表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/23

第十話 Appendix:ハイブランドに身を包め②

◇◇


 パーティーは定刻通りに始まった。

 マードックの爵位授与に対する祝賀式典といった感じらしい。まぁ、裏テーマが七竈戸(ななかまど)財閥創業家の令嬢ミミとの婚約発表だと(まこと)しやかに噂さが流されているけどね。


 しかし、この雰囲気……前世と変わらんな。無邪気な興奮と策謀と愛憎。ふふふ、この世界の社交界も手玉に取れるな、私の魅惑のボディなら…………って今世では特定の種類の殿方専用でしたわね。

 壁の鏡で自分の()()()()ボディを眺めて溜息一つ。


「うぐぐっ……大お婆ちゃんの呪いか何かかしら」


 まぁ良いわ。任務に集中しましょう。

 横で他のお客に和かに挨拶するミミを眺めつつ気合いを入れ直した。


◇◇


 ダンスホールのような会場には百人ほどの招待客がいた。そこに何十人もの使用人が料理や飲み物をひっきりなしに持ち込む為に行き交っている。

 奥には楽団が生演奏を奏でている。

 テラスからも和やかな会話の声が聴こえてくる。

 正しく前世と同じ『社交界』といった風情だった。


「さて、まずは腹ごしらえね。バッチリ任務をこなしてソフトクリームをゲットするわよ!」


 無事にマードックと決別出来たら報酬にはソフトクリーム一年分とのこと。気合いも入るってもんよ!

 そっと小皿にオードブル(前菜)を取って口に入れる。その瞬間、目が覚めるような衝撃が襲った。


 美味ーい! 立食でこのクォリティか!


「フォアグラ、キャビア……あぁ、現世の王侯貴族の舌はエクスカリバーより鋭くイージスの盾よりも固いのかー!」


 小声でも微妙な食レポは健在。


「ふふふ、叶笑ちゃんは面白いわね。そうだ、後でお小遣いあげるわね」


 奥様が私の頭を撫でてきた。気にせず料理を頬張る。


 もぐもぐ……はっ、ミミが居ない!

 しまったーっ! 夢中になり過ぎた。


「奥様、ミミは何処に?」

「あの子は昔のフィアンセが連れ出して行ったわ。あまり好きでは無いわ、あの方は……」


 やべっ!

 おほほっ、私はここらで失礼しますね。

 お淑やかに、お淑やかによ。レディーたる者パーティー会場ではしたない真似はできないわ。


「あら、チョコレートフォンデュよ。叶笑ちゃん、食べたことある?」


 ぎゃーーっ!

 天界の食べ物なの? 神々の遊びなの?

 マシュマロ片手にゾンビのようにヨロヨロと吸い寄せられる。


「はっ……ダメっ、奥様、ミミを探してきますね!」

「叶笑ちゃん、慣れないヒールで走っては転ぶわよ、気をつけて……」

「大丈夫ですよーー」


 安心して下さい奥様。こちらの機密事項ですが前世は十センチのヒールを履いていたのよ。

 それ、全速力で探せー!


◇◇


「何処だ、何処だ? こんな屋敷、ナイアリスの居城に比べれば……居たっ!」


 控え室みたいな部屋の真ん中に二人がいる。何とか間に合ったか? 扉の影から中の様子を伺う。


「……ミミ、俺のプロポーズを受けるんだ」

「い、嫌です……」


 小声だけど断っている。

 うんうん、ミミ、頑張ってるねー。このままその男に平手打ちでもすれば良いのに。

 男が懐から鞭を取り出すとビクッと固まるミミ。それに負けずキッと男を睨みつけると先ほどより大きな声を出した。


「イヤです! もう、貴方の言うことは聞かない!」


 今日のミミは気圧されずに男を睨み返している。

 いいぞ、いいぞ、その調子! 早く終わらせてチョコレートフォンデュ食べに行こうよー。


 しかし、男が服を脱ぎ出しスーツの下の卑猥(ひわい)なボンデージスーツが露わになると、ミミの動きが完全に止まってしまった。

 筋肉質な身体のラインが丸分かりの赤黒いレザーのスーツ。全身をピッチリ覆われているが汗臭い皮の臭いが漂ってくるようだ。胸や股間には威圧的なベルトやボタンで無駄に装飾されており嫌悪感を誘う。


