記者会見
翌年に持ち越された
笹森 汐、正月開始の連続ドラマ。
その記者会見が、
某ホテルの《孔雀の間》にて開かれようとしていた。
会見は、
ニコニコ動画で完全ライブ中継される。
延期の説明責任を求める、
ネットの過剰な反応を熱源とした同調圧力は
日を追うごとに勢いを増していった。
炎上を畏れた、
制作者側が歩み寄ってきた(ように感じる)会見だった。
早すぎてもダメ!
引っ張りすぎてもNG!
薄氷の攻防、
胆力が試されるパブリシティー(会見)を、
ギリギリのタイミングで仕掛けたのは、
京映の銭函社長である。
今回、ビッグショットは黒幕ポジションで、
TV局を前面に押し立てた。
自身は裏から新番組を
視えない糸で操ろうという魂胆だ。
社長はスイートルームで、
PC のモニターに目をやり、
部下に囲まれ、
冷房をガンガンにきかせて、
会見の様子を泰然と眺めていた。
焦らしに焦らしたのち、
メディアを介して
乾き切ったのどに水分(情報)をくれてやる。
砂漠のオアシス作戦決行。
社長は、
SNSのマイナス反響にうろたえるTV局関係者を、
一喝した。
「われわれは法に触れたわけではない!
おどおどする必要まるでなし!」
「乾きさえ癒えれば、
ネット囚人どもの小賢しいさえずりなんぞ
直に収まるて。
ただ(そのうち1パーセントに満たない)
掃きだめのツルのごとし貴い声は、
傾聴に値する。
真摯に吸いあげなくてはいかん」
社長は70を目前にしても、
興行師としてのアンテナを
サビつかせないよう努力していた。
会見の司会進行はテレビ局の制作主任。
彼の指示により、
メディア各社に新番組用のペーパーが配布された。
満席のあちこちから素っ頓狂な声が漏れる。
不意を打たれたときに発せられる変ボイス。
四十代半ばの進行役は冒頭のあいさつで、
番組延期の陳謝
および その理由 (映画化)を述べた。
次いで出席者の紹介・・
聖林プロに所属する期待のホープ、
新番組のメイン演出家である南禅寺 助麿。
黒ずくめの彼は、眼光をギラギラさせていた。
(演出は三人の複数ローテーション)
演出家の向かって左どなりに・・
笹森 汐
と
補佐役であるマネージャーの七尾。
さらに、
アスリート体形をした、
主要出演者三名(女1名・男2名)が、
慣れない面持ちで、お上りさん着席していた。
ほか、赤丸上昇中の脚本家、
どん尻に作曲家という横一線の並びである。
マイクを握った進行役は、こまめに水分補給、
ときおり、汗を拭いながら、
自信に裏打ちされた言葉で番組内容を説明した。
「プライムタイムで放送される新番組名は、
『チャンバラ戦団 / 凸レンジャー』であります。
わが局では長い歴史を有する、
<スーパー戦団もの>の最新作となります。
大人も楽しめる番組をめざす所存です。
22時というプライムタイムゆえ多少の冒険は許される。
子ども向けの縛りを解き放ち、
幅広い層をターゲットに企画・立案いたしました。
朝の連続ドラマで人気を不動のものにした
笹森 汐さんを主演ではなく、
あえて、チームの一員として、
キャスティングした(できた)こと。
手前みそとなりますが・・
ここに制作陣の意欲が込められているわけです。
最後に・・
質疑応答は・・
出席者全員の紹介終了後とさせていただきます。
その旨ご協力のほど、よろしくお願い致します」
司会者は、
マイクを置いた。




