ミゼット再発進!④「心願成就!?の巻」
真夏のサンタから思いがけないプレゼント。
高級シャンペンを、
ミゼットの冷蔵BOXへ収納した笹森博士こと汐は、
数多のオードブルでくちいお腹にムチ打ち、
暑さに負けじと、
当初の目的を果たすべく、懸命にジョグする。
荒い息を吐き、
北緯41度54分21.42秒 東経12度28分55.41秒を、
見わたせる場所へ たどり着いた。
キュロットミニの右ポッケから
高性能プチ双眼鏡を取り出し、
スペイン階段をのぞき込み、
ズームボタンを押下する。
被写体の超アップをとらえた!
すかさずシャッターを切る。
(カメラ機能付きプチ双眼鏡は、
Dr.笹森発明コレクションのひとつ)
小顔をキュビズム変容させ狂喜する。
「ドヒャ・ ドヒャ・ドヒャー♡」
雌叫び三連発!
「時を超え、ついに、
正真正銘《あのお方》と接近遭遇。
決してタイミングを外してはならない。
命を賭けて臨むのでアル」
日の丸ハチマキをきりりと巻いたドクター笹森は、
スペイン階段へ接近していく。
慎重を期して、最適ポイントを確認。
精確に位置取りし、
ひとさし指を舐めて、風向きを計測。
ストレッチで体をほぐし、
心願成就すべく、
クラウチング・スタート姿勢をとり、
始動するタイミングをはかる。
生成されるアドレナリン!
身体のあちこちがピクピク痙攣をおこす。
苦しくて心地よい二律背反ステート。
「よーい、アクション」
〈90テイクス〉の異名を持つ、
巨匠の合図によって
カチンコの拍子木がパチンと鳴らされる。
スペイン階段に腰かけ、
ジェラートを食べている《ハイネス》。
上方から、
スクープ魂胆の新聞記者が、
偶然を装い階段を降りてくる。
再会する二人。
ジェラートのコーンを捨てる・・
・・《あのお方》・・
そのモメントを狙いすまして、GOダッシュする汐!
忍者のごとく俊敏な身のこなしで拾いあげ、
┃いただきマンモス♪┃
向こう側へ駆け抜けようとした瞬間、
腕っぷしの強そうなスタッフに、
子ネコみたいに、
襟首をつかまれ、
怒鳴りつけられた。
パラリと解けて落ちる日の丸ハチマキ。
「細っこいのに、
太ぇガキだ!
お前のせいでNGが出たんだぞ!
こんチクショウ!」
お仕置きに、
男が、背中を一発、ドヤしつけようとした瞬間。
「NO!」という声と共に、
ジバンシィ以前・・
まだ無名な《あのお方》が参上♡
彼女は・・
気の荒いスタッフを制し、
日本人の正面に立った。
┃顔、ちいせー!┃(汐の独白)
┃スタイル抜群!┃
┃なんという気品!┃
┃意志も強そうじゃん!┃
ハイネス役は、
汐の持っているジェラートのコーンを、
指先でつまむとポイと投げ棄てた。
コーンはギャラリーに踏みつけられ粉々に・・
打ちひしがれた表情の汐に、
雄鶏さんはノーブル・スマイル付きで、
サード助監督に持ってきてもらった、
真新しいジェラートを差し出した。
┃ちがうんだよ!┃
┃あなたの食べかけが欲しいンだってばさ┃
┃1952年と現代じゃ、価値観が異なるちゅーの┃
┃生涯のコレクションとなるはずだったのにイ!┃
「さあ、
遠慮しないで、お食べなさい」
というジェスチャーをするハイネス。
仕方なしに汐は別腹を発動。
ジェラートをペロペロ舐める。
お礼にと、
左ポッケからUSB扇風機を抜き出し、
《あのお方》に風を送る。
かすかに驚きのリアクション!
そののち、
世界を蕩かす素敵な表情をして風を浴びてくれた☆
┃うわーっ。たっ、頼む!┃
┃その顔と私の顔を交換してくンなまし┃
女優は女優を指さして、片言で伝えた。
「You / Oscar / win!
by・・1953」
とびっ切りの笑顔で、
「サンキュー、おチビちゃん」
といって頭を撫でてくれた。
(ぜってェー、頭洗わないゾ!)
午前に始まった(らしい)ロケは
午後遅くに終了した。
王女役さんは、
ジェラートをいくつ食べたことやら。
再忍者ダッシュするタイミングは、
ワンチャン以上あったけれど、
結局、諦めた。
彼女に、お目通り出来ただけでも充分だ。
我欲はキレイに洗い流された感じ。
博士こと汐は、
ロープの張られた、
スペイン階段ギャラリー最前列で、
飽きることなく、
澄みきった心持ちで撮影を眺めていた。
(暑さや騒音は、
薄膜緩衝され、中近に感じられた)
翌年大ヒットする映画の、
美術品のような画面を創造していく演者、
スタッフをリスペクトしながら。
あの名画は、
こんな風にして創られたんだなぁ・・と。
すると、何十カット目かに、
スペイン階段をコロコロと転がり落ちてきた、
ジェラートのコーンが、
汐の目の前でピタリと止まった。
気負いゼロで拾い上げた令和の住人は、
コーンを掲げ、
「Grazie!」と、
《あのお方》にお礼を言った。
「どう、いたしまして」
気品ある返礼が、
汐の耳朶に木霊した。
◇ ━ ◇ ━ ◇ ━ ◇ ━ ◇ ━ ◇ ━ ◇
━[笹森汐企画]
『1952年・夏/いただきマンモス』 ━ 収録エンド。
NC15スタジオ 内外の、
recording(録音中)を示す赤ランプはオフ消灯された。
この巻を閉じるにあたって、
スペシャルウィークに用意されていた、
サプライズのご褒美を
詳らかにしなければなりませんな。
そう・・
そうなのです・・
《あのお方》のV・Cを、
日本語吹き替え専門の《声のお方》が担当してくれたのデス。
企画者である笹森の感激は、ひと汐でしたゾ。
DJアイドルの音声プレイは、
「いつにも増して上出来」と
乙骨Pも、ご満悦だったという。




