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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
24/74

アンデッド

朝の連続ドラマ『サスティーン』は・・

不測ふそく事態じたいによる、

撮影済み回のストック不足を解消かいしょうするために、


┃脚本家 湯浅二三 追悼週間┃

 という・・

 名目めいもくで、

 急きょ「総集編」を六回に分けて放送することにした。

 番組の最後には、

 ショートコントのおまけを付けた

 (NG場面から掘り起こした本邦初公開)。


ナレーションは 笹森ささもり しおり がつとめ、

副音声では、

主演の 汐や キャスト達の

オーディオコメンタリーが流された。


番組関係者の誰もが一驚いっきょうしたのは、

なんと・・

6話・・すべてが・・

25%超え の視聴率をたたき出したこと。

とうていムリだろうと言われていた、

第二の大台を突破したのだ。


『サスティーン』のマグマは

もう、噴火ふんか直前まで来ていた。

ヒット作から

メガヒットにてんじる

秒読み段階であったのだ。

さらに上昇していく矢先やさきに、中心人物を失った。


藤本Pは・・

後任こうにんの脚本家を誰にするか?

会議室に演出家陣を集めて、

鳩首きゅうしゅ 凝議ぎょうぎをした。

緊急でありながらも・・

慎重な対応たいおうもとめられる案件だ。


現在・・

ドラマは後半に差しかかる折り返し地点。

うまくブリッジを渡れるかどうかの薄氷はくひょうポイント。


どのようにかじを取って、

終盤へと進行させていくか?

ドラマの着地点は?

主人公・・大道アスカの一生を描くのか?

     中年半ばくらいでフィニッシュさせるか?

それらの難題なんだいを解決しながらみ上げ、

なおかつ、面白くえがき出せる脚本家はいるのか?


演出家四人の答えは┃いない┃の一語いちごだった。


Pは涙目になって、

机を ドタンバタン ぶっ叩いた。

「そんな、抜けた、

たわごとなんゾいとらんよ!

なにか、建設的な意見はないのか!

え━っ!」

感情が螺旋らせん上昇して

ヒステリー状態になり、

地団太じだんだみ、

意味不明の言語をわめき散らした。


サードのポジションにある演出家は、

Pのその様子をスマホで動画撮影した。

ヒトが錯乱さくらん状態におちいってゆく演技を、

指導するときの参考になると考えたからだ。


怒髪どはつてんげたPは、

いきおいよくペットボトルを投げつけ、

おどり上がるようにして、

会議テーブルの向こうにいる

サード演出家につかみかかった。


「やめろ!」

 コイシツが素早くって入って止めた。


・・とんだ悲喜劇である。


フォース(四番目)の演出家は、

笑いをこらえすぎてき込んでいた。


ベレーさんは、

会議室の出来事を短編にまとめ、

カット割りを、

頭の中で完成させていた。

『会議は踊りかかる』という題名までつけて。


演出家 (職能者)と

プロデューサー(管理者)の差異さいである。


このままでは・・

朝の連続ドラマ『サスティーン』は、

暗礁あんしょうに乗り上げてしまう・・

藤本Pは瀬戸際せとぎわスレスレに立たされ、

胃に穴が開きかかっていた。

遺書(・・)を書くまでに、追い詰められた。


コイシツやベレーさんは、

親交のある脚本家に

かたぱしから連絡を入れたが、

それぞれ言葉は違えど、

┃荷が重すぎる┃

というニュアンスで断られた。


まあ当然と言えば当然で、

コンストラクションは、

故・湯浅さんの頭の中にしかなく、

後任者には・・

引きぎようがなかったのだ。

撮影済みストックは、

残すとこ(あと6回)一週間分。


いよいよ追い詰められたとき・・

すべての番組をつかさどる、

最高責任者(=編成局長)あてに

一本の電話が入った。


引退宣言をして・・

北国で隠遁いんとん生活を送っている、

大御所おおごしょ脚本家からであった。

編成局長がプロデュサー時代に組み、

『私は巻貝まきがいになりたい』

という連続ドラマで、

大ヒットを飛ばしたことのある、

旧知きゅうちの仲だった。


受章歴(旭日小綬章)を持つ大御所は、

重厚なテーマの作品を、

ヒット作にしてしまえる剛腕ごうわんであった。

『灰色の巨塔』や『ふぞろいの団栗ドングリたち』など、

代表作を挙げたら、

五指にはとうてい収まらない。


引退後・・大御所は、

映画会社や各テレビ局のPが、

百度ひゃくどんでも、

決して首をたてに振らず、

カムバックしなかった。

その彼が・・

窮状きゅうじょう見舞みまわれた

朝ドラ『サスティーン』の

協力を申し出たのである。


編成局長は・・

飛び上がらんばかりに喜び、

二つ返事で承諾しょうだくした。

上意下達じょういかたつで藤本Pに通告つうこくされた。


藤本Pは大御所のところへおもむき、

ビジネス面の細部を詰め、

正式な脚本執筆契約が取りわされた。


編成局長から許可をもらった、

番組の追加予算(湯浅構想のホラー編費用)は、

大御所のギャラとなり消えた。


この瞬間から・・

朝の連続ドラマ『サスティーン』は、

大きな方向転換を迎えることになる。











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