 ミミの息は荒くなり過呼吸になっているようだった。冷や汗が噴き出て瞳孔が開いてるのが離れてても分かるくらいだ。


 そうか……あのボンデージスーツがトラウマ発動のトリガーか。んふふ、あの時二人でボンデージスーツ(トラウマそのもの)を着ちゃったのね。人形も修理できたし、少しは楽しい思い出に変わってたら良かったけど……ダメかなー?


 顔が真っ青になっていくミミ。男が鞭をミミの頬に軽く当てると電流でも流れたかのようにビクッとする。


「ではいつものルーティンだ。貞操をチェックさせて貰おう。下着を取るんだ」


 あの高飛車なミミがすっかり怯えて震えながら下着を脱ぎ足を開いてスカートを捲っている。

 男は手にレザーの手袋をはめてミミの前でしゃがみ込む。局部を指で開いて覗こうとしているようだが、ミミは震えながら横を向いて目を瞑っているだけだ。

 なんと……小さい時からいつもやられていたってことか。流石に見てられんぞ!


 助けようと飛び出ようとした時に、ミミがスカートを下ろし手袋に包まれた大きな手を払い除けた。


「も、もう、支配は受けない! 私には……だ、だ大事な人がいるから」


 真っ直ぐに訴えかけるミミ。男は激昂し平手でミミの頬を打つ。ミミの瞳からは涙が零れ落ちる。


「生意気なことを言うな! さぁ、もう一度足を開け、貞操チェックだ! お前みたいな性悪女は(しつけ)しないといけないからな。ははは、俺に逆らえば、何時間でも鞭で打ってやる!」

「あぁ……い、いや……イヤよ! 助けて!」


 鞭で顎の周りを撫でる。


「優しくしたいんだよ、ミミ」


 突然逆の頬を平手打ちする。ミミは呆然とすることしかできない。


「パーティー会場でプロポーズする。それを受けろ! 返事は?」

「は……」

「さぁ、返事をするんだ」

「うぅ……は……」


 少しだけ目に力が宿った。ガンバレー。


「さぁ、鞭で打たれたいのかっ! 返事は!」

「うぅっ……い、い、イヤです!」


 やった! ミミはお前などには従わんよ!


「ふんっ」


 マードックは残念そうな顔をしながら鞭を素振りし始めた。


「いけない子だ。ではお望み通り鞭で打ってやろう。お前の白い尻が真っ赤な血を出すまで打ち続けてやろう」

「ひいっ! た、助けて……たすけ……て」

「まだ誰か助けに来ると思っているのか? まだ分からないのか! お前は俺に売られたんだよ!」


 ミミは『売られた』という言葉が出た瞬間、様子が明らかに変わった。多分昔から言われていたのだろう。


 あんな奥様を侮辱するようなセリフ、信じさせられていたんだ。恥ずかしさでとても親には告白できない自らの罪。その罪を認めて告白を試みれば鞭を打たれる。

 繰り返されれば心を閉ざすしかない。


「あぁ……」


 怯えて叫ぶしかできない弱い乙女。

 でも、それは過去のこと。

 思い出して。


 あなたは何故ドレスで武装しているの。

 あなたはそんな男に負けないわ。

 ほら、あなたの指を見て。

 あなたの魅力は誰にも負けない。


「違う、お、お母様はそんなことしない!」

「ほほう……では、何故に助けに来ない?」


 そんなやり取りに負けるな。

 メリッサを思い出せ!

 何度でも復活できる。人は何度でもやり直せる!


