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第二十話 Appendix:夕焼けに向かって撃て1

◆◆◆


 第三の女帝比良理(ひらり)麻衣(まい)が学校を去ってから、システム・マリアは罰則や倫理的におかしな箇所だけは修正されたが、ランク間の差別は是正されず、どちらかというと推奨されているのは変わらなかった。

 そんな中、取り立てて大きな事件も無く夏休みに突入すると、七竈戸(ななかまど)ミミが留学先から一時帰国する日を迎えた。


「これぞ日本の夏ね。懐かしいわー、じめっとしてて」


 ボッ○ガのスリップドレスにストラップサンダルを履き、ブル○リのサングラスを掛けている。ヨーロッパのリゾート感満載だ。どう見ても留学先からの帰国した学生には見えない。


「さーて、バカンスを楽しむわよ!」


 メイドさんと奥様を従えて、颯爽と大型バスに乗り込んだ。


◇◇◇


 夏の盛りなので朝の癖に陽射しが大変眩しい。

 そんな中、既に合同火葬されて骨もないミャー子。お墓くらいは、と白菜くらいの石を庭の隅に立ててあげた。

 まずまずの出来上がりを自慢げに眺めていると大家さんが様子を見に来てくれた。大層な喜びようで急ぎ住職を呼び付けお経をあげてくれた。野良猫とはいえ大家さんもそれなりに悲しかったのだろう。

 今は私と波子(なみこ)と大家さんでアパートの隅に屈み込んで線香を上げて手を合わしている。


 墓石にはプリントアウトした生前の写真に『ミャー子』と書いて貼り付けていたが、その周りには『タマ』、『ちび』、『にゃおみ』と名前が追記されていた。


「ふふふ、ミャー子ったら私達の知らない顔がこんなにあったのね」


 お経を上げて貰っていると、近所の人が何名か確認しにやってきた。事故のことを知ると驚き、そして悲しんでくれた。写真に名前を追記して下さい、と叶笑が薦めると涙ながらにペンを走らしてくれた。

 すぐに皆が花やお供物を持ち寄り賑やか過ぎる感じになる始末だった。


「タマはこんなに沢山の人達からご飯を貰っていたのかい。お前さんは幸せだったのかね……」


 墓石に呼びかける大家さんは『タマ』だったらしい。


「幸せだったかは分かりませんけど……いつも平和そうでしたよ」

「よっこらしょ。叶笑ちゃん、いつもタマを気に掛けてくれてありがとね」


 大家さんが自宅に帰って行くのを見送ると、私達は一度アパートに戻り大荷物で戻って来た。


「では、叶笑……私達はこの世を謳歌するわよ!」

「アイアイサー!」


 如何にも豪華そうな観光バスがアパートの前の道路に停まるとミミと奥様が姿を現した。


「叶笑、お母様、準備は宜しくて!」


 窓からは美織(みおり)(しおり)伊吹(いぶき)雷灯(らいと)、そして梨倫(りりん)が手を振っていた。



◇◇◇


 行き先は海沿いのリゾートホテル。バスで三時間ほどの旅路。簡単に自己紹介が終わると、ミミからのお土産贈呈式が始まった。


「それでは皆さん、箱を開けて下さい」


 そこには豪華な飾り付けのされた仮面が箱に入っていた。目元が豪華に飾り付けられた凝った意匠のものだった。


「ヴェネチアンマスクよ。私とお揃い!」


 いつの間にかミミは一際(ひときわ)豪華な仮面を着けていた。


「女子にはコロンビーナ型のハーフマスク、男子二人にはバウタ型を買ってきたのよ。今度は皆で仮面舞踏会と洒落込みましょう!」

「あら可愛い! 着ける機会、あるかしら?」


 部長()がいちいち五七五調で返すとミミは自慢げだ。


「無ければ私が開催するから良いわよ! そうそう、雷灯くんにはコレもあげるわ」


 雷灯には大きな箱が渡された。開けると船のラジコンが出てきた。


「仮面だけじゃ可哀想だものね。比良理と別れることができたお祝いよ。男の子はこういうのが好きなのよね?」


 雷灯の家庭も割と貧乏だ。高そうなラジコンの船に興奮しまくっている。ミミは比良理からの開放を心から祝福していた。


「サイコーだよ七竈戸さん。海でも走らせられるかなー?」

「プールもあるからそこで遊べるわよ。それから、ミミで良いわよ。皆さん名前で呼び合っているようだから仲間に入れてね」

「ミミ、お久しぶり。また遊べるのは嬉しいわ」


 美織もニコニコしている。

 少し前に美織本人から聞いたが、小学六年生の時に転校したお嬢様学校では四年生のミミが支配者として君臨していたらしい。そこに庶民丸出しの美織が大暴れして、最終的には敵対する二人が親友の誓いまでする仲になったんですって。

 少女漫画かよ!

