第十一話 第三の女帝① ヒス女、その名は比良理麻衣
「可哀想……とは?」
早朝の文芸部部室に二人きり。仕方なくミミにポンポンとソファーを叩いて隣に座るよう誘う。しかし、ミミの口からから他人に対する懇願が聞けるとは、これぞ青天の霹靂。
「比良理ちゃんなんだけど、あっ、第三の女帝の子ね。騎士の男の子への接し方が……ちょっとね……」
「どんな感じなの?」
座りながら話始めるも少し口を濁すミミ。というより恥ずかしがっている?
「やたらボディータッチが多いのよ。騎士の子、凄いしっかりした子なんだけど、見てると昔の私を思い出しちゃって可哀想に思えるのよね」
優しい表情で騎士の子を心配している感じ。
近くにトラウマ体験そのものが存在するのは辛いのか、それとも恩返し的な意味合いか。
でも……ミミが直接言えば良くない?
「ねぇ、貴女が直接注意したら良いのでは?」
「私は女帝を降りたわ。それに、女帝間は不可侵と決められてたから」
「あら……そうなのね……」
しかし、色恋沙汰に関わるほど暇じゃない。高校生のバカップルなんて掃いて捨てるほど居るわよね?
「男女の仲の話じゃないの? アタックが強過ぎても、それが好きな男子もいるし」
「……騎士の子、小学四年生よ。ちょっと見てられないのよ」
ほほう……今度の女帝は変態か?
もう少し事情を詳しく聞いてみる。
「とはいえ弟みたいに接してるかも……」
「何かと下半身を触るのよ。あと直ぐにキスしたりズボンを脱がそうとしたり。性的虐待……とまでは……いってないのかな……」
なるほど……こりゃ変態だな。興味が出てきたぞ。
「お願い。私はもう大丈夫。最後に身近な子を助けてあげたいのよ」
「ん? 最後?」
ぽんっと手を打つミミ。
「そうなの。後一ヶ月ちょっとでサヨナラなの」
「えっ? えーっ! 初耳ですけど……」
「そりゃそうよ。昨日決まったんだから! 私ね、留学するの。お母様も付いて来てくれるのよ」
話を聞くと、ヨーロッパの小国に留学だそうだ。ファッションを学ぶらしい。
「そうなんだ。国外に出ることは見聞を広める良い機会よ。沢山学んでらっしゃい!」
「あら、外国に行ったこともない子に先生みたいなこと言われてもねぇ……」
「はっ! そうか」
前世の私は最初の学びも『帝国貴族院』だった。十二歳で寮生活。でも、叶笑は殆ど県外にすら出たことがなかった。やはり貧困は絶対悪ね。
「ふふふ、私の頭の中だけの経験だったわね。でも素晴らしいことだと思うわ。何でも積極的に経験すると良いわよ。刺激的な毎日を全力で楽しんでね。それは貴女を必ず大きく成長させるわ」
「でもお母様も一緒なの。夢の一人暮らしはお預けよ」
「それで良いのよ。辛い時や悔しい時は奥様に抱きつけば良い。でも楽しいことや嬉しいことがあったら独り占め。奥様もそれを望んでいるわ!」
ミミが目をパチクリさせている。
多分、『この子、何を偉そうなことを言って……』なんて思ってるわ。でも、私だって今風に言えば海外留学や海外派遣の経験は本当にあるからね。
「やっぱり叶笑は不思議な子ね。てっきり大反対されるかと思ったわ」
「何でよ! 友達の旅立ちを祝福しない人なんて居る?」
「だって、当分一緒にご飯を食べたり買い物に行けないのよ? あーあ、寂しいわー」
えっ? ミミの言葉を心の中でゆっくり反芻。
えぇ! このままミミの横に居るだけで不可侵で優雅な友達ライフが約束されていたのか。
前世のエリザベートでは人間関係を考慮しての策謀が日常茶飯事。近づく者は全て敵か自分の養分として扱っていた。