「あぁっ……」

「さぁ、鞭打ちだ。売られるような悪い子は鞭打ちして躾をしないとな」


 鞭など打たせてやれ。そんなもの、ミミ、お前の魅力に傷一つつけることはできない。


 仮につけたとしたら、奥様がその男を叩き潰す。


「違う……違うっ! た、助けて、助けてっ! お母様!」


 つけたとしたら、私が許すわけあるまい!


「助けて、お姉さまー!」


 ドアを蹴りつけ勢い良く部屋に入ると両手を組んで斜に構えて男を蔑む視線を向ける。

 しかし男はあまり気にした様子もない。


「誰だ? 夫婦の間のことに口出し無用。さぁ、ミミ、会場に戻るよ」


 私を無視してミミに話しかけているが、こちらも男を無視してミミに優しく喋りかける。


「ミミ、よくこの男に逆らった。では、このクソ野郎を始末してやろう」


 ゆっくりと両手をミミの方に差し出す。


「このクソアマ……」

「来いっ、ミミ!」


 叫び声を合図に走り出すミミ。男は捕まえようとするが間一髪で逃れて私の元に走り込んだ。目の前で膝から崩れ落ち、膝立ちで抱きついた。ギュッと小さな子のようにお腹に顔を埋めて震えながら泣いていた。


「お前は誰だ?」

「ミミの友達だよ」


 男は芝居がかった感じで両手を横に広げてから怒鳴りつける。


「俺を誰だと思っている? 俺は、マードック・タカシ・ヴィルヘルム男爵だぞ! お前など足元にも及ばぬ存在だ!」


 ミミは大声に怯えて肩を(すく)めるが、逆に呆れたような口調で返してやる。


「男爵……男爵と言ったか? あははは、それでよくもまぁそんな偉そうな態度が取れるモノだ!」

「なんだと! こんな極東の島国の女が……」

「私はナイアリス公国王位継承権第二位カール・マーク・ナイアリス公爵が息女エリザベート・ミシェル・ラ・ナイアリス。お前如きクソ男爵が話しかけて良い身分では無いわ!」

「な、なに? なんだって?」


 マードックは勿論聞いたこともない家名だが、混乱している。家名や爵位を重要視する者は、またそれに弱い。


「他にも肩書が欲しいか? 第七次ナイアリス国家救助隊『羽と水と砂』東部方面隊隊長!」

「な、何だそれは……」

「ふふふ、もう一つ、グラーツ養護院『茜蜻蛉(あかねとんぼ)』初代養護院長、兼、洗い場・洗濯・お世話担当……はベティね。後は……」

「う、うるさい、うるさーい!」


 マードックはツカツカと革靴を鳴らしながら目の前まで歩み寄る。ミミは背後に回って怯えるように抱きついている。


「戯言を言うな! お仕置きだ。その後でお前の貞操もチェックしてやる。跪け。さぁ、尻を出せ! まず十発だ!」


 反応せずにいると苛立ち紛れに顔に鞭を振るった。しかし、頬に当たったと思われた鞭は男の手から離れて逆方向の壁まで弾け飛んだ。


「貴様……何をした!」

「さぁ? 下品な衣装の下賎な男が私に触ろうとしたから神罰でも起きたんじゃないか?」


 嘲るようにマードックを見上げる。すると、マードックは突然笑い始めた。

 何だ? 笑いの意味が分からず片眉が上がる。


「ははは、下品な衣装だと? このレザースーツはオートクチュールのハンドメイド、この美しさが分からんとはガキだな」


 腰の辺りのベルトを外すと革製の男性器ケースが目の前で()()()(いき)り立った。


「どうだ! この男らしさを象徴する機能美と芸術性! ははは、お前も下着を取れ! 胸の無さは好みだぞ。さぁ貞操を確認してやろう」


 流石に嫌悪感で顔を(しか)めるしかないぞ。

 照れると言うより不快すぎて吐き気がする。

 という訳で、目の前の『男の象徴ケース』を渾身のアッパーカットでぶん殴る。


「ぎゃぁーーーーっ!」


 よろよろと後ろに下がり股間を押さえるマードック。『男の象徴ケース』は無惨にも折れ曲がっていた。

 よしっ!

