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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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ひととき

撮影を終え、

朝帰りした汐は、車からりた。

6月の第一週。

外気は肌に心地よかった。


マネージャーによって、

ファンを( 軋轢あつれき なく )けん制してもらい、

広くて整然としている

大理石で組まれたエントランスへ入る。

迎えの時間を確認し合ってから別れ、

郵便受けのカギを開けてホッと息をつく。

エレベーターに乗り カードタッチ、

自宅マンションへと帰還した。

いまでは、郵便受けが あふれ返ることはない、

事務所(経由)預かりにしてもらっていた。


自室に入る。

まずは、額装がくそうされた、

あのお方(・・・・) の写真の前に直立ちょくりつ

手を合わせる。

続けて、眠たい目をこすりこすり、お風呂に湯をためる。

「哉カナ」リスナーからいただいた、

高そうな湯の華をたっぷり入れる。


昨日の撮影は台本が間に合わず、

延々(えんえん) 「待ち」 であった。

役者は当日にセリフを覚え、

演じなくてはならない・・

汐は

ギリ平気だったが、予習準備型にはキツイ話だ。


演出家 (コイシツではない)はカリカリしていた。

早撮はやどりタイプだからである。

台本ホンを一読しただけで、

カット割りが出来てしまう超職人型だった。

ファーストテイクこそ()という信念の持ち主で、

キャスト・スタッフからは、たいそう人気がある。

撮影なんて早いとこ終わらせて、

一杯やりたくてしょうがないヒトだ。

ゴールデン街を根城ねじろにしている。

(汐も一度、連れて行ってもらった)

なにより、ショートコントを撮らせたらナンバーワン。

コイシツもかなわない。

いつもベレー帽をかぶっているので、

「ベレーさん」と呼ばれていた。

汐は、ベレーさんのホンをチラ見したことがある。

あちこち♭音楽記号と音符♪が振ってあり、

演出家というより、指揮者の おもむきである。


今日は14時スタジオ入り予定。

笹森ささもり・・ つかの間の休息だった。


防水タブレットで落語を流す。

八代目可楽(からく)の『らくだ』

・・味のある語り口は絶品ぜっぴんである。

登場人物のやり取りがとてつもなくオカシイのだ。

あらくれ男の造形ぞうけいの巧みさ、

クズ屋さんの豹変ひょうへんぶり、

かんかんのう(・・・・・・)おどらせるまでのタメ(・・)の作り方。

話の風通しはいイイのに

展開によどみやスキがない。

活舌かつぜつは若干アヤしいけれど)

なしの名人芸である。


ぬるい湯につかる。

浴槽テーブルの上に、

本日分の台本を広げて()チェック。

演じ甲斐がいありそう・・

その内容に思わずニンマリしてしまう。

帰りの車中で読んだので、セリフは暗記できていた。

記憶力の良さは母親ゆずりである、

彼女は、おでん屋台で、

(ソロバンを使わずに)

速い暗算で、複数人の会計ができた。


身体が温まるにつれて、

意識はトロンとしてゆき、

現実は色を薄め、

形を透明化させ、

線画せんが状へ変容へんよう

線描せんびょうから、もやもやした無形むけいへ入った。

抽象ちゅうしょう浮遊ふゆうをたゆとう。

だしぬけに・・

窓枠まどわくが現出。

向こう側には海の風景。

波の音がフェイドイン。

潮の香りが漂う。

どこだろう?

記憶にない。

訪れたことのない場所だ。


いつの間にか、

抽象から具象へ

肉体感覚は平常に戻っていた。

振り返り、

背後を見きわめようとガンバる。

しかし・・できない。

ふいに身体が浮き上がった。

窓枠をスイと乗り越え、

海上へすべり出た、

猛スピードで低空フライト。

五感が、加速 粉砕ふんさいされていく。

ストンと急降下。

真っ逆さまに海中ダイブした。

息ができない・・


「ハッ!」

湯舟ゆぶねから、顔を上げる汐。

「あぶない、あぶない、

お風呂でおぼれたら洒落シャレにならない。

それにしても、

シュールかつ生々(なまなま) しい夢だったなァ」


バスローブ姿になり、冷蔵庫を開き、

お気に入りの缶ビール(350㎖)をヒョイと手に取る。

ステイオンタブをプシュっと開く。

ゴブゴブむ・・「クーッ!ウマい!」

テレビまえのソファに胡座あぐらをかき、

スマホチェックing ポテチ(のり塩)をバリボリ食べる。

飾り気なし、スッピンの幸せであった。


ゆず季(ユッP)からのラインを着信。


『ハリウッド大通り』という、

演劇の秋上演が決まったとのこと。

しかも初主演。


汐  ・・劇場は?

ユッP・・スカイ劇場

汐  ・・ガンバ(^^)v

ユッP・・サンクス(^^♪

     朝ドラ『サスティーン』最高!

汐  ・・よしなに。


初主演か、スカイ劇場、キャパ600人。

うん、悪くないな。


私も一度でいいから、舞台に立って、

ダイレクトにお客さんの反応を感じてみたい。


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