「ふふふ、私も温い生活に慣れきっていたということか」
がっくし。肩を落とし落胆を隠さず凹む。
あぁ、七竈戸邸での豪華な食事。溢れるオシャレな衣装達。夢幻と消えていくのか……と震えているとミミが肩を抱いてくれた。
「やはり寂しがってくれる方が嬉しいわ。大丈夫。三ヶ月に一回は帰ってくるわ」
ミミをじっと見詰める。
「そんなに寂しいの? んふふ、お姉様も連れてこうかな〜。どうするー?」
ん? 声がほんの少し震えてる。それを懸命に隠してるのも分かる。
そうか。多分奥様から『叶笑が一緒に行きたいと言えば連れて行くわ』とでも言われてるのね。
じゃあ、答えは一つ。
「ソフトクリーム一年分、忘れずに置いていってね」
「おーーねーーえーーさーーまーーっ!」
盛大にプンスカし始めるミミ。カバンから三百枚ほどの綴りを取り出し私の顔に投げつけた。
それを顔に当たるギリギリで受け取る。
ソフトクリーム無料券が一年分。ホクホクしながら丁寧に鞄に入れると真剣な眼差しをミミに向けた。今からの言葉は餞別。
「ミミ、私は行くべきではない。貴女の旅路だ。邪魔すべきではない。それに、まだやることが残っている」
「もしかして復讐? そんなことは誰も望まないわ」
視線を外し、少しだけ俯き虚空を見つめる。
「……まだ復讐かも分からん。那岐子が暴走しただけなら他の女帝と騎士は許そう。しかし、叶笑に悪意を持つ者が未だ存在するなら私は容赦せん。先ずは全員を見極める」
少し間を置いてミミが問い掛ける。
「叶笑のためなの?」
多分……ミミは態と『お姉様のため』ではなく『叶笑のため』と聞いたんだろう。何となく、叶笑と違う存在を感じたのかもしれない。少し嬉しい。
「そうだ。叶笑のためだよ」
「貴女は本当にエリザベ……」
ミミの唇に人差し指を当てて黙らせる。その指を自分の唇にそっと当てる。
「二人の秘密だ」
そのセリフにミミがはにかみ笑顔が綻んだ。
パッと立ち上がりクルッと回った。そのままスカートを両手に持ち片足を下げて可愛らしいカーテーシーをしてくれた。
「それでは、暫くの別れです。お姉様、貴女の選択が間違いだったと思うほど素敵なレディーになって帰ってくるわ!」
「それは重畳。今から楽しみね。待ってるわ」
そしてミミは一人部室から去っていった。
「ふふ、しかし、これが本当の行き掛けの駄賃というヤツか? 面倒なことを言うお嬢さんだ……」
部屋に一人で無意味に渋く呟いてみるが、暫くすると震え出して膝から崩れ落ちてしまった。
「うぅっ……連れてってって言った方が良かったかなぁ? この世界で最高のパトロンではないか?」
ただ一緒に行きたい、と一言言えば良かったのではないか。無駄なプライドに邪魔されただけじゃないか。叶笑の人生にはどちらが正解だったのだろう。軽く後悔が押し寄せる、がもう遅い。
「一緒に行きたい……だと? そんなこと恥ずかしくて言えんわ! あぁ……でも、貴族な生活……勿体無かったかなー」
スカートが捲れ上がるのも気にせず部室の床をゴロゴロと転がりながら悶え苦しむ。その時、扉の隙間から小さな声が聞こえてきた。
「白い……」
「何ヤツ!」
身体のバネを使って回転して膝立ちになるイメージで身体を捩るが、上下が入れ替わっただけで腹這いに潰れたカエルのような体勢になった。
「痛たたたっ! 腹筋が攣った!」
白いパンツが見えようが痛くて暫く悶え苦しむ。少し落ち着いたところで慌てて扉に向かい辺りをうかがう、が既に誰も居なかった。
声は子供の声だったが……まさか件の小学生なのか?