 それを見るとミミの手に力が宿り始めたわよ。


「マードック、貴方はそれでも従兄弟です。それに免じて今までのことは無かったことにします。だから、私達にはもう関わらないでください!」

「ぐぐぐっ……クソアマどもがぁーーっ!」


 突然背中から拳銃とやらを此方に向けるマードック。顔が真っ青で冷や汗が噴き出ている。


「ハァハァ……形勢逆転だな。許すのはこちらの方だ。今までの非礼は許そう。だから跪け、二人とも、尻をこちらに向けろー!」


 たじろぐミミは背中にギュッと捕まっている。少しだけ心配になり後ろを振り返るが、ミミは真っ直ぐにマードックを睨みつけていた。


「私は負けない! 例え……例え撃たれて死んだとしても、お前の言いなりにはもうならない!」

「ははっ。ミミらしくなってきたな」

「死にたいのか! 小娘二人くらい、どうにでもなるのだぞ、このマードック男爵ならな!」

「……だから、男爵如きを自慢するな」


 呆れた口調で揶揄う。ほれ、激昂した。震えながら拳銃とやらを向けてきたぞ?


「死にたいと言うことか……ならば叶えてやろう!」


 特に恐怖は感じない。私の魔力なら大型の(いしゆみ)を間近で撃たれても傷一つつかない。

 じっと男の目を見ていると、逆に怯え始めた。両手で構え直すが拳銃は小刻みに震えている。


「死ぬ覚悟はあるか?」一応聞いておく。

「なんだって……何を言って……」

「もう一度聞く。貴様は死ぬ覚悟があるんだな?」


 もはや私の怒りは魔力として身体から漏れ出していた。魔導の風はアップスタイルにセットされた髪を自然に解き微かになびかせている。


 すると、マードックは怪物でも見たような表情を見せた。


「ば、ばっ、ば化け物めー!」


 叫びながら引き金を引く、が、弾丸は私の顔の前の空中で止まっている。それを確認してから私は右手をマードックに向けた。そのまま右手から爆炎魔導でマードックを火炎に包む。


「これがシャーリー様直伝の『脱げ爆炎魔導』よ」


 (エリザベート)は『大お婆ちゃん』と同様に『魔導の天才』と呼ばれていたの。複合要素の精霊の同時使役ができる者は少ないわ。今回の『脱げ爆炎魔導』は爆炎と治療を同時に使役する高度な魔導技術。服を燃やしながら髪の毛や皮膚を治療する超絶高等技術なのよ。

 骨まで燃やし尽くす火炎熱風は一度全てを灰にする……はずなのに『男の象徴ケース』だけは燃え残っているのよ。

 正直不快よ!

 不満そうに見つめていると裸のマードックは叫び声を上げながら拳銃を構え直した。


「うわぁーーーっ! 化け物、死ねーー!」


 二人に向かって乱射し始めたが、弾丸は私達には届かない。

 全て二人の目の前の空中で止まっている。

 マードックは弾丸を全て撃ち尽くしても引き金を引き続けていた。マガジンが空になったことに気付くと拳銃そのものを二人に投げつける。

 しかし投げつけた拳銃さえも私の顔の前で浮いている。


「ひーーっ! 助けてくれーー!」


 膝から崩れ落ち懇願し始める。

 その時、ミミがさっと前に出てマードックを優しく起こしてあげた。


「あぁ、ミミ……た、助けてくれるのか……」

「そんなこと……ある訳……ないに決まってるだろっ!」


 そのまま燃え残った『男の象徴ケース』ごと股間を蹴り上げた。放物線を描くケース、折れ曲がった『象徴』。それを確認すると、私に振り返った。


 そこには、今まで見たことの無い素敵な笑顔が浮かんでいた。


「叶笑、スイーツをやけ食いするわよっ!」

「アイアイサー!」


 (うずくま)るマードックを置いて会場に戻ろうとしたところで、やっと銃声に気付いて何人もの人が反対側の扉に現れた。

 その中には奥様も、マードックの父親も居た。


「この男は私達二人を裸で襲おうとしたんです!」


 変わり身素早く()()()少女を演じるわよ。状況的には両頬が赤くなったミミ、髪の毛の乱れた叶笑、肌もツヤツヤで真っ裸なのに男性器が無惨にも折れ曲がったマードック、この三人が同じ部屋に居るのよ。変態が私達を襲ったことは明らかでしょ?

