして、

苦もなく、

まるで呼吸をするように(としか見えない)、

視聴者を吸い寄せるようなアクトができるのか!?

不思議の感に打たれる。

私より年下なのに・・


18歳アイドルの演技は、

さながらヒラメキの仕掛け花火だ。

先日オンエアされたラジオドラマ

『1952年・夏/いただきマンモス』も、

彼女のアイディアを元に構築されたという。


・・くやしいけど、引き込まれてしまった。

・・笹森汐の持つキャッチーな旋律せんりつ

  対象たいしょうを酔わせる右脳磁力(じりょく)が、

  私の文章には欠けている。左脳優勢な情報伝達文でしかない。

・・プロとアマをへだてるえないカベ


この手の才人が、

いざミステリー創作に没頭ぼっとうすると、

『白昼の悪魔(’41)』

『Yの悲劇(’32)』

『火刑法廷(’37)』

クラスの名作をモノにするのかもしれない・・

 

 ━『白昼~』で犯人を(あぶ)り出す着想は至芸しげいといえるし、

  『Yの~』におけるマンドリン(楽器)の使い方は、

       ニクらしいほどうまい、れしてしまう。

  『火刑~』のアクロバット収斂しゅうれんは、もはや発明領域。  ━


次に出てくるワードは ┃それに引きかえ私は┃ なのだ。

いままでの人生で、コンプレックスを覚えたことは、

ほとんどない。

学校の成績はいつも上位だったし、

(特に理数系はお手のもの)

スポーツも、

(球技・器械体操・水泳など)

平均より下回ったことはない。

苦手科目というのは存在しなかった。

女性特有・・容姿に対するもさほどなく。

まずまず見られるルックスだし、スタイルだって悪くない。

(主観と客観による総合判断にズレはなかった)

美は上を目指すとキリがない・・

そんな割り切りもいさぎよく、

ないものねだり、

ムダな努力で遠回りすることもなかった。


━ 〇 ━

順風満帆じゅんぷうまんぱんともいえる鈴木サユリを、

ミステリー執筆に向かわせることになったきっかけは・・

中学一年までさかのぼらなければならない。

スポーツより読書を好むタイプのサユリは、

中学校の図書室に入りびたっていた。

知的好奇心を満たすため、活字をむさぼるように読み、吸収していった。

図書室にはDVDコーナーがもうけてあり、

受付で手続きをすると、個室ブースで視聴可能だった。


そこで出会ったのが・・

横溝正史原作/1977年の日本映画、

市川崑監督作品『悪魔の手毬唄』というミステリー映画である。

以降、ミステリージャンルに病膏肓やまいこうこうまっしぐら、

現在にいたる。

━ 〇 ━


サユリは、日付変更線をまたいだところで、執筆を中断。

大きな伸び(・・)をしてから、

原点に返るべく、

DVDコレクションからフェイバリットを抜き出し、

『悪魔の手毬唄』をパソコンで再生する。


いままで何回見たことか・・

旧友に再会するような気分で画面に向かう。

石坂浩二の金田一耕助ははまり役だし、

警部役の若山富三郎がまた素晴らしい、

名人芸といえる演技をみせてくれる。


舞台となる温泉宿<亀の湯>の、

いかにも薬効やっこう高そうな温泉の色あいもたまらない。

湯につかっているような心持ちになってくる映像なのだ。


━ 物語 ━

磯川警部(若山)が金田一(石坂)を、

岡山のひなびた旅館へ呼び寄せ、

再会したところから、映画はスタートする。

現職の警部が探偵を雇うというユニークなつかみ(・・・)

かつて・・

この旅館<亀の湯>で殺人事件が発生。

被害者は、

旅館の女将おかみの亭主・青池あおち源治郎げんじろう

源次郎は、

「離れの」で詐欺師さぎし恩田おんだと格闘となり、

頭をまき強打きょうだされ、

あげく囲炉裏いろりで顔面を焼かれ、

判別はんべつがつかない状態で発見された。

事件は恩田による殺人で落着をみた。

しかし・・

事件以降、ようとしてつかめない恩田の足取り。

磯川警部は、ひょっとしたら、

被害者と加害者がアベコベではないかとにらみ、

長年こつこつ調査してきた。

その事件調べの総決算を金田一に依頼する。

警部の着眼ちゃくがんが正しいと非常にマズイことになる。

旅館の女将(おかみ)リカは被害者の妻から一転、

加害者の未亡人になってしまう。

警部はリカ女将にほのかな恋心を抱いている。

そんなり、

新たな、連続殺人事件の幕が切って落される。

さて、物語は、いかなる展開と着地をみせるのか。


サユリは初見しょけんのとき、

映画の離れわざ的着地に、度肝どぎもを抜かれた。

ひらかれたという言葉がぴったりきた。

大げさでなく、小悟(・・)といえた。

・・中坊少女をミステリーのとりこにしたのだから。

以来、繰り返し鑑賞かんしょうしてきた。

はたち(・・・)を過ぎた、現在の視点で見れば、

「犯行動機(どうき)」や「見立て殺人」のあらなど目に入るけれど、

やはり・・見事な達成だと思う。

トリック・プロット〈骨組み〉の上に構築こうちくされた、

演技陣〈肉付け〉と演出は文句なし。

音楽までイイんだな、コレが。

ラストシーンの素晴らしさよ!


こういう作品を書いてみたい。

自身をふるいたたせ、

サユリはふたたび執筆にとりかかるのだった。



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