一瞬不穏な空気を感じた叶笑。だが、ふんっと鼻で笑うと制服の埃を祓いながら廊下に出た。
「親友のたっての願いだ。片付けてやろう」
部室の鍵を閉めてから自分のクラスに戻っていった。
◇◇◇
穏やかな気候も徐々に牙を剥き、立っているだけでじっとりと汗ばんでくる初夏になると、ミミと奥様は行ってしまった。
空港の屋上で波子と一緒に日傘を刺してモデル立ちを決めている。ひと昔前なら梅雨の季節だが夏のように入道雲が聳え立つ真夏のようなひとときだった。メイドさん達が持つ「ミミ様、奥様、いってらっしゃい」と書かれた白い横断幕が青空に映えている。
昨日、二人はミミと奥様に招かれ壮行会に参加しており、そのまま一泊して一緒にハイヤーで空港に出向いていた。終始泣き顔のミミを抱きついて慰めたりした後、メイドさん達とともに二人の乗る飛行機へ手を振っていた。無事離陸すると味気ないほど直ぐに見えなくなってしまった。
「しかし、昨日の会食の豪華なこといったら……」
「そうよ! ご馳走と美酒の数々は、まさに天界の宴、神々の饗宴、あぁ、ときめきの酒池肉林……」
「叶笑、その肉はお肉じゃないわよ。気をつけなさい」
「そっちの意味が誤用なの! 何にせよ、当分お預けよ」
私達の会話に失笑してるメイドさん達も帰り支度中。
「ふふ、夏休みの間に奥様とミミ様は一度戻るそうですよ。それ迄ご馳走はお預けね、叶笑ちゃん」
「そうか……それ迄に色々と片付けておくか! やる気が出てきた」
ミミから貰ったハンドバッグの上から中に入っている大量の綴りをそっと撫でる。
私にはソフトクリーム券三百六十枚がある。
普通に買えば二百五十円。どう換金するかはまだ分からないけど二百円で換金できれば七万二千円! 富豪よ、大富豪。
手元にあると実感できるだけで幸せになる。もう一度ハンドバッグ越しに触って自信をつけてから、二人だけ公共交通機関を使って帰路に着いた。
◇◇
戻るや否や波子は会社の同僚とランチ会らしい。
親会社のご令嬢や奥様と懇意の仲ということで、会社内のヒエラルキーは高いらしく満足気にいそいそと出かけていった。
部屋に一人ポツンと残された。豪華にエアコンをつけるとちゃぶ台をセットして正座で座った。
さて、久々に『幸せノート』、正式名称『幸せになる為の作戦ノート』を引っ張り出しましょう。
お気に入りのボールペンを鼻の下に挟むところからスタート。
今世で幸せになる為の作戦を考える。前世では作戦成功の一歩手前で破滅してしまった。
「もう繰り返さぬぞ……」
身の丈に合わない壮大な目標など、もう持たないことにした。叶笑の周りの世界には皇太子妃などは存在しない。存在しないものを求めるのは辛いだけだ。
だから現実的な目標を持つことにした。
『安定した生活』
自分で書いたとはいえ所帯染みた目標に顔を顰めたくなる。前世は王位継承権二位の公爵の御令嬢、それが貧困シンママの一人娘に転生って。勇者パーティーでサポート全般していたら役立たずって言われて追い出されるのより百倍厳しいわ!
「大体からして勇者パーティーって何よ! 悪の魔王を倒すなら国がサポートするわよ! 強制で騎士団に編入よ! ところで悪の魔王って何よっ!」
急に興奮して一人叫ぶが虚しくなり、落ち着く為にキッチンで氷水を作って一気飲みする。
まぁ仕方ない。この世界のこの国は十八歳迄は子供扱いらしい。では、その間はなるべく自由に暮らしてみるようにしよう。
ふと、ミミに着いて行った方が良かったのでは、と悔いてみる。
いや、籠の中の鳥になりに行っても面白く無い。ミミは籠の扉の鍵を持っているかもしれん。だが、私が籠に入れば、もはや自由に出入りなど出来るわけがない。籠の中でピーピー泣くだけの女になるだろう。
「それはミミも望まないだろう」
一応の結論が出たところで幸せノートに再度向き合う。
波子の稼ぐ収入も増えた。ここは子供らしく親に甘えよう。
だからクリア!
