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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
27/74

真贋

朝の連続ドラマ『サスティーン』の撮影はすべて終了した。


梅雨は去り・・

ホワイト・トンネルに突入。

夏真っ盛り。

連日猛暑が続いていた。

つぶさんばかりに照りつける太陽光。

むちゃくちゃビールの美味しい季節到来(とうらい)


しおりのレギュラー出演は、

目下もっかのところ、

ラジオ番組『哉カナ』1本のみ。

CM撮影と、

スポンサー主催の各種イべントをのぞけば、

ほぼ自由時間という贅沢ぜいたく

待ち望んでいたオフをようやく手に入れた。

あおざめるような緊張の日々からはなたれ、

気分は、すこぶる、入道雲にゅうどうぐも

押し込められていた 遊山ゆうざんエネルギーが、

青空キャンパスに もくもく 広がってゆく。


パーティーの出席依頼は、引きも切らず。

しかし、

よほどのことがない限り欠席にしてもらっていた。

生意気ナマイキかもしれないが・・

自分の時間を大切にしたかったのだ。


露出ろしゅつひかえめにして・・

┃ファンの飢餓きが感をあおる┃という、

左近さこんさんの打ち出した方針ほうしんは、

まとていたし、

汐にとっても特恵とっけいだった。


メディアに、

想像力豊かな憶測おくそく情報を

れ流されるというイレギュラーは あるけれど・・

しかし、

よくもまあ、

ネタがあるもんだ と、逆に感心してしまう。


待ちがれていたオフ = 夢の時間。

しかも9月いっぱい!まで、

ひと夏 丸々(まるまる)のロング・バケーション。


ただ、

はなはだ 困ったことに、

いざその時が来てしまうと、

デザイアー・・選択肢せんたくしの多さに、

はた と 迷ってしまう。

来週にはパスポートが交付されるので、

海外旅行も視野には入れていた。

有名人御用達(ごようたし)のハワイも悪くない・・


いそがしさの かまで状態 のときには、

遊行・逃避とうひ願望に加えて、

なぜだかわからないが、

真逆な、

弱点克服(こくふく)使命感(しめいかん)が、

そこかしこの隙間すきまから、

いぶられた虫のごとく、い出て来る。


あれもしたい・・ これもしたい・・

身体を駆け巡る期待熱。

相反して、

シミのように広がるウイークポイント・・

鍛錬(たんれん)な短所(主に身体能力+強い心)。


オアシスと脅迫きょうはく観念。

混在こんざいする圧縮声と心象(うみ)は、

一種の逃避とうひ希求ききゅう

苦痛をやわらげるための、

未熟みじゅくな自己を克服(こくふく)するための、

本能ほんのう的なバランス修正?

心の水平をたもつための、

イメージ・ヤジロベエなんだろうか?

集中をキリキリしぼり上げると、

付随ふずいして現出してくるのだ。



さて・・

話は変わり・・

久しぶりに、

母親との水入らずの時を過ごしたしおりは、

懐かしい空気とぬくもりに包まれ、

に戻って くつろいだ。

 〇素は 仕事から解放された いこいのとき。

 〇素の素は もう一丁深い リラックス状態。


DJアイドルの身体を構成してくれた、

おふくろの味は また 格別であった。


熟練じゅくれんおでん(・・・)いたっては、

ピンキリ・プライスの、

さまざまな老舗しにせや小料理屋に足を運び、

それから各種コンビニなどで購入、

食べ比べをしたけれど、

お母さんの こしらえた ものをしのぐ味に、

お目((くち))にかかったことがない。

コレは 只事ただごとではない と改めて思った。


味付けの秘訣ひけつを当人にたずねたら・・

「嫁入りが決まったら、教えてあげるさ。

 アイドルなんて25過ぎたら需要じゅようはないのよ。

 それより、笹森の血を絶やさないで欲しいね。

 少女いやすく、なんだよ。

 わかってるのかい?」

と、肩透かたすかし&予期せぬジャブが、

汐の急所近くにヒット。


いててててて!」瞬殺しゅんさつリアクトする()


ビンゴなタイミングと

反応のシャープさ、的確さ、ツヤのあるモーションに、

魂を 瞬間 さらわれてしまった 母親は、

感情のやり場に困り・・

娘の頭をポンと叩くしかなかった。

(少なくとも・・このはニセ者ではない!)



実家を後にして、

タワマンに戻った汐は、

緑茶を飲み、

漬物つけもの〈母親お手製〉をつまみながら、

あのお方(・・・・)の伝記本を読み返していた。

(もう何度目になるだろう。

 アンダーラインだらけだ)

『尼僧物語』の出演が転機てんきになったように思う。

あのお方 と シスタールークの人生は妙にかさなる。

老齢になっても気品にあふれ美しい。

私があこがれる 唯一無二 の存在。


自分も年齢をたら、

(否・・それ以前に)

相応そうおうな身の振り方を考えなければならない。

お母さんの言う通り・・

いつまでも(DJ)アイドルではいられないのだ。

落ち目になると人は離れていく。

それは経験済みである。


「もう一度会ってみたい」

・・汐には・・

ぜひとも、再会したい人がいた。

その人物とはある時点から、

音信不通が続いている。

しかし、居場所は把握はあくしていた。

相手にキラわれたとは思いたくない。

━ 信じたくない ━

「そんなコトは絶対に無い」とまでは断言できない。

ただ、直観ちょっかんのアンテナはピンと立っていた。

「向こうも会いたがっている」と。

いきなりたずねて行ったら、どんな顔をするかな?


若さの特権とっけん

ふだんは隠しているおのが性格を表出させて、

衝動的に行動を起こしてみたくなる。

とはいえ、いま置かれている立場上、

ムテッポーな行動は禁物きんもつだ。


◇なにかあると・・

◇なにもなくとも・・


ぐさまネットニュースに取り上げられる時代だ。

(ノーメイクで安食堂へ行ったことが、

 きょうのトレンド入りしてしまうのだ!)

くわばら・・くわばら。


読書の集中による反動で、

頭に疲労ひろうもやが降りてきた。

イメージトライアルには最適さいてきのコンディション。


 /汐の儀式ぎしきは/

 いつもと場所を変え、

 ソファーに背もたれ姿勢で施行(トライアル)された。


受け身の心構えを維持いじし、

想念そうねんに、

ディティールを付与ふよさせ、

イメージ解像度(かいぞうど)増進ぞうしんさせていく。

(しばしば、汐の心象しんぞうは、

 深い催眠と同等、

 現実との判別はんべつが つかなくなる)


∴ ヒュン ∵


━ またもや窓枠まどわくの視覚像 ━

━ 潮の香り・心地よい風・見たことのない風景 ━

━ イメージの背後には防御ぼうぎょバリアが張られている ━


視覚像の深海しんかいに達しようとするとき・・


プライベート限定のスマートフォンに、

滅多めったなことでは鳴らない着信メロディー♪

ホルストの<ジュピター>が響き渡る。

ゆず()(ユッP)から、

直電ちょくでんが入ったのだ。


急激きゅうげきなサルベージに、

(頭痛を覚えながらも)

汐は・・

受信ボタンをタップした。


「ゴメン・・」

 遠慮えんりょがちな ゆず季 の声、

何度なんどか・・LINEを入れたんだけど・・」













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