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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
26/74

アンデッド・・その3

朝の連続ドラマ『サスティーン』最終回の収録は、

静謐せいひつな空気の中で・・とどこお りなく終了した。


ヒロインの大道おおみちアスカは、現在57歳。

教育に情熱じょうねつをそそぎ、

二兎にとを追うことを断念だんねん、独身をつらぬいていた。

特別支援学校(旧養護学校)の先生として数々の苦難くなんを乗り越え、

学校改革にも注力ちゅうりょくした。

一時は・・

学校を追われるき目にあうも(定番)・・

大道先生の薫陶くんとうを受けた生徒たちの尽力じんりょくにより、

主幹しゅかん教諭としてカムバック。


学校の講堂にて・・

在校生 + 集結しゅうけつした卒業生たちの前で、

感動的なスピーチを

手話 で披露ひろうする場面でフィナーレ。


演台えんだいの上には、

写真立てが置かれ、

若かりし「レモンちゃん」のブロマイドがおさめられている。

そして・・

DJ用の カフ が用意されていた。

(卒業生たちのイキはからい)


カフを上げる場面で・・

 ┃ラジオDJ時代の┃

 ┃溌溂はつらつとした┃

 ┃大道アスカがインサートされる┃

・・しこたま、涙を誘うように構成されていた。


笹森ささもり しおり・・

はつ五十路(いそじ)役に挑戦(チャレンジ)

動作と発声に加齢かれいの工夫をらし、

緻密ちみつで気合いの入った、

それでいて、

想像力の内圧光で、計算部分をおおいつくし、

自然で こころよい 演技を顕現けんげんさせた。


収録しゅうろくは文句なしに上手く行った。

最終回は九月末日に放送予定。


撮影現場へは、

きの人たちにかこまれ、

つえいた大御所脚本家が、

つむぎの和服姿で出席した。

(初めての、お目通めどおりである)

・・主演の汐が代表で花束を渡した。


打ち上げは、

ホテルのパーティー会場へ、

ところを移して行われた。

主役の座は・・大御所がさらった。

大老たいろうの彼は、

『サスティーン』の前半など

存在しない風情ふぜいで、

(ダイヤモンドの

 め込まれたツエを優美に動かして)

ドラマを語った。


しおりは、

笑顔をやす事なく

あいづちを打っていたが・・

大老の高慢こうまんちき な口ぶりには、

まっこと カチン!ときていた。


大御所おおごしょナンボのもんじゃい!

 道徳どうとくの教師にでもなりやがれ。

 古い革袋かわぶくろ古酒(クースー)りやがって。

 しんにグッとくる場面は、

 ことごとく、

 故・湯浅(ゆあさ)さんの いただきジャンか!」


コイシツやベレーさんは、

社交性をたくみによそおいながら、

しっかり、汐坊(しおりぼう)監視かんししていた。

暴走ぼうそうを食い止めるためである。

嫌味イヤミの一語でもはっしそうになったら、

会場から連れ出す算段さんだんだった。

というのも・・

彼女の 心のうち が痛いほど理解できたからだ。

そして・・

ほぼ九割九分・・彼女に同感どうかんであった。


演出家二名はタッグを組んで、

リターンマッチを計画していた。

年末に放送予定の「総集編/最終話」に、

ろしの特典映像を付けるのだ。


「総集編の視聴率アップ、

 DVDや配信の売り上げ増加にもつながる」

 と太鼓判たいこばんを押し、

 藤本Pを丸め込んでスケジュールを組んだ。


コイシツが台本ホンを、

ベレーさんは演出を担当する。

そのアイディアを聞かされたしおりは、

ふたつ返事でOKした。


『サスティーン /if( イフ)』

 と題されたスピンオフは・・

 最終回の感動的な場面を再現した形で始まる。


汐は・・

本編と同じくらいたましいを込めて、

け役を演じた。

特別支援学校の講堂にて・・

在校生と卒業生の前で

手話 を使いスピーチを行う。

演台えんだいの上には若かりし頃の、

「レモンちゃん」が微笑ほほえんでいる写真。

実物そっくりの〈カフ〉まで設置されている。

卒業生のイキはからいに、

こみ上げてくるものをおさえきれず、

思わず・・大粒おおつぶの涙をこぼす。

感動に打ちフルえる指で カフを上げていく。


カフをげ切ったとたん・・

どーゆーわけか、

演台の上から

シャワー状の温水が極所(きょくしょ)的にはなたれ!