ノートの『安定した生活』の文字に赤ボールペンで取り消し線を引く。
では、次の目標。
『安定した学生生活』
ここは問題がまだ山積み。
『女帝は安全か見極める』
そうだ。残りの女帝が私に興味を持っていないなら、それはそれで良い。そこでペンが止まる。
『第三の女帝と傅く騎士をどうするか』
ミミとの約束だ。見極めついでに忠告しておくか。今はそれくらいしか考えつかん。
次だ。
安定した学生生活の為に必要なことがもう一つ。
『自分で使えるお金を稼ぐ』
数日前に開催された二時間にわたる『お小遣い値上げ交渉』は実質波子の勝利に終わった。今の倍の月額千円を要求するも、結局は五百五十円という一割アップに終わってしまった。
「バイトとお小遣いは別でしょうに!」
思い出しながらプリプリと怒っていたが、スマホで口座の残高を眺めるとニンマリし始めた。そこには五月分の給料一万二千四百円が表示されていた。
パン屋『ドゥセール・エ・アルティメ』は平日二時間、月曜休み、不定期で土日に数時間、というホワイト勤務。まだ半月ほどしか働けていない。見習い期間なので時給七百円。たまに商品を給料天引きで購入するのでそれらが差っ引かれている。
だがこの世界で受け取る初めての労働の対価だ。
パタンと幸せノートを閉じる。
先ずはお金を稼ぎましょう。頑張れば月五万円は稼げるはず。バ○ンシアガは高嶺の花でもユニク○なら無理はあるまい。
正座のまま後ろに倒れてストレッチ開始。伸び始めたところで時計が目に入る。
「あら、もうこんな時間。急がないと……」
日曜日の昼前だけど今日はバイトがある。商店街のお祭りということでバイト先のパン屋も店を開けるらしい。簡単に髪に櫛を入れて歯を磨くと急ぎパンプスに履き替えアパートを出て階段を駆け降りる。
「あれ? ミャー子……」
姿が見えない老猫を一瞬心配するが『まぁ、いつも日向ぼっこしてる訳じゃあるまい』と気持ちを切り替えてバイト先に急いだ。
◇◇◇
店主はパンだけ焼いていたいらしく、他の雑用は全てバイトにお任せしたいらしい。平日九時から十七時はお局っぽい主婦パートさんが勤務している。売ることと喋ることが専門なので、それ以外の全てが夜バイトの子の仕事となる。
レジ締めからSNSの更新、宣材写真撮り、口コミへの返答、ポップ書きに掃除と多岐に渡る。
とは言え新商品も少ない小さなパン屋。大体の日は暇を弄ぶ始末だ。
「はい、三百六十円です。あ、いらっしゃいまっせー」
土日は通常休みなので引っ切り無しに『ちりりーん』とドアベルが鳴る。
忙しいのは嫌いじゃない。今日はパン出しとレジだけで大忙しだ。店主がパン生地を机に叩きつける音が大きくなる。どうやら機嫌が良いらしい。
これは特製ラスクの倍量は固いな。
ここでドアベルが『ちりりーん』と鳴った。
「いらっしゃいまっせー……って貴様か」
ニヤニヤしながら事務的な挨拶をすると柏原伊吹がドアを開けていた。
「そうか、土日のイベントは南早田の当番か」
「柏原、運が良いな。店主の機嫌が上々だぞ」
「おお、それは重畳。成功は最も才能のある人ではなく最も幸運な人に行く、という論文も強ち間違いでは無いということか……」
「大仰なヤツめ、ふふふ、まぁ良い。幸福は皆で味わう方が美味いからな。暫し待っていろ」
特製ラスク購入のライバルであり戦友だった二人は独特の口調で気楽に会話する仲だった。
大きな身体を小さな喫茶スペースに押し込み幸福の降臨を待っている。
しかし殊勝な態度だな。
小さくなっている柏原を見て思ったのは微笑ましさだった。前世の養護院でも大きな身体を精一杯小さくしてダイニングテーブルに座る子がいた。大人から「デカくて邪魔だ」と何度も理不尽に怒られたらしい。
だからいつも「あなたの大きな身体は必ず役に立つから、その大きな身体を誇りなさい」と伝えた。
