ララーナの街①
俺は冒険者だがソロで活動している。
と言っても完全なソロって訳でもなくフリーランスに近い。
要は出会いの幅を拡げる作戦だ。
女の中には孤高の戦士に憧れを持つ人もいれば、パーティの中でリーダーとして活躍する者を好む人、縁の下の力持ちタイプが好きな人、影のあるミステリアスな男が好き、などなど好みも多種多様だ。
見た目にしても、俺はまぁ平凡な顔の作りだが冒険者をやってるだっけあって締まった精悍な顔つきだとは思う。
大きな傷はないが左眉と右頬に傷が残っているのもアクセントになって印象に残りやすいはずだ。
女の好みに合わせる為にも基本は髭をたくわえておいて、清潔感を好むならバッサリ剃るし、顎だけにすることもあればカイザー髭にすることもあった。
肉体は当然引き締まっている。
あらゆるポジションを熟す為にも重すぎず軽すぎず、必要な筋肉をまとった冒険者としては理想の体型だ。
身長は普通よりちょっと高いくらいだから高身長には勝てないのが、唯一残念な点だと思う。
見た目にしても冒険者としての在り方にしても、俺はすべての女の期待に応えられるべく、ソロで活躍出来るスペックを持ちつつパーティの中でもあらゆるポジションを熟す事が出来るようになった。
正直なところ本気出せば魔王も倒せると思ってる。
勇者とか雑魚だろ。
でも魔王を倒して本当にモテるだろうか?
いや、モテるんだろうけどそれは魔王を倒した英雄が好きなんであって俺の事ちゃんと見てくれてる?
あと王女と結婚させられそうで絶対嫌。
王女と結婚するってことは国に尽くすってことだろ?俺は国に尽くしたいんじゃないだ、尽くすなら俺を心底好いてくれる女にだけ尽くしたい。
仮にパーティで魔王を倒したとしよう。
男だけの場合はその中心となる人物がモテ筆頭となるが、行きつく先は同じ。
ではサブメンバー的な働きをしていたらどうかというと、大して目立たずモテもしないだろう。
じゃあ、パーティの中に女メンバーがいたとしたらどうだろうか?
これも中心人物が付き合う事になるだろう。もしかしたらサブメンバー同士で付き合えるかもしれない。でもそれはモテじゃない。
なにより吊り橋効果だろ、どうせ。
で、勇者倒したら人類の敵だしな。
つまり俺にとってソロであろうとパーティであろうと、最強を倒す事=モテることにはならないのだ。
強さとは最低条件だ。
俺の場合は武力だが、知力にしろ経済力にしろ権力にしろ他人に負けない強さはモテには必須だ。
二十歳過ぎた若い頃までは、ただ強けりゃモテると思って鍛えに鍛えて龍種を倒したり大金を稼いだりしたが、勘違いも甚だしい。
強さは最低条件なんだ、そこからいかに上積みを重ねられるか。
今の俺には強さは言うまでもなく、経済力にコミュ力にハードボイルド力、さらに最近では女子力なるものも身に付け始めている。
さらに歳を重ねて大人の魅力も増えてきているはず。
30代の落ち着き、40代の渋さを手に入れるにはまだまだ時間が掛かるが、26歳同世代の中では抜きん出ている自負はある。
実際、過去にいた国では地位も名誉も得たことで、同世代からはかなり嫉妬の羨望を向けられたこともあった。
が、俺はそれを求めて冒険者をやっているわけじゃない。
前の街では控え目キャラだった為かなかなか良い出会いはなかったが、いや宿屋のミレイちゃんはイケたかもしれないがちょっと男に色目使いがちだったんだよなぁ。
過去の回想はそこそこに、今俺の視界に入ってきた城塞都市ララーナはかつて魔族との争いの最前線だったこともあり、城壁は厚く、中は戦士や物資を行き交いやすくする為に広く作られていた。そのおかげで前線が遠のいた現在では屋台や露天が並ぶ一大商業都市に変貌している。
さらに荒れ地は回復し、争いによって魔物は近辺から遠ざかっていた事もあり、穀物も育てる事が出来る安全な都市にもなっていた。
事前に仕入れた情報はそこまで。いや勝手に他の情報も耳にはしたが、モテるのには関係がない。自分が住まうことになる街の最低条件さえ知ってれば問題はない。
さて、どんな出会いが待ち受けているだろうか。