表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
4/63

「ケン・ユミ」パック

物理的にも心理的にも暗い、

ラジオブースに入った しおり は、

二人の正面に腰かけ、

な笑顔をコンビへ向けた。

(竹も梅も自在にあやつれる)

疲弊ひへいの激しいサウンドステッカーは、

ゾンビのようなスマイルを浮かべた。

「お二方(ふたかた)

すこし、復習(さら)ってみませんか?」

提案した汐は、コンビの視線を引きつけた。

そうして結びつけると、

深呼吸をひとつして、自分のセリフを発した。

すると・・笹森汐は消滅しょうめつし、

コンビの目の前には・・

大道おおみちアスカ が現出した。


時代ときは・・70年代末。

売り出し中の アシDJ大道アスカ(汐)が、

サウンドステッカーの演じる大人気DJコンビによる

深夜の解放区かいほうく 『ケン・ユミ』パックの

ゲストに招かれて、

緊張しきり・・そんな場面である。

現実とは真逆のシチュエーションといえる。

※『ケン・ユミ』パックとは、

 実在のDJ男女〈共に声優である〉による伝説のラジオ番組 。


汐のなりきり演技のるぎなさは、

(かわ)いたサウンドステッカーに、

うるおいを与え、蘇生そせいをうながした。

瘦身そうしんの男性と、

ふくよかな相方あいかた女性の目に光が差す。


演出家(コイシツ) の合図で、ライトが全灯ぜんとうされた。

静かにカメラが回り始める。


コンビの男性は、副調整室へ、

こまめに視線をやるしぐさをしてみせ、

神経質そうなケンちゃんの感じをかもしつつ、

トークを開始・・(嬉しくなるほど似ている)。

緊張しまくっているゲスト(汐)に向かって。

「アスカちゃん、あがらない、あがらない、

たかがラジオでござんしょう。

送りっぱなしの消えもの媒体ばいたい

コイシツな演出家もいない、気楽なもんよ。

アイドル様じゃあるまいし、気取っちゃダメ。

きみなんか、しょせんは、

おでんの屋台引きの娘なんだからさあ」

(アドリブ、ぶっこみ来た!)

寄り目リアクションする汐(ズームで切り取る2カメ)。

すかさずユミちゃん、「ウフフフフフフフ。

おでん屋さんじゃなく、

乾物屋かんぶつやさん(ドラマ設定上では)のお嬢さんだワよね

もーう、ケンちゃんたらゲストの資料を無視して、

マンガばっかり読んでるんだから」

本家の大仏さま的安定感が再現されている(絶妙)。

「(恐縮きょうしゅくして)

うちの店先では、おでんも販売してますから。

ハンペンひとつ二十円です。

カラシもお味噌(みそ)もつけられます」

おぼこい雰囲気を前面に出す、汐。

「ギャーハハハハハハハハハハハハハハハ。

こいつはいい。

ちなみに、ちくわぶは、おいくらかしら?」

とケンちゃん。

「十五円です。

あのー、言い忘れましたけど、

お味噌は二度()け禁止です」

デスクをバンバン叩いて、

おおげさに、のけり、

キャスター椅子を左右に派手に滑らせ、

大喜びするケンちゃん。

ほとんど(そう)病患者である。

「きみには引き続き、

〈お題 いただ き〉のコーナーもやってもらおうかな」

「そうよね」とユミちゃん。

「ぜひ次代じだいをになうアスカちゃんに協力してほしいワ」

「ええー?いいんですか、

あの人気コーナーに私なんかが・・」身を乗り出す。

「もちろんでゲス」と薄い胸をたたくケンちゃん。

「それではCM」落ち着いた声でユミちゃん。


CM明け。

難物なんぶつ・・

〈お題 いただ き〉のコーナーである。


汐はこの時のために、

本家ほんけ〈ケン・ユミ〉パック、

70年代の音源を動画サイトで予習しておいた。

コンビのやり取りは、

阿吽あうんの呼吸が生命線である。

ケンちゃんぶし といわれる

独自の手紙の読み語りもさることながら、

ユミちゃんの 合いの手 が 管制塔かんせいとう の役目を果たしていた。


リスナー(桶屋(おけや) 四吉(よんきち))からの ぶ厚い手紙を、

ユミちゃんから受け取るアスカ。

彼女は、

おぼこ娘からDJ大道アスカに変身をげる。

リスナーの投稿とうこうを、

落語調らくごちょうで演じ分けて 読みあげた。

(落語は汐のマイブーム)

サウンドステッカーの二人は、

うまいことり合わせをしてくれた。

コーナーのトライアングルが成功したかはともかく、

赤点は取らなかったはずだ・・(手応えアリ)。


「はい、カット!OK、ごくろうさん」

コイシツのパワフルな声。

同時にスタジオ中から拍手がわき起こった。

サウンドステッカーと汐は、

熱いハグを交わす(ユミちゃん役は泣き崩れた)。


コイシツの頭の中は、

目まぐるしく回転していた。

台本ホンから 逸脱いつだつした部分を

どう編集処理するかが問題だゾ。

ケンちゃん役は、

本家に比べると明らかにやりすぎだ。

(あの野郎、撮影の趣旨しゅし

理解できていないんじゃないか?)

相方のアドリブに

吹き出してしまいそうになるのを、

ブルブル震えながらこらえて、

進行させたユミちゃん役は 及第点きゅうだいてん

汐坊の おぼこ演技 は台本ホンにはない、

お笑いコンビへの 脊椎せきつい反射、

即興的にデフォルメしたものだ。


しかし、三人のケミカルは、なんというか、

困ったことに、

台本ホンや演出の意図いとを超えて、

面白いンである。

アドリブには、

まぎれもなく、生命が 宿やどっていた。

役者間の 化学反応ケミカル ってのは、

計算できないからこそエキサイティングなのだ。


まれ出た鮮度せんどは なにものにも えがたい。

丸ごと生かすべきだろう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