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第三話。街の図書館(2)

 数刻前までの騒ぎから少し落ち着き、一人トネーニは未だ人が多く賑やかな図書館の受付から最も遠いエリアでいつも通り歴史書を貪り読んでいた。


 発行される書物の99%が電子書物のみになってからおよそ数百年。

 日々の保管状況がどんなに良くても綺麗な形で残ることが厳しいため、次々と電子化されており数が少なくなっている紙の書物を一つ一つ触り心地を確かめていく。

 文字を読み、意味を咀嚼し、また舐めるようにページをめくっていく。

 ふと、その中で気になる記述が残っている本があることに気づいた。


『2257年より発生した紛争により敗北した我々は過去を失い、新たな歴史が作為的に生み出されることとなった。それは今西暦として呼ばれている歴史そのものである。』


 いつもであればよくある文章の羅列として流し見するであろうところであったが、何故かこの一行には違和感を覚えた。

 それは今までの歴史書や文献、論文を見てもあくまで300年ほど前に発生した世界大戦でありとあらゆるものが焼き尽くされ、消滅した結果としての過去の考察や、新たに生み出された資料でしかなかった物を否定するものだった。

 過去の書物一つとっても先の大戦における勝者は我々であり、敗者が誰であったかすら忘れ去られているままであったのがこの300年間続く歴史書の基本であった。

 だが、今トネーニが読んでいる本には明らかにおかしい視点の描写が含まれていた。


「これを書いた人は一体どこにいて、何を見ていた人だ……? そもそも」


 巡る思考が口先から溢れた。

 もしかしたら。なんて薄っすらと仮説が脳内を駆け上る時だった。


「あ、もうこんな時間か」


 図書館の施設中央、この時代にはあまりにも不釣り合いな大きさのある鐘が存在している。

 一日に一度、閉館の時間になるとこの鐘が本性を表すように鳴り響く。

 その音を聞くと、こんな図書館に入り浸る変人たちは一斉に席を立ち、出口や受付に足を伸ばしていく。

 今日だけは少しの例外として、普段この施設を使わない人たちが多くいるのもあったのか、鐘の音が館内に鳴り響いたことで沢山の人が同じ音を共有するという経験に驚いて若干の混乱が見えた。

 トネーニは昼間の段階で薄々こうなるだろうなということは察していたため、あらかじめ借りておく予定の本は受付で頼みながら、帰り道を若干の邪魔が入っていたが見つけていた。


「裏口の方向はこっち……っと。」


 正門から出るとセントシティ中心部の大通りに出るため、いつもは利便性も加味して正門を利用する人がほとんどだが、古くから存在するこの建物はオールドシティと呼ばれているエリアに出る裏門が存在している。

 基本的には賑わっているセントシティ中心部に比べると寂れたエリアのため裏門の存在すら忘れられている。

 忘れられている。そのはずだが図書館に通うような人の中には変わり者が多く仲間内でいかに人の目を掻い潜って外に出るかや、かっこよく出られるかなどの情報を共有していたため、このような時に動く行動パターンは大まかに把握していた。


「よっ! トネーニ、なんか変なことを見たような顔してるが深くは聞かないでおくからまた今度な!!」


 裏門に向かう途中、後ろから全力ダッシュでトネーニの名前を呼びながら駆け抜けていく大男がいた。

 いつもしょうもないような情報を渡してくれたり、雑談をする人だったのだが、返事を返す間もなく。


「ここは走るなって!! ばかやろー!!!」


 騒がしい何かが駆け抜けていった。

 顔を確認する間もなく、追いかけ合う二人が本の積み重なった棚と棚の間をすり抜けて扉を開け、裏門を通り過ぎていく音が聞こえた。

 あの二人はおそらく普段から雑談するメンバーの奴だろうと思いながら、トネーニは時間に焦る必要はないとゆっくりと裏門へ向かうルートを辿っていく。

 正門エリアと違い、トネーニがいるエリアは農業と言われる廃れた文化を本という形で今に残している数少ない空間である。

 この図書館は現代社会では取り扱われない文化や歴史が数多く取り扱われているため、今の生活で失われたものを探すには都合が良い。そんなこともあり過去に取り憑かれた人が集う空間になっている。

 そういった説明を過去に聞いたなとトネーニが思い返している間に裏門の扉が開いていることに気づいた。


「いつもは閉まってるのに……」


 普段使われない扉のため、いつもは閉まっていて開けてはならないような雰囲気を出しているが、何故か開いている。

 おそらく今日は正門が混雑するだろうからと誰かが開けていたんだろうと思いながら、裏門を抜ける。

 薄暗かった図書館から、日が落ち掛けた日光の照らす古びた街並みが眼下に広がる。

 寂れて静かなオールドシティへ久々に顔を出したので、ついでに馴染みの店に顔を出していこうとトネーニは進路を決めて歩き出した。

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