【プロローグ】天使を装った悪魔
はじめてインターネットで小説を書いてみようと思い、これから投稿しようと思っておりますからしです。
聞いたところどうやら一部では「なろうのプロローグは流し目で読んだり飛ばしてもいい、読んでもらいたいならプロローグって書くな、一章と書け」という意見を散見しました。それを見た私は、「こいつぁ都合がいい!」と思い、ここでは、物語の主人公となる少女のバックグラウンドや日々の生活、事の発端が起こる以前を書いております。ファンタジー、アクションといった内容はここでは全く出さず、近代、サイバーパンク、アメリカでくらす主人公を描いています。
ですのでプロローグは飛ばしてもらっても本編の内容には差し支えないようにつくっております。
前書きが大変長くなりましたが、少しでも内容に興味を持って読むきっかけとなれば大変うれしく思います。長文失礼いたしました。
2053年4月20日カリフォルニア州サンフランシスコ──ミスティミュージアム前にて──
ほんの一瞬のことだった。 爆音がすると同時に反射的に目を閉じた。しばらく何も聞こえなかった。
爆風が収まったのを感じてゆっくりと目を開ける。立ち込める煙と辺りに散らばるガラスやコンクリート片。
キーンという耳鳴りが治まると、次第にけたたましいサイレンの音が鳴り響いていることに気が付く。
私はこの時ようやっと取り返しのつかないつかないことをしたのだと気づいた。
2053年5月14日太平洋時間午前2時。この時から私は配信者を逸脱し、革命家になった。
西暦2053年。第二次世界大戦から尾を引いて起きた、第二次世界恐慌により貧富の差はより一層開き、民主主義は実質的に崩壊。国家ではなく企業が人々を支配する世界になった。ここアメリカでは、経済低迷により治安は悪化し、環境悪化との相乗効果により人口は僅か1.8億人まで減少。そのうち中間層及び貧困層が6割を占めている。大気汚染や酸性雨といった環境問題が人間の生活に大きな影響与え、人々は次第にその環境に適合するためのインプラントを身体に取り入れることを余儀なくされていった。
2053年4月4日カリフォルニア州サクラメント
街の外れにある小さな教会で、今日も子ども達の面倒を見る。勉強を教えたり、一緒に遊んだり、危ないことをさせないように見守る。
「ハンナおねえちゃん、目の下まっくろくろだよ」
ぼーっとして遠くを見ていた私は、つんつんとつつかれたことで子どもに声をかけられていたことに気が付く。
「えーとこれはね、おねえちゃん夜遅くまで起きてたせいなんだ。エイミーも夜更かしすると、おねえちゃんみたいに目の下まっくろくろになって、お肌にもよくないからちゃんと寝るんだよ?」
「うん、わかった。あっちでジェシーおねえちゃんと遊んでくるね」
いけないいけない。子どもを見張ってないといけないのに。どれくらい目を離してただろう。嫌な予感がする。
「やーい!返してほしけりゃ捕まえてみなー!」
予感は的中。小走りで声の方へ向かう。
「おいボブ!リーのメガネを返せよ!そしてちゃんと謝れ!!」
「いやだね、取られるほうがわりーんだよ」
どうやらまたボブがいたずらをしてるようだ。
「こーらロバート、とったもの返しなさい。じゃなきゃリズボン牧師に言いつけるよ」
「うぜーなー、取られてもやり返してこないからおれものでいいってことじゃん」
「そういう態度とるなら、お昼抜きにしよっか?」
「んだよだりーなー、返せばいいんだろ」
そういうと渋々といった態度で私にメガネを渡す。
「いやだめだよ、リーのとこ行って謝れ」
ダニーがボブの両肩をガシッと掴む。
「んでだよ、あいつもおれからの謝罪なんてほしくねーって」
「いいから、ダニーといってきな。じゃなきゃ本気で昼抜きにするよ」
しゃがんでいる姿勢からスッと立ち上がり、私が食堂の方へ向かう素振りを見せると、諦めてダニーに付き添われて図書室の方へ歩いて行った。
食堂に近づくと、食欲を搔き立てられるミートソースの匂いが。
中ではルーシーが、大小まばらな皿によそっているところだった。ちょうどいいころ合いだったみたい。
「ルーシー、お皿運ぼっか?」
「ハナ!ナイスタイミング!!お願いしてもいいかしら?」
ルーシーは私より少し細見で身長は150くらいで、髪は透き通るようなきれいなブロンドのロングのそれはそれは美しい私の天使様だ。
「もちろん。そのワンピース、やっぱり似合ってる。ウチの目に狂いはなかった」
「ありがとう、気に入ったわ。ハナも、今日もピンクと黒がバッチリ決まっててかわいいわ!」
