メタメタ
汐 は、
(マネージャー・スタイリスト・付き人との四人で)
朝ドラ『サスティーン』の撮影所入りをした。
多くの、入り待ちファンは、
ピリピリした雰囲気の主演女優には
決して近づかない。
遠慮がちに声がけするくらいだ。
(出のときはOK。入りはNG。)
紳士協定・・暗黙の了解である。
今日は、
湯浅さん(脚本家)のユニークなアイディア、
メタフィクション構成を採用した、
台本を撮影する。
キャストたちは緊張とワクワク感が、
ないまぜ になっていた。
撮影スタート!
━〇━
撮影所に到着した アスカ役の 汐(役を演じる 汐)。
囲まれたファンに
不気味なくらい丁寧にお辞儀をし、
愛想をふりまき、
サインをしまくり、
笑顔で子どもの頭を撫で撫でした。
(1・5倍速で編集処理)
「笹森さんって、演技はもちろん、
人間的にも素晴らしいワ」
・・ファンの声がこだまする。
控室の(なぜか)大部屋に入る。
先入りしていたメンツは、
サッと和室の四方に散った。
たちまち 豹変した架空の汐は、
テーブル中央前にドカッと座り、
アゴをしゃくって、
マネジャー役に肩を揉ませる。
「なんで、いっつも、
こんなに台本の上がりが遅いワケ。
正直いらいらすンだよね。
それにさ、ドラマ内で、
大道アスカの人物評定ってあるじゃん、
所属事務所の㊙ファイルのやつ。
ルックス〈中の中の中〉ってなによ?
演じる うちのイメージ、ガタ落ちじゃん。
作中人物が演者に反射するコトは珍しくない、
SNSで笑いものにされたしィ。
次期CM女王候補なんだからさ。
そこんとこ汲んでもらわないと。
プロデューサーにクンロク入れときィ」
「そこは女優魂でひとつ。
凶悪犯罪者を演じて、
評価を得るケースなんかも
ありますからね」とマネージャー氏。
「やなこった。
おととい来い。
ガム買ってこい!」
イメージダウンの危険性をはらんだセリフだが、
汐は、カリカチュアを巧みに ほどこし、
好かれる演技へと変換してしまった。
次いで コイシツ=本人が、
泣きながら大部屋に入ってきた(演技もできるのだ)。
「おじさん、またやられたの?」
ぐすん、ぐすん泣いて、うなずく。
「あの演出家、うるさいからねぇ。
うちだって、顔も見たくないよ。
意味なく13テイクもやらされてさ。
サディストだね、アレは。
収録最終日には、
袋叩き計画 を予定してるんだ。
おじさんも、
一丁噛みするかい?」(汐のアドリブ)
コイシツはリアルにギョッとする。
「いやぁ、あっしは平和主義者なんで、
そういう物騒な話は・・どうも・・」
「やるときは、
思いっきりやっとかないと。
舐めらたまま、終わっちゃうよ」
「そんなもんですかねェ・・」
今話は・・
あるたくらみが・・実行に移された。
演出担当の早撮りベレーさんは、
コイシツにわざとNGを出し、
呂律が回らなくなるまで
執拗に演じさせた。
(もちろん、飲み屋に行く時間を逆算してのコト)
汐も面白がって、
リアクトの難しい
ひねり球のアドリブを
コーナーぎりぎり(四隅)にガトリングし、
コイシツを きりきり舞い させた。
スタッフキャストは
やんや、やんや、の大喝采。
そこへ、
サウンドステッカーのコンビが入ってきた。
座布団三枚の上に陣取った主演女優に頭を下げ、
他のメンツ一人一人に漏れなくあいさつ。
ネタ合わせを始めると、
大部屋のあちこちで、小さな笑いが渦巻く。
テーブルをドン!と叩き、
架空の汐はダメ出しした。
自分でネタを披露して、お手本をみせる、
(ここは、女優芸人に戻って演じた)。
周囲は感心し、コンビも最敬礼。
汐は、腕組みをして、
「よしよし」うなづいて見せた。
スタジオ内。
「大道アスカ役の笹森 汐さん入ります」
両手をエア拡声器にしてADが叫ぶ。
数人がかりでレッドカーペットがコロコロ敷かれ、
主役の汐が、
取り巻きをゾロゾロ引き連れ、
恭 しくスタジオ入りする。
演出家をふくめた、
全員が動きを止め、ビシッと一礼する。
うなずく主役。
豪華な椅子が用意される。
腰かける汐。
すると、
どーゆーわけか、
椅子の座面が外れて、
スッテンころりん!
ズッコケる。
その上に巨大なパイが降ってきた!
クリームまみれになる。
ズブリと顔を出すや・・
「タメにタメて、
だまし討ちかい!」
・・ボヤく汐。
と同時に、
キャスト・スタッフ・
大勢のエキストラたちが、
画面 をはみ出さんばかりに
楽しそうに♪
ハッピーに♪
リズミカルに♪
スタジオ内へ一斉になだれ込んだ。
サウンドステッカーもいる。
コイシツもいる。
皆でクリーム姫(汐)を取り囲む。
そして全員で、
天井カメラに向かって、
掛け声を上げ、 両腕を突き上げる。
フィナーレはバッチリ決まった!
〆の効果音が流れる
現場は祭りだ!
祝祭だ!
━〇━
「はい、OK」とベレーさん。
『サスティーン/番組内番組の回』
撮影終了。