 再度の転校を機に一度疎遠になってしまうと、同じ高校に在籍してるのが分かっても、互いに異なる友達関係も出来ていたので仲が戻ることは無かったらしいわ。


「んふふ! 叶笑と美織が知り合いってのがサイコーに面白いわ。こんな事なら早く帰ってこれば良かった!」

「ホントにそうよ。叶笑ちゃん、大変だったんだからね。ねぇ、栞」

「そうですよ。流石にあれは、ヤバかった、です」


 部長()は普通のサラリーマンの次女だけど二人は真のお嬢様なのよね。『七竈戸財閥』創業者の直系の一人娘と『シュガーフードコーポレーション』の創業者の御令嬢。

 但しミミは生粋のお嬢様。片や美織は元々は貧乏庶民で小学校高学年辺りから突然お嬢様になっていた。

 だから面白いんだけど、美織の方がお嬢様()()()。つば広帽子が好き。シックなワンピースが好き。スコーンと紅茶が好き。

 決しておにぎりと味噌汁が好きとは言わない。

 んふふ、見栄っ張りの女の子は前世から大好物よ!


「これを機に仲良くしましょ。楽しいバカンスにお誘い頂いて、ミミ、ありがとね!」


 一番後ろの座席では賑やかに談笑する三人の高身長組。前の方の座席では波子と奥様がシャンパンを呑んだくれている。伊吹はというと反対側の窓際でウトウトしている。楽しみ過ぎて寝れなかったらしい。子供かっ!

 因みに伊吹の弟妹(ていまい)達は七竈戸(ななかまど)家メイドさんが遊園地に連れて行ってくれているらしい。


 残りの二人は私のすぐ前の座席でまるで姉弟(してい)のようにしている。窓から流れる風景を見る雷灯に「はい、アーン」とリンゴを食べさせている梨倫。どうも弟が欲しかったようで、甘やかし方が上手。


 で、私はとても手持ち無沙汰。その上、横で船を漕いでいる男に水着姿を見られるのが気に入らないので不機嫌が止まらない。


「前世の体つきなら喜んで晒すのだがな……」


 小声で呟きながらこの謎なメンバーの女性陣を改めて観察する。まず、百七十センチ前後でモデル体型の三人組。並ぶと中々壮観だ。ミミは同レベルの膨らみなので問題ないが二人はそれなりに大きい。

 前の座席では梨倫が雷灯と並んでニコニコしている。それはもう大きいことと言ったら同性が見ても触ってみたくなる程。


 因みに大きさ順は以下となる。

『梨倫 >超えられない壁> 部長(栞) > 美織 >超えられない壁> ミミ >> 叶笑』


 前世では、肌を晒すなど夜伽の時しか考えられない。だからこそ、下着姿でマッサージをする反則技で宮中の男どもを籠絡しまくった。それが出来たのもミラクルパーフェクトボディがあったからこそ。

 服の上からでも分かるThe貧相ボディを晒して比較されると思うと、考えるだけで女の矜持はズタズタだ。


「せめてお前は私が一番と言えよ……」


 思わずとんでもないことを呟いてしまい勝手に赤面していた。



◇◇◇


 太平洋側の海水浴場に到着する一行。七竈戸グループ系列のリゾートホテルらしく支配人直々のお出迎えだった。スイートルームを二部屋も確保してあり、各自水着に着替えて続々とプールに出て来た。

 しかも今日はこのメンバーだけでプールを貸し切りしてしまっている。


 ミミはサイドがレースアップされたハイブランドの黒ワンピース。

 美織と部長は自前のビキニの水着。

 部長は爽やかボタニカル柄のパレオ付き。

 美織は麦わら帽子装備の白水着だ。

 梨倫もビキニ。ちょっと恥ずかしそう。

 はち切れんばかりの柔らかな物体が小さな布で抑えられている。

 うらやまけしからんボディーね。


 皆が皆の水着姿を褒め称えている。ん?

 私の水着の感想はどうなの?