アスカをお湯びたしにした♨


続いて・・どーゆーわけか、

脈絡みやくらくもなく

大量のパイを乗せたラックが

各所かくしょ出現しゅつげん


ファンファーレが鳴り響き♪

抜群ノリのBGMに乗っかって、

汐 VS 生徒たちとの、

ハチャメチャなパイ投げが火ぶたを切った。


さらに、さらに、どーゆーわけか、

スタッフ、エキストラまでもが雪崩なだれ込み、

しっちゃかめっちゃかなカオス状態、

狂騒きょうそう的なパイ投げ合戦に突入。


ベレーさん(演出家)の指示で用意された、

6台のカメラと各オペレーターたちが、

面白そうな場面を次々に切り取っていく。


しおりも演技を忘れて、

本気モードになり、

ターゲットをさだめてパイを投擲とうてきしまくる!


ベレーさんは、

女子プロ野球選手のトップクラスを

エキストラに まぎれ込ませていた。

彼女らは・・

抜群のコンビネーション&コントロールを発揮はっき

主演女優をまたたくかこみ、

パイまみれにしてノックアウトした。


次なるターゲットは

コイシツ 一択いったく

万全ばんぜんのオフェンスシフトをいて、

(しぶとく、しぶとく)逃げ回るコイシツを、

袋のネズミ状態に追い込み、

にじり寄り、

パイ投げを執行しっこうほうむり去った。


ここまでくれば、

悪乗わるのりあるのみ・・

演出の指示を出している

現場責任者のベレーさんにも、

パイの連弾れんだんを食らわせ、

クリームのぬまに沈めた。

ベレーさんは・・

音楽の小節(・・)にピッタリ合わせて、

流石さすが()け方をして見せた。

言動一致・・演出家のかがみといえるだろう。


オーラスは・・

水洗トイレを流す爆音に合わせて、

ありったけの水を放出。

だい洪水こうずい奔流ほんりゅうに、

キャスト・スタッフ・エキストラが、

(全員救命胴衣着用)

怒涛どとうの勢いで、

・・落書らくがき(悪口)がほどこされた

  ダイ()モン()ドを埋め込んだツエもろとも・・

上手かみてから下手しもてへ流されていった。



上記の場面は、

スタジオ管理部からクレームがついた。

スタジオの扉をぶち破り、

各所に水害をもたらしたからだ。

・・撮影機材の損害額またしかり。


激流による負傷者は、

打撲症だぼくしょう並び溺水できすい・・計七名。


清掃会社からも、

正式な抗議書が届いた。

大浴場がパイのクリームでベタベタになってしまい、

二日ばかり使用不可になってしまったこと。

洪水こうずいですら

 クリームの粘質ねんしつを洗い流せなかった)

それと・・

水害の後始末に

緊急大量増員を余儀よぎなくされたゆえ。


━〇━

スピンオフのエピローグは、

動から静へ・・一転、

 ┃溶暗の黒味くろみ から、スポット小円しょうえんが現れ┃

 ┃徐々(じょじょ)に拡大していくアイリス・イン┃

現在の場面へと移行した。


ラジオブース内で・・

昭和の売れっ子DJ大道アスカ(57)と、

令和のDJ笹森汐(18)が、

マイクをはさんで

静かに向き合い、微笑んでいる、余韻よいんを誘う場面。

・・サスティーンを引いた映像でピリオド。


この場面で・・

汐は・・

メイクに依存いぞんすることなく・・

演技の底から余すことなく原油げんゆみ上げ・・

五十路いそじアスカの表情に、

人生の年輪ねんりん

り深く

稠密ちゅうみつに 浮かび上がらせて見せた。

━━主演女優のスゴわざ演技 を、

  目撃したスタッフは 深いため息(・・・)をついた。

(直後、汐は、ガスけつにより失神した)



┃エンドマーク┃






『サスティーン /if( イフ)』は・・

 いかなる事情によるものか不明だが・・

 を見ることはなく、おくら入りとなってしまった。

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