照れた顔を見られないように皿を配膳台にのせる。ああ、今日もかわいい愛してるルーシー。
それからルーシーや子どもたちと昼食を済ませ、私は霧の都〈サンフランシスコ〉へとスカウト(愛車のバイク)を走らせる。街が見えてくるにつれて胃がキリキリと痛みだす。着替えとメイクをしながら、今日も生きるために魂を売る。
2053年4月4日カリフォルニア州サンフランシスコ──バイト先にて──
「おかえりなさいませ、主殿」
22時ちょっとまでこのくだらない空間で耐えるだけ。心を無にしてオーダーを聞くだけ。
「東雲ちゃん!今日はこの『伊賀流・木苺混合酒』を頼むよ」
「はい、かしこまりました。ただいまご用意致します」
ったく、考えないようにしても下らない。大体男のくせにラズベリーだとか。
いけないいけない。無にしないと。私はハナ、シノノメなんかじゃない。私はハナ。
2回ある休憩時間に、非常階段でビル風を感じながらキャラメルなシガーを吸う。これがなきゃ続かない。
ニコチンが切れたらこんな空間耐えられるわけない。ひと時のやすらぎで生を実感したら、ギリギリまで摂取してまた心を殺す。
23時ちょっとでサクラメントのアパートへ帰宅。週4とは言え肉体的精神的にもこたえる……。
近所のコンビニで買った弁当と安くて酔えるレモンサワーを体に入れたら0時前には泥のように眠れている。俗に言う、これが私の“#丁寧な暮らし”だ。
2053年4月11日カリフォルニア州サクラメント――州都大型病院にて――
やっぱり神様なんていやしない。いるのなら、なぜ信心深く罪のない子どもにここまでの仕打ちをできるだろうか。
いつも通り孤児院で過ごしていただけの、いつも通りの日常のはずだった。突然私の目の前で咳をしだした子が、血を吐いて倒れ込んだのだ。慌てて救急車を呼んで私とルーシーが同伴した。
隣に座るルーシーは顔を真っ青にして首の十字を握りしめながら、今にも泣き出しそうだ。とはいえ私もこの状況でどうしてあげるのが正解なのかがわからない。私はルーシーと違って信心深くないし、都合よくきっと大丈夫だよなんて無責任なことを言いたくはない。
幸い一命はとりとめた。ただ、医師からは早急に人口肺を入れないとあと一か月も持たないだろうと言われた。ここ数年でインプラント手術にも保険が適用されるケースが増えているものの、当然私たちの孤児院にそんなお金はない。非合法な医者にも任せたくはない。とはいえ時間の猶予もない。
ここ数年で、保護者は基本的に手術のできる体になったら子どもには人口肺や人口頭髪(酸性雨によって痛まない為)などの基本的なインプラント手術は受けさせるのが一般的だ。だが孤児院の子どもたちはみんな当然受けさせてあげられていない。
「リズねえ、これから私どうなるの?」
「心配いらないからね、信じていれば主が必ず守ってくださるからね」
私はルーシーの前では一緒にお祈りをしている。私が信心深くないからこんなことになったのだろうか。こういう状況になってから、天使にも悪魔にもすがりたくなるような状態からでも祈れば救ってくれるのだろうか。
この時の私にはどうすればいいのかわからなかった。
それから数日間私とルーシーは手術費を貯める方法を考え実行した。
町やネットで募金の呼びかけ。当然間に合うはずがない。見ず知らずの他人に施しをするほど暮らしに余裕があるなら、年々犯罪率が増え、人口は減ったりしない。
お金を借りることができないかあちこち頼み込んだ。こちらも返せる見込みのない私たちに貸してくれるわけもなかった。
そりゃ最初から、神でもいなけりゃうまくいくなんて思っていなかったが……
これはルーシーにはとても言えないのだが。
ルーシーが私に、収入だけはいい仕事をしようか悩んでいると相談してきた。が、天国のお父さんが悲しむよとかなんとかいってなんとか全力で止めた。
ぶっちゃけルーシーには私みたいに嫌な思いしてほしくないという私の一方的なエゴなのだが。
そして最悪なことに、国からの補助金も打ち切られてしまった。日々の暮らしがやっとだというのにこの追い打ちだ。貧困層はただ生きているだけでこのざま、それがこの国では当たり前なのだろう。
そもそもわたしたちに今からできることで、一か月以内に費用を稼ぐ方法というのはない気がする。
神のいたずらで私の趣味の配信活動がバズったりしない限りはだが……そんなはずもなく。
いや、まてよ?このアメリカにはまだチャンスがある。アメリカンドリームを叶える希望の場所が!
