アンデッド
朝の連続ドラマ『サスティーン』は・・
不測の事態による、
撮影済み回のストック不足を解消するために、
┃脚本家 湯浅二三 追悼週間┃
という・・
名目で、
急きょ「総集編」を六回に分けて放送することにした。
番組の最後には、
ショートコントのおまけを付けた
(NG場面から掘り起こした本邦初公開)。
ナレーションは 笹森 汐 がつとめ、
副音声では、
主演の 汐や キャスト達の
オーディオコメンタリーが流された。
番組関係者の誰もが一驚したのは、
なんと・・
6話・・すべてが・・
25%超え の視聴率を叩き出したこと。
とうていムリだろうと言われていた、
第二の大台を突破したのだ。
『サスティーン』のマグマは
もう、噴火直前まで来ていた。
ヒット作から
メガヒットに転じる
秒読み段階であったのだ。
さらに上昇していく矢先に、中心人物を失った。
藤本Pは・・
後任の脚本家を誰にするか?
会議室に演出家陣を集めて、
鳩首 凝議をした。
緊急でありながらも・・
慎重な対応が求められる案件だ。
現在・・
ドラマは後半に差しかかる折り返し地点。
うまくブリッジを渡れるかどうかの薄氷ポイント。
どのように舵を取って、
終盤へと進行させていくか?
ドラマの着地点は?
主人公・・大道アスカの一生を描くのか?
中年半ばくらいでフィニッシュさせるか?
それらの難題を解決しながら編み上げ、
なおかつ、面白く描き出せる脚本家はいるのか?
演出家四人の答えは┃いない┃の一語だった。
Pは涙目になって、
机を ドタンバタン ぶっ叩いた。
「そんな、腑抜けた、
たわごとなんゾ訊いとらんよ!
なにか、建設的な意見はないのか!
え━っ!」
感情が螺旋上昇して
ヒステリー状態になり、
地団太を踏み、
意味不明の言語をわめき散らした。
サードのポジションにある演出家は、
Pのその様子をスマホで動画撮影した。
ヒトが錯乱状態に陥ってゆく演技を、
指導するときの参考になると考えたからだ。
怒髪天を突き上げたPは、
勢いよくペットボトルを投げつけ、
踊り上がるようにして、
会議テーブルの向こうにいる
サード演出家に掴みかかった。
「やめろ!」
コイシツが素早く割って入って止めた。
・・とんだ悲喜劇である。
フォース(四番目)の演出家は、
笑いをこらえすぎて咳き込んでいた。
ベレーさんは、
会議室の出来事を短編にまとめ、
カット割りを、
頭の中で完成させていた。
『会議は踊りかかる』という題名までつけて。
演出家 (職能者)と
プロデューサー(管理者)の差異である。
このままでは・・
朝の連続ドラマ『サスティーン』は、
暗礁に乗り上げてしまう・・
藤本Pは瀬戸際スレスレに立たされ、
胃に穴が開きかかっていた。
遺書を書くまでに、追い詰められた。
コイシツやベレーさんは、
親交のある脚本家に
片っ端から連絡を入れたが、
それぞれ言葉は違えど、
┃荷が重すぎる┃
というニュアンスで断られた。
まあ当然と言えば当然で、
コンストラクションは、
故・湯浅さんの頭の中にしかなく、
後任者には・・
引き継ぎようがなかったのだ。
撮影済みストックは、
残すとこ(あと6回)一週間分。
いよいよ追い詰められたとき・・
すべての番組を司る、
最高責任者(=編成局長)あてに
一本の電話が入った。
引退宣言をして・・
北国で隠遁生活を送っている、
大御所脚本家からであった。
編成局長がプロデュサー時代に組み、
『私は巻貝になりたい』
という連続ドラマで、
大ヒットを飛ばしたことのある、
旧知の仲だった。
受章歴(旭日小綬章)を持つ大御所は、
重厚なテーマの作品を、
ヒット作にしてしまえる剛腕であった。
『灰色の巨塔』や『ふぞろいの団栗たち』など、
代表作を挙げたら、
五指にはとうてい収まらない。
引退後・・大御所は、
映画会社や各テレビ局のPが、
お百度を踏んでも、
決して首を縦に振らず、
カムバックしなかった。
その彼が・・
窮状に見舞われた
朝ドラ『サスティーン』の
協力を申し出たのである。
編成局長は・・
飛び上がらんばかりに喜び、
二つ返事で承諾した。
上意下達で藤本Pに通告された。
藤本Pは大御所のところへ赴き、
ビジネス面の細部を詰め、
正式な脚本執筆契約が取り交わされた。
編成局長から許可をもらった、
番組の追加予算(湯浅構想のホラー編費用)は、
大御所のギャラとなり消えた。
この瞬間から・・
朝の連続ドラマ『サスティーン』は、
大きな方向転換を迎えることになる。