 ほれほれ、無罪無罪!


 奥様がミミの元に駆け出そうとした時にマードックの父親が叫び出した。


「おお、マードック、下賤な女二人くらい手篭めにできなくてどうするんだ?」


 三文役者のようにポーズを取りながら態とらしく嘆いている。


「さぁ、病院でも行こうか。運悪く凶暴な女に当たったものだ……気にするな」

「パパーん……」情けない声で呻くだけのマードック。


 振り返り「誰か病院を……」と言いかけたところで奥様はマードック父の目の前で仁王立ちしていた。


「腹違いとはいえ貴方を兄上として今までは我慢してきました。でも、私は下賤な女の母ですので腹立ち紛れにこんな事もしますのよ」


 何かを言いかけた時、奥様は股間を膝蹴りした。こちらは悲鳴ひとつ上げずに泡を吹いて(うずくま)ってしまった。一瞥すると情けなく股間を抑えて震えるマードックの元に近寄った。


「うちの娘には二度と会わないで! もし今度見かけたら……」


 ピンヒールをマードックの股間ギリギリのところに打ち下ろした。カーペットには穴が空いている。


「その貧相なモノを蹴り潰してやるから!」

「ひぃ……」小さく呻いて気絶した。


 奥様がこちらにパッと視線を向けた。いつもの(あで)やかさは無かった。ただ、そこには『強い母の象徴』のような女性だけが居た。


「ミミ!」叫びながら私ごとミミを抱き締める。

「ごめんね、この男がこんなどうしようもない男と気付けなくて! 本当にごめんね!」


 涙声で謝罪する奥様。ミミの目からも涙が溢れ出す。


「ママ……ママ〜! わーん、怖かった、怖かったよー!」

「よしよし、ミミ、叶笑、スイーツでも爆食いするわよーっ!」

「奥様! 一生付いて行きますっ!」

「うん……うんっ! ママ、叶笑、三人で帰りましょう!」


 こうしてマードックは変質者として逮捕され、私の社交界デビュー(デビュタント)は無事、失敗に終わった。


◆◆◆


 ホストが逮捕されミミ達も帰宅してしまうと、勿論パーティーは解散となった。散り散りに来客が帰る中、控えの間に一人の少女が(たたず)んでいた。


「これは…………爆炎魔導の残り香?」


 一言だけ呟くと、満足そうに小さく頷き部屋から出ていった。


◇◇◇ 翌日


 パーティーから帰ると七竈戸家では何やかんやと美味しそうなものを出前で頼みまくりメイドさんも入れて宴会となったの。

 当然の如くアルコールも出たわ。

 私も呑みまくったからミミの私邸に泊まることになったの。んふふ、二人ともグデングデンに酔っ払ったからシャワーを浴びて下着姿のまま二人でベッドで寝ちゃったの。

 だから、鳥の声で起きるなんて素敵な朝……と思ったら、私の身体をミミが触ってるのよ!


「あんっ……あらっ、ちょっと! きゃーーー! 変なとこ触らないでー!」

「いいじゃない。シャワー浴びて寝ちゃったんだから身体は綺麗なままよ!」

「いや、そういうことじゃなくて……」


 真っ赤になってどうにか止めようとするが、二人とも殆ど裸よ。どうやってもミミの妖艶な下着姿が目に入るし吸い付くような肌の感触に私も照れちゃうわよ!


