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29.皆の願い

 最前線をクリアしたことで、なんとクランポイントが大幅に上がりトップテンにランクインしたんだそうだ。


 それはとても喜ばしいことで、極一突は元々有名だったのだが、さらに知名度が広がった。


 それに気分を良くしたバカラさんは、やはりリアルで一度祝勝会をしようと言い出した。しかも、やるなら今日だと。


 たしかにみんな予定はなかったからインしていたのだが、だからって外に出るのには準備がいる。かなり皆で渋ったのだがやることになってしまい、今再び『肉肉肉』の前にいる。


「世良様? 入らないのですか?」


 そこにやってきたのは風花お嬢様だった。路地の先では黒い車が去っていくところたっだ。何時でも送ってくれるんだな。流石はお嬢様。そんなことを思っていると、怪訝な顔をされた。


「何か失礼なこと考えてます?」


「いえいえ! 滅相もない!」


 そんな風花お嬢様の姿は今日はシックな色のタイトめのスカートとセーターを着ている。カッコイイな。けど、こういうセーターって体のラインが出るから目のやり場に困るんだよな。目線を逸らすに限る。


「さっ、入りましょ!」


 先を促して先に入ってもらう。


「おぉ! 来たかシルフィ! マセラも一緒か! お前ら付き合ってんのか?」


 バカラさんが茶化してくる。

 

「いやいや、そこで会っただけですよ」


 チラッと風花お嬢様を見ると顔が赤くなっている。いやいや、否定しないとダメじゃないかなと思うが俺が物凄く拒否するのもなんか違う気がするし。


「ワレは急遽、店休みにしたんだぞ? あんまり急に開くなよ。この会」


「ギャハハハハ! 良いじゃねぇか! シルドも飲みたかっただろ? キンドも。なぁ?」


「ワイも暇やないねん! 来たけど……」


 テーブルを叩いて暇じゃないとアピールしているが、来ているということは暇だったのだろうけど。


 ────ガラガラ


 そこで入ってきたのは凄ーくだるそうなアルトだった。


「おぉ! よく来たよく来た!」


「もーーー。今日は出たくなかったぁ」


「まぁ、良いじゃねぇか! 飲め飲め!」


 なんだかんだ言って揃うからすごいよな。最近はこんなに出席率がいい飲み会なんて知らないわ。誰かしら居なかったりするもんだと思うけど。


「「「カンパーイ!」」」


 飲み始めたら楽しいから不思議だ。もちろん、話に出て盛り上がるのは現天極の話。


「しっかし、あの笛見つけたマセラはやっぱもってんねんて! 何かこう幸運を引きつけるなにかをやなぁ」


「たしかにそうであるな。羨ましいことだ」


「僕にも運を分けて」


 急にそんなことを言われた。

 俺も自分は運がいいほうだとは思っている。けど、今思うのは恋愛とかの運はないからその分が全て勝負運みたいな物に回っているのではないかと勝手に思っているのだ。


「そういえば、皆さんこのゲームやってるってことは、最初のクリア特典を狙ってるんですよね?」


 皆を見渡すと頷いていた。

 やっぱり目標は一緒なんだ。


「そうだなぁ。マセラだけ知らねぇってのも不公平だわな。俺はな、金だ」


「わー。わかりやすい」


 俺が可愛く手を挙げてそう言うとバカラさんに睨まれた。


「けっ! みんな同じようなリアクションしやがって」


「カッカッカッ! しゃあないてバカラ。分かりやすいんやもん。そう言ってるワイはな、現天極の権利が欲しいねん。そしたら、ぼろ儲けやろ?」


 えげつない事考えるなぁと思っていると、シルドさんが笑っていた。


「ホントにできるかどうかは、わかんないけどなぁ。ワレはな、妻の手術代が欲しいんだ」


 それはまた深刻な。

 俺の心は暗くなり、ちょっと胸から込み上げてくるものがある。


「な……なんの……病気なんですか?」


 しばし沈黙する。皆も暗い顔になっている。何か本当に重い病気なんだ。募金とか誰かに協力してもらわないとできない手術なんだ。


「心の病かなぁ」


 心の病気?脳の手術とかか?





  

「顔を変えたすぎて整形したいんだそうだ。そんな事言われてもなぁ」


 ────ゴンッ


「いってぇ!」


 力が抜けて近くのテーブルに頭をぶつけてしまった。


「ギャハハハハハ! おんもしれぇ! やっぱりからかいがいがあるな! マセラは!」


「本気で重い病気かと思いましたよ!」


「まぁ、シルドは冗談だ……」


 バカラさんが急に重い表情でアルトを見る。

 アルトに何かあるのか?


「僕は……弟の為なんだ……」


「弟さん……病気なんですか?」


 胸が締め付けられる。アルトの弟ならまだ幼いだろう。学生なんだろうか。どうして若い子が苦しまなきゃ行けないんだ。そう思うとまた込み上げてきて目を濡らしていく。


「海外に行くんだ」


「えっ!? 海外で手術が必要な難病なんですか? いくらです? 俺も手伝います!」


 払える分は払おう。どうせ俺なんて金があっても仕方がない。使い時がないんだから。




 

「留学するの。それにお金が必要なんだ?」


「おぉい! 幸せじゃねぇか! 留学できるなんて!」


「ごめーん! そんなに怒んないで?」


 ペロッと舌を出してニコッとされる。

 アルトめぇ。あざとい顔しやがって。


「僕はお金だけど、お金でどうにもできない願いもあるよね?」


 風花お嬢様を見ている。

 そうか。財閥の風花お嬢様が手に入れたいものなんて金でどうにかできるものじゃない。

 不老不死とかか?


「ワタクシはもうここまでくるとお金では解決できないんですの」


「?……ここまで来ると?」


「ワタクシ……」


 話すまですごいためる。

 どうしたんだろうか。そんなに言い難いことなんだろうか。大丈夫。俺はどんな突拍子も無いことも笑いませんよ。


 気にしないよという気持ちの顔で見つめていると。顔を赤くして行く。


 えっ? もしかしてもう手遅れとか?

 だから何とか生きようとしているのか?

 ここまで来るとってそういうこと?


 俺の心臓は鼓動が激しくなり息が上がっていく。それと同時に顔から血の気が引いていくのがわかる。クラクラしてきた。




 

「跡取りを探しているんです」


「いや金でどうにかなるでしょ!?」


「なりませんの。心が惹かれないとこればっかりは」


 俺は頭を抱えて悶えていた。


「ギャハハハハ! みんなそんなもんだ! ま、イカれてる一番はNPCを嫁にしようとしているマセラ、お前だな!」


 その日は笑いもんにされて夜が更けていった。

 終電で帰ったのであった。

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