目指すは西海岸
前の2話より短いのであとでつけ足すかもしれませんが、とりあえずこの章はこれでいいかとも思っております。加筆や修正ができるのはとても素晴らしいですね!
2053年4月20日カリフォルニア州サンフランシスコ──ミスティミュージアム前にて──
「ハナ?こんな時間にどうしたの??」
ミスティミュージアム前の広場で私はルーシーに電話をかけていた。数日会わないだけでこんなに寂しいと感じるなんて、気づかぬうちに依存していたのだ。
酒たばこの中に含みたくはないが、逃げ場が多くて大変助かっている。
「いや、ちょっと声聞きたくなっちゃってさ。ごめん、寝てたよね」
「いいよ、ハナが寂しがりなの知ってるし」
クスッと笑っている声を聴くととても安心する。
「べ、別に寂しがりなんかじゃ……!ほら!ここ数日声聞いてなかったし?どうしてるかなーってさ」
全部見抜かれているのはわかっているが、ルーシーの前では強がってしまう。
「そうだよねー、ハナはワタシを心配して電話、かけてくれたんだもんねー?」
私の本音をわかっていながらも、クスクスと笑いながら気持ちを汲み取った返事をしてくれる。私はそんなルーシーが好きだ。
「今家じゃないんでしょ、どこにいるの?」
「んまぁ、ちょっと散歩っていうかさ、外の風浴びたくなって……」
「それ、ちょっとはぐらかしてるでしょ!」
やはりルーシーに何かを感じ取られてしまう。だがこうとしか言いようがない。
「でーも、聞かないでおいておく!ワタシはわかってるから」
本当にそうだろうか。
「最近連絡とれてなかったのも、ハナがプラムのために一生懸命頑張ってることも、知ってる」
「ハナはワタシにとって大切な親友だから!」
「うん、私もだよ。ごめん、眠いよね?もうすぐ帰るからこのへんで」
「オーケー。じゃ、もう寝るわね!大好きよ、ハナ」
切れてからこう思った。
私も好きだと伝えればよかったって。
……なに今生の別れみたいな気持ちになってるんだろ、明日会いに行って直接伝えればいいんだ。
眠そうなのが声で伝わっていたし、むしろいきなり電話をかけてでてくれたルーシーはやっぱり私の大切な人だ。
スマホで配信開始の準備をする。サティは遠くの高層ビル屋上に指示を出すまで待機させている。
「いいサティ?さっき私が教えたキーワード、覚えてる?」
来る途中モールで買った無線を通じてサティに再度確認をする。
「うんうん、言うなら早く言っちゃってよ!もう待ちきれない、こっちはうずうずしてもう我慢の限界だから!!」
落ち着きのない様子で訴えかけてくる。これはちゃんと言い聞かせておこう。
「いい?トリガーハッピーならまた今度思う存分させたげるから、今回はターゲット以外には被害を加えないこと!!中にいる警備員とか巻き込みたくないし、いい?ちょっと入口の柱を壊すとかそんくらいでいいからね!!!」
「ヤボール!任せてハンナ!!」
こんなことを企んでおいて今更巻き込みたくないとかいうきれいごとを言ってはいるが、ただ話題になればいい。それだけだ。ただ子どもの手術費用が稼げて、欲を言えば孤児院のみんなの暮らしがちょっと豊かになってくれさえすれば何も望まない。
「じゃあいくよ?サティ、準備して。確実に一発。外さないで」
「ハイハイきたきた~!いつでもいいよ!」
私は配信開始のアイコンを押した。
「やあ諸君!ミス・ライトニングボルトだ。アップロードした動画、楽しんでもらえたかな?」
心臓の鼓動がうるさくて思ったように話せない。肝心なところで嚙んでしまいそうだ。
「コメントでは、どうせ合成だとかありえないだとか言って、せっかく楽しんでくれているリスナーをがっかりさせるような発言が目立っている」
「私は非常に悲しい。しかし私は諸君に信じてもらうために生配信をしようと思いついた」
私は手で隠していたスマホのカメラをミスティミュージアムのほうへ向けた。
「リスナー諸君も不満が溜まっていることだろう。失業者は年々増えるばかり、そして人口は減っていっている。ここアメリカは貧しい者が多すぎる」
≪なにすんの≫
≪生まれてこのかたずっと無職です≫
≪一人語り始まったw≫
≪魔法少女ちゃんは?≫
「ではご覧いただこう!私たち魔法少女が今!!この腐りきったアメリカを終わらせる革命の祝砲をあげよう!!!」
いよいよだと実感すると、鼓動が更に早くなり全身から汗が湧き出る。
≪釣りですね≫
≪やばい奴いるって通報しました≫
「必殺!!!!」
しかし緊張と恐怖をアルコールとアドレナリンで抑え込む。よし、あとはこの勢いのまま手をあげてそれっぽく振り下ろすだけ……。
「ラス────」
ほんの一瞬のことだった。 爆音がすると同時に反射的に目を閉じた。しばらく何も聞こえなかった。
爆風が収まったのを感じてゆっくりと目を開ける。立ち込める煙と辺りに散らばるガラスやコンクリート片。
キーンという耳鳴りが治まると、次第にけたたましいサイレンの音が鳴り響いていることに気が付く。
私はこの時ようやっと取り返しのつかないつかないことをしたのだと気づいた。
2053年4月20日太平洋時間午前2時。この時から私は配信者を逸脱し、革命家になった。