「いいじゃない。昨日でアイツと縁が切れたと思うと幸せで、嬉しくて、叶笑にお礼したいのよ!」

「お、お礼ならお金でも良いわよ……というよりそちらの方が……」

「ダメよ。誠心誠意、身体でお返しするわ!」


 唇を前に突き出し目を瞑るキス待ちのミミ。

 恥ずかしさで何も考えられなくなってきたー。思わずベッドの上でフラフラとミミの唇に近づく。

 二人の唇が重なる寸前、突然扉が勢いよく開いた。


「叶笑ちゃーん、ミミー、朝ご飯食べましょー……って貴女達、何してるの!」


 うわっ、親バレ……よ!


「ミミ、どうしよう……」


 小声で伝えるがキスに移行するミミ。


「むーっ! ちょっと、お母様よ、私は愛の行為を近親者に露出する趣味は無いの。やめなさいって!」


 それでもやめないミミ。


「良いでしょ? ホントに愛してるんだから」

「「ミミーっ!」」


◇◇


 下着姿で正座させられる二人。

 私の頭にはイエローカードが貼られ、ミミの頭にはタンコブができている。


「不純異性……不純同性交遊です。叶笑ちゃん、ご両親にも報告しますからね」

「あっ、片親でして……」

「あら、ごめんなさい。ではお母様にお話しましょう」


 えっ? どうなるのかしら……?


「さぁ、着替えて。しっかり叱って貰いますからね!」


◇◇


 という訳でアパートまでハイヤーで乗り付ける三人。波子は私が居なかったので一人深酒して朝から迎え酒という体たらく振りだ。ビールを飲みながらフラフラしている。

 そこに正座して(かしこ)まる三人。


「まぁ、『女の子同士』なんて熱病みたいなものですよ。どちらかに彼氏が出来たら直ぐに終わっちゃう関係ですわ」


 波子はケラケラ笑っている。

 それを見て毒気を抜かれてしまう奥様。


「あら、含蓄(がんちく)のある御意見ね……」

「んふふ、実体験ですもの」

「えっ、お母さんも?」

「女子校の時にね! モテたものよ」


 あまり聞きたくない親の情報。想像……はやめよう。


「あら、あら、波子さん……」少し赤くなる奥様。

「んふふ、綺麗ね貴女。もう少しお酒でも飲みながらお話ししたいわ……」

「はいっ、波子さん……」


 うわっ、堕としたよ。友達の母親をナンパするのはやめて欲しいわ。


 こうして奥様はご機嫌でミミを連れて帰って行った。

 大事にはならなくて良かったわ……と安心していると帰り際に奥様から伝えられた。


「あ、そうそう、叶笑ちゃん、波子さん素敵ね。貴女にお小遣いあげちゃダメって言われたから、もうあげられないの……」


 こうして私は大事なパトロンを一人失った。


◇◇◇ 月曜日


「くぅっ……世間は全く厳しいわね!」


 老猫に愚痴るが面倒になったのか薄情にもヨタヨタとアパート裏に行ってしまった。裏手の大家宅の勝手口に待機する事にしたのだろう。


「ハァ……」


 溜息一つ吐いてからトボトボ学校までの道を歩き始めた。

 仕方ない。真面目にアルバイトで稼ぐわよ。バイトのシフトを考えながら校門に差し掛かったところで、またもミミに相談があると部室に押し込められた。


「相談があるの。『第三の女帝に傅く騎士』の子なんだけど……あの子、可哀想なの……」



――失ったモノは『お小遣いの貰い先を一つ』



――得たモノは『友達からの信頼』。そして、



――不穏当な言葉『第三の女帝』、その名は比良梨(ひらり)麻衣(まい)

第二の女帝編はオマケも含めて本当に完結。

叶笑エリザベートの財布はいつになったら空っぽから脱却できるのか?

またも七竈戸ミミからの不審な相談。

そして遂に魔導がバレた⁈

やはり叶笑のピンチは続く。


★一人称バージョン 2024/1/3★

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