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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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三番目の坂

垂直すいちょくに バネをきかせ ピョーンとねる。

糸を引くように宙へ浮きあがっていく。

ふだんは見ることのできないりあがり 風景ヴュー


<鳥だ!>

<飛行機だ!>

<空中クラゲだ!>

 しかして その正体は・・

<スーパーマン!>

 ではなく・・

笹森ささもり しおりでした>


宙空ちゅうくうに浮く清々(すがすが)しさ、解放感は、

かこいなきエレベーター」を

()リアル幻視げんし したとたんに、

爽快そうかい気分を不安が駆逐くちく

重力安定を 気化きかさせてしまった。


高所はコワいのに、

フッと引き込まれてしまう、あの感じの、

増幅ぞうふく拡大かくだい三途さんずの川渡り。


一直線いっちょくせんの美的ポーズを

保持ほじして着地するゾ!」

そんな心づもりとは裏腹に・・

恐怖の上昇気流にとらわれ、

平常心を失い、

身体がグラつき、

バランスをくずし、

手入れの行き届いたショートヘア(黒髪)を、

ヘアバンド越しに、

きのこ状へとふくらませ、

ヒップから落下した。


青色レオタード姿の汐は・・

競技用トランポリンのベッドにて、

「ヒャー」とか「ちょっとちょっと」

「ヤだ!ヤだ!」「あら あら あら あら!」なる奇声きせいをあげ・・

素人しろうと丸出し、

並レベル体幹者たいかんしゃ特有の、

(悪いなりに形の決まらない)

へっぽこバウンドを繰り返した。


その様子をタブレットで

動画撮影していた七尾ななおマネージャーは、

しおりさん、ちょっとビビり過ぎ。

でも まあ 初心者はそんなもんデス」


某体育館(貸し切り)にて・・

ワンセッションを終えた若葉マーク嬢は、

トランポリンの上から、

ななちゃんが差し出した手を握りしめ、

おぼつかない足取りでケガ防止マットに無事着陸。


平地のもたらす安定感によって・・

しだいに、

平衡へいこう感覚を回復していく。

「陸地サイコー」「重力バンザイだ」

(そもそも希薄きはくな 鳥憧憬しょうけいてた)


タオルで汗をぬぐいながら、

タブレットで自身の動画を確認(ダメだこりゃ!)。

柔軟じゅうなんな身体をつくるための、

特製・強ビネガー入りドリンクで水分補給。

ゲホゲホとむせかえる汐。


「ななちゃん。

どーせアクション場面は、

スタントの担当なんでしょう。

シャカリキにきたえあげるのは、

押しどころを間違えているように思う」


「なにを言ってるんですか!

プロのスタントの動きと、

汐さんの動きを、

最低ラインで一致させなければ、

場面シーンつなぎなどできやしませんよ。

ピンと張ったロープと、

たるんだロープを直結ちょっけつできますか?

CGや編集でゴマかせるなんてのは幻想です!

他のメンツは全員・・

(演技面はともかく)

体技にかけては結構なレベルですから。

チーム内で、あなた一人だけ、浮いてしまいます。

視聴者の目を あなどっちゃいけません。

SNSで餌食えじきにされますよ。

それでなくとも・・

汐さんは注目のまとなんですから」


七尾の真っすぐな視線を屈折くっせつ反射させ、

「うーん・・

ダンスもそうだけど、

身体を使うのは 今イチ苦手にがてなんだな。

脳内信号がうまく伝わらないのよ・・

演技みたいには」

前向き汐の腰引け発言。


「オールマイティーの人間なんて存在しません。

効率のいい努力をすれば 支障ししょうなしデス」


「どのように?」


「私の動きをマネればいい。

汐さん・・ものマネは得意じゃないですか。

それを全身へ行き渡らせるまでデス」


「?・?・?

もっと具体的なワードにしてくれる」


うなずいてみせた七尾マネは、

Tシャツ・ジーンズ・スニーカーを脱ぎ捨て、

サイケ模様の派手なレオタード姿に変身。

トランポリンに歩み寄るや、

Lサイズの身体をクルっと半転はんてんさせ、

横向きジャンプで軽やかにトランポリンへ身を移し、

リズムを切らずに すっくと 立ち上がると、

ジャンピングゾーンまでねながら移動した。


垂直すいちょくび数回のウオームアップあと、

空中回転・バック宙・側転そくてん・180度開脚(かいきゃく)ポーズ

をキレイに決めてみせた。


「ホエーッ!

ななちゃん すごいじゃん。

アンビリーバボー!」

汐は文字どおり仰天(ぎょうてん)した。


「小・中時代はバレエ(踊りのネ)部。

高校と大学は新体操部に所属してましたから。

リズム感と運動神経には若干(じゃっかん)の自信アリです」

七尾は、

トランポリンベッドでバウンドをあやつり、

ぴょんぴょん横移動。

気合いを込め ━ ワンジャンプ!

前方宙返りして地上マットへぶれ(・・)ずに着地。

胸を張り・両手を広げ・ポーズを決めた。


「お見事!」

ヒトは見かけによらないをでいく、

二代目マネに、拍手を贈る汐。


七尾ななおはタオルで汗をぬぐい、

自分用の強ビネガー入りドリンク500mlを

ことげに飲み干した。

・・っぱそうな顔で見つめるDJアイドル。


肝要かんようなのはですねェ。

汐さんの場合・・

体を動かす際、

分解した外形(フォーム)から入るのでなく、

内面から入っていくべき。

あなたの持つ 共感能力(Empathy Capacity)、

トランス(trance)力、

そして 集中力(Concentration)は頭抜ずぬけており、

演技表現に 屈折くっせつすることなく リンクしています。

アイドルなんてカテゴリーを逸脱いつだつした、

まさしく、芸術家レベルだと私個人はおもう。

ゆえに・・

基礎を無視して、

イマジネーションを信じ、

特殊ラインから核心かくしんせまりましょう。

その方が手っ取り早い」


「つまり、

ななちゃん になりきって身体を動かす」


「ええ。

その前にまずは柔軟じゅうなん体操いってみよーう!」


ななちゃんは、

マネージャーから メンター(・・・・)にメタモルフォーゼ。

しかも、昭和成分含有(がんゆう)の体育会系。


汐をエクササイズマットにいざない、

強ビネガー入り飲料を(おに)形相(ぎょうそう)で全飲みさせる。

続いて・・

未成熟な18歳の両脚を・・

160度まで限界開脚させた状態で、

閉じさせないよう 固定にかかる。

ななちゃんは、

肉付にくづきの良い たおやか(・・・・)な両足を、

汐の後方から

カニばさみ状にからませ

自身の左右のかかとで

18歳の開脚(おおぎ)ラインにくさびを打つ。

(わかりにくければ、SMプレイを想像してください)

そのうえで、

両手に力を込め、

ためらうことなく、

DJアイドルの華奢きゃしゃな背中をガシッと押し込んだ。

・・さらにもう一押し。

ワンセット10回ノルマである!


「ウギャーッ!

痛い、くるしいー、グルじいーッ!」


「そうそう。

苦痛くつうはガマンしないで吐き出す。

コレが大事。

そら もう一丁 ・出前一丁 ・ごまラー油! 」


「うキーッ!

ぎょエーッ!

あビて!ばブし!ボべた!」

ぺったらぽ!ぺったらぽ!」




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