思い立ったが吉日、私は早朝からスカウトを走らせる。目的地は夢の都〈ラスベガス〉だ。
2053年4月18日ネバダ州ラスベガス――目的のカジノにて――
「ルーシー、ウチを信じて。絶対に何とかしてみせる!」
そうとだけ連絡をして飛び出てきてしまった。ウンザリするほどの長距離移動の末、やっとのおもいでたどり着き、早速後悔した。暑い。
バイク用ジャケットを着てきたことを後悔した。とはいえスカウトを乗るときは決まってジャケットを着ることが当たり前になっていたので自分を責める気はない。ラスベガスが暑いのが悪いのだ。
暑さにもウンザリさせられ、とりあえず腹ごしらえをすることにした。
エアコンで涼みながら、キンキンに冷えてやがるコーラにハンバーガーで英気を養った後は、なにで勝負をするかの下見に周った。
そんなこんなで17時。いよいよ人生初カジノ、冷や汗が出てきた。勝負するはブラックジャック。
スロットやルーレットの完全に運に任せるような感じは気が進まない、記憶力には若干自信があるというだけの理由だった。
さぁ、私の全財産を賭けた大勝負。勝ってルーシーとプラムを喜ばせるんだ……!!
「きみ、なかなか強いじゃないか」
勝負を初めてから1時間経ったくらいだろうか、私の前に悪魔が現れた。
アフリカ系で背の高い、ピシッとした黒スーツとメガネに高そうな指輪。40代くらいの男だ。
「洞察力と勢いがいい。けれど、勝負師としては……まだ成長しないとね」
男は私に笑みを浮かべてそう言った。だが私は、この男の目だけは笑っていないのに気付いている。
こいつが来る前までは順調に勝ち越していたのだ。こいつが来る前までは。
計画を狂わされた。諦めてゲームを降りるということもできたのだろうが、この時の私はなんとか負けた分だけでも取り返さなければという焦り、いわゆるサンクコスト効果というやつに踊らされていて冷静でなかった。
こちらからは一言も返事をしないにも関わらず、この男はずっと私に声をかけて戦意喪失を誘っている。たちがわるい。
あれから5時間。私はやっと勝負から降りた。正真正銘ギャンブルで有り金全部溶かした人の顔をしていたと思う。ずっとやあの悪魔にもてあそばれていたのだろうとようやっと理解した。
しかし、私が勝負から降りたのをみるとその悪魔は私に歩み寄ってきた。笑いたきゃ笑うがいい。
「すまなかった、君みたいな若くて強い方と相手をするのは久しくて、つい本気を出してしまった。謝罪させてくれ」
そういうと悪魔は私に四角いチップを3枚ほど渡してきたのだ。
「どれくらい負けたかはわからないが、私のせいで君が勝負の世界から降りてしまうなんてことがあったらショックだからね」
一体こいつなんなんだッ!!!!
「ちょっと、大体人のことを散々負かせておいて何がしたいんだよ!」
ついイラッとして大きい声が出てしまっていた。
「申し訳ないレディ、勝負事となるとつい手を抜けないものでね。それに私は、君とはまたぜひ戦いたいと思っているよ。君はきっと強くなる」
呆れた私はこの男の前から足早に立ち去るとカジノから出ようとした──。
あーあ、やったよ。やらかしたよ私。
大人しく去ればよかったものの、気が付けばスロットマシンのレバーを引いていた。
へんなおっさんに嫌味を言われ、チップを換金して帰ればまだましだったのに。
手遅れになった私はようやくここで二つの過ちに気づいた。
一つ、それは私の全財産が一晩で溶けたこと。
二つ、ブラックジャックの時は真剣だったものの、運否天賦だ関係ないと、レバーを引いてからは酒あおっていて、今私はとっくに運転できない状態だということだ。カジノでは席までドリンクをタダ(当然チップは渡すが)で運んできてもらえるので、気づけば罪悪感無くお酒に手が伸びていた。
仕方ない。私は、おまわりさんに会わないことを願いながらスカウトを走らせた。
ヘルメットもしてるし、顔赤いのも気づかれないだろう。それにちゃんと働くおまわりさんなんてこのアメリカにはいない。
街から少し出ると、おまわりさんどころか車一つ通らない。私は三つ目の過ちに気づいた。
やばい、ガソリンがない。
だだっ広い砂漠の中で失速していく私のスカウト。見渡す限り砂と満点の星空しかない。
全てを察した私は、ただ頭上の星を眺めていた。
このまま私はどうなるんだろう。
酒で麻痺していた不安感が襲ってきた。
ジャケットから最後の一本を取り出し、火を灯す。
深夜にききたくなるエモいオリジナルプレイリストを再生し、全てを諦めた。
フィルターギリギリまで吸い切ったシガーの残り火をシューズで消し、再び頭上に浮かぶ星々に目をやる。
すると、一つの星がゆっくりと大きくなっているのに気が付く。
そしてよーく目を凝らすと、星ではない“何か”が段々と近づいている。
隕石か?宇宙ゴミか?
よくわからないがとても綺麗な光を放っている“何か”は突然私の目の前に“降ってきた”のだ。
そして、私の目の前の“ヒト型の何か”は私に話しかけてきているようだ。
ああ、私相当酔ってるんだな。
私はそこで意識を失った──
いかがでしたでしょうか。
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