ミッション・イン・ななちゃん/シークエル
二代目マネージャー「ななちゃん」こと七尾は、
引きつった表情で、
社用のワンボックスカーを
スピード違反スレスレで転がし、
午前7時過ぎに、
ドル箱タレントの住むタワー・マンションを訪ずれた。
路上駐車して、エントランスホールへダッシュ。
オートロック連動インターフォンに指をかけ、
ルーム番号《2□□2》を入力、
併せて、スマホで通話発信、
メール・LINEも入れる。
そのどれにも ━━ レスなし。
同じ動作(三方向連絡)を 繰り返す。
再三再四、再五、再六・・
・・再七で、
ようやくインターフォンに、
覇気弱きドル箱タレントのか細いレスポンス。
マネージャーは
オートロックシステムの
インターフォン・カメラに顔を近づけ、
「汐さん!
七尾です!
左近係長ではなく、
トップの特命を受けてやってまいりました。
社長は、たいへん心配しております。
体調は、その後いかがでしょうか?」
「メールに、診断書の画像を添付したでしょう。
《神経性胃炎》に罹ったみたい。
しばらく安静にしていれば
治るみたいだから、
悪いけど、きょうのところは帰ってくれるかな・・
社長には、軽症だと、伝えておいて」
「直接、お顔を拝見させては、もらえませんか?
社長への報告義務もあります。
なにより・・
私自身が心配しています。
未熟な担当マネージャーの管理不足が、
汐さんの健康被害を招いたかと思うと、
罪悪感で胸が張り裂けそうになります。
心配と後悔で、痩せる思いなんです」
と、(朝ご飯をたっぷり食べてきた)七尾マネは哀訴した。
「ななちゃんは1ミリも、
責任 感じる必要ないって。
私、笹森個人によるメンタルケアの失敗が原因。
理由を聞いて安心したでしょう。
お願い・・帰ってちょうだい。
ねっ!」
「しかし、私としても、
中途半端に報告義務を果たすのは、
ポリシーに反しますし・・
ひと目、お顔を見るまでは帰れません。
いえ、帰りません。
お願いします・・ひと目だけ・・
わたしのためにと思って・・どうか・・」
「主客転倒も、はなはだしい!
とっとと帰りなさい!」
汐の声に生気が甦った。
つづいて、猫なで声をあやつり、
「・・ねえ、ななちゃん・・
安静を必要とする病なワケよ。
気遣いには、とっても感謝してる。
だから・・そっとしておいて。
切るよ!」
「ううっ!胸が苦しい・・」
言うなり、
七尾は、
インターフォン・カメラに顔面を打ちつけた。
動画サイトに投稿すれば バズりそうな、
決定的瞬間のインパクト映像を残して・・
・・会話はふっつり途切れた。
バラの蕾をあしらったガウン姿の汐は、
その下はパジャマのまま、
(その内側は〇着 )
( もっと先はナイショ♡)
スマホ片手に、エレベータから、かっ飛び出した。
七尾のLサイズ身体が
インターフォン操作盤の前で、
突っ伏していた。
超速・三段跳びで駆け寄り、
うつぶせに倒れている七尾のそばへ
しゃがみ込み、
少々強めに肩を叩き、揺さぶる。
「ななちゃん、しっかりして!
大丈夫?
意識ある?
生きてる?
ななちゃーん!」
汐の倍近くある顔を
弱弱しく持ち上げた七尾は、
こちらを向き、かすれた声で、
「すみません。
急に胸が締め付けられて・・」
インターフォン・カメラに、
ぶっつけた鼻は、
発酵したみたいに膨れていた。
「救急車呼ぼうか?
後遺症の可能性もあるから」
「問題ありません・・
少し横になればよくなります・・
汐さんの無事な お顔を見れて・・
本当によかったァ・・」
「ご臨終みたいな声を出さないの」
スリムな汐の肩を借りた七尾は、
マイバッグをかかえ、
すり足ぎみに歩みをすすめ、
恐縮しながら、
ゆっくりと、
エレベーターへ乗り込んだ。




