興行システム
夏のスペシャル・ウイーク(聴取率調査週間)用に書かれた、
ラジオドラマの台本を手にしたDJアイドルは、
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』の
多忙な撮影の合間を縫うようにして、
七尾マネの運転するキャンピングカーで、
ラジオ局の駐車場へ すべり込んだ。
ニューCARはロケ専用車として、
汐のために、
聖林プロが、特別に手配したものである。
簡易ベッドやキッチン、
シャワー&トイレまで付いた豪華版だ。
>たかだか、18歳のタレントに <
>そこまで気遣いする必要はあるのか?<
素朴な疑問を持つ読者もおられよう、ごもっともでアル。
しかし、18歳は、
いまや <金の卵> を産み出す存在であり、
芸能界という特殊経済圏では、
大事にされる資格を有していた。
稼ぎは待遇に反映されるのだ。
・・ただし・・
一寸先はなんとやら、
人気の凋落 、
もしくはスキャンダル一発で、
ポイ棄て!されてしまう。
笹森汐とて例外ではない
(事実、暗雲は忍び寄っていた)
情無用の世界なのデス。
制作者側は・・
新番組さえ軌道に乗れば、
スポンサー料で、
新車代などお釣りがくる的ソロバン勘定。
その延長線上の映画からは、
(出来高しだいの条件付きで)
配給収入の歩合も加算される。
『凸レンジャー/THE MOVIE』は、
ヒットしなくとも、トントンならば、
儲かるビジネス・スキームが組まれていた。
現在、
汐を起用しているCMスポンサーのうち、
(左近係長の周到な根回しにより)
三社がタイアップを承諾した事を契機に、
スパイラルが発生し、
別口で、菓子を含む食品会社、
大手飲料メーカーなどが陸続した。
かくして複数企業とのアライアンスは確定|契約完了、
(笹森汐を起用する甘露である)
プロモーションとしては絶大だ!
制作にはTV局も名を連ねているので、
ネックと言われる
宣伝(及び宣伝費)に苦労するすることはない。
公開終了後には、
地上波・BS・CSの放映権料、
ネット配信の契約料など複数ルートからの収益。
(一昔前ならDVD化で荒稼ぎできた)
現時点で、黒字化は既定路線。
> 資本家の基点は、とりあえず赤字を避ける事 <
> 損をしないために幾重にも保険をかけておくのだ <
さらにまた、
玩具会社とのマーチャンダイジングも加わる。
コミック化やノベライズ化にゲーム化。
パチンコ会社も名乗りを上げたが、
<戦団もの>は・・本来子供向け番組という理由で、
泣く泣く断りを入れた。
写真集、設定資料集、ムック本のほかに、
有名シンガーを起用した主題歌♪
などのメディアミックス展開。
まさに雪だるま状態だ。
コンテンツが生みだす収益 (ヒットに比例)を考えれば、
キャンピングカーなど、安い先行投資ではないか。
このような利益追求世界の底なし沼から、
クリエイティビティを目指すのは容易ではない。
爆死映画が誕生する要因だ。
一昔前のように、
質オンリーで大ヒットを勝ち取るのは、
もはや・・幻影に近いだろう。
時代は変わったのだ。
言わずもがな、
配給網という生命線を握っているメジャー系だって、
当然ヒットのみに非ず、質との二兎を追いかける。
できることなら映画史に名を刻みたい。
そんな理想の具現化を、
(机上の空論を乗り越え)
実現させてしまえるビッグショットは少数しかいない。
ハイクオリティー(イコール)大ヒットのスタジオジブリや、
かろうじて、銭函社長も その一派に属する。
銭函社長は宣うた!
┃だからこそ・・┃
┃断じて┃
┃新番組『凸レンジャー』を・・コケさせてはならない!┃
京映、TV局、聖林プロ、三社合同スローガンである。
赤にならない土台を作り、その上に、質を盛るのだ。
読者の皆さんにオフレコ話をすると、
ニューCARは、
/ 映画がコケたら即転売される運命にある /
損切りにも、抜かりない聖林プロなのでした。
閑話 休題。
ラジオの話へ戻り・・
夏のスペシャルウイークに放送予定の台本には、
<企画・・笹森汐>と印刷されていた。
今回の作品は、
雑談のとき、ふと口にした汐のアイディアを
「面白いじゃねえか」と乙骨Pが気に入り、採用となった。
(発生した企画料は事務所と折半)
彼女の語ったアイディアの断片を元に、
専属脚本家が編み上げ、決定稿となった。
演者と裏方の両方を兼ねたDJアイドルは、
いつになく張りきっていた。
スペシャルウィークということで、
リスナーというよりは・・演者(汐)に対して
サプライズなご褒美が用意されていた。




