またまた、M:I:ななちゃん/シークエル
メンター七尾は、
小台風並みのヘクトパスカルを内部発生させ、
表情に暴風雨を刻み、
そら恐ろしい、
顔力で圧倒!
DJアイドルを、
徳俵まで跳ね返し、
剣呑な殺し文句を放った。
「三度目のお仕置き、いこうか?」
「ぎゃーっ!
ヤだ!
ヤ━だ!」
怯んだ汐は、
ヒップへ回した両手にギュッと力を伝達、
尻込みする。
メンターは、
ななちゃんモードに還り、
「・・ねえ・・
・・汐さん・・
僭越ですけど、
あなたの行動を見る限り、
まだ固まりきっていない能力マグマを感じます。
もっと上を狙える!
スレてない素直なところ、
計算高くないところに七尾は伸びしろを見ます。
(私の転倒のさい、
救急車を呼んで高みの見物を決めこめば、
仮病を完遂させることができた。
でも、あなた、そうはしなかった)
良心に突き動かされた、
打算のない、美しい行動でした」
思い出し涙をポロっと流す七尾。
「他方、汐さんの今日の怒りは、
前回の<戦団もの>出演依頼の怒気に比べれば、
レベルダウン。
弾き返すバネが微かにユルかった。
ご自身の行動に、
罪悪感を感じていたからでしょう?
マイナス意識は感情パワーを鈍らせます」
マネージャーは根っこから励ますように。
「汐さん・・
苦手科目の克服は大変です。
本物の努力を要します。
(カベを破れる人は少数でしょう)
先日、あなたの芸能キャリアを、
私なりに、
冷静に振り返り、分析してみました。
結論をいうと・・
『笹森 汐物語』の主人公は、
無自覚とはいえ、
センスと才能を授かった無名の少女が、
導かれるよう芸能界へ進み、
企画にめぐまれ、
(それなりに頑張ったにせよ)
とんとん拍子でセンターポジションに立ち、
つかの間、浮き沈みを経験はしましたが、
スポットライトを浴び続けて、現在にいたる。
得意科目を驀進してきた幸運児。
音感埋蔵者が歌手になったみたいな・・
努力とは性質の異なるラインを歩んできたヒト。
しかるに・・
あなたにとっての身体訓練は、
音感の鈍い人が(スミマセン)
音符を学び、咀嚼、
初歩からコレクトしていく行為といえます。
端っから上積み有りきの演技とは違い、
ゼロ地点からのスタートですから、
それは厳しい。
出来れば避けて通りたい難所。
《そんなムリしないで適度に練習をこなし、
それっぽく芝居して、
演出・編集まかせにすればいいじゃん!》
あえて、前言〈第31話〉を撤回すれば、
この指摘には一理以上あります。
今のCG技術なら可能デス・・
汐さんの巧みな演技力をもってすれば、
体技もどきをリアルに感じさせてしまえるだろうし、
そこに、CGのエキスパートである
南禅寺監督の手腕が加わるのだから、鬼に金棒。
ただし、凸レンジャーを、
(あなたのプロ意識を抹殺して)
即席のお仕事とドライに割り切れるのであればね。
マネージャーとして建設的意見を述べれば、
・・汐さんは、根底に・・
舞台劇やミュージカルへの願望が、おありでしょう。
前者に関しては、係長の意見はホンネではないはず。
あなたの能力であれば、
わりとこなせてしまうんじゃないかなって。
ただ、後者に突っ込んでいくなら、
いまのうちに鍛えておくべき。
DANCEを血肉化するには身体能力は必須。
昔からよく言われる、
〈人間、一生涯勉強!〉は、
もう、ぐうの音もでない正論。
ただし例外もあって、
身体連動の高等スキルを身につけるには、
アスリート同様25歳までと考えるべき!
筋肉や思考に弾力性と柔軟性を備えてる期間限定。
過ぎたるは盆に返らずっス(七尾語録)。
モノは考えようで・・
<戦団もの>を舞台へのステップとして解釈すれば、
悪い話じゃないと思います」
涙をツーっと流し、聞き入る汐。
(私をこんなにまで、
慮ってくれるマネージャがいる)
しばし、
無言のまま向き合い、
視線をはずす、
マネージャーとタレント。
ふたりはシンクロしたように、へたり込み・・
床に女の子座り(M字で尻ぺったん)した。
虚ろな視線で、再び、たがいの顔を見やった。
両者ともエネルギーをとことん消費したので、
枯れた表情をしていた。
ふうーっと息を吐き、
「トランポリン訓練、
リ・チャレンジしてみるか!」と汐。
「ええ。
微力ながらお手伝いさせていただきます。
先ほどはひどいことをして、
本当に申し訳ありませんでした」
団子っ鼻になった七尾マネは頭を深く垂れた。
汐は過去を洗浄すべく、
右手をワイパー・ムーブさせた。
「そんなことより、
ななちゃん、
たったいま、閃いたンだけど・・
エントランスホールで倒れたのって、
ひょっとして身体を張ったお芝居?
ミクロ単位で、なんか引っかかるんだなァ」
ななマネは、
「汐さん、
リドルストーリーって知ってますか?」
否定首をプルプルさせる18歳。
「『女か虎か?』を読んでみてください」
七尾は、ひと筋、胡乱を混じえた、表情を浮かべた。
翌日からトランポリンレッスンは再開された。
二人三脚 ━ 苦心に苦心をかさねた末、
空中前転を初成功させた。
その直後・・
汐は、ウレしさのあまり・・
七尾の胸に飛び込んで達成涙を流した!
笹森マジックの届かない埒外へ踏み出し、
(たぶん初めて)普通レベルの努力を重ね、
目標をつかみ取った、
等身大の18歳を包み込むように、
ヒシと受け止めてあげるマネージャー。
━ 天賦の才を持って生まれたきた翌檜の支えになりたい!
そんな想いがコップの外へこぼれ落ちていった ━
紆余曲折×2みたいな段階を踏んで・・
ついに・・汐は空中前転をマスターしたのだった。
こうした雨降りを乗り越え、地を固めたのち、
新番組『チャンバラ戦団/凸レンジャー』の
共同記者会見に臨んだのである。