そんなことを思い出してニコニコしていると柏原が声をかけてきた。
「南早田、立場があれどお前には色々と酷いこともした。詫びて済む問題では無いが、何か困ったことがあれば言ってくれ」
ニコッと微笑み返して一言だけ。
「金が無い」
すると生真面目に困った顔をして「すまない、それだけは……」と俯いてしまった。片手を腰に、片手を机について座る柏原を見下す。
「ふふ、冗談だ。紳士は淑女のピンチに駆けつけるものだ。もし、何かあれば助けてくれれば良い」
パッと私の笑顔を見る柏原。
少しだけ照れながら「分かった。約束だ。お前を守ろう」と呟いてくれた。
思わず数秒見つめ合っていたら『ちりりーん』とドアベルが鳴った。二人して焦って無駄に座ったり立ったりする。
「あっ、い、いらっしゃいまっせー」
――そこには『第三の女帝』が居た
「このクリームパン、全部買うわ」
「えっ? 三十個は……」
「何か問題あるの? ノロマな店員、早くしなさい!」
――その名は『比良理麻衣』
「僕、そんなに高いパン要らないよ……」
賢そうな少年が腕を引っ張りながら比良理を落ち着かせようとしている。すると少年にパッと振り向きベタベタと肩から背中、お腹と撫で回し始めた。
「あら〜ん、遠慮しなくて良いわよー。沢山食べて大きくしてねー」
こちらを無視するかのように撫で回しているが少年はこちらの視線が気になるのか不満そう。
「くすぐったいですよ、比良理さん……」
「麻衣と呼んでって言ってるでしょ!」
「うぅっ……」
ここで数名のお客さんが入ってきた。
「やったー、クリームパンある」
「ラッキー、平日しか買えないから嬉しー」
麻衣がそれを聞いてトングでパンを取るのを制した。
「これはもう売り切れっ! 私が全部買ったんですから!」
「えーっ」
「こんなにあるのにー?」
「五月蝿い! 売り切れだ、ははは」
「ひら……麻衣さん、こんなに沢山要らないですよ」
「捨てても良いから貰ってちょうだい。これは全部買うの! こんな女どもに買わせるパンは無いわ!」
取り付く島もない様子に少年は何とか宥めようとするが逆にヒステリーが酷くなるので黙ってしまう。ここで事務的に声を掛ける。
「すっみませーん、人気商品ですのでお一人様五個までとなっておりまーす」
その声に最初に反応したのは少年だった。
「あっ、かなえさ……」
「ん?」
誰だ? 何故私の名前……いや、聞き覚えがある!
「白いパン……」
「お前、第三の騎士かっ!」
聞き覚えのある小学生と言えば同級生の天才小学生だけ。つまりは部室で乙女の恥じらいを見られた不審者、つまりは『第三の騎士、菊地雷灯』くらいしか思いつかぬ。
狼藉者は……あれっ? 顔を真っ赤に私を見て……もしかして見惚れているのか?
照れている様は養護院の子供達を思い出す。
ふふふ、まぁ、フリル多めのワンピースにシックなエプロンの組み合わせは店主の趣味らしいが大変フェミニンで可愛らしい。見惚れても仕方がないけどな。
無意味に可愛めのポーズを取ってみるとしっかり動揺してくれる。楽しい!
すると、ポッチャリ気味の女が慌てて私から隠すように立ちはだかりヒステリックに叫んだ。
「南早田! お前、何してるっ! ウチの雷灯くんを誘惑しにきたのか! あぁ、悍ましい」
「貴様、第三の女帝か……」
ここで初めて目の前の……ぽっちゃり系アイドルと言えば言えなくも無い風体のヒス女が『第三の女帝』比良理麻衣であることに気付いた。
――悪い予感だけが叶笑に走る
――そして、それは多分当たっている
――叶笑と『第三の女帝』比良理の抗争が今、始まる
第三の女帝編、開幕。
ショタで変態の比良理から雷灯を守れるか? 叶笑と柏原に進展はあるのか?
★一人称バージョン 2024/1/3★