記者会見/後編
会見のスターターは、
演出代表の南禅寺。
気概とプライド満載の決意表明で
口火を切った。
「今の私は、
『ゲルニカ』に取りかかる直前のピカソ、
あるいは、
ハリウッドへ乗り込んだ若き日のオーソン・ウェルズに
匹敵する心境であります。
『シンゴジラ』にも負けない、
戦団もの の歴史を塗り替えるような新番組、
そして映画を創造できうると確信しています!
ミューズの微笑を独占している気分と申しましょうか・・」
代表作を一本も持たざる演出家の摩天楼 言辞は、
15分以上も続いた。
公平を期せば、自主制作時代の短編は注目された。
監督の経歴自慢+知識の披露+独自の映像哲学+野望=退屈。
記者席に漂っていた緊張感は五割減。
司会者は、
演出家の息継ぎタイミングで、
バッサリ!とピリオドを打ち、
笹森 汐へとバトンをつないだ。
彼女は以前より、
ビジュアルをシャープに更新させていた。
話題の主の久方ぶりになる、
公の場への登場に、会場は にわかに 熱をおびた。
ふだんはメディアとの接触を、
おお幅に制限している汐へ、
ダイレクトにコネクトできるチャンス到来。
新番組に、
正直、さほど乗り気でない汐は、
プロに徹した当たりさわりのないワードを連ねる、
逃げ切り策を選択した。
本日は体調良好日ゆえ、
フルバッテリーの彼女は、
トランス・コンセントレーションを高密度に駆動できた。
マインドをα波に定置させた上で、
表情筋をカーソール操作。
作り笑顔とは悟らせない、
(営業用とはかけ離れた)
ナチュラルなスマイルを引き出し、浮かべてみせた。
真横に腰かけている七尾マネは、
18歳の、技を超えた、
巫術なみのスペックに寒気を覚えた。
(中世ヨーロッパであれば魔女狩りの対象だわさ)
汐の意気込み(建前)は以下の通り・・
曰く━ 新境地に胸がときめいています。
曰く━ 子どものころから<戦団もの>に憧れていました。
曰く━ 個人プレイではない4人のチームワーク・アンサンブルは、
ロックバンドみたいなケミカルを起こしそう。
曰く━ TVと映画。同時に出演できるなんて夢みたい。
機会を与えてくださった関係者の方々に感謝しています。
日頃より応援して下さるファンの皆さま、お楽しみにネ!
・・と締めくくった。
直後に、
大勢の記者から、
挙手、
同時発生で我先にと、
複数の質問が浴びせられ、多重奏状態。
会見場は膨張熱で異変をきたした。
司会の制御をくつがえそうと、
足踏みの乱打、ブーイング、指笛 等々。
冒頭の約束ごと、
会見後の質疑応答という名の紳士協定は破綻。
収拾がつかなくなり果てた。
笹森汐のニュース価値は、
主催者側の予測を凌駕していたのだ。
聖林プロの方針にも問題なしとは言いきれない。
汐の露出を控えすぎてしまったせいで、
メディアへの配慮不足が生じたのだ。
つかず離れずのスタンス・ミス(離れすぎた)というのが・・
取材する側の論理だった。
局の制作主任は、
善後策を講じるべく、
協議のすえ、
本人とマネージャーの同意を得て、
五分という時間枠をもうけ、汐への質問を許可した。
会見は再開された。
Q「朝ドラの『サスティーン』についてです。
笹森さんは後半の出来が
お気に召さなかったというのは事実ですか?」
司会「質問は新番組
『凸レンジャー』に関してのみで願います」
━ 汐は司会者に目配せして、答える意思を伝えた。
汐「前半・後半という区別は私の中ではありません。
全体を通して素晴らしい作品だと思っています。
18歳のメモリアル。私の代表作になったかなと。
湯浅さんの訃報はとても残念でしたが・・」
Q「先ほど、<戦団もの>への憧れを言及されましたね。
では、お気に入りの作品名を挙げていただけますか」
━ 待ってましたとばかりの質問に、即答すべく、
口を開きかけたけれど、
透明なブレーキをかけ、
少しばかり思考をまとめるふりをしたのち、言葉を発した。
「<野武士戦団/菊レンジャー>と
<桃太郎戦団/ドン・シスターズ>です」
内容についても、
本筋に加え、ディテールを掘って語った。
(七尾マネによる事前説明まんまのトークである)
(汐は、短縮版本編を動画サイトでチラ見しただけ)
Q「<戦団もの>の出演には二つ返事でOKされたのですか?
主演でなくても構わない?」
汐「はい。もう、三つ返事ぐらいでした。
主演については、
作品本位で考えているので、特にこだわりなしです」
━ 七尾マネは、笑いをこらえるのに苦労した。
Q「あなたがラジオで、
恋人宣言をされた彼氏との現在の関係は?」
汐のトランス・コンセントレーションが瓦解した。
めったに見せない、ひ弱な隠れ素顔を のぞかせる。
数えきれないシャッター音が響きわたった。
司会「先ほども申し上げた通り・・」
タレントの危険水域を察し、
敢然とマイクを握ったマネージャー。
七尾「プライベートにかんする質問には
一切お答えいたしません!」
Q「例の笹森さんを巻き込んだ殺人事件の犯人が、
医療刑務所から脱走したのはご存じですか?」
七尾「知りませんでした。初耳です」
━ お前に訊いてるんじゃねえよ!
━ スっこんでろブタ!
━ 本人に、こたえさせろ!
麗しくないヤジが飛んだ。
Q「<戦団もの>のフォーマットは通常五人ですよね。
四人に削減されたのは、
笹森さんの高額ギャラが原因なのでは?」
司会「私の方からお答えします。
世界的潮流のポリコレに配慮して、
女性二名/男性二名のチームを
結成させていただきました。
乞うご期待!」
Q「風聞によりますと、
あなたのご尊父は現存しているという・・」
七尾マネの激しい首ふりにより、
会見の中止が・・
司会者によって発令された。
記者会見は乱気流の発生により、
空中分解してしまった。
付け加えれば、
ライブ動画はアクセス数300万を突破した。
会見の続きは・・
後日、
記者を入れない形で別撮りされ、
YouTubeにアップされた