「布の面積小さすぎなくないですか? こ、こんなの着たことなくて……」

「良いのよ! 似合うんだから。私には着たくても着れないデザインよ」


 皆さん梨倫の水着に夢中。

 ミミが見立てたらしいが大変似合っている。バスの中で聞いたけど胸が大きいことは昔から恥ずかしかったと自慢にしか聞こえないことを言っていた。

 だから、どうしても胸の目立たないフリフリでダボっとしたデザインのものばかり選んでいたらしくスタイルも悪く見えて水着姿に自信が無かったらしい。

 今日はフリルも少なめシンプルデザインなので、細いウエストも強調されてアンバランスな感じがサイコーに魅力的。同性の私も両手に揉みしだきたくなる。


 そんな梨倫を雷灯は時折じっと眺めている。そして顔を赤くして逆方向を向いてモジモジしている。控えめに言って二人の姿を見ると微笑まし過ぎて尊い。

 ところで、誰か私の水着姿の感想も述べてよ!


「雷灯くん、お姉ちゃんの水着、どう?」


 ん? 見られていることに気付いた梨倫が両手を後ろに小首を傾げてイタズラっぽい顔で微笑んでいるぞ。

 ほほう、雷灯を追い詰めにかかったか! 思ったよりえげつないのう……。


「そんなこと知らないよ……」


 迫力ボディーにタジタジの雷灯。小四にアレは辛かろう。


「ダメよ。しっかり見て感想言ってよ!」


 梨倫はイジワルを言ってる訳ではないのか……ただ雷灯に褒めて欲しいのか。その方が困るだろ、ふふふ。


「うぅっ……」

「梨倫、キレイだよ」梨倫の顔を指差してイケボ。

「もう……普通に言ってよね。誤魔化さないで!」


 小四のイケボなどそうそう通じるものか。


「ははは、梨倫、あまり雷灯を困らすでない。照れて可哀想だぞ」


 顔がリンゴのように真っ赤になっている雷灯を不憫に思って声を掛けるが、既に二人だけの世界らしい。

 まぁ、ああも追い込まれれば雷灯の視界は全て妖艶な肢体だろう。ふふふ、エグいのう。


「き、き……」

「綺麗? ねぇ、綺麗?」


 顔真っ赤でジリジリと後退りするしどろもどろの雷灯にもはや逃げ場なし。梨倫は的確に壁際へ追い詰めて詰問か。まるで熟練の狩人。

 ははは、見方を変えれば薄い本のようだな……って、叶笑よ、薄い本とは何だ?


 この二人を見ながら不埒なことを考えていると、横の美織が部長とキャッキャと騒いでいた。


「ねぇ、栞! この二人……多分両想いよ」

「えっ? 姉弟みたいなモノじゃなくて?」

「二人から感じる雰囲気はラブラブなのよねー」


 ん? そうなのか?


「美織のその勘は外れたことないからなぁ……」


 二人をじっと見つめる美織と部長。

 うーん? そんなことあるまい。アレは姉弟のソレに毛が生えたようなモノだろ。


「きゃるるん! 知らないよ!」


 変な声と共に逃げ出してプールに飛び込んで逃げ出した。ザバザバ泳ぎプールの対岸までクロールで泳ぎ切る。


「雷灯くん、はやーい! カッコいいー!」


 梨倫の褒め言葉に満更でもない雷灯。


「どう? 私には唯の姉弟にしか見えないわよ?」


 どうなんだろうな。やはり部長の意見に賛成だな。スクール水着に水泳帽と水中メガネ装備で元気に泳ぎ回っている。

 ちなみにデッキチェアですやすや寝ている伊吹も勿論同じ格好だ。


「いや、確信した。二人とも意識してるわ! 応援するわよー」


 美織の変なスイッチが入ったか。まぁ面白いから放っておくか。

 そうそう……放っておくといえば……私の水着姿も放置されているんだが?


◇◇


 というわけで、更に二十分ほど放置されたところで気が利く部長が叶笑の水着姿を無視していたことに気付いてくれた。可愛らしいフリフリのジュニア水着姿を大慌てで皆が褒め始めた。


「可愛いわよ、叶笑」

「叶ちゃん、カワイイ!」

「似合ってるわよ」

「お前の水着は安心して見ていられる。妹の(つむぎ)の水着よりオシャレだぞ」

「うん。安心して見れるよ!」


 こうも焦らされて、この評価!


「何故に特殊な辱めを受けねばならんのじゃ! 温厚な私じゃなかったら、流血沙汰だぞー!」


 思わずピョンピョンしながら両手を振り上げてプンプン御立腹。

 こら、微笑ましいとか笑うな!


「それでは、皆さん、リゾートを満喫しましょう!」


 無視か、ミミ!

 声高らかに宣言などするなー!


◇◇


 ワイワイと水を掛け合ったり泳いだり。大人二人はデッキチェアで肌を焼きながら、カクテルを飲みっぱなしだ。

 公共の場なので未成年の飲酒はNGらしい。ぐすん。

 仕方ないのでノンアルコールカクテルを痛飲中。


 美織は趣味が水泳なので泳ぐのは大得意。白い水着姿でダイナミックに水上を進んでいる。雷灯もスイミングスクール通いなので美織に引けを取らないスピードで泳いでいる。


「気持ち良いわー! 夏休みにリゾートホテルのプール、泳いどかないと損よねー!」

「だよねー! まだまだ泳ぐよー」


 ふふ、美織の過去は貧乏生活だ。雷灯は私と一緒でシングルマザーの家族構成らしく、絶賛貧乏継続中だ。考えも似ているらしく、『元を取る』がレジャーでも大事らしい。

 しかし……南早田(みなみはやた)家も家計は火の車。できれば死ぬほど泳ぎたいが、私は何をやっても沈んでしまう。逆に何をしても()()()浮いてしまうヤツ(梨倫)も居るがな。


「仕方ない。元を取ってくるか……」


 ミミの招待なので勿論一円も使っていない。それでも己の血(貧乏性)が元を取れと叫んでいる。

 取り敢えずプールに入って泳いでみる。やはり沈む。な、何故だ?

 仕方ない。あと十往復したら元を取ったと判断するか。沈んだり浮いたりしながら進む。こ、これは楽しいのか……ぷはぁ、と浮き上がった瞬間、後頭部に中々の衝撃を受けた。訓練でプレートメールを着させられて刃のついてないブロードソードでブン殴られた時のような衝撃。

 意識朦朧で沈んでいくと水面にはラジコンの船底が見える。


 雷灯め……と意識を失った。


◇◇


 ん? いつの間にかプールサイドか……うおっ、間近に伊吹が居て……そうか、朧げに記憶している()()逞しい肉体の感触は伊吹に抱き抱えられていたからか? うへへ。半分は元を取ったな。では、もう少し心配して貰うか。

 もっと心配して貰わないと溺れた元が取れないからな!

 意識を失ったフリは継続だ。


「ど、どうする? こういう時は人工呼吸……だよな」


 ひーー! ピーンチ! いや、大チャンス到来! 顔が急速に火照ってくる。が、我慢せい、叶笑!


「伊吹くん! 顔が赤くなってきた。酸欠かも! 人工呼吸、お願いだよ」


 雷灯は自信が無いらしい。命に関わることなので、どちらが救命行為するか冷静に判断している。

 ナイスアシスト!

 雷灯は本当に聡い子だのう。後で褒めてやるぞ!

 またも公衆の面前ではあるが、ほら、するが良い!

 人工呼吸という大義名分があるのだぞ?

 ほら、ほらほらっ!


「…………」


 しかし顔を真っ赤にしたまま動かざること山の如し。

 動かんか……もはやこれまで!

 目を見開き起き上がった。


「ホントに溺れていたら見殺しだぞ! あと雷灯も大概にしろ!」


 びっくり顔から優しい笑顔に変わる伊吹。

 やはり……これは照れるな。目を瞑ってホワホワしていたら、頭頂部に衝撃を受けた。


「ぎゃっ! 痛い!」


 痛みに目を見開くとゲンコツをプルプルさせて怒り心頭の伊吹。


「心配させるな!」

「何で私が殴られねばならんのじゃー!」


 雷灯の方を睨みつけると、既に気にしていない。


「あれ? スクリューが折れちゃってる」

「後でディナークルーズを予約してあるから。それ迄は自由時間にしましょう。お母様達はどうします?」

「私達は飲み過ぎたから部屋で少し休んでくるね。そうそう、クルージングは私達も行くから。呼んでねー」


 というか、誰も気にしていなかった。

叶笑エリザベート達に訪れたバカンス。ミミの財力を待ってすれば高級リゾートホテルのプール貸切くらいお手のものなのである。

水着を見てドキドキする雷灯。

妹の紬の方が発育いいんじゃねーかと訝しむ伊吹。

其々の仲は進展するのか?

第三章のおまけ会の水着会だよ。


★一人称バージョン 2024/1/3★

★「夕焼けに向かって撃て!」は二分割 2024/1/